「……報告書をまとめておいたぞ。」
「おう、ありがとうな。お陰で助かったぜ。」

前から疑問に思っていた事がある。

「……ギルドボ。このバナナの皮ってなんなんだ?」
「ん?良く滑るんだよな、アレ。こないだも竜騎士様2人が見事に引っかかったっ
てもっぱらの話だ。エリートが聞いて呆れるぜ。」

引っかかるほうも引っかかるほうだが…何故…

「……何でそんなものを罠に採用している?」
「わかんねぇか?ロマンだよ。アレで綺麗に滑った冒険者は個人的に表彰してやり
たいくらいな。」
「……もういい、ただのギャグ以外の何物でもないらしいからな…」

報告書の整理とあわせて、どっと疲れたような気がした…



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「……。また貴様か。」
「懲りないとでも思うか?だが、アンタを支配する事が次のステップへのチャンス
なんだ。」

目障りだ。実に目障りだ。

「戦うつもりも無ければ、貴様に支配される気も無い、モヒネス。」
「うるせぇ!テメェが死体を片付けっちまうから、最近のやり繰りが大変なんだ。
おとなしく…」

杖で壁を叩き、速攻で後ろで待機していた屍を焼く。

「おとなしく…なんだって?」
「これでも喰らいやがれ!」

モヒネスが魔法を放つ。だが、私にはまるで効かない。体は石で出来たゴーレム、
ステータス異常にかかるわけも無い。

「馬鹿が。そんな攻撃で勝てるわけが無いだろう。私の防御力の高さを舐める
な。」

杖で一発。股間にクリーンヒットして、モヒネスはその場で倒れ込む。
そんな馬鹿を私は無視して、立ち去って行った…


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「汝よ……!」

「……。」

第9層に潜むと言われる、竜神(ドラゴンルーラー)。
王位継承の儀式における最後の試練は、一般人には決して公開されていない。
その為、多くのならず者が入り込んだというのに竜神(ドラゴンルーラー)はこれま
で見つかる事はなかった。

「汝は…… この世の者ではないな!クルルミクに仇なすものか!」

「……流石に、腐っても竜神(ドラゴンルーラー)か。私は地獄の将ヘル。」

哀れと言えば、哀れか。人間に祭り上げられて財宝と住処を得た代わりに、力と誇
りと憎しみを忘れたこの国の守護神。
奴の存在は、クルルミクの始まりであり、この国の栄光であり……そして終焉すら
も、その身の全てが纏っている。

「地獄の将よ……、汝は何を求めて我が元へ来た?」

「……。私は何かを求めて来たわけではない。ただ、隠し部屋があったから覗いて
見た。それだけだ。」

そう答えると、竜神(ドラゴンルーラー)は少し黙り、こう呟く。

「……意外だな。」

「意外、だと?」

何が、意外なのだ?真意が分からない。

「汝は、人間というものが好きか?」

「……?」

全く、思いがけない質問。思わず、答えに詰まる。この竜神(ドラゴンルーラー)は
何を考えているのか?

「好きでも嫌いでもないが…あえて言うならば、私とて、始まりは人間だ。人間に
は大いに興味がある。」

「そうか……貴様もまた、魅せられているのかも知れんな。人という種に。」

「……。」

奴は、話の中で何か自己完結してしまったらしい。正直、これ以上付き合ってやる
必要も無い。

「縁があれば、また合おう。ヘルよ。」

部屋の外へ出ようとしたところ、そう声をかけられた。
正直、何かが得られたような気はしない。
だが、私は奴の言った最後の言葉に引っ掛かりを感じていた。

「万が一、縁があれば…ね。」

人という種に、魅せられている?
……これが、私にとって何を意味するのか。その答えは、出ない。
だが、その分からなさが心地よかった。
人と言う物は分からないからこそ面白いのだ。ゆっくりと、答えを出せばいい。
そう思いながら、隠し部屋を私は出て行った…