ワイズナーSS「4月5日の訪問」 「んー・・・どーにもまとまらないっすなあ・・・  一応、ギルドの歌だかららしくしなきゃいかんし、  あまりに変だと逆に引かれるし・・・」 「・・・何やってんだよ、主任。」 「いやどうにもこうにも最近ふがいないんで、  替え歌か何か出来ないかなーとおもってたんすが。  どーにも上手くいかなくて。」 「馬鹿やってないで定時報告始めんぞ。」 「へいへい。」 「昨日捕らえた嬢ちゃんは奪還された・・・まあ、2階っすからねえ。」 「その代わりヒネモス氏が5階で一気に4人捕まえたとさ。」 「ふーん。」 「後は行商人から一人。合計5人だな。」 「・・・ちとまて。・・・つまり、自力じゃ一人も捕まえてないんすね・・・(ハア)」 「カナリア・パーティーがギルドスペシャルにかかったんだがな。  全員逃げられたそうだ。」 「・・・そいつらに襲い掛かった連中、生き残りいるっすか?」 「ああ、えっと・・・42人だな。というかリルム以外麻痺状態だったのに、  捕まえられなくて逃げられたそうだ。」 「・・・麻痺してたのに?」 「ああ、ミヒランにかかったやつにいたっては30人もいたのに逃げられたらしいぜ。」 「動けない女相手に・・・情けねえ。」 「まあ、リルムにかかったやつは全員屠られたしいが。」 「・・・そいつら全員1日飯抜きで。」 「りょーかい。っと、追加情報。」 「ん?」 「その後モンスターに襲われてさらに弱体化したところを襲ったらしいんだが。」 「・・・捕まえられなかった・・・と?」 「ああ、35人がサイクロプスに、84人がカナリアに襲い掛かったものの捕まえられず、  ダメージを受けて行動不能だったミヒランとリルムに襲い掛かったやつも、  立ちはだかったサイクロプスに防がれて逃げ散ったそうだ。」 「・・・サイクロプス、麻痺状態っすよね?」 「ああ。」 「・・・情けなさすぎるっすよ、てめえら・・・」 ハア、とため息をつくとラヴィルはこう付け足した。 「・・・後の連中は2日飯抜きっすな。」 「さっきのと被ってるやつはどうすんだ?」 「両方適用。」 「よーしゃねえな・・ま、了解・・・」 「どーしても食いたきゃ自給自足しろといっといて。」 「自給自足って・・・モンスターの肉食えとでも?」 「食う気になれば結構食えるもんすよ。実際、自分も現役時代は何度かやったっすし。」 「・・・マジかよ。」 「死ぬか生きるかって時には結構体面気にしないもんすよ?少なくとも自分は。」 「・・・報告つづけっぞ。」 「例の人妻は相変わらず続行中。」 「ああ、さっきも請求が来てたっす。」 目の前の紙を持ち上げてひらひらさせる。 そこには勢力増強剤とならず者の補充要請が今日も書かれていた。 「後何日だって?」 「3日だって言ってたぜ。」 「後3日か・・・」 「ただ、問題がひとつ。」 「何?」 「7階にひとつパーティーが来てるんだよ。今回、罠でボロボロになってるけど。」 「どれどれ。ああ、メア・パーティーっすか。」 「もしかしたらそこに奪還される可能性も・・・ないではない。」 「・・あそこ、人数少ないっすからねえ・・・(汗)」 「とりあえず今日は多少強引にやってあしたの分の増員かけといたが、  またレベルが下がると・・・」 「勝手に逃げ散っていく・・・と。ま、気持ちはわからなくもねえんすけど。」 顔は苦笑いしつつ、互いにため息が漏れる。 捕まった当初こそ、人妻ということもあり、人気が高かった8階3号玄室だが、 最近ではその名前を聞いただけでならず者たちが逃げ腰になる始末である。 中には逃げてしまうやつもいるから始末が悪い。 なので、最近は半ば強引に人数を補充しているような状況である。 「ま、今日の分はそんなとこか。後は資料よみゃ解るしな。」 「ふむ。」 そういうとラヴィルは立ち上がった。 「んじゃ、ちょっと出かけてくるっすわ。」 「どこに?」 「8階3号玄室。今の情報、一応伝えておかなきゃならないっすし。」 「言ったからってどうにかなるか?」 「一応・・・っすよ。それに、俺、あそこに一回も行ってねえっすもん。」 「ああ、そうか。りょーかい。留守番しとく。  仕事、その間にまとめとくわ。」 「お願い。」 得物の片手剣を腰に指して部屋を出て行った。 いつもの隠し通路を利用して、8階に向かっていく。 その途中だった。 進行方向から一人のならず者が走ってきたかと思うと、 いきなりラヴィルの背後に隠れる。 「ラヴィルさん!」 「・・・なんなんっすか?一体・・・」 背後でおびえるならず者に嫌そうな視線を向ける。 「嫌だ・・・俺、まだ死にたくないっす・・・」 「・・・はあ?ここはモンスターも女冒険者もいないっすよ?」 そんな会話をしていると聞こえる声。 「おーい!いたぞ、こっちだ!」 その声がして、しばらくすると二人ほど奥からやってきた。 「あ、ラヴィルさん、そいつ、捕まえてください!」 「なんなんすか・・・喧嘩ならよそでやってっす。」 「いやそいつ、あしたの人妻担当なんすよ。」 次の瞬間。 ラヴィルは背後に隠れていたならず者の首根っこつかんで音速一本背負い。 「ぐべっ!」 