ダンジョン内の一室。嫌に豪奢で、調度を考えずに財宝が積み重ねられている、ハ
イウェイズマンギルドのボスの部屋。

「ひゃはははは!いいザマだな、黒騎士様よ。」
「……哀れなものだな。自身の力を過信し、冒険者を救いに向かって逆に捕らわれ
るとは、な」

これまで、ギルドの下っ端どもを292人仕留めた女黒騎士、アリス。
だが、その瞳は焦点が合っていない。彼女はならず者達の陵辱によって、精神的に
も肉体的にも壊れてしまっているのだ。
もう、考える力も残っていないのだろう。
ギルドボに手を引かれてベッドに押し倒されても、終始無反応だった。

「さて、性奴として売り飛ばす前に、俺が最後に味わってやる。」

彼女はギルドに捕まる前は処女であったし、尚且つ友達以上恋人未満と言っていい
関係の黒騎士がいたはずだ。
……奴隷商人にその辺の話をしてやれば、売りつける相手から搾れるだけ搾り取る
だろう。
当然、卸値も高くつくはずだ。

「ひっ、はっ、ほっ…… ああ……。」
「いい感じだなぁ。」

……男女の交わりをミュージックにして、奴隷商人との取引の為の書類を書きなが
ら、私は思う。
生まれ落ちたときより死人であり、人としての肉体を持っていたときがない私は、
人間の3大欲求と言うものが酷く希薄だ。

食欲   @@@ ゴーレムや死体が何を食えと? ……一応、味は分かるが食事を
取る必要性が無い。
睡眠欲 @@@ 眠る、というよりは『精神を封印している』と言うのが正しいか
もしれない。
性欲   @@@ 論外。肉体的な成長を味わった事の無い私は、知識しか持ってい
ない。

唯一の欲求らしい欲求は、物欲と愛欲くらいか?
知識と力を求め、友と競い合い、誰かと笑いあう。

……彼女にも、そんな仲間はいたはずだ。しかし、可哀想だと同情してやるつもり
も無い。

冒険者が生きる道は弱肉強食。

彼女は、ハイウェイズマンギルドの牙を甘く見ていた。ただそれだけだ。

「ふう。すっきりした。オイ、こいつの出荷は任せたぞ。ちょいと出てくる。」
「……どちらに行かれるのですか?」
「こいつの処遇について、五月蠅い奴がいてな。まあ、色々と恨みがあるって話だ
が、売り飛ばす事は確定してるし、ちょいと黙らせに行く。」
「……やれやれ、ですね。」

バタン。ギルドボが部屋から出て行く。残されたのは、私とギルドランカー1位だ
け。



「……。」

逃がしてやる。まあ、こういう事を考えるのはある意味自然か。
大した性欲も無いし、レズでもないので彼女を弄ぶつもりも無い。

「……。」
「……。」

無意味な、沈黙。

「……魔術で束縛する必要すらなさそうだな。」

どれほどの苦しみを味わったのか。どれほどの悲しみを味わったのか。どれほどの
絶望を味わったのか。
そして……救いを失い、彼女は何を考えているのか。
もう……、全てが無意味なのだろう。私が彼女を逃がそうと思ったのは、偽善でし
かない。

「……まあ、せいぜい買われた先がここよりマシな所だといいね。」

偽善は、しない善より醜いものとされる。
プライドの高い強者への施しは、例え力の大半を奪っていたとしても逆鱗に触れる
行為でしかない。

「……とりあえず、こっちに来なさい。」

勝者は、敗者を従えるもの。その単純な理論は、私の中で一つの原動力となってい
る。
やがていつかは、神をも越えてみよう。その、一見馬鹿げた思いは確かな答えだ。
私は、『敗者』を洗い、性奴の服を着せると奴隷商人の下へと魔術で飛んで行っ
た…