時には黒く。悪人だもの

1.

4/14、ついにコトネパーティ発進。
これまでは無難な方針のおかげでピンチもかろうじで乗り越えてこられた4人だが、今度こそ終りだろう。
コトネちゃんたちは明日には5階。
7階へは3日後に到着する筈だ。
6階、7階、8階。
ここにはレアアイテムと引き換えに冒険者をギルドに売り渡すヤミ商人がいる。
今までの4人ならそいつの取引には乗らないだろうが、コトネちゃんの性格なら、あるいは…。
特にフォルテちゃんの戦力が落ちることを懸念して、取引に乗る可能性は高い。
うむ、どうやらこの賭け、ついにこのオニヘイ様の勝ちが見えてきたな。
俺様も漸くこの仮事務所を引き払って、大きな事務所に引っ越せることだし…。



2.

「おい、部下たち。この手紙を7階と8階のヤミ商人に届けてこい。
 コトネちゃんたちを見かけたら、仮面と引き換えにギルドに売り渡すように書いてある」
「了解しました、ボス」
「ああそれと。7階と6階の例の玄室の所にテレポーターを用意しておけよ。
 すぐに俺がそこまで行けるようにな」
「了解しました、ボス」

ふん。いよいよその時が来るかもしれないな。
考えてみれば旧セルビナリーダーも上手いタイミングで譲ったもんだねえ。


3.

「ボス、例の商工会に仕掛けていた倒産詐欺の件ですが」
「ん? おお、どうなった!?」
「上手く行きました。商工会の中心の店を倒産させたのを引き金に、
 そこと取引のあった多くの店が連鎖倒産となりましたから、後は整理屋が上手く話を運ぶでしょう」
「うむ、でかした」

性奴隷を売り払うのもいい金になるけど、やっぱりこっちの方が儲かるよな。

「あ、そうだ、その倒産した店に娘はいるか?」
「え? あ、まあそれなりに。…捕まえて売るんですか?」
「そうだな。何人いる?」
「売り物になりそうなのは、ざっと15,6人と言った所です」
「じゃあそのうちの半分は借金のカタとか理由をつけて捕まえて、調教して売ってしまえ。
 残りの半分はうちの組織の系列会社の店で働かせてやりな。それで恩を売っておけ」
「なるほど。了解しました」

まあ別に商品になりそうな女だからとは言え、全部を売るような真似はしないでも良いだろう。
残しておけば、後で幾らでも他の使い道があるかもしれないし…。

そう言えばワイズナーで捕まえて売った冒険者はどれもなかなかの高値がつくのは有難いな。
それに、連中の中には高名な冒険者も多い。
そいつらを売ってやると言えば、アホな買い手は幾らでも個人情報を提供するから面白い。
自分たちの個人情報がどのような価値を持つかも考えないで、目先の女のためにほいほい提供して。
おかげでその情報を元に、そいつらからまたたっぷりと金を引き出せるんだから笑いが止まらんよ。

それに散々搾り取って、破産させた後は売った女を回収して、また別の奴の所に売る。
なんて言ったかな、こう言うのは。
えーっと…キャッチアンドリリース?

まあ、なんでもいいか。

とは言え、最近は女冒険者を売ると言うのも微妙にやりにくくなったような気がする。



4.

「ボス、この間フウマと言う忍者に襲われた仲間のことなんですが…」
「ああ、どうなった?」
「今朝、死んだそうです」
「…ふうん、そりゃあついてなかったねえ」
「ええ。けど一体何が目的なんでしょうね、あの忍者は」
「エレシュって言う仲間の居場所を探しているんだろ。
 それでギルドの幹部や奴隷商人を探しているって話だ」
「大丈夫なんですか? もしボスの所に現れたら…」
「この街で俺の奴隷商人としての顔を知っているのは、コトネちゃんとそのお仲間ぐらいだし、
 あの4人がおおっぴらにそれを話すようなことは無いんじゃねえ?」
「なるほど」
「お前らが余計なことを言わなければ問題ないさ。死んだ部下は、運が悪かったんだ」
「そうかもしれませんね。死ぬ前に何かいい思いをしたって話ですし」
「なんだそりゃ?」
「文字通り、襲ってくるらしいです。性的な意味で」
「…おお。それはすげえ…」
「ボ、ボス! 自重してくださいよ!?」
「巨大なお世話だ」

全くそんなのは余計な心配と言うものだ。
ただ、実際に女冒険者の関係者と思わしき奴らが今次々と城下町に集まってきているのは鬱陶しいな。
確かにどの娘たちも可愛いし、それらがわざわざ性奴隷候補の品評会みたいな迷宮に潜っているとあれば、
気になって追ってきたくもなるだろうが、おかげで何人かの冒険者は救出までされたらしい。情けない。

