ありえないと言うのはわかっているけどもうどうにも止まらない


 1.
 奴隷商人オニヘイが美しい賢者フォルテを手に入れた。
 ハイウェイマンズギルドの性奴リストにそのことが記されているのを見た大勢の好事家たちは、そのことを知るや早速購入希望の手紙やら、遣いの者やらを組織に寄越し、このような女に調教して売って欲しいと勝手な欲望をさらけだす。
 中には改行すらしていないやたらな長文で長々とリクエストを申し立ててくる者もいたが、その全てをオニヘイは一目見ただけで破棄した。
 あの娘を、売るつもりはない。

 だから、数日後にハイウェイマンズギルドが潰れたどさくさに紛れて、いつものように情報操作を行ない、フォルテの名前を性奴リストから削除する。
 それ所か、かつて冒険者ギルドの管理人だったころのコネを利用してコトネとフォルテ、二人の少女の名前を今回のクエストの登録名簿から削除を行ない、表向きそんな二人は最初から冒険に参加していない。そう言うことにしてしまった。
 そして、一度それが公式発表となれば、この後何処の誰が、何を主張しようが全て無駄となる。
 公式発表や公式見解と言う物は、権力者だけに許された究極の情報操作なであり、オニヘイにはそれができた。

 その一方で、フォルテを手に入れたことで組織の中は盛り上がっていたのだが…その後色々あって(爆
 
 
今、二人とも自分の下にはいない。



 コトネは深く深く傷ついたフォルテを引き取り、帰郷して、今は二人仲良く静かに暮らしているはずだった…。





 2.
 「ゆ、許せん…!」
 それはコトネが傷ついたフォルテを連れて帰郷して、平和に暮らし始めてから数ヵ月後のことだった。
 あの時、あの場で自分がフォルテを犯して手早く奴隷宣言をさせたのは、場所が場所だけに行方不明になる前に自分の手で彼女をあそこから連れ出さなくてはと思ったが故の行為だったのだが、思っていた以上に脆かったフォルテの精神は、陵辱と言う事実自体に耐え切れず、彼女を手元に置くことが不可能な状態にまで傷付けてしまった。
 その事を深く反省したオニヘイは、そんな彼女を見て哀れなくらい傷ついたコトネに同情してしまい、フォルテを任せることにする一方で二人とも解放して帰郷させた。
 その一方で一番警戒しなくてはならないフォルテの祖国へと引越し、二人の少女は部下に命じて常に護衛をさせていたのだが、その数ヵ月後、追手は現れてしまう。

 ある夜、追手は口封じのため眠っていたコトネを襲い、その胸を一突きして生命を奪おうとした。
 かろうじでその攻撃は避けるものの、丸腰の身では騒ぎを聞きつけて現れたフォルテを守るのに精一杯であり、自分は斬り付けられ、瀕死の重症を負ってしまう。
 幸いにして護衛の忍者がすぐに駆けつけると刺客をその場で仕留めて、フォルテの拉致も阻止するのだが、コトネの受けた傷は深かった。

 「お、おのれ…! 大人しく二人に手を出さずにいれば、見逃してやった物を…もう許さん! 俺の我慢もここまでだ…!」
 どこかで聞いたことがあるような台詞を吐きながらも、オニヘイは生まれて初めて本気で怒った。
 愛するコトネとその親友を傷つけ、彼女の意思に関わらず国に連れ帰り乱を招こうとするとは…。
 「そんなに国を乱したいのなら、この俺様が望みを叶えてやるぜ…。但し、あいつらが望むような乱じゃないかもしれないけどなっ!! おいっ! 部下を集めろ!!」
 側近の男に命じ、組織の幹部を集めると、オニヘイはすぐさま計画を練り上げた。


 その数週間後、フォルテの祖国は主だった商会が一つ残らず倒産することになる。勿論、オニヘイの仕掛けた詐欺によるものである。
 組織は兼ねてよりこの国の商会を相手に手形詐欺を仕掛けていたのだが、これまでは生かさず殺さず。かなり手加減して最低限の儲けを得ることにとどめていた。
 しかしこの詐欺はその気になれば幾つもの会社を同時に倒産させることが可能である。
 そして、普段は裏社会の秩序のためにも、それなりに手加減をするのがこの男のやり方であったが、愛するコトネを傷つけられた怒りは凄まじく、自らその禁を破ると一切の手加減抜きで手形詐欺を働き、更に計画倒産を企てた上に取り込み詐欺まで行なう。それも、国の主だった商売全てに対して。大きな取引のない小さな店に対しては、乗っ取りを仕掛け徹底的に潰した。

