Dog or Dog?


浮かぶのは在りし日の栄光。
思いを馳せるは嘗ての日々。
それはいつか取り戻せるだろうと思っていた輝かしい日々。

もう届かない。
暗闇ではその過去は眩し過ぎて余りに遠く――

眠っていた意識が覚醒する。
気付くと薄闇の玄室。
それは思い出したくも無い現実。

彼女の姿は、無惨と言う他無かった。

衣服は原型を留めぬ程に引き裂かれ、身体には所々に抵抗した痕跡を示す痣がある。
だらしなく開かれた股と秘裂から零れ出た数十人分の白濁液は抵抗が無駄に終わった証拠。結果、手枷を嵌められる事になった。
…そこに騎士としての彼女は居なかった。居るのは犯された一人の女。
罠に掛かって身体が動かないのを良い事に苦痛も屈辱も、徹底的に受けた。

こんな生き恥を晒すくらいならば、死にたい。

…しかし、そう思った所で女は自分にそんな勇気が無い事を知っている。
祖国が滅びたあの日、自害した王や騎士達の後を終えなかったあの時から。
脳裏に焼き付いて居るのは夫の亡骸。
未だ鮮明に甦る腕の中で冷たくなって行く娘の温もり。
全て失ってもなお生きようとする彼女を、国に殉じた彼らは許してくれるだろうか。
先立ってしまった夫は笑ってくれるだろうか。
未来を無くした娘は―――

――思案に耽っていると、足音が近付いて来るのに気付く。
一人では無い。二人、三人と言ったレベルではない。
ぼうっとする頭で彼女は理解する。
『ああ、奴らが来たのか』と。
理解はすぐさま現実となり、勢いよく木製の朽ち掛けた格子付き扉が開いた。

「おー。今日もご奉仕頼むぜ騎士サマよぉ?」

「おいおい騎士じゃねえよ、騎士『気取り』サマだよ。クチの聴き方に気ぃつけろよ!」

「ぎゃははははは!!」

もう自分は騎士ではない。克明に突き出される現実。
しかし
地位が無くなろうと気概だけは騎士であろうとする。
全てを無くした女の意地。言わば最後の牙城。

「ったく、相変わらず気に喰わねェ眼しやがって・・・おら、ケツ出せ。犯してやるよ」

「…・・・んだ…よ…」

「・・・あ?何言ってんのかわかんねェよ」

言葉が聞き取れず、女へ顔を近づける。
それまで俯いていた彼女は不適な笑いを浮かべて男を見据え、こう言った。

「…汚ならしいんだよ、このブタ野郎」

サービスで唾も吐く。
唾液に塗れた男の顔面はみるみる内に怒りの色に染まり――女の白い頬に拳が飛んだ。
続け様に二発目を見舞おうとした所で、男の仲間が下卑た笑いを浮かべながら制止した。