情けない声を上げて倒れるならず者。 倒れた所を追っ手の二人が逃げられないように両腕を抑える。 「いやだー・・・死にたくねえーーーー!あんな死に方するなんていやだー!」 「じゃあ、ここで死んでみるっすか?」 いつの間にかならず者の首筋に剣を突きつけるラヴィル。 「・・・へ?」 「こっちとしちゃあ、あんたが死んでも、  ”代わり”を用意すればいいだけの話っすからね。」 (鬼だ・・・) (鬼がいる・・・) (・・・つかこの状況で代わりって・・・) (俺たちのどっちかだろうな。それはやだぞ。) (俺だってヤダよ。) 追っ手の二人が小声でささやきあう。 それを聞いているのかいないのか、微笑を崩さず、ラヴィルは剣を突きつけ続ける。 やがてならず者がしくしくと泣き出した。 それを見て剣を収めるラヴィル。 「んじゃ、ちゃッちゃと連れてってっす。」 「はい。すいやせん。面倒かけやした。ほれ。行くぞ。」 ならず者の両脇を抱えて連れて行く追っ手の二人。 ならず者の泣き声が聞こえた気がしたが、ラヴィルは気にしないことにした。 8階3号玄室。 玄室の担当者であるハッサン・カンは疲れ果てていた。 現在、スピリアを監禁して11日目。 普通の女なら2回”堕として”おつりが来る様な日数である。 だが、奴はいまだに”堕ちて”いない。 むしろそれどころか、その状況を楽しんでいるんじゃないのかと思うほどだ。 ・・・ここにきて、彼は自分の選択を呪った。 「エルフの人妻」という言葉に踊らされた自分の迂闊さを。 そんなことを考えていると、普段は使われない隠し通路側の扉がノックされた。 「見てきてこい。」 ハッサンの言葉にドアの近くのならず者が気をつけて開ける。 そこからラヴィルが顔を覗かせる。 「ちっす。」 「何だ。ラヴィルさんか、おどかさんでくださいよ。」 「なんでっすか。こっちからは冒険者来ないでしょうに。」 「しかし珍しい。何の御用ですか?」 「んー様子見に来たのとちと伝言。」 玄室の中に入ってくるラヴィル。 玄室の中央にいる人物を一目見やると、ハッサンに尋ねる。 「あれ?」 「ええ。奴のせいでもうこっちはくたくただよ・・・」 「ま、確かに散々な状況っすなあ・・・」 壁には精力増強用のドリンクのビンが散らばっていた。 中央にいるのは捕らえているエルフの人妻。 そしてその周りに散らばるならず者たちの骸。 今、スピリアの下にいて彼女を陵辱しているならず者がいた。 だがその表情は楽しむというより、むしろ苦悶の表情が些か入っているようだった。 スピリアを陵辱(?)していたならず者の体が跳ねる。 次の瞬間、ならず者は首をだらんと下げて動かなくなった。 それと同時にスピリアも動きを止める。 「・・・逝ったか。」 「・・・逝ったっすな。」 ハア、とため息をつくとハッサンに尋ねるラヴィル。 「・・・いつもこんな調子?」 「ええ。って言うかあれならそのまま売りに出しても問題ねえんじゃ?」 その言葉にラヴィルはつかつかと歩いていき、 スピリアの下顎をつかんで顔を上げさせ、目をじっと見る。 「・・・いや、だめっすな。まだ完全に心が折れてない。」 「折れてなくてもここまで淫乱なら問題ねえんじゃ?」 「・・・売り払った後で逃げられたとか言われたらこっちの信用問題だし。」 「なるほど。」 ハッサンの言葉にラヴィルも別の意味で同句を継いだ。 ここまで陵辱されていまだ心が折れていない。 まさしく、”化物”だな、と。 「なんだったらラヴィルさん、ためしてみます?」 「やめとくっすよ。俺は女にゃ興味無いし。」 「女に興味ないって・・・もしかして男に・・・」 即座にハッサンの首に突きつけられる剣。 「・・・飛ばされたいっすか?」 「ゴメンナサイモウイイマセン」 ため息をついて剣を鞘に収める。 「って言うか俺まだ童貞っすしね。」 「へ?」 驚いたような、そしてその後哀れむような眼でラヴィルを見るハッサン。 「・・・なんすか、そのかわいそうなものを見るような目は。」 「いやだってその年で童貞って・・・普通じゃねえだろ。  修行僧でもあるまいに。」 「いやまあ・・・ちょっと昔あることあってね。  まあ、若さゆえの過ちというか。  それ以降性的欲求起きんのよ。まったく。」 ぽりぽりと頭をかきつつばつが悪そうにするラヴィル。 「・・・つーかそんな人がなんでこんなことしてんだよ。」 「ま・・・いうなら。  ”正義”とか”神様”ってやつを信じられなくなったからっすね。  ・・・その、”過ち”で。」 苦笑しつつ、クククと笑うラヴィル。 それ以上はハッサンも、聞こうとはしなかった。 「で・・・伝言あったんじゃないのかよ。」 「ああ、そうそう。わすれてたっす。」 懐から紙を出して、あさって、襲撃の可能性があることを伝えるラヴィル。 「・・・ここ、9人しかいないんだが。今。」 「一応、あした増員掛けといたからそれで何とかしのいで。万が一のときは。」 「増員って大して増えないんですけど・・・あとは?」 「・・・・キアイトコンジョウデガンバッテ」 「何で片言しゃべりなんだよー!」 玄室にハッサン・カンの絶叫が響き渡った。