「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(以下、声を掛けられるまでエ
ンドレス」
「……。」
……私とて、鬼ではないが……正直、これだけ怯えきられてしまっては、話す事も制裁を加える事もやりにくい。
「……ケルケーと言ったな?お前何をした?」
これまでロゼッタと交渉を担当してきたという彼に話を聞く。
私のような重鎮に一緒に呼び出されたので、相当緊張しているようだ。
「はいぃ!いえ、俺が何かやったわけではなくて、アリアンが、彼女の主……黒薔薇に捨てられるぞって言ったら、この有様で……。」
……なるほど。良くも悪くも精神的には『お子様』なわけだ。身の丈に合わない過去と力があるだけで。
誰かに頼らないと生きていけないが、見聞が狭いから力を無為に使う事にも躊躇しない。
アリを踏み潰す感覚で人を殺し、黒薔薇という名の家に甘える『お子様』か。
「……お前が彼女の面倒を見ろ。」
「へっ?」
黒薔薇に責任所在を問い詰めに行って、この娘を本気で泣かせようという気にはなれなかった。
恐らく、黒薔薇に直接今回の件を言っても彼女を甘やかすだけで終わって、このままでは何も変わらないと思ったからだ。
「……ロゼッタに、少しは『常識』を教えてやれ。表の常識も裏の常識も……な。」
「流石に、俺・いえ、わたし一人では、ちょっと、ねぇ。」
「……心配せずとも、それなりの手配はしてやる。無論、私も手伝おう。」
「そうですか。」
ケルケーが、緊張と恐怖で肩を強張らせている。
「……幹部の椅子が開いているからな。期待しているぞ。」
「はっ、はい!」
ホンの一瞬、奴の顔が綻ぶ。だが、すぐに厳しい顔に戻る。
……まあ、幹部への昇進の期待以上に、厳しい課題を課せられて困っているのだろう。
「……ロゼッタ。」
「はい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(やっぱりエンドレス」
……相変わらず、話すらマトモに出来そうにないが一応言う事だけ言っておく。
「……貴女は、私たちの仲間を殺した。別に、殺しはいけないという表の世界の道理で揉めているわけではない。
貴女と私たちは仕事上の付き合いであり、仲間だ。貴女の大好きな黒薔薇にとっても、仲間。
その仲間に裏切られて被害を被ったわけだ。当然、怒り狂う。その怒りの矛先は、貴女だけに向かうとは限らない。
……はっきり言っておくわ。貴方が謝りに来なかったら、私は黒薔薇もろともあなたを滅ぼしに向かっていた。」
「!!?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!(声が大きくなってエンドレス」
……どうしようもない『お子様』だな。
「……話は以上だ。帰っていいぞ。」
「ほら、行くぞ。死神様に許してもらえて、良かったな。」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい(エンドレス」
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「……ロゼッタの様子はどうだ?」
「必死ですよ。こないだ、女冒険者一人捕まえました。」
あの後、ロゼッタは自分から懇願して殺した30人分の働きをすると言って、ハイウェイズマンギルドに残った。
「……そうか。」
「まあ、あの調子ならそのうち負債も払って出て行けると思いますよ。言動は相変わらずですけど。」
「……別に、そこまでは期待していない。」
「そうですか。頑張ってるんですけどね。」
ふふふ。この調子なら、本当にこいつが幹部になるのも、そう遠い事じゃなさそうだな。
まあ、その選別もこめて……
「……貴方にこれをあげよう。」
杖を軽く振って、ケルケーの目の前に一つのマジックアイテムとメモを置く。
「これは?」
まあ、見ただけでは分からないだろうな。
「……オリハルコン製のダガーだ。クソ実父(オヤジ)が作ったものでな。様々な魔法の媒体に出来る。」
「へぇ。でも、俺は魔法なんか使えませんが。」
「……作ったクソ実父(オヤジ)も魔法が使えない奴だったよ。
だが、こいつの優れてるところはな、魔法の構成は初めからのダガーの中で組まれていて
魔力自体も周囲からかき集めて発動させられるというところだ。手順さえ踏めばな。」
「へぇー。でも、何でそんなものを俺に?」
「……お前には期待している。まあ、それに加えて、万一ロゼッタが暴走したときのための保険だ。
……明日から少しの間、私は出かけるからな。」
ケルケーは、露骨に表情をゆがめる。
「うぇ。死神様無しでアイツが切れたときに止めないといけないんですか?」
だからこその保険であり……
「……お前には、期待しているといっただろう?」
幹部の席を、ちらつかせている訳だ。
「はい、全力で事態の収拾に当らせていただきます!」
まあ、精々頑張ってくれ。
「……宜しい。魔法障壁の起動手順などはその紙に書いてある。
……まあ、問題自体が起きない事が一番なのだがな。それでは行っていいぞ。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
……奴が出て行った後に、私は思った。
随分と、丸くなったものだな。出来の悪い部下を持つということがこれほど大変だったとは。
思えば、ゴーレムやアンデットといった感情の無い兵隊達に的確な指示を飛ばせば、物量によるゴリ押しで勝てていた頃が懐かしい。
本物の『死神』として感情も何も無い、魂を刈る存在として存在していた頃に比べれば大分楽しい。
家族と共に笑って生きていた時とは違った楽しさであり、何か違った嬉しさがある。
……皮肉だな。今の私のやっている事は、他者の絶望の上に成り立っているというのに。
いや、違うか?他者の絶望の上だから私は楽しいと言うのか?私はそれしか知らないというのか?
……ともかく、今は待たせている人がいる。思考を打ち切り、明日のための準備をしなければ……
『そもそも、私は無為に永遠の命を得てしまい、何を望んで何故生きているのか?』
……思考を打ち切る際に、ふとよぎった一つの疑問。
これが、私の中にある『最大の疑問』というわけか。
あの娘が、黒薔薇をよりどころにしているというように、私は、何をよりどころにしているのだ?
それが、ギルドボに近づいた最大の理由……なのか?
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