いつもは、ふんぞり返って豪快に笑っているギルドボ。
だが、今はこの上なく渋い顔をして報告書を睨みつけている。

「……。」

正直、かける言葉もない。今、彼が築き上げてきたハイウェイズマンギルドの存亡
がかかっているのだ。

「ヘル。お前はどう思う?」
「……ランカー1位を性奴に貶めるために、人員を割きすぎた事が大きな痛手にな
ってしまったようだな。
それに加えて、その一件で冒険者達が本腰を入れてギルドを叩きに来てるからな。
下っ端どもじゃ、本気になった名のある冒険者達の相手は荷が重いだろう。」

私は、ワイズマン討伐隊の登録者名簿を見て、嘆息する。




「これだけの被害を出す原因に、どんな連中がいるかと思えば……


冥府にすらその名を轟かせる、伝説の『カラミティ』
――――ミラルド・リンド


我欲の塊で、気に入らないものはすべて滅ぼす『史上最悪の賢者』
――――ハデス・ヴェリコ


幼き日の誤解から賞金首となり、生き延びる為の力を求める『滅びの魚』
――――ナガレ・エタプール


……これは、何の冗談だ?悪名名高き魔女達がこの国に一斉に集い、
ワイズマンじゃなくて竜神(ドラゴンルーラー)にでも喧嘩を売りに来たの
か……?」


そこまで言うと、ギルドボは頭を抱えた。

「そいつらの事は言われねぇでも分かってる。世界中に知られてる冗談みたいなバ
カモノだ。
奴ら以外にも、凄腕はごろごろいるしな。
新米冒険者も最初の内は狩れてたけど、今じゃそんな大先輩にみっちりしごかれた
のか、そうそう落とせやしねぇし……。」

参謀と言う立場から、色々と対抗手段を考えてみたが……
口がある体だったら、ため息をついているところだろう。

「……ハイウェイズマンギルドの心得は……?」
「一応遵守させてるんだけどな。……そもそも切られ過ぎ、怯えすぎ、人数集まら
なさ過ぎ。
怪我人は、お前さんお手製のポーションで数日で完全回復させられるが、やられ方
が半端じゃないから治療が追いつかねぇ。」
「……頭数を増やすのにネクロマンシーを使ってもいいのだが、かなりの人数を冥
府から呼ぶ事になるから魔力が持たん。」

『冥府から呼ぶ』、という言葉にギルドボが反応を示す。

「一つ聞きたいんだが、お前は死体焼き払ってるよな?肉体が無いのに、どうやっ
ていつも呼んでるんだ?」
「……あの炎はただの炎ではない。《癒しの炎》……有名な、フェニックスが再生
する時に出す炎だ。
あの炎は、魂無き器も修復し、あるべき形に戻す力を持っている。余りにも日がた
ちすぎた死体はダメだがな。
修復された肉体は、地獄の兵の器として保管し、冥府の王か地獄の将が命ずるまで
は動く事は無い……」
「なるほど。俺が冥府から出られたのも、死体が保管されてたからって訳か。」
「……そういう事だ。」

そう言うと、ギルドボはニヤッとした笑みを浮かべる。まあ、単純に喜んでいるの
だろう。
だが、すぐに顔を引き締めてギルドの建て直しを考え始める。

「とりあえず、死体無しでも呼べるってんならそれはありがたい。
少々資産崩して魔石を買い込むから、冥府の王と取引してしばらくは死人どもで間
に合わせよう。
お前には迷惑をかけるなぁ。」
「……別に気にしてはいない、なんだかんだと楽しませてもらってるからな。
……それより、冒険者自体が問題だ。
数に任せようにも、ランカー1位がつかまった事もあって、全体的に慎重な行動を
心がけて来てるからな。
正直、深い階層にほど人数を置いておくアナグマ戦術に限界が来ているといった印
象を受ける。」
「そうは言っても、死人どもで数を誤魔化したとして、1階から一気に叩きに行く
のは支援の面から無理だし、
逆に深い階層に人数を置くと、冒険者どもがモンスターに鍛え上げられて人数じゃ
ゴリ押せなくなる……。
凄腕を投入すりゃ何とかなるかとも思うが、ゴルゴダスやヒネモスは正直、孤立主
義な性で当てにできねぇ。
F.R.G.G先生は金が馬鹿にならねぇ。」
「……。」

……八方塞、か。

「……どうしようもないな。」
「何とかならねぇものかな……?」


ふわぁ、ああぅ……
大きな欠伸が、一つ。どうやら、もう日が沈んで深夜らしい。

「……今日は休め、ギルドボ。また明日、考えればいいだろう。」
「そうするわ。ちょいと参ったしな……」

そう言うと、奴はごそごそとベッドに行き、ものの数分で眠りにつく。

「……。」

何とかならないものかと考えてみる。だが、確実性のある手段は全くといっていい
ほど思いつかなかった。

「……少し、冒険者達の様子を見てみるか。」

そう呟くと、私は魔術を使い、ギルドボの部屋から立ち去った…