ならず者の1日(その1)
俺様の名前は【ケルケー】。
ハイウェイマンズギルドのならず者だ。
まだ下っ端に近いが、いずれ大幹部になってやる。
さてと、栄養ドリンクを1ダース持った。8階の監禁玄室に行くぜ!
えらい美人の人妻エルフが捕まっているらしい。
しかも、物凄い淫乱だとか。今から楽しみだ。
俺様は意気揚々と歩いていく。
「ケルケーの兄貴!」
その声は【ゾバイト】か。振り返ると、体格のいい男がいた。
こいつは俺様の舎弟だ。ゴッボー3兄弟の次男。
俺様を心の底から尊敬している。
大幹部になったら右腕として使ってやろう。
「どこに行くんですか?」
「ちと8階までな。」
「おおおおぉぉぉぉぉっ!」
ゾバイドは大声を上げた。頭のネジが1本抜けたか?
「監禁玄室に行くんですよね!?」
「そうだが…。」
「もっとも天国と地獄に近い場所と言われている魔境に!」
な、なんだ、それは?
「ならず者や調教師が、数十人掛かりでも堕とせない女冒険者!」
それは知ってる。別の意味で手強い相手だ。
「戻ってきた者は、まるで精力を根こそぎ奪われたような疲れた顔を!」
それでも次の日、また8階に行ってるがな。
「しかし、みんな言います。最高だったと!ブラボー!」
お、おい。落ち着け。頭は大丈夫か?
「まさに魔境!」
どこがだ?お前の頭の中が魔境だ。
「堕としに行くんですね!?」
「えっ?…ああ、まあ。」
「さすがだ!やっぱり兄貴は凄いや。」
いや、なんていうか。堕とすより、普通に楽しみに行くだけだが…。
まぁいいか。勝手に勘違いしてやがるし。
おっと。言い忘れるところだった。
「ロゼッタに近寄るな。」
「はっ?」
「しばらくの間、何があってもロゼッタに近寄るな。」
「どうしてですか?」
「いいから近づくな。他の奴にも言っておけ。」
「はぁ、兄貴のご命令なら。」
不思議そうな顔をするゾバイド。
お前達の為だ。
ドガイドに捕まっている間に、奴隷達を買いそびれて激怒している。
殺される事はないと思うが、逆鱗に触れたら、ただでは済むまい。
つまらん事で人数を減らしてたまるか。
「じゃあな。」
「兄貴、頑張って!」
ゾバイドと別れ、更に地下へ降りる。
そういえば、ドガイドの奴はどうなった?
後で他の奴に聞いてみるか。
「ひゃっほ〜い!」
迷宮でスキップしている馬鹿がいた。
名前は【ララン】。ゴッボー3兄弟の三男だ。15のガキ。
ゾバイドと違って身体は弱い。頭はいいのだが…。
驚くことに美形だ。遺伝子の突然変異か?家族の誰とも似ていない。
「ララン、ここで何をしている?」
「ケルケーさん!聞いて下さいよ!」
やたらと嬉しそうだな。何か良いことでもあったのか?
「昨日ここで、【ハデス】様を見たんです!」
ハデスだと!?ランカーのトップじゃねぇか!
「よく無事だったな。」
「はい!遠くで見てました!」
いや、見てましたって、応援とか呼べよ。
「とても素敵でした。仲間がゴミ屑のように吹き飛んでいました。」
吹き飛んでいました、じゃねぇだろ!?
なんでお前はそんなに、うっとりしてやがる。
「ララン。」
「何ですか?」
「自分の立場を言ってみろ。」
「ハデス様ファンクラブ、会員56です!」
「まてやあああぁぁぁっ!」
お前はならず者だろ!?
てか、ハデスにファンクラブがあったのか!?
なんで会員になってやがる!?
「どうしたんですか?」
お前のせいで頭が痛いわ。非常識にも程があるぞ。
「よく聞け、ララン。あいつは【史上最悪の賢者】と呼ばれる奴だ。」
「カッコイイですよね。」
いやいや、違うだろ。どこがカッコイイ?
お前も頭は大丈夫か?
