奴隷商人戦記(その2)





「やれやれだね。」

そう言って10人目のならず者を殺した。

どうして人の話を聞かないかな。

死体を蹴飛ばし、血で汚れた服を見て溜息をつく。

ここは龍神の迷宮の地下1階。

ハイウェイマンズギルドのボス【ギルドボ】に会いに来た。

ちゃんと交渉しておかないと、捕まえた女を適当に売りそうだからね。

ケルケーの馬鹿に頼んでおいたけど、当てにならない。

それにしても冒険者と奴隷商人の区別もつかないなんて。

ならず者は僕を見かけるなり襲ってくる。

確かに僕は、駆け出しの奴隷商人。

だけど商売相手の顔ぐらい知っておくべきでしょ?

下っ端の管理がなってないよ。

「おわぁ!?な、な、な、何だ、この惨状はあぁ!?」

知っている声が聞こえた。

「ケルケー?」

「ロゼッタ!?何でお前がここに!?ちゅーか、お前がやったのか!?」

大袈裟に驚くケルケーに笑顔で僕は答えた。

「うん♪」

「怖いわあぁぁぁっ!」

何故か後ずさりして逃げようとする。

僕が不思議そうな顔をすると、疲れた顔でケルケーは呟いた。

「人手不足で困っているのに、これ以上下っ端を減らすなよ…。」

そんなの僕の知ったことじゃないよ。

「ギルドボはどこ?」

「あぁ?ギルドボ様に会いにきたのかよ?」

それ以外に来る理由がない。

「頼んでから2日経つのに、何の連絡もないからね。」

「ま、待って!指先を俺に向けるな!」

顔を真っ青にしながらケルケーは叫んだ。

「ギルドボ様の居場所は誰も知らねぇ!」

「何よ、それ。」

呆れた。よくそれで、ギルドが成り立つものね。

作り物の笑顔が壊れていくのが分かる。

僕の顔を見て、ケルケーは失神しそうな勢いだ。

背中を向けて質問する。

「ギルドボがいない間は誰がギルドを管理しているの?」

安堵の溜息をついたケルケーは2人の人物を告げた。

「死神様と雑用様だ!」

「はぁ?」

再び振り向いた僕に、飛び上がってケルケーは泣き叫んだ。

「本当だ!まじだ!会った事ないが、幹部達が言っていたんだ!」

「ふ〜ん。どんな奴らなの?」

僕の問いにケルケーは答えた。こんな感じだ。

【死神】。ハイウェイマンズギルド結成時からギルドボの右腕。正体不明。

実力はギルドで最強。だが、女冒険者狩りに参加しない。

何者よ、そいつ?

【雑用】。本名は不明。奴隷商人の使いらしい。

奴隷商人に雑用と呼ばれていたので、ここでも雑用と呼ばれている。

色々と手際のいい男。ひょっとして街で見かけた男かもしれない。

僕と同じ匂いがしたからね。思い出せないのは不覚としか言いようがない。

女冒険者狩りに積極的に参加。

いや、仕方なく参加している傾向があるらしい。

会って話がしてみたい。

「なるほどね。」

壊れた作り物の笑顔が戻っていく。

「そういえば、女冒険者は捕まった?」

「ああ。半魔とハーフエルフを捕まえた。」

へぇ。どちらも興味を引く存在だね。貴重ともいえる。

それなら値段が高くても買いたい。

「どこ?見てみたい。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

目を逸らして、ゆっくりと後退するケルケー。

「ケルケー?」

「売れた。」

「はぁ?」

僕の方を見ないように、引きつった笑みを浮かべて言った。

「もう、売れました。完売です。またのご来店を。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

指先をケルケーに向けた。

「どわあぁぁっ!」

横飛びして、ケルケーは避けた。

ちっ!こんな時だけ動きが早い。

先程までケルケーの足元にあった、ならず者の死体が両断される。

ケルケーは一目散に逃げて行った。

ムシャクシャする。この怒り、どうしようかな。

「おい!あそこに女冒険者が1人でいるぜ!」

「馬鹿な奴だ!捕まえろ!」

「ガキだぜ。胸がない。」

また作り物の笑みが壊れていく。うふふふ。

怒りをぶつける相手が来てよかった。

ならず者達の不幸は反対側から来たこと。

ケルケーの方から来たなら、警告をもらったし、死体を見て警戒もしたはず。

そして、言ってはいけないことを言った。

「胸がなくて悪かったわねえぇぇぇぇっ!」

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁっ!」

迷宮に僕の怒りの叫びと、ならず者達の悲鳴が響いた。











≪あとがき≫

ランスローです。

ノルン様、VIRUS様。死神さんと雑用さんのお名前を

お借りしました。勝手に申し訳ない。

苦情などがありましたら言って下さい。

「ランスロー!」

おわっ!?ケルケーか!

そんなに慌てて、どうした?

「ロゼッタを何とかしてくれ!」

・・・・・。

はっはっはっ。無茶なこと言うなよ。

「てめぇ、生みの親だろ!?」

世の中には出来る事と出来ない事があるのです。

「やかましいわあぁっ!あいつのせいで俺は!」

合掌。南無南無。

「…殴るぞ?」

私にどうしろと?

「性格をもっと優しくしてくれ。」

そんなのロゼッタじゃないよ。

「胸を大きくしてくれ。」

貧乳でいいじゃないか。

「俺様とラブラブにしてくれ。」

私がラブラブになりたいわ。

「あんた達。妄想と戯言は終わった?」

「ロ、ロ、ロ、ロゼッタ!?」

いつの間に!?

「合掌の辺りから。」

こ、こら!包丁を取り出すな!何をする気だ!?

「今のは違うんだ!」

そうだとも!

ロゼッタの性格が悪いとか、胸がないとか言ってないから。

「アホかあぁっ!モロ言っとるわああぁぁぁっ!」

「…死ね。」

ぎゃああああああああああああっ!

「うぐおおおおおおおおっ!」

ズシャッ!ブシュッ!(肉を刺すような音が連続で聞こえた。)

「まったく、こいつらは。」

・・・・・。

「・・・・・。」

(返事がない。ただの刺殺された死体のようだ。)

「2人が動かないので代わりに。」

「今回も読んでくれて、ありがとうございました。」

「では〜。」


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