ワイズナーSS「4月24日の大嵐」 4月24日。某時刻。 さし当たっての仕事を片付けたラヴィルは残務を部下に押し付けて、 今日もトレーニングのため、装備をつけて下層のほうに向かっていた。 女冒険者たちとの鉢合わせを避けるため、彼女らがいない階層を使い、 かつ彼女らが休憩を取っているであろう時間・・・ つまり、ならず者たちが襲った後であろう時間を中心にしている。 「ほんとは最下層使えれば一番手っ取り早いのだけど。」 ”雄性種絶命の呪い”。 魔術師ワイズマンが最下層に掛けた全ての雄性種が絶命する呪いの結界。 その”嘘”に真実味を持たせるため、最下層への立ち入りはボス直々に禁止されていた。 もちろん、彼とて例外ではない。 仕方なく、9回のある玄室に向かい、そこから迷宮に向かおうとしたそのとき。 「ん?足音?」 脇道から人の歩いてくる音が聞こえる。 おかしい。この先には本来立ち入り禁止の最終層につながる通路しかないはずだ。 クォーパーティーが最終層に入って以来・・・ 性格には”裸身のくのいち”とボスとの戦いでどっかの馬鹿が仕掛けたギルドスペシャルで、 ”裸身のくのいち”が最終層に落ちて以来、ここに入るのは禁止されていた。 まさか、そのクォーパーティーに裏道を見つけられたのか? 警戒し、いつでも剣を抜けるように心を構える。 「くっそー・・・あんな所で終わりになっちまうなんて・・・」 (・・・この声。確実に男っすね。でもなんで?ここには入らないようボスから直々に命令が入ってたはずなんすけどね。) 「しょうがねえだろうが。あんな奴らと戦ったらこっちの命がねえや。」 (・・・まさか・・・どこかの傭兵団が特攻掛けたとでも言うのか?) だが、そのラヴィルの予想はあっさりと外れることになる。 「しっかし・・・あんな所でクォーパーティーに出会っちまうなんてよ・・・」 その一言で、ラヴィルは理解した。 なんのことはない。立ち入り禁止を破った馬鹿がいたのだ。 (・・・やれやれ。) こめかみを押さえつつ、とりあえずこいつらをどうにかするのが先だな、とラヴィルは思った。 「しょうがねえだろ・・・命あってのものだねって奴だ。」 「あーあ・・・あの女も結構いい体してたのになあ・・・」 「だったらあんたら全員戻って連中とっつかまえてこいや。」 「何でだよ・・・んなことしたって俺たちじゃ・・・って誰だ!」 ならず者の視線が場違いな声の主に向けられる。 そこにはラヴィルは腕を組んで立っていた。 「あ・・・ラヴィルさん・・・なんでこんなとこに・・・」 「そりゃこっちの台詞っすよ。なんで立ち入り禁止の所にあんたたちがいるんすか?」 「あー・・・えーと・・・その・・・」 しどろもどろになっている奴から視線を外し、ほかのならず者を見る。 もっともほかの奴らも大同小異だったのだが。 「さっき言ってたっすよね。「あんな所でウォーパーティーに出会っちまうなんてよ・・・」と。」 「え、あ、・・・あれは・・・・その・・・」 言いまどろむならず者に対し。 「・・・問答無用。」 次の瞬間。ラヴィルの拳が先頭のほうにいたならず者の一人を壁に串刺しにする。 「馬鹿・・・いや、阿呆っすか、手前ら。手前らのおかげで最終層の秘密、  クォーパーティーにばれちゃったじゃねえっすか。」 「だって女がいるのにほおって置くなんて出来ねえし・・・」 ゴスッ! 言い訳をする別のならず者の顔を爪先で壁とサンドイッチにする。 崩れ落ちるならず者。 その様を見ながらため息をつきつつ話すラヴィル。 「・・・何のために、最終層のクォーパーティーにならず者仕掛けなかったかわかってるっすか?  ”雄性種絶命の呪い”。それが”存在”していると思わせることで、  最終層に男連中を近寄らせねえようにしてたんすよ?  なのに手前らが最終層で阿呆やったおかげで、その”嘘”がばれちゃったじゃねえっすか。  そこんところ理解してるのかって聞いてるんすよ!返事くらいしろや、この阿呆が!」 そういいながら壁に寄りかかっているならず者に対して、 容赦なく何度、何十度も踏みつける。 最初の数回こそ、踏みつけに対し声こそあげたものの、そのうち、声すらなくなる。 (おい、やばくねえか?あいつ・・・) (あのままじゃ死んじまうぞ?) 「ラヴィルさん・・・その程度にしといたほうが・・・」 「あ?何?あんたが理由、言ってくれるんすか?」 そう言って不機嫌な顔をむける。 その目には明らかに殺気がこもっていた。 それを見てそのならず者は思った。 (・・・薮蛇つついたかな。俺。) 壁にもたれかかってる”仲間”の状況を見るに、今のラヴィルは本気で怒っている。 まともにその攻撃を食らえばただで済むはずがない。 その予想できる惨状にならず者が怯えていると、階段の上から声が掛かる。 