奴隷商人戦記(その10)





最初は楽だった。

ならず者や奴隷商人達は、簡単に性奴隷の情報を教えてくれた。

だけど、白の騎士団が動き過ぎたせいで駄目になった。

まぁ当然だね。

『ハイウェイマンズギルドで買った性奴隷は必ず奪還される。』

そんな事になったら、ギルドも商人達も困り果てるだろう。

情報収集も、ここまで。

ギルドの勢力は落ちるばかり。白の騎士団は入団者が増加。

女冒険者達の人気は凄いとしか言いようがない。

外面だけでなく内面でも人を惹きつけるモノがある。

ぜひ白薔薇かヴェノムに入って欲しかった。残念。

久し振りに死神に会った。情報収集も兼ねていたけど。

あの目。あははは…。

ばれてる。僕が白の騎士団に協力している事が。

粛清しないのは、確たる証拠がない為?

それとも今のギルドの現状のせいかな?

どちらにしても、ここに長く居るのは危険かもしれない。





「報告は以上。質問は?」

今日の仕入れた情報をダナンに言った。

大した情報じゃないから、わざわざ報告するまでもないけど。

白の騎士団の副団長ダナン。相変わらず白衣を着ている。

もと医者なの?目立ちすぎるよ。

あと、その似合う眼鏡が何故かムカツク。

「ご苦労様でした。いえ、今までご苦労様でした。」

「どうゆう意味?」

「貴女の情報収集活動は終了という意味です。」

作り物の笑顔のまま、ダナンは袋を僕に渡す。

重い。中身は報酬の金貨だね。それにしても驚いた。

「もっと詳しく情報を聞きだして来い。」とか言われると思ったのに。

「良いの?まだ行方の知れない女冒険者が多いけど。」

「構いません。情報源は貴女だけではありませんから。」

だろうね。こいつが僕を信用しているとは思えない。

情報屋が複数いるのか?

もしくは、ならず者か奴隷商人の誰かを、手なずけているのかもしれない。

「貴女がこちらに手を貸している事は、薄々と相手も感ずいているでしょう。」

薄々どころか、ばれてるよ。

「これ以上は貴女を危険に晒す事になります。」

「だから、もういいってわけ?」

「はい。私は女性に優しいですから。」

「・・・・・。」

「ははは、その目は信じていませんね。」

信じるわけがない。そもそも暗殺者の僕を大嫌いと言ったのは誰?

まぁいいけど。面倒な仕事も、これで終わった。

やっと黒薔薇様のもとに帰れる。

怒られるのか、呆れた顔で迎えてくれるのか。

あははは…。想像したら怖くなってきた。

「ありがとうございました。とても助かりました。」

そう言って、ダナンは僕に手を差し出す。

別に。黒薔薇様のご命令だから従ったまで。

ダナンを無視して、冒険者の店の主人に声をかけた。

「ぺぺさん。明日帰るね。」

「早急だな。」

「用がないのに居ても仕方ないし。」

「そうか、気をつけてな。悪い事はするなよ?」

「無理だよ。僕は闇の世界の住人だからね。」

「やれやれ。」

困ったような呆れたような顔をするペペさん。

差し出した手をどうしようかと悩んでいるダナン。

2人に会うのも今日で最後。縁があれば、また会うかもしれない。

だけど、2度と会う事はない。そんな気がした。





その日の夜、龍神の迷宮の地下3階に僕はいた。

ケルケーの馬鹿に挨拶ぐらいしようと思ってね。

それなりに世話になったし、ちょっとした腐れ縁だから。

女冒険者達に殺されないように注意もしてあげよう。

僕って優しいな。感謝することだね。

「!?」

前方から明かりが見える。ならず者?

違う。女冒険者達だ。まずいかな?

女冒険者達の中に、僕の正体を知っている者はいないはず。

居たとしたら、それは既に奴隷商人に売られた者のみ。

どうしようかな。

冒険者という嘘は通用しないと思う。

旅人?いないいない。こんな場所に入る旅人なんて。

この迷宮にいる人間は、女冒険者達と雇われた傭兵達。

そして、ハイウェイマンズギルドに関係する者達だ。

感のいい奴なら、僕の作り物の笑顔で。

熟練した使い手なら、僕の動作などで。

僕の正体に気がつくかもしれない。

もう奴隷商人じゃない、ギルドと関係ない。

と、正直に言っても、決して許してくれないだろう。

安全策は逃げること。ケルケー、別れの挨拶は出来ないみたい。

これからも精々頑張ることだね。バイバイ。

僕は出口に向かって…後方からも明かり!?

あ、あははは…。こっちも女冒険者達だ。

挟まれたわけね。最後の最後でついてない。

前方のPTは【ナガレ】、【フィアリス】、【リィ】、【ニスチェ】。

後方のPTは【クレール】、【ダイアナ】、【メラノーマ】、【シェンナ】。

冗談きついよ。竜騎士が2人もいる。

それに一筋縄でいかない冒険者達。

1対2までなら、何とかなると思うけど。この人数はちょっとね。

逃げるのは無理っぽい。嘘は多分見抜かれる。

選択肢は戦闘か降参。どっちも悲惨な結末しかなさそうだね。

降参して捕まったら、その後はどうなることやら。運が悪いと処刑かな。

戦闘は自殺行為に近い。

最低の選択肢。あははは。笑うしかないよ。

「誰かいるよ?」

「ならず者か?」

女冒険者達は僕に気がついた。悩んでいる時間もないみたいだね。

これって因果応報?

困った。死ぬわけにも捕まるわけにもいかないのに。

黒薔薇様の役にもっと立ちたい。

だから、決めた。

僕が選んだのは…それは…。

























≪あとがき≫

ランスローです。

ノルン様。またまた、ロゼッタやミラを使って頂き感謝です。

これからも遠慮なく使ってやって下さい。

「ちょっと!」

おわっ!?ロゼッタ、どうした!?

「今回で最終回なの!?」

そ、そうだが…?

「何よ!この終わり方は!」

お、落ちつけ。

「僕はどうなるの!?」

さぁ?

「…喧嘩売っているの?」

ま、まて!鋼糸をしまえ!

この後の結果は読者に委ねることにした。

「はぁ?」

いいか?文などの楽しみ方は色々ある。

全てを知って、満足する楽しみ。

小麦色の斜面のように、ifを創造する楽しみ。

そして、今回のように最後が不明の終わり方。

これは「きっと、こうなったに違いない。」という、考える楽しみ。

「・・・・・。」

何かね?その疑いの眼差しは?

「ただ単に作るが面倒になっただけでしょ?」

まさか。

「…まぁいいけど。ランスローは僕の最後はどうなったと思う?」

そうだな。耳を貸しなさい。

ごにょごにょ…というわけだ。

「・・・・・。」

ふ、不満か?

「そんな展開ありえない。」

むぅ〜。夢のない奴め。

「まぁいいけどね。」

今まで奴隷商人戦記を読んで頂き感謝です。

それでは〜。

「ありがとうございました。またね〜。」

いやいや、ないから。

「ちっ。」



奴隷商人戦記 終わり


--------------------------------------