 こうしていともあっさり国は財政を破綻させ、さらにオニヘイは巧みな情報操作で、国民の怒りの矛先を全て王家に向けさせた。
 勿論、その間に有力貴族や軍人を金で抱き込み、徹底的な根回しも行なう。必要であれば、手持ちの性奴隷を売ってやりもする。
 さすがにこの異常事態には国もおかしいと気付くが、気付いた時にはもう手遅れであり、やがてクーデーターが起きる。

 オニヘイはこの混乱に乗じて被害者たちの「整理屋」を引き受けると、王宮に堂々と乗り込み、王家に対する弾劾裁判を行い、さらにはこの国が行なっていた黒い行いを片っ端から国民に暴露してやり、ついに王家転覆に成功。
 それはコトネが襲撃されてから、僅か一ヵ月後のことであった。




 3.
 「だはははははははは! 俺、完全勝利!」
 今、オニヘイの目の前には野望深きフォルテの姉内親王が全裸で拘束され、床に転がされている。さらには、フォルテを拉致しようと手兵を動かしたであろう大入道のような老人が武器を奪われ、これまた全裸で拘束されている。その首には部下の忍者たちが刃を当て、少しでも動けばすぐに首を刎ねられる状態となっていた。
 「き、貴様…なぜこのようなことをッ!!」
 「おいおい、何をぼけているんだおっさん。俺はこの国を救った善意の寄付者であり、次期国王だぜ? 貴様らこそ、クーデーターが起きるまで何やってたんだよってな」
 大入道はそう言われると、いきなり何も言い返せない。 勝利を確信しつつオニヘイは演説を続けた。
 「お前ら無能な王族や軍人のせいで財政の破綻したこの国に、多額の金を差し出し、救ったのはこの俺。そうだよなあ、貴族の皆さん? 将軍の皆さん?」
 控えていた連中により、わあっと言う歓声があがる。今、この場を完全に支配しているのはオニヘイだった。

 「そして俺はここにいる国の有力者の皆さんの総意により次期王へと推薦され、引き受けた。王になる俺が最初にすることは、無能な連中のリストラだ」
 その発言に大入道は頭を真っ赤にしながら何か言いたげだが、言葉が出ない。確かに、自分たちの油断のせいで国は破綻し、クーデーターまで起きた。
 これでは王家の威信は失墜し、最早今目の前で惨めに転がっている姉内親王であろうと、あの美しく聡明な妹内親王が帰国して国を治めようとしようが、国民は納得すまい。
 この男がどれだけの悪党なのかはわかるが、それでも国が滅びる寸前の所で救い上げたのは事実である。
 「ところでパパさんはどこかな? 息子として一言挨拶しておかんとな」
 「む、息子!?」
 それまで無言で転がっていた姉内親王がその言葉に反応する。
 「俺が今日からこの国の王だ。そしてアンタはそのヨメさん。わかるだろ、それぐらい」
 「き、き、貴様!!」
 大入道が絶句する。いかに野望深き女とは言え、王族である。その女を、このどこから現れたかもしれない男が妻にするなどと…許されることではない。
 「だはははははは! もう諦めろ! では早速夫婦の契りじゃー!」
 「は、離せ! 離さぬか貴様!」
 じたばたと惨めに暴れる姉内親王だが、オニヘイは一切構わず奥の寝室へと連れ込んでしまった。

 「ボス、あの男はどうするので?」
 慌てて側近の男がかけより指示を仰ぐが、この男が生きている限り、何度でも手兵を率いてフォルテを連れ戻そうと…引いてはコトネに危害が加えられる可能性がある。オニヘイがこんなことをした理由も、この男にあるような気がする。だから生かしておく理由など無いのだが…
 「そうだな…」
 とりあえず姉内親王を放り投げて、オニヘイはもう一度だけ大入道に向き会った。