「ところでお前ら、うちから売った女たちはみんな元気なんだろうな?
 まさか病気になったり、死んだりした女はいないよな?」
「それは大丈夫です。健康診断も兼ねて定期的に様子を伺いに行ってますし」
「ああ、客は選んでいるからそうそう滅多なことは無いはずだが、
 もし病気や死亡していたようなことがあったら、その買主は遠慮なく消せ。
 女の子を大事にしないような奴はNGだ」
「ボスが言いますかそれ?」
「あんね、どんな女の子のこ・こ・ろ・もガラスで出来てんのね。
 だから、女の子は絶対殴ったらあかんのよ」
「コトネさんに酷いことしているくせに」

…コトネちゃんは、別腹。
あの娘は俺の幸運の女神サマになるのだ。絶対。

「それでボス。フォルテさんの売却先の件ですが」
「おお、いい所見つかったか?」
「ダメですね。買いたいと言う客は多いのですが、値段を出すとみんなビビります」
「ふうん。けどあれだけの上玉を売るのに値引くわけにはいかないしなあ。
 つうか本当に見つからないのか? 1人も? 貴族のバカ息子のピザデブとかさえも?」
「ええ」

最も、そんな奴がもし申し出てきても絶対売らないけどな(爆
ピザデブに売る性奴隷なんて、そこいらの町人の娘で充分だろ、常識的に考えて。
寧ろ雌のオークとかでも良いかもしれない。そんな生物がいるとしてだが。

「本当ですよ!」
「怪しいな。 この間の記録媒体も売るな売るなってゴネていたし、真面目に探しているんだろうな?」
「そ、そもそもあの人捕まるんですか?」
「確かにって…それを何とかするのがハイウェイマンズギルドと、お前らの仕事だろ!」
「とにかく、もう少し検討してみます。でも、やっぱりうちの組織で働いてもらった方が…」
「それは俺が決めることだ。お前如きが意見をすることじゃない」
「(!) 申し訳ございません、ボス」
「ああ、わかったらもう下がれ」

―やれやれ。
あの紫の賢者は相当な高値がつくから、是非とも売りたいのだが。
高すぎて買い手がつかない…本当だろうか。
嘘なら調べればすぐにわかる話ではあるが。


「おい、忍者」
「なんでしょうか、ボス」
「今出て行ったあいつの後をつけろ。
 ちゃんと仕事しているか調べて、もし嘘ついていたりさぼっていたら、そうだな。
 見せしめのために、不幸な事故に遭わせてやって構わない」
「了解」


5.

…それにしても、報告によればついに迷宮の10階に到着したパーティがいると言う事だが、
まさかそいつらにワイズマンとやらが倒されたりはしないだろうな。
そんなことになったら、このクエストはそこで終わってしまう。
当然、俺の計画も…。

「ボス、町長が会いに来てますよ。
 この間、町の復興支援として資金を提供した時の礼を言いたいそうです」

そうそう、この間コトネちゃんが派手に町をぶっ壊した時、
俺が復興支援に金を出したおかげで、表の顔を取り戻せたんだった。
ラッキーだったかもしれない。
ん? でも元々事件を引き起こしたのは、フォルテちゃんだったかな。
てことは、2人で俺に協力してくれたってことになるのかねえ。

「オニヘイ殿、は、初めまして…」
「おう」

うーん、なんか貧相なおっさんだな。つうかヅラだし・・・。
こんなのがクルルミクの城下町の町長だなんて、この国の人材不足は深刻だな…。
戦場では無敵の竜騎士さまも、次々と犯されたり売られたりしていると言う話だし。
白竜将様はグラッセンに売られたと聞いたが、もしも俺だったら、もっと良い所に売ってやったのに…。
全く、惜しいことをしたもんだ。

「先日は、町の復興のために、私財を提供してくださいまして、町民一同まことに感謝しております」
「んなことはどうでもいい。それより知ってると思うが、あの時の犯人は今迷宮に潜っているコトネって言う女冒険者だ」
「は、はい。それも存じております」
「ちゃんと犯人の顔と名前を覚えて、街の連中にも警戒させてやれよ。
 相手は冒険者とは名ばかりの凶暴な爆弾魔だから、皆で警戒するんだ」
「ほ、本当にその娘が…?」
「町長。それは俺の言う事を疑っているって言う解釈でいいのかな?
 町長さんは、町の復興のために私財を提供した俺よりも、町を破壊した爆弾魔の方を信じると? へえ?」
「め、滅相もございません!」
「ならいい。ちゃんと言うとおりにしてもらおうか」
「は、はい!」

全くちょろいな。
戦争が長いせいで、すっかり人の心は疲弊している。
だからちょっと金を出して、脅してやれば、幾らでも操れるってもんだ。
ん、そうだ。ついでだから…

「そうそう、そのコトネと仲の良い、紫色の髪をした賢者。
 あいつも相当に凶暴だから気をつけろよ。
 なんと言っても、この俺を風の魔法で殺そうとしたくらいだ」
「あ、あのフォルテシモ様が…ですか?」
「フォルテシモ…さま?」

なんだそれ?