「今日もハデス様の活躍が見れるといいな。」
「・・・・・。」
俺様はラランを無視して先に進んだ。
何を言っても無駄だと悟ったからだ。
更に降りると、ゴッボー3兄弟の長男【ジグース】と会った。
ゾバイドよりも体格のいい男だ。
体力馬鹿とも言うが。頭はすこぶる悪い。
ジグースの後ろに、ならず者達と女がいた。
「その女は?」
「へっへっへっ、さっき捕まえた女冒険者です。」
「ち、違いますって!私は冒険者じゃないです!」
どっちだ。はっきりしてくれ。
女を見る。歳はロゼッタと同じぐらいか。胸はえらい違いだが…。
うむ、将来が楽しみだ。
「冒険者じゃないなら、何者だ?何故迷宮にいる?」
「造罠師です!」
造罠師?聞いたことのない職業だ。
「助かりたいからって嘘をつくな!」
「嘘じゃないです!本当です!」
ジグースと女は激しく言い争っている。騒ぐな。
迷宮は音が響くから堪ったもんじゃない。
「ジグース、ちょっと黙ってろ。女、名前は?」
「【ミラ・ネージュ】です。」
「ミラ、造罠師とは何だ?。詳しく言え。」
コホンと咳をすると、ミラは説明を始めた。
「造罠師は様々な罠を体験して学び、新しい罠を開発する職業です。」
「体験?罠にかかるってことか?」
「そうですが、何か?」
何かじゃねぇだろ?罠にかかっていたら、いくつ命があっても足りないぞ。
「よく今まで無事だったな。」
「はい。傭兵さんが罠にかかるところを、バッチリと見てましたから。」
鬼か、お前は。
可愛い顔して、とんでもない事してやがる。
この迷宮でも傭兵達が犠牲になったのかもしれない。
傭兵達…南無。
「開発した罠は、お世話になったダンジョンに無償で設置していきます。」
無償って、勝手にだろ?迷惑この上ない職業だな。
まさかとは思うが…。
「この迷宮に罠を設置したか?」
「残念ながら、設置する前に捕まって…。」
よくやった、ジグース!
今だけ、心の底から感謝するぞ。
しかし、女冒険者を捕まえるのに役立つかもしれん。
「どんな罠がある?」
「ふふふ。開発したばかりの新しい罠がありますよ。」
怪しい笑みを浮かべて、ミラは鞄の中から何かを取り出す。
「じゃ〜ん!これです!」
俺様の目は疲れているのか?
牛乳瓶にしか見えない。それが罠か?
「な、なんですか?」
ならず者達と俺様の不信な視線を受けて、ミラは後ずさりした。
「何だ、それは?」
「牛乳瓶です。」
「いや、それって罠か?」
「立派な罠ですよ!信用していませんね!」
信用出来るか!どう見ても、ただの牛乳瓶じゃねぇか!
しかも、それは開発したものか!?
市販品だろ!
「こ、効果は絶大ですよ!」
効果があるのか?
「中身は腐っていて、飲むとお腹を壊します。」
「・・・・・。」
「移動力が減少!その他色々低下!」
「んなわけぇあるかあぁぁぁっ!」
俺様は絶叫した。滅んでしまえ、造罠師。
こいつは駄目だ。ジグースより頭が悪い。
「不満ですか!」
逆切れするな。てか、気づけよ。
「腐ってたら、匂いで気づかれるだろ?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「盲点でした!」
アホだ!アホが、ここにいる!
使えない。こんな罠を設置したら、ハイウェイマンズギルドの名が下がる。
「お、応用が出来ます!」
いや、もういい。何も言うな。
「普通の牛乳に、媚薬やしびれ薬を入れたら完璧です!」
「誰も飲まないって。」
「どうして飲まないって、分かるんですか!」
「分かるだろ!」
どこの誰が迷宮に落ちている牛乳を飲む?
絶対いない。断言していい。
「バナナの皮に引っ掛かっている人もいますよ!」
仕掛けておいて何だが、あんな子供だましに引っ掛かる奴は稀だ。
「ま、まだ、あります!」
まだあるのか。
「…言ってみろ。」
「コーヒー牛乳瓶。」
「「「同じだあああああああああぁぁぁぁぁっ!」」」
ならず者達と俺様の絶叫が迷宮に響いた。
「監禁玄室に連れていけ。」
「へい。」
ミラはジグース達に引っ張られていく。
「ええ!?どうして!?ちょ、ちょっとおおぉぉぉっ!?」
疲れた。何もしてないのに疲れた。
俺様の周りには、化物と馬鹿しかいないのか?
忘れよう。8階の監禁玄室で、今までの事は忘れよう。
更に地下へ降りていく。
俺様の名前は【ケルケー】。いつか大幹部になる偉大な男。
・
・
・
・
・
≪あとがき≫
ランスローです。
ちょっと馬鹿な話を書いてしまった今日この頃。
楽しんで頂けると幸いです。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
やかましいわ!
「これが叫ばずにいられようか!?」
気持ちは分かるが、もっと静かに。
近所迷惑だよ。これ書いている時間って深夜だしね。
「す、すまねぇ。主人公になった嬉しさで。」
よかったね、ケルケー。
「おうよ!俺の時代が来るぜ!」
・・・・・。
「その生暖かい目は何だ!?」
いや、別に。
「言えよおぉっ!気になるじゃないか!」
ふと思い出したが…。
「あん?」
今のケルケーって、あれだよね?
「あれって何だよ?」
燃える尽きる蝋燭の火のように輝いているよね?
「不吉な事を抜かすなあああぁぁぁぁっ!」
きっと、次の次ぐらいで、女冒険者に倒されたり。
何か失敗して死神さんに罰を受けたり。
ロゼッタに斬り殺されたり。
「ろくでもねぇ事ばかり言うなああぁぁぁぁっ!」
世の中って無常だよね?
「知るかボケェ!うわああああああああああん。」
泣きながら走り去ってしまった…。
・・・・・・。
ま、まぁ今回はこの辺で。
いつも読んで頂き、感謝であります。
それではまた〜。
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