奴隷商人戦記(その3)
僕は2人の男と朝食を取っていた。
1人はケルケー。もう1人はアリアン。
アリアンは自称【謎の吟遊詩人】。妙に歴史や考古学とかに詳しい。
知らない事はないと豪語している。
本当かどうか怪しいものね。
「おいおい、のん気にしている場合じゃないって!死神様が怒っているぞ!」
右隣で面白い程、ケルケーが怯えている。
何しに来たのかと思ったら、死神様とやらの伝言を教えてくれた。
「謝ってこい!殺されるぞ!」
うるさいなぁ〜。勝手に怒らせておけばいいじゃない。
勘違いして襲い、僕の気にしている事を言った奴らが悪い。
「く〜くっくっく。俺もケルケーの意見に賛成だ。謝りに逝け。」
左隣で酒を飲んでいたアリアンが、珍しくケルケーの味方をする。
行けのアクセントが違うように聞こえたのは、気のせい?
味方を得たことで、ケルケーがさらに騒がしくなる。
「ほら!アリアンさんも、ああ言っている。いますぐに行こう!」
「やだ。」
「お、お前なああああああぁぁ!」
今にも泣きそうなケルケーを横目で見ながら、僕はパンをかじる。
確かにちょっとやり過ぎたかな?とは思っている。
あの程度の連中なら殺さず、屈服させることは簡単だからね。
「死神は人外だ。無闇に怒らせると死より辛い目にあうぞ。」
グラスに酒を注いでいるアリアンが呟く。
「人外ね。僕の上司もそうだけど?」
そうなのだ。僕の上司も人間じゃない。
「桁が違う。黒薔薇と違って死神は、生まれつきの人外だ。」
いつになく真面目にアリアンは語る。
どうやら死神は相当の力を持っているらしい。
でも、そんなことは僕に関係ない。死など怖くないからね。
地獄を何度も、この目で見て、この身で味わった。
「何よ、心配でもしてくれるの?」
「まさか。勝手に死ぬがいい。ただ…。」
ギリギリまで注いだ酒を一気に飲み干すと、アリアンは言った。
僕が1番恐れている事を。
「仕事の出来ない奴は、黒薔薇に捨てられるぞ。」
ガタン!
「うおっ!?びっくりするじゃねぇか!?」
突然立ち上がった僕に驚くケルケー。
だけど、それどころじゃなかった。
捨てられる?僕が黒薔薇様に?
顔が青ざめて、身体がガクガクと震える。目の前が真っ暗になる。
「ロ、ロゼッタ!?」
初めて見る僕の動揺に、ケルケーは目を白黒させている。
去れ!もっと僕が取り乱す前に去って!
「嫌だ…そんなの…嫌だ。」
涙が止まらない。恐怖に心が鷲掴みされる。
床に膝をつくと、子供のように泣きじゃくった。
「捨てないで。ごめんなさい。言いつけは守りますから。捨てないで。」
「お、おい!?アリアンさん!?」
僕の無様な姿に、ケルケーはオロオロして、アリアンに助けを求めた。
「く〜くっくっくっ。死神のもとに連れていけ。」
再びグラスに酒を注ぎながら、アリアンは楽しそうに僕を見る。
「今なら馬鹿みたいに謝るし、しばらくは黙って無心に働くぞ。」
まるで親に捨てられた子供にように僕は泣き続けていた。
眠っていた恐怖が起きる。怖い。怖い。怖い。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
ケルケーに引っ張られ、抵抗することなく龍神の迷宮に入って行く。
「死神に伝えておけ。こき使ってもいいが、ロゼッタを殺すなとな。」
空になった酒瓶を捨てて、アリアンは出口へ戻ろうとする。
「ま、待ってくれ。ロゼッタはどうしちまったんだ!?」
いまだに事態を理解してないケルケーが呼び止めた。
「ロゼッタはマリオネットだ。」
背中を向けたまま、アリアンは愉快そうに話す。
「マリオネットの恐怖は何だと思う?」
「さ、さあ?」
「く〜くっくっくっ。糸を切られて廃棄されることさ。」
迷宮に響くアリアンの声は冷たく僕の心に刺さる。
「そういえば、人手が少なくて困っているらしいな。」
「あ、ああ。」
「国を失って彷徨っている連中がいた。」
「何!?どこの奴らだ!?」
「手配しておくから使ってくれ。あとで連絡する。」
「ちょ、ちょっと、アリアンさん!?」
返事はない。アリアンの気配はもうなかった。
あいつも人外かもしれない。
だけど、今の僕にとって、どうでもよかった。
ただ恐怖に怯え震えていた。
ごめんなさい。何でもします。だから捨てないで。黒薔薇様。
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≪あとがき≫
ランスローです。
ノルン様、またもや死神さんを勝手に使いました。
名前だけですが、申し訳ありません。反省。
「く〜くっくっくっ。」
その不気味な笑い声はアリアンか。
「ランスローよ。」
何ですか?
「俺に知らない事はない。」
はい?
「カッコつけて階段から飛び降りて、足を骨折。」
な、何故それを…!
「バスケットの試合中、女子生徒の声援に気を取られ…」
うげっ!言うなああぁぁぁぁっ!
「小指にボールが当たって、やはり骨折。」
私の恥ずかしい過去をばらすなあああぁぁぁっ!
「俺に知らない事はない。」
やかましいわぁっ!
「骨折ばかりして軟弱者め。」
ほっとけ!虐めに来たなら帰れ!
「落ちつけ。何か知りたい事はないか?」
いきなり何を?
「何でも教えてやるぞ。さぁ、言うがいい。」
宝くじ一等の当選番号を教えて下さい。
「知るか、ボケ。」
何でも教えてくれるって言ったじゃないかあぁっ!
「俗物め。違うのにしろ。」
う〜ん。ロゼッタのスリーサイズ?
「く〜くっくっくっ。」
な、何だよ。
「無理だ。」
またかい!
「聞く前にお前は死ぬ。」
はっ!後ろから殺気が!
(恐る恐る振り返ると、爆弾を持ったロゼッタがいる。)
ぎゃあああああっ!いつの間に!?
あ、あの、ロゼッタ!?
投げないで下さい。お願いします。き、聞いています?
「ロゼッタ選手、第一球を振りかぶって、投げました。」
アリアン!野球の解説者みたいに言うな!
ちょっと、ロゼッタ!?何振りかぶっているの!?
ブン!(何かを投げる音。)
ガゴン!(何かに激しくぶつかる音。)
ドガアアアアアアアアアアアアアン!(何かが爆発する音。)
「本日の教訓。人の秘密を知るときは必ず許可を得よう。」
「そうしないと、ランスローみたいになるぞ。」
・・・・・。
(返事がない。ただの爆死した死体のようだ。)
「しょうがない。ランスローの代わりに。」
「今回も読んでくれて、ありがとう。またよろしく。」
「さらばだ。」
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