「は、はい。とても評判の良い娘と…」
「それは嘘だ。あの娘も、爆弾魔の仲間だから油断をするな」
「か、かしこまりました、オニヘイ様…」

よし。これでフォルテちゃんの評判も間違いなく下がる。グッドだ、グッド。
我ながら良い仕事をしたな、うん。

「ああ、それで町長。何か俺に礼をしたいと言う事だが?」
「は、はい。ぜひとも歓迎の宴を…」

…アホなんだろうか、このおっさん。
有り余る金を持つこの俺が、町長程度の金で開く歓迎の宴? それで満足すると?

「そんなものはいらん。それより、もっとほれ、他にあるだろ」
「ほ、他に…と申しますと…」
「街の住民の住民票とか、戸籍謄本とか、そう言うのが見たいな。
 この街にはどんな人間がいるのか、もっとよく知りたいと思う」
「そ、それは個人情報の保護に…」
「大丈夫だ、他に回したりはしない」

俺が使うからな。

「…し、しかし」
「ほう。俺の言う事に逆らうと? 偉くなったなあ、町長」
「も、申し訳御座いません! しかし、それを外部に持ち出すのは…」
「そうか。なら部下に見させにいくからそれでいいだろ?」
「そ、そう言うことでしたら…」

よし、戸籍GET。勿論そいつは複製していただくから、これで町中が俺のカモだ。
いい女がいたら、どんどん捕まえて他国に売り飛ばしてやろう。
危険の多い女冒険者の売買よりも、こっちの方が遥かに安全かつ、数が多い分儲かるに違いない。

「じゃあ町長、後で部下をアンタの所に行かせるから宜しく頼む」
「かしこまりました」
「じゃあもう帰れ。これから事務所の引越しがあるから忙しくなるんでな」
「はい…では、失礼致します」


6.

…ふう。午前の仕事はこんな所かね。

「おーい、お前ら。引越しの準備は出来たか?」
「ばっちしです、ボス」
「よっしゃ、それじゃオニヘイさん、町の顔役に復帰と行くか」
「ですね、ボス。
 しかし最初にボスを追い込んだのもコトネさんなら、復帰させたのもコトネさんとは、奇遇ですねえ」
「ばーか、そうじゃねえよ。これは運命なのだ。
 コトネちゃんは、俺に幸運と富をもたらしてくれる運命の女なんだよ」
「ボス、またそんなムチャなw」
「ふん、いいからとっとと引越しの準備をしろ」
「了解であります!」

全く、口の減らない部下だな。
少し気安く話しかけるとすぐに調子に乗るから困ったものだ。
とにかく、これで何もかも元通り。いや、前以上か。
仕掛けた詐欺も、
奴隷売買も、
何もかも順調だ。
後はコトネちゃんと一緒に武器商人としての顔も手に入れれば…

恐らく、今の戦争はこれから先もっと激しく、かつ長期化するに違いない。
そうなれば、コトネちゃんの作る武器を使って、もっと手広く商売が出来ることは確実…。
全く、笑いが止まらないな。



7.

竜神の迷宮

「へっくし!」
「コトネさん、風邪ですか?」
「うーん、何か急に寒気が…。でも大丈夫だよフォルテ」

「回復魔法が必要ですか?」
「セ、セレニウスさん。(また変なことを…。こう言う時、どうツッコめばいいんだろう…)」
「笑うと良いと思いますよ」
「フォルテ!?」

「おいリーダー、先を急ごう。もうクエスト終了まで期間が少ない。一気に進まないと」
「セルビナさん、何をそんなに焦っているの? のんびり武器を回収しながら進めばいいじゃない」

「クスクス」
「あーっ、フォルテ今笑ったでしょー!」
「いえいえ、滅相もございません。それよりコトネさん、油断しないでくださいね」
「うん、そうだね。それじゃみんな、今日も一日がんばろー!」
「もうお昼過ぎですよ」
「…あ」
「クスクス」
「だからフォルテはなんで笑うのー!?」
「いえいえ」

「いい加減にしなさいって。ったく、進むよ、それじゃあ!」
「はーい」
「はい、それでは参りましょう」
「コトネ、本当に回復魔法は…」
「いえだから結構ですってばー」
「クスクス」
「もー、フォルテはいつまで笑っているのー!?」



…一行は、今日も迷宮を進んでいる。迷宮の罠を警戒しながら。

地上で待つ罠には気付きもしないまま、一行は更に前進する。

迷宮深くの闇に向かって…。