※リムカ祭り開催のお知らせ※


本日3月29日はクルルミク王国において、≪リムカの日≫として新たに祝日に制定されることが決まりました。
つきましては、それを記念して中央大通りにて街頭パレードが行われます。
パレードの先頭にはもちろん、高名な賞金首のゴルゴダス、ヒネモス両名を立て続けに捕えたあの4人の姿が!
式典の最後にはハウリ王子によるメダル授与が行われ、さらにその場で、四人の中でも最も高名な賢者リムカ・
スターロート嬢に、名誉竜騎士の称号が贈られます。
国を挙げてのお祭りに皆様ぜひ奮ってご参加ください。

                                   王国広報大臣:パブリク・メセンジャー





「だって、さ」
いつもの宿の一室で、町中にばら撒かれたチラシの一枚を読み終えたウィノナがウンザリと言った。
「あんた竜騎士様になるんだって。……どうする、リムカ?」
同じく隣でチラシを読んでいたツインテールの少女に向かって話を振ってみる。
リムカと呼ばれた少女は仲間の軽戦士の問いかけに眉を曇らせて答えた。
「……≪名誉≫ですから実際になるわけではありませんけど……困りましたねぇ」
さしもの『ストラー・スターロートの孫娘』も、はるばるこんな異郷の地までやってきて、まさか自分の名前が国民の
祝日にされてしまおうとは想像だにしていなかったようだ。
「でも、『リムカ祭り』ってすごいネーミングだよね、ちょっと笑っちゃった」
ぷぷぷ、と含み笑いを漏らしたのは同じく仲間のセミロングの魔法使いセララだ。
肩を揺すって無邪気に笑うセララに、ウィノナはすかさずつっこみを入れた。
「あんたも他人事じゃないわよ、セララ。――想像できる? パレードよ、パレード」
「う……」
無数に舞う紙吹雪の中、馬車の中から大観衆に向けて手を振る自分の姿を想像してしまって、セララは表情を引き攣ら
せた。
「それは……かなりイヤ……かも」
男性恐怖症のケがある少女にはちと厳しい。
「でしょー」
「……やっぱり今からでも、お断りできないのでしょうか」
リムカが言った。
「そうしたいところだけど……どう考えても無理ね」
ウィノナは難しそうな顔で答えた。
「だって王家主催のパレードだよ? チラシはもう街中に配られちゃってるし、みんなやる気満々だもん。いまさら出
られませんなんて言えないって」
「だよねえ……」
セララも同意する。
しーん、と短い沈黙が降りた。
それから三人は『はあ……』と一斉にため息をついた。
もう一人の仲間を見やる。
三人の視線の先には、無言でテーブルに突っ伏すポニーテールの少女の姿があった。
仲間の視線が集まると、少女の肩がぷるぷると小刻みに揺れはじめた。そして、
「……あー、もうっ! 信じられないっ!」
少女はバーン!とテーブルを叩いて叫んだ。
「あたしは忍者なのよ!? 『忍ぶ者』なの。いったいどこの世界に、パレードの先頭に立って顔を売る間抜けな忍者
がいるっていうのよっ!!」
「ま……まあまあ。――おちつきなって、チェリア」
リーダーのウィノナが慌てて激昂する少女をなだめにかかった。
「ほら、ちょうど迷宮でひろったアイテムもあるし。これ付けて変装すれば、案外素性が隠せるかもよ?」
ウィノナはそう言ってウサギの耳をチェリアに手渡した。
チェリアは律儀に受け取ってから言った。
「……こんなのつけたら、パレード忍者がヘンタイウサ耳忍者にかわるだけじゃないのっ!」
パシーン! と床に叩き付けられるウサ耳。
そこにリムカが冷静にツッコミを入れた。
「でも。そもそも……この話を受けたのはチェリアさんのはずですよね?」
「うっ」
実際その通りなのでチェリアは絶句した。
「そうそう」とセララが後を引き継いだ。「チェリアったら、王宮に招かれてハウリ王子に会った途端、目がハート
マークになって思考停止しちゃうんだもの」
「は、ハートなんかなってないもん」
「『……これで少しは、ハウリ様のお役にたてましたか?』なーんて。上目遣いで恋する乙女全開」
「そ……そんなこと……」
「『えっ、パレードですか? そ、そんな恥ずかしいことできるわけ……あっ、いえ。と、とても素敵な提案だと思
います、ハウリ様!』とかなんとか。結局私達になーんの断りもなしに受けちゃったんだよね」
「うう……ごめんなさい」
セララの言う通りだったのだ。
チェリアがしゅんとしょげると、セララはニヒヒ、と笑って仲間の肩をたたいた。
「うそうそ。言ってみただけよ。誰も本気で責めてなんていないって」
「セララ……」
チェリアがほっとして顔をあげると、満面の笑みを浮かべたセララと視線がぶつかった。
「で・も――」とセララは言った。満面の笑みはなぜか東洋の般若を連想させた。
「責任は取ってもらうからね?」
「え……?」
ひくりと頬を引き攣らせたチェリアにウサギの耳がずずいと差し出された。
「あなたにはこれをつけて、スケープゴートになってもらうわ! 一番目立って野郎どもの視線から私を守るのよっ」
「そ、そんなー!?」
安宿に、女忍者の悲鳴が響いた。

結局。その日、チェリアはウサ耳でパレードに参加することになった。

めでたしめでたくもなし。
                                         

                                                   完