ならず者の1日(その3)
ミラは来なかった。ちくしょう!
まったく、どこに行きやがった?
それに、この状況は何だ!?
俺様が所属するハイウェイマンズギルドは、2度目の危機を迎えていた。
くそっ!これでは大幹部の夢が終わってしまう。
絶対に立て直してやる。俺様の為にな。
見ていろよ、女冒険者達め!
俺様の名前はケルケー。ならず者だ。
【ならず者Aの報告】
『8階の監禁玄室で、エルフの人妻を調教中。
だが、多数のならず者と調教師達が、精根尽きて倒れていった。
監禁玄室には9名しか残っていない。
エルフの人妻を調教する勇者達を募集中である。』
「ま、まだ、堕ちないのか?」
「はい。あともう少しらしいのですが。」
とんでもない女だ。よかった。あの時に逃げて。
ある意味、最強の女冒険者だ。
「9名に頑張れと伝えてくれ。あとドリンクの差し入れを頼む。」
「分かりました。」
【ならず者Bの報告】
『経理部の方から苦情が届いています。
簡単に死ぬな。食事の回数を減らせ。ドリンクを使いすぎるな。
もっと女冒険者を捕まえろ。毎回奪還されるな。との事です。』
「いや、俺様に言われてもな。」
「全員に伝えろと言われています。」
「なんだと?」
「赤字なので節約したいそうです。」
赤字なのか。これだけの被害が出てれば、当然といえなくもないが。
すまん。これからもっと真面目に頑張るよ。
【ならず者Cの報告】
『謎の組織が売られた女性を奪還している模様。
確かではないが、組織の名前は白の騎士団らしい。
これ以上奪還されると、今後の売り上げに響く恐れがある。
そこで性奴隷に関する情報は、誰であろうと一切口外しないこと。
上層部からの命令である。』
「白の騎士団ねぇ。」
性奴隷の奪還とは面倒な事をしやがる。
ギルドの勢力が低下してなけりゃあ、潰してやったのに。
「ケルケーさん。あくまでも噂なのですが…。」
「何だ?」
「ロゼッタさんが、白の騎士団に協力しているらしいです。」
「馬鹿な!?」
ロゼッタが人助けだと?絶対にありえん。あの性悪がするはずがない。
大体分かっているはずだ。
そんな事をすれば、ギルドや死神様を敵に回す事になる。
黒薔薇に命を捧げているロゼッタが、黒薔薇の害になる事はしねえ。
噂は間違いだ。
【ならず者Dの報告】
「ジグースが死にました。」
「何だと!?」
ジグース・ゴッホー。ゴッホー3兄弟の長男。
頭が悪いが、それを補うほどの体力があった。
女冒険者達の前では、ジグースすらも無力なのか。
さらばだ、ジグース。お前の事は3日ぐらい忘れない。
「実はジグースの死ですが…。」
「どのPTに殺された?」
「いえ、それが、女冒険者ではないのです。」
「はぁ?」
「この記録を見て下さい。」
ならず者が女冒険者と戦った記録は残る。
どんな魔法なのか、監視者でもいるのか、さっぱり方法は分からん。
だが、記録は残るのだ。
『30人のならず者が、ハデス・ヴェリコに襲いかかった!
ハデス・ヴェリコは25人を屠りさった!
残った5人はハデス・ヴェリコを捕らえきれずに逃げ去った!』
25人の中にジグースが含まれているのか。南無。
「てか、ハデスに殺されてるじゃねぇか?」
「違います。それは何者かに修正されています。」
「修正だと?」
「はい。これで、もう1度見て下さい。」
ならず者Dが俺様に手渡したのは虫眼鏡だった。
「馬鹿にしてるのか?」
「いえ。それは《魔法の虫眼鏡ぐるぐる写るんです》です。」
「・・・・・。」
「何か?」
誰だ?こんな馬鹿なモノを作った奴は?ミラか?ミラなのか?
死神様じゃないよな?
とりあえず、魔法の虫眼鏡で記録を見てみた。
『31人のならず者が、ハデス・ヴェリコに襲いかかった!
ハデス・ヴェリコは25人を屠りさった!
ラランが援護した!ジグースを始末した!
残った5人はハデス・ヴェリコを捕らえきれずに逃げ去った!』
ええっ!?ちょ、ちょっと!?まじですか、これ!?
「巧妙な手口で記録が書き換えられていました。」
いや、何が巧妙なのか分からんぞ。それより本当にラランが犯人なのか?
ハデスファンクラブの会員だという事は知っていたが。
ハデスを守る為に実の兄を殺したのか!?
「ラランは優れた魔法の使い手。魔法で記録を書き換えたのでしょう。」
なぁ?質問していいか?
そんな書き換える魔法ってあるのか?
どうやって戦闘を記録しているか知りたくなったぞ。
「それはヒ・ミ・ツです。」
「・・・・・。」
ぶち殺していいか?
「この件はどうしましょうか?まだ上層部に伝えていません。」
「ふむ。」
本当にラランがやったのか?
・・・・・。
「誰にも言うな。死神様にもな。事実を確かめてからだ。」
「分かりました。では、ラランの行方を捜します。」
「頼んだぞ。」
ラランよ。ゴッホー3兄弟の三男。家族の誰にも似てない。
遺伝子の突然変異で生まれたと言われた美少年。
魔法が使えたが、頭はやっぱり悪かった。
お前が犯人じゃないと信じているぞ。
【ならず者Eの報告】
『ギルドレベルの低下で、ギルドボ様が男泣きしている。
そこで、ギルドボ様に元気を出してもらう企画を募集中。
これぞ!という企画を待っています。』
アホかあぁぁぁぁっ!
「どうしますか?」
「企画者を殴れ。」
ギルドボ様に元気を出してもらうだと。
ギルドレベルを上げるのが1番早いだろうが!
馬鹿ばかりめ。こうなれば…。
「おい、精鋭を集めろ。」
「はい?」
「俺様が女冒険者達を捕まえてやる。」
「おお、ケルケーさんが自ら!珍しい!」
やかましいわ!しかし、精鋭だけでは足りんな。
もっと強い戦力が必要だ。
「ロゼッタとミラを呼べ。2人にも協力してもらうぞ。」
「ロゼッタさんはいいですけど、ミラもですか?」
「盾になる。やたら丈夫な女だ。」
精神的にもタフだからな。
死神様を罠にかけたり、罰を受けても平気な奴は見たことがない。
別の意味で使える女だ。
「あとは、ゾバイドとカスチューも呼べ。」
「カ、カスチューもですか!?」
「そうだ!」
「し、しかし、彼女は…。」
「いいから呼べ!」
「は、はいいぃぃっ!」
ならず者Eは慌てて部屋を飛び出して行った。
ふん。勝つ為に手段は選ばん。勝てば正義。負ければ悪なのだ。
・・・・・。
勝っても悪か。ならず者だしな。
「ふははははははっ!待っているいい!女冒険者共めぇ!」
死神様から授かった魔法の短剣を持って部屋を出た。
俺様の真の戦いが始まる。
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≪あとがき≫
ランスローです。
「ケルケーだ。」
安心しろ、ケルケー。
「何を?」
ならず者の1日は、奴隷商人戦記より長続きしないから。
絶対に。確実に。てか、決定事項?
「不吉なこと言うなあぁぁぁぁっ!」
そうか?
「次で終わりみてぇじゃねぇか!」
さもありなん。
「さもありなんじゃねぇよ!」
と、いうわけで、いつも馬鹿なssを読んで頂き感謝です。
それでは〜。
「また無視かよおぉぉっ!?」
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