「はーいそこまでー。顔はナシっしょー?商品になんのよこの女?
歯ァ一ツでも欠けたら価値下がんべ?」

唇から血を流し、微かに震えている女を指差しながら軽い口調でならず者を諭す男。
しかしならず者は余程頭に来たのか、真っ赤な顔のまま反論する。

「でもこのアマよォ…!!!」

「顔はナーシ。OK?コトバ解るよね?」

にやにやと。人を不愉快にさせる様な笑顔。

「・・・あー。すまねえ、解った、顔はナシだな。顔は・・・な!!」

「がはっ!?」

嫌な音を立てて、爪先が鳩尾にめり込んだ。
女は横に倒れ、息が出来ずにもがき苦しむ。咳

「…ねェあんた。プライドもいいけどさー」

見下して、ぶっきらぼうに髪を掴む男。
それは人の、それも女の髪を扱う仕種とは程遠く。
ただの物を扱うように、つまらなそうに。

「こんな痛い思いしてまで守りたいモンって今のアンタにあんの?」

「・・・黙れ…!」

「あ、反抗的。自分の立場弁えてよねー」

「ぁ、ぐっ…!」

ぐい、と髪を強く引っ張られる。
想像以上に痛覚を刺激し、少なからず髪に自信を持っている女には精神的な苦痛にもなる。
事実、この女はその純白の髪が自慢だった。

「還る国もなけりゃ地位も力も無い。
 ワイズマンどころか俺達にまで良い様にされる今のアンタなんて腰振るだけの雌ブタってくらいしか価値ないのよ?」

「………ッ!!」

何故、言い返せないのか。それは自分に
考えると無性に腹立たしくて、情けなくて。
歯を食いしばる事しか出来ない。

――いっそこんな思いをするぐらいならば

思いたくない。
けれど堕落への道は着々と紡がれて。

「でもね、そんなアンタを必要としてる人が居んの」

物は言い様。
舌先三寸口八丁。
普段ならば通用しないだろうが、衰弱していればこの程度。

「…私、が、必要…?」

眼前には彼女を必要としている十数人の男。
嫌悪しか無かったモノが段々と魅力的に見えて来る。

――堕ちてしまった方が

男の下卑た笑みが、心なしか更に下卑た印象を受けさせる。
あと一歩。そう言わんばかりの笑み。
…後は背中を一押しするだけで、簡単に。

「そうそう。アンタが必要。ま、昔と形は違えど生き方は一緒じゃん?」

「…そんな事は……!!」

「一緒だねェ。ご主人様に忠義尽くして、自分に出来る事で奉仕する。何処が違うんだい?」

これ以上意地を張って何になるのだろう。
『主君に仕える』。自分が無くした道が再び敷かれたのだ、何を拒む事があるのだろう。

「…そう、か…そう・・・だな…」

「だろぉ?じゃ手枷外してやるよ、痛い思いさせて悪かったね」

一瞬。男の顔が、歪に視えた。

――どれだけ楽だろう。

牙城は崩れ…騎士であった女、エルゼ・ロッソガーデンは奴隷に成り果てた。



「オラ、もっと根元まで咥えろや!!」

「むぐっ!!ん、ぶ…ぅ…」

喉の奥に亀頭が当たっているのが解る。
以前は口淫など強要しよう物なら逸物を噛み千切らんばかりの勢いだった。
けれど今は子供が飴細工をしゃぶる様に貪欲に咥え、口を前後に動かす。
両手には両脇の男の自身が握られ、髪は待ち切れない男たちの自慰の興奮を引き立てる道具として逸物に巻き付けられていた。
透き通る様に美しかった白い髪は白濁液が付着して、面影を無くして行く。
そうしている内に熱く、新鮮な男臭いミルクが髪にぶち撒けられた。

――いつ見ても綺麗な髪だ。

優しく梳きながら。伴侶は照れくさそうに呟く。

――雪みたいで、気付けば何時も見惚れてしまうんだ。

そう言ってくれた彼は死んでしま

…熱は思い出したくも無い記憶を甦らせる。
『ごめんなさい、あなた。本当に、ごめんなさい。』
それだけしか今の自分には言えないのに。
脳裏に浮かんだ謝罪の言葉も、精液欲しさに一寸で掻き消えた。

「さすが鍛えてただけあって締まり良いよなぁ。
50発以上はブチこまれてんのにキッツいわ」

「相手してくれるような男もいねーから日照ってたんじゃねーの?」

「ぎゃはははは、それでこの淫乱っぷりか!!」

尻や胸を手荒に揉まれ。
下から精が溢れ始めている秘裂に、後ろから短期間で充分に開発された菊門へと抽送されながら、口汚い言葉を吐かれる。
それすらもう、苦に思わない。
自ら股を開き、何処の馬の骨とも知れぬならず者に女を捧げる事に如何ほどの躊躇いも無い。
例え、獣の交尾の様に本能のまま交わるだけだとしても。
今の主たちの望むようにと、最早それしか彼女には考えられなかった。
物の様に扱われるのが、堪らなく快感に思えた。

『汚して欲しい』
――綺麗な過去の事を忘れたいから。
口内に精が吐き出され、唇の端からとろりと滴る。

『汚して欲しい』
――それが新しい忠義の証になるなら幾らでも。
膣内が満たされて行く。時間差で菊門にも同じ感覚が走った。

『汚して欲しい』
――そう思う事に何の恥があるのだろう。こんなに気持ち良い事が悪い訳が無いのに。
白濁のシャワーが降り注ぐ。
其れは髪に、腕に、脚に絡みついて離れない。 

「……あは。あはは、あははははは、もっと、もっと汚してぇ…」

付着した精液を手に取り、舐め取り。
女は貪欲に、男たちを求めた。

そんな堕ちた女を尻目に、玄室に備え付けられたソファへ下卑た笑みの男がどっかりと座り込んでいる。
紙巻煙草を吸い、一段落している彼にならず者の一人が頭を下げながら近寄る。