「おい、手前ら、何やってやがんだ。」 ギルドのボス、ギルドボだ。 「何やってんだ、ラヴィル。おめえ、仕事の方は片付いてんのかよ。」 その声に反応し、体を向けるラヴィル。 「あ、ボス。実はこいつら・・・」 ラヴィルがギルドボに話しかけた一瞬。 後列の方にいた一人のならず者がどこで手に入れたのか、手に短剣を持ってラヴィルに飛び掛る。 「勝手言いやがって・・・死ねや、てめえ!」 その刃がラヴィルに向かって突き進んでいくと思われた・・・ 次の瞬間、そのならず者の首と両腕は宙を待っていた。 ラヴィルが抜剣し、短剣を持った腕ごとならず者の首を落としたのだ。 ギルドボのほうから視線を外すことなく。 とんだ首と腕は回転しながらならず者たちの後方に飛び、 体自体はラヴィルの脇を通り過ぎるようにして、斜め前に着地する。 「おー・・・」 そこに入る数人の声から漏れる声。 何事もなかったかのように剣を収め、 改めてラヴィルはギルドボに話した。 「いや、こいつら、最終層でクォーパーティーから逃げてきたらしいんすよ。  しかも、例のくのいち犯してる所見られて。」 その言葉でギルドボは状況を理解した。 「・・・ちっ・・・何やってんだ、手前ら・・・」 「とりあえず見せしめにこいつらフクロにするんで、尋問部屋とならず者、借りますね。」 「好きにしろ。止めたってやるだろうしな。てめえは。」 呆れた顔のギルドボ。 「ども。」 ラヴィルは軽く微笑むとギルドボの取り巻きのならず者に 「おい、こいつら尋問部屋に運ぶから、少し人数連れてきて。  壁に倒れてるのと首落としたやつはそのままでいいから。」 と要請する。 それを聞いたならず者は一応、確認を取った。 「了解・・・いいんすか?ボス。」 「言うとおりにしとけ。」 「へい。それじゃ。」 離れて走っていく取り巻きのならず者。 「ところでそっちの3人どうするんだよ。死んでるんだろ?ほおって置くのか?」 「・・・”見せしめ”・・・っすよ。こうしときゃ、最終層に向かおうって馬鹿もいなくなるっしょうし。」 そう言ってラヴィルはクククと笑った。 やれやれ。とギルドボはため息をついた。 結局、残ったならず者たちは尋問部屋に連れて行かれ、そこでフクロにされることになった。 そして数時間後。 「ボスー。ラヴィルです。はいりますよー。」 「おう。」 その声を受けてドアがガチャっと開く。 「失礼しやっす。」 ラヴィルが入ってくる。 もっとも今は装備一式そろえた姿ではなく、仕事用の平服だが。 「結局連中、どうすんだよ。」 「まあ、今日一番寝かせてその後国境紛争のほうで稼いでもらいましょう。」 「稼げんのか?」 「さあ?、元々懲罰代わりですし。死んだらそれはそれで。  武器は奪った奴で質の悪いのてきとーに渡しますし。」 「・・・ま、しょうがねえか・・・」 「それと、仕事の方はちゃんと一段落付けてあるんで、そっちはご心配なく。  ランクがあまり持たなかった性で、ならず者もどっちか言えば、自重ムードですし。  ・・・例の阿呆どもはともかく。」 ラヴィルが大きくため息をつく。 「ともかく。例のくのいちとクォーパーティーがあってしまったのは事実・・・  こりゃ、そろそろ逃げ支度打ったほうがいいっすかねえ?」 「どうせもうやってるんだろうが。」 「リスクは出来る限り減らしときたいっすから。  もっとも、あの王女様もこっちを見逃す気はねえんでしょうけど。」 「・・・だろうな。もしあのお嬢ちゃんが王権取ったら俺たちゃお払い箱ってわけだ。」 「場合によっては竜神の迷宮ごとつぶしにくるかも知れないっすね。  ・・もちろん、俺たちのせいにして。」 ふうとため息をつくラヴィル。 それをみたあと、ギルドボが口を開く。 「・・・ラヴィル。いや、ラス・・・・」 「タンマ、その名前はまだ出しちゃダメっすよ。  あくまで今の俺は、”ラヴィル・フレイス”なんすから。」 「すまん。それはともかく・・・残る気は、ねえのか?」 「ええ。そろそろあんたへの”義理”も通したことっすし。  もしここが終わるようなら、そのとき、足抜けさせてもらいますわ。」 「・・・もし俺が阻むとしても・・・か?」 「そんときゃ罷り通らせてもらうだけっすよ。  義理は果たしてるんだ。道をふさぐ奴に容赦する理由は無いっすからね。  7年前の・・・あの決着をつけるのも悪くはない。」 「・・・っち。わーかったよ。てめえは決めると梃子でも動きやがらねえからな。」 「すまねえっすね。性分なもので。」 そういうと書類をギルドボの机の上に置き、ラヴィルは踵を返した。 「んじゃ、逃げ準備は進めときますんで。いつでもできるように。」 「頼む。実際、こういうことできそうなの、おめえくらいだからな。」 「あいあい。それじゃ。」 そういうとラヴィルはギルドボの部屋を後にした。