ワイズナーSS「4月12日の・・・睡眠不足」 4月12日。午前0時少し過ぎ。 普通であれば寝ている時間だが、ラヴィル・フレイスは起きていた。 元々徹夜は慣れっこだし、それに今は一刻も早く知りたい情報があったからだ。 「主任、ギルドニュースもらってきたぜ!」 「ちょうだい。」 「あいよ。」 そして二人で読み始める。 しばらくして読み終わると二人とも苦笑する。 「・・・ま、こうなったか。」 「昨日のあれはまぐれだったってことだな。」 「ま、うちらしいっちゃうちらしいっすよ。  うーし。ならず者増長は今を持ってしゅーりょう。」 「りょーかい。」 そんなとき。 「ラヴィルさん、こいつも計上してー。」 空気を読んでないならず者が請求書を持って経理室に入ってきた。 ラヴィルはそいつの頭をつかむとおもいっきりアイアンクローで締め上げる。 そのまま目の前までもって行き、笑顔から突然般若になるラヴィル。 「ギルドの格(レベル)3つも下げといて能書いてんじゃねえよ、シャバゾウが。」 「ハヒー。スイマセンー」 「・・・どうすればいいかわかってるっすね?」 「ハイ、ジブンデカセガセテイタダキマス。」 「よろしい。というわけで。とっとと”逝って”らっしゃい。」 そういうとラヴィルはつかんだならず者を廊下にほおり投げる。 「・・・なんか最後の、文字が違ってねえか?」 「なんか言った?」 「いや、なんも。(流した方が利口そうだな」 「さて、んじゃどうするよ。」 「そっすね。これで請求書の類も減るだろうし・・・」 「なんなら、今日、やっちゃおうか。裏口の”掃除”。」 「いや、今日はちょっと無理っすね。」 「なんでよ?」 「あのね?お互い寝不足でしょw」 「・・・確かに。そろそろきついな・・・」 「んじゃ6時間で交代ということで。先取っていいっすよ。」 「ん、悪いな。んじゃ先に寝るわ。」 そういうと部下は床に寝転がってその上にシーツを掛けただけの状態で、眠り始めた。 「んじゃ、お仕事再開するっすかねえ。昨日までの分は計上しなきゃだし。」 そう言って仕事に入るラヴィルであった。 「ん。起きたッすか?」 「ああ。ファー。久しぶりに良く寝た気がする・・・オーバーしたか?」 そういうとラヴィルは手元の懐中時計を確認した。 「問題ないと思うっすよ。ちょっとすぎたくらいだし、  仕事も忙しいというレベルじゃねえし。」 「ん。わりいな。で、あの後どうよ。」 「とりあえずあのあと数人ほど馬鹿が来たけどみんな外に放ったっすから。」 「ひっでーw・・・ん。OK。準備できたぜ。主任、休みなよ。」 「OK。んじゃ休むわ。なんか起きたらそいつに起こさせて。」 「・・・寝不足のあんたを起こすって・・・自殺行為させたいのかよ・・・」 「ある意味抑止力もかねてるっすから。  ”寝不足で機嫌の悪い俺を起こしたいのか?”ということ。」 「なる。そんなことをおきないことを願いたいけどな。」 「まあね。んじゃおやすみー。」 「おう。って自分の部屋のベッドで寝ろよ、主任(苦笑)」 「いや、べつに・・・ここででも寝られるっすよ・・・」 「い・い・か・ら・つ・か・え。 あんたに倒れられるといろいろ大変なんだよ。」 睨みつける部下の目に耐え切れず、ラヴィルが折れる。 「はいはい。んじゃおやすみ。」 「おう。おやすみ。」 (・・・ベッドの方が眠れないんすけどね。俺。) そう思いながら自分用のベッドに横になり、目を閉じる。 夜闇に覆われた小さな村。 家々は嵐でもおそったかのように爪痕を残す。 その中央にうずたかく積まれているのは全て人の死体。 そしてそれに火をつけているのは・・・ 「・・・!」 一気に意識がクリアになり、飛び上がる。 ・・・また、あのときの夢だ。 昔は大声を上げて同行人を驚かせたりしたものだが、 今は声を無意識的に抑えられる。 それでも。 あまり思い出したくない思い出。 いや、思い出などという優しいものじゃない。 悪夢。人として理解できない悪夢。 村ひとつの人間が死んだ過去。 しかもそれを起こしているのが自分だから、なおさら始末が悪い。 ・・・明らかに”ヒト”としての一線を越えた行為。 ・・・神への背信か。悪魔への供儀か。 否。 ”あれ”を起こしたは自分自身の意思。 怒りと哀しみに捕らわれた。 制御し切れなかった己の未熟なる意思。 ガチャ。 「あれ?主任、もういいのか?まだ2時間くらいしかたってねえけど。」 「ああ、眠りがさめてきたし・・・」 そう言って自分の椅子に座る。 あまり寝たように見えない彼の表情を見て 「・・・睡眠薬、いるんじゃねえのか?」 「んなもんで抑えられるなら苦労はしねえっすよ。」 「・・・けどよ・・・」 「イラネエって言ってるだろうが!」 自分の怒声にはっとして椅子に座りなおすラヴィル。 「・・・すまねえっすな。」 「・・・いいさ。あんたとも数年来だ。これが最初じゃねえしな。」 仕事の手を止め、立ち上がる部下。 「睡眠薬、もらってくる。それと白湯もな。それ飲んで休め。」 「・・・わかった・・・」 背もたれにもたれかかり、ダランとするラヴィル。 そんな上司の様子を見て扉を開け、廊下に出る部下。 壁にもたれかかり、ため息をつく。 (・・・真面目に働きすぎなんだよ、あんたは。  あういう奴らが相手なんだからもう少し気を抜けばいいだろうに・・・)  ま、俺もあまり人のことはいえんか・・・) ふと口に笑みをうかべると睡眠薬をもらいに担当のところに向かうのだった。