「いやーすんません兄さん、手ェ煩わせちゃって」

「ん。あァ良いのよ良いのよ、オレ強情な女落とすの好きだしィ?」

頭を下げてきた下っ端に対し「気にするな」と言った旨のジェスチャーをしながらケタケタ笑う男。

「・・・っと、落ちつかねえけど俺ぁこの辺で」

「え、ヤってかねえんですか?」

「いやァね、ボス直々に呼ばれててね。さっさと来いってお達しなんだよ、うぜーうぜー。
 っつかあの程度で堕ちる女なんて興味わかねーしよォ。俺ぁ強い女が好きなんだワ」

軽薄に吐き捨てて立ち上がり、手をひらひら振って玄室の扉に手を掛ける。

(まァそれに…)

背後を見やる。発情した見苦しい雌犬が一匹。
誇りなど何処にも無く、自尊心は地に落ちて。
其処に彼の求めた女は存在せず。
騎士などと言うには、余りに汚らわしい存在。

「今回も期待外れ…っと。
 やっぱ国の最期に殉じなかった騎士なんざ弱ェって事かねェ…」

嘲って、笑いを絶やす事無く男は迷宮の闇へと消えて行った。
それから一日と経たずに調教は完了し、女は奴隷商人へと売却された。




――数日後。
彼女がさる富豪に買われ、邸宅に招かれた翌日の深夜。
そのある一室。

「…漸く出来たか。開いてるぞ、入れ」

がちゃ、と音を立てて扉が開く。
その先に居たのは首輪を付けた一人の女…否。
一匹のメス犬、エルゼ・ロッソガーデン。
華美な装飾が施された純白のガーターストッキングと高級な生地で造られたショーツ以外は何も身に付けてはいない――首輪と、ある物を含めれば話は別だが。
首輪に取り付けられた紐を引きずりながら、呼んだ男の元へと四つん這いで近付く。

「止まれ」

ビタリと止まるメス犬。
一寸の沈黙。
聴こえるのは「ブゥーーーーー………」という振動音。
其の正体は菊座に突っ込まれた、尻尾のような房が付いたバイブレーター。
ぽたり、ぽたりと秘裂からは愛液が滴り落ち、息の乱れが徐々に大きくなって来ている。
男はそれを確認して頷き、言う。

「私の言いつけはちゃんと守ったな?」

「はい、主殿…どうかご覧下さい」

エルゼはそう応えて恥じる事も無く純白のショーツをずり下げて座り、M字に開脚して秘部を見せる。
青々とした産毛を残した剃毛の跡。やり慣れない事をした所為か、小さい切り傷が一条走っていた。
見られて感じて居るのか、はたまた尻に突っ込まれた「尻尾」の所為か。
脚は震え、顔は紅潮し、お預けを食らっている犬の様に物欲しげな表情を浮かべるエルゼ。
其れを見た男はやはり頷き、満足げに口を開いた。

「よし良い子だ、褒美を遣わそう。
 …おい、お前たち!!」

入り口の扉からぞろぞろと出てきたのは五人の男。
何処かで見た覚えがある、五人。
忘れもしない、忘れてはならない顔。
身動きの出来なくなった自分を襲い、あまつさえあのギルドへと引き渡した連中。

「うへえ、この可愛いお犬サマがあの騎士ねぇ…ギルドの連中もなかなかやるじゃないか」

「んじゃ今回もヤらせて…っと、噛み付いたりしませんよね?」

「見れば解るだろう?エルゼに限らずうちの犬は噛み付いたりなぞせんよ。
 さ、今宵も楽しいショウを見せておくれよ」

依頼主の号令を受け、ニヤニヤしながら男達は開脚したままのエルゼへと群がる。
結果として自分をこんな目に陥れた連中を目の当たりにした彼女はと言うと。

「ああ、貴方達か。…貴方がたの御陰で、主殿と出逢う事が出来た。
 感謝している…存分に私を使ってくれ」

愉悦としか形容できぬ笑みを浮かべ、尻を突き出して淫らに尻尾を振っていた。

…仔犬から走狗へ。走狗から野犬へ。野犬から愛玩犬へ。
彼女の人生は変わる事無く――イヌであった。