 「なあおっさん。アンタなんでそんなにフォルテちゃんを連れ戻そうとするんだ? そんなにオレのカミさんが女王さまじゃダメか?」
 …もう、すっかり妻扱いである。
 「……」
 「確かにフォルテちゃんはいいコだし正妃の娘だけど、大切なのはその立場なのか? それに優しいだけじゃ良い君主にはなれないと思うけどな」
 「……」
 「アンタの望みはなんだ? 正妃の娘による統治か? それとも、この国の平和か?」
 「むう…(この男、一体何を言い出すのだ?)」
 「そもそもどっちの娘も立派に先王の血を継いだ娘だってことは変らんだろうが。ちっちえぇこと気にするな、タコさんよ」
 「………」
 「もしお前が望むのがこの国の平和なら、フォルテちゃんを女王にするのは諦めな。あのコは優しすぎて政治には向かない。だが、俺様ならこの国を強く、かつ平和にできるぞ。俺の実力はたった今見ただろう?
 そして国の平和は二の次で、ただフォルテちゃんの立場のみを重視して俺やカミさんに逆らうと言うのなら、お前は反逆者だ。即刻死ね。
 それにな、あのコは今幸せになろうとしているんだよ。それを邪魔するなよ、可愛そうじゃねえか」
 「………」
 「ふん。なら賭けをしよう。1年だ。1年後、この国は完全無欠の平和な国家になっている。無論、俺の統治の下にな。もしなっていなかったらその時は遠慮なく俺を斬れ。そして、フォルテちゃんを無理やり連れ戻すなりなんなりして、遠慮なくこの国の平和を乱せ。俺がいなくなった後この国がどうなろうがそんなこたぁもう知ったことじゃない。けど、予言するが1年後のこの国は、完全無欠の強くて平和な国になっているはずだ。とりあえずそいつを見届けろや」

 オニヘイは、ガラにもなく本気で説得した。
 最早コトネを守るにはこれしかないと言う、ある意味追いつめられた男の必死さがそこにはあった。
 そして、この大入道はそれなりに世の中の裏側を知り、汚い事もやってきた。だから、政治と言う物が綺麗事だけではないこともわかっている。わかっているだけに…なんと乗せられてしまった!
 「も、もしやお主は殿下のために…このようなことを…?」
 「まあな」
 「なんと…なんと…そこまでお主は殿下のことを…」
 大入道の瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ出した。
 「(おいおい…まあ、いいけどな。もう一押しだな。俺の必殺技、パート2!)」
 オニヘイはここが肝心とばかりに、力を込めて言い切った。

 「フォルテちゃん(コトネちゃん)みたいに…あんな可愛い女の子の幸せを望まない男なんて…いるか?」

 この言葉は大入道に対して驚異的な効果を発揮した!

 「し、信じる…そなたの言葉を信じるぞ! 某は、そなたを…」
 「王だ!」
 「王を…見届けさせていただく」
 「よし」
 それを聞いたオニヘイはにかっと笑う。そして、王として最初の命令を大入道に命じた。
 「平和な国には、まず統治するものたちが一枚岩であることが重要だ。よってお前に命じる。俺様が王になる事に反対するものがまだ僅かながらいる。おい!」
 そう言って部下を呼び出すと1枚のリストを持ってこさせた。
 「ここにある連中を斬れ。一人残らずだ。やれるな…?」
 「・・・御意」

 こうしてオニヘイは強力な味方を手に入れるのだった。

 「(勝った! くっはっはっはっは! 言葉の裏に針千本。千の偽り、万の嘘、今、この国は完全に俺に釣られたっ!!)」

 …そして



 4.
 「いただきます!」
 「は、離せえええええっ!!!」
 「無駄だー!」
 さすがは王族の寝室だと、巨大なベッドの上に姉内親王の肢体を転がすと、オニヘイは襲い掛かり、思う存分この女を犯す。
 既に滅んでいるが、かつてハイウェイマンズギルドが多くの女にそうしたのと同様、徹底的に調教を加えて堕とし、性奴隷として宣言させるためだ。
 「くっ、あっ、ああーーーっ」
 「うん、おいしーい…って、おやおや、処女ではないのだなお姉ちゃんは」
 「う、うるさいっ! 貴様、貴様、貴様…」
 「まあそれもよかろう。なかなか良い感じだしな、お・ね・え・ちゃ・ん。それじゃ早速一発目、GO」
 「ダ、ダメ!!」
 がしがしと正常位で激しく突くと、どぱーっと、まずは気持ちよく一発目を放ち、、抜かずにすぐさま次に取り掛かる。勢いのあるストロークでがしがし突き上げ、抵抗を許さずにひたすら責め続けた。
 姉内親王は、嬲られながら、己の《王女》としての自負が徐々に削り取られてゆくのを感じた…

  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・

 「くっ、ふっ、ふうっ、ふうっ、許さぬ…許さぬぞ貴様…」
 調教は続いている。姉内親王は足腰完全にへろへろになりながら、それでもまだオニヘイ相手に頑張っていた。
 「だはははは、まだまだ元気か! なかなか頑張るなお姉ちゃん。それともフォルテちゃんと違って才能ないのか?」
 「さ、才能だと!?」
 「こっちの話だ! 十発目、GO!」
 どぱぱぱぱぱっと、最初の一発から全く衰えない勢いでオニヘイは姉内親王の中に放つ。じわりと広がるなんともいえない感触に、姉内親王は身を震わせた。
 「っ、ああっ…あっ」
 「ふう。いやあ『才能レベル』の低い女を相手にすると疲れるねえ」
 そう言いながらぺちぺちと尻を叩き、オニヘイはひたすら責め続けている。気丈に振る舞いつつも、姉内親王にも限界が近づきつつあるようだった。
 だからと言って、手を緩めるオニヘイでもないのだが。
 「どうしたどうした! もっと気合を入れて締め付けんか!」
 「た…頼む…もう…もう…」
 「まだだ! まだ終わらんよ! うりゃー!」
 「や、やめっ! あ、あ、あ、あーっ!」

 …調教は、三日三晩続いた。

 かくしてオニヘイはフォルテの姉内親王を身も心も屈服させて妻とすると、僅かながら残っていた反対派も一掃して国を完全に乗っ取り、新王として即位する。あわや国が滅びる寸前で現れ多額の寄付で国を救ったこの男を国民は総出で歓迎した。
 オニヘイが選んだコトネを守る究極の手段。
 それはさっさとこの国の後継争いを終わらせつつ、完全に自分の手でコントロールすること。そのため自分が王になってしまうことだった。

 「(いや、でも俺本当はコトネちゃんをヨメにしたかったんだけどな…)」

 一体どこで運命が分岐したのだろう。
 フォルテに手を出そうと思った時からだろうか。
 コトネを手に入れ、性奴隷に堕とし、自分のモノとして自由にする計画はここに完全に終わった。

 「(なんかすげえ遠くに来ちまった気がする…)」
 
 最初はコトネさえ手に入れればそれで良かった。ところがコトネはあまりにも数奇な運命を…もとい、姉として慕った相手が自分にとって悪すぎた。 それがオニヘイの運命をも大きく変えた。

 「(だが、俺は前向きに考えた。 俺はこの国を全力で平和にして、いつか必ずフォルテちゃんを帰郷させる。そうすれば、絶対コトネちゃんも一緒について来るはずだ。王様になった俺を見たら、コトネちゃんなんて思うかな? 惚れ直すかな? だはははは!)」



・・・惚れると言う事はないと思うが。



 それでもその後のオニヘイは、本当に一生懸命、知略の限りを尽くしてこの国を平和にした。1年所か僅か3ヶ月で国は貧困のどん底から立ち直り、半年後には完全無欠の平和な国家と化し、誰もが支持する名君となる。
 かつての姉内親王はすっかり性格が丸くなってオニヘイを愛し、オニヘイもそれなりに妻を愛し、二人で父である先代の王を説得して、フォルテを自由にしてやった。そうして、ここに権力闘争も消滅すると、もう誰も失われた妹内親王を連れ戻そうなどとはしなくなる。
 王になって以来コトネに会えないのは辛かったのだが、オニヘイはこれで今度こそ二人の幸せを邪魔するものは現れまいと思い満足する。

 いつの間にやらコトネを愛してしまっていたこの男は彼女の幸せを願い、今は遠く離れたこの国から、彼女の無事を祈った。

 「(俺に出来るのはここまでだ…。コトネちゃんも、フォルテちゃんも、ホント頑張って幸せになってくれよ?)」


 かくして数奇な運命を辿った一人の男の物語は、これでひとまず幕を閉じる。




 完