『旅立ち』 「御暇(おいとま)にあがりました。……今日でしばらくのお別れです」 寝室を訪なってチェリアがそう告げると、少年はひどく驚いたような顔をして振 り返った。 「え……?」 まだあどけない顔に戸惑いが浮かぶ。次の瞬間、それは悲しみに替わった。 見たくないものを見つけてしまって、チェリアの胸がズキリと痛んだ。 だけど、もう決めたことだ。 チェリアは意を決して続けた。 「明日からは、後任の者が護衛を引き継ぎます。――……申し訳ありません」 最後の言葉は思わず漏れてしまった。 だって少年が、傷ついたような顔を浮かべていたから。 「……どうしてって……聞いてもいい?」 少年――クルルミク王国第一王子ハウリ=クルルミクは、チェリアを見つめて静か に尋ねた。真摯な表情と不安そうな声だった。 ――ああ……。 ハウリの視線をまっすぐに受けて、チェリアは思った。 やっぱり……わたしは……この人が好きだ。 以前から胸の奥で燻っていたものが今、確信に変る。 ハウリにはやろうと思えば彼女に命令する権利があるのだ。 いくら彼女が「護衛をやめる」と言っても、「勝手は許さない」と彼がそう命じ れば、彼女は逆らえない。ただの使用人に過ぎない彼女の意志など、その程度の ものなのだ。 ――なのに。 目の前の少年は、決してそうは言わないのだ。 彼女の言葉をしっかりと受け止めて。 不安を覚えながらも、それでも、彼女の真意を探ることを恐れない。 とても十五にもならない少年とは思えなかった。 ハウリの器量に、チェリアはただ感服するばかりだった。 「ワイズナーを討ちます」 チェリアが端的に理由を語ると、ハウリはその一言ですべてを悟ったようだった。 「――ボクのために?」 静かに尋ねてくる。 「それもあります」 チェリアは正直に答えた。 「でも、もちろん、それだけではありません。あれは――ワイズナーは、この国の 平穏を乱す元凶です。あれが竜神の迷宮に居座り続ける限り、この国の治安は悪化 するばかりでしょう。だれかが討たねばなりません。そして、それは……わたしで ありたいと思います。なぜなら、あの邪悪な魔術師は、わたしの兄の仇でもあるの ですから」 彼女の兄ジゼンはセニティ王女の討伐隊に参加して迷宮の最深部まで赴き、ワイズ ナーの呪いに囚われて絶命した。 彼女の唯一人の肉親は、ワイズナーの手によって奪われてしまったのだ。 あの邪悪な魔術師が竜神の迷宮に居座り続ける限り、この国に真の平穏が訪れるこ とはない。迷宮の噂を聞きつけて、全国からならず者たちが集まってきている。 ワイズナーが現れて以来、王国の治安は悪化の一途を辿っていた。 王国を守る彼女の使命感が、ワイズナーの存在を決して許さないのだった。 でも―― チェリアは考える。 それらの理由は、考えてみればあとから付随してきたものなのかもしれない。 鍛えられた忍の常として冷静に己の心を分析した時、彼女はいつも後ろめたくなっ てしまう。 ワイズナー討伐の真の理由を心に問うた時、最優先ででてくる答えはいつも同じだっ た。 ――ハウリのために。 ハウリの王位継承試練の儀式はあと数ヶ月足らずで期限を迎える。 それまでに儀式を果たせなければ、彼女の敬愛する少年は、王国の統治者として紛 い物のレッテルを貼られてしまうのだ。 それだけは、断じて許容することができない。 つらつらと考え事をしていると、唐突に名前を呼ばれた。 「チェリア」 我に返ると、ハウリが目の前に来ていた。 「は……はいっ」 「引き止めても無駄だろうから一言だけ。……気をつけてね」 そう言って、ハウリはそっとチェリアの肩に手をそえる。 それだけで、チェリアは思わず、その場に溶けてしまいそうになった。 子どもの頃から護衛を続けてきた少年は、今では彼女の身長をわずかに追い越して しまっていた。 いつのまにか逞しくなっていた少年に、息のかかるような距離から見つめられて、 チェリアはどぎまぎとして視線をそらした。 「あ……ありがたいお言葉です……。このチェリア、たとえ我が身を投げ打ってで も、必ずやワイズナーを討ち果たしてみせます」 彼女としては、精一杯の誠意を現したつもりだった。だが。 「それは……ダメだ」 「――え?」 いつにないハウリの強い言葉に圧されて、彼女は戸惑って彼をみつめた。 「迷宮に赴くことは認める。――だけど、死ぬことは絶対に許さないぞ。必ず生き て帰って来るんだ。いいね、チェリア」 「……ハウリ様」 チェリアの瞳から熱いものがこみ上げてきた。 この言葉を聞けただけで、もう死んでもいいと思った。 思ってしまって、内心でくすりと笑みを漏らす。 ――死ぬなといわれて、もう死ぬことを考えている。 彼女は目尻の涙を拭って、努めて明るく言った。 「――はい。必ず、生きて戻ります」 「きっとだよ……?」 「はい」 縋るようなハウリの言葉に頷きを返すと、沈黙の帳がおりた。 ぼんやりとしたランタンの灯りが灯された少年の寝室で、ふたりは静かに見つめ合 っていた。 ――やがて。 ふたりはどちらからともなく、口づけを交わした。 それは唇と唇が軽く重なるだけの、拙い子どものキスだった。 だけどそれは疑いようのない、甘い愛の営みだった。 チェリアは陶然とハウリに身をまかせた。 あれは、いつのことだったろうか。 いつものようにチェリアが天井裏で、ハウリの身辺警護をしている時のことだった。 それは唐突に始まった。 「ん……くっ」 最初に、くぐもったような声が彼女の耳に届いた。 お加減でも悪いのだろうか?  チェリアは慌てて天井裏の覗き穴からハウリを観察し――そして赤面してしまった。 ハウリは寝台の上に腰をかけて性器を露出させていた。 そして、あろうことか――手を当てて、ぎこちなく慰めていたのだった。 「う……、。くう……っ」 チェリアには大変苦しそうに聞こえたのだが。それは紛れもない快楽の呻き声だっ た。 いつもは穏やかに話すハウリの、常ならぬ熱を帯びた声。 生まれて初めてみる男の器官に、チェリアは釘づけになってしまった。 目の前の光景が信じられない。 持ち前の潔癖が首をもたげて、思わずハウリを軽蔑しそうになって、チェリアは慌 てて自分に言い聞かせた。 『な、なによ……。ハウリ様ももうお年頃だもの。こ……このぐらい……ふ、普通 よ……っ?』 哀れにも彼女の内心の声は動揺しまくっていた。 心臓の鼓動が早鐘を打って収まらない。 夜間の護衛は、王子の気を煩わせないように秘密裏に行われている。 天井裏でチェリアが覗いているとは夢にも知らずに、彼女の見ている前で、少年は その行為に夢中になっていた。 しゅ……しゅ……しゅ…… 不器用な手つきで自らの分身を擦り、ハウリが身体を震わせる。 初めて見る男性器は不思議な形をしていた。 だけど、事前に想像していたよりもそれは愛らしくみえた。 じっと見守る。 やがて、性器を擦るハウリの手がくちゅくちゅと濡れた音を立てはじめる頃、チェ リアは己の下腹部が熱く火照るのを感じた。 無意識のうちに脚を閉じ合わせる。 その時、唐突に名を呼ばれた。 「……チェリア……ッ!」 『え……っ?』 いきなり名前を呼ばれて、チェリアは身体をびくりと震わせた。 ハウリは彼女の存在に気がついたわけではなかった。 目を閉じて、額に汗を浮かべて一心に行為に集中している。 『え……? そそそそ、それって……。今のって……一体……?』 平静ではいられなかった。 その行為の意味ぐらいは彼女でも知っている。その行為の最中に名前を呼ばれると なると……。 『えっと……それってつまり……つまり……――』 少年は彼女との性交を夢想しながら行為に及んでいたのだ。 思わず想像してしまって、チェリアはボンッと赤くなり、ポテっと床に倒れた。 恥ずかしい。これからどんな顔をしてハウリの前に姿を見せればいいのだろうか… …。 火照った頬を冷ましながら、チュリアは考え込むのだった。 その間にも、真下の部屋では事態がどんどんと進行していった。 ハウリにとって、その夜の行為が初めてだった。 だから、彼は知らなかったのだ。その行為の結末に来るものを。 強烈な快感と同時に、それは唐突にやって来た。 己の一部がまるで別の生き物のように脈動して跳ねると、ハウリは身を震わせて 声を漏らした。 「……くゥッ!?」 慌てて我慢しようとするが、とても収まらない。 ハウリは生まれて初めての放出を、自らの手のひらのなかに放ってしまっていた。 長い射精がようやくのことで収まり、荒い息を整えると、ハウリははっと我に返っ た。 気がつくと彼の寝台は手の平から溢れた体液でドロドロに汚れてしまっていた。 「ど……どうしたら……」 彼はおろおろと周囲を見回した。 王族である彼は、当然のことながら、身のまわりのことをすべてお付の者に任せ ている。 だけど、これはさすがに見られるわけにはいかない。 それは、考えただけで恥ずかしかった。 では、この汚れたベッドカバーをどうすればいいのか。 王室育ちの彼には検討もつかなかった。 彼は洗濯もしたことがないのだ。 彼はただ途方に暮れた。 一方その頃、天井裏では。 ……そういえば、最近、ハウリの視線を感じることが多くなっていた気がする。 主にお尻と胸のふくらみに。 あれは、そういうことだったのだろうか……。 チェリアがまだ考え事に耽っていた。 だが彼女は、下の部屋でハウリが困惑している気配に気がつくと、はっと我に返っ た。彼女は昔から、ハウリが困るとなぜだかすぐにわかるのだ。 今はもう平気だが、ハウリは子どもの頃、雷が苦手だった。嵐の晩になると、彼 女はいつも、怯えて泣く彼に添い寝をしてあげたものだった。 ハウリが困っているのなら、自分はそれを助ける。 それは昔から決まりきったことだった。 チェリアは覚悟を決めた。 音もなく天井裏から少年の寝室に降り立つと、彼女は内心の動揺を押し隠してハ ウリに声をかけた。 「……ハウリ様」 「チェ――チェリア!?」 唐突に彼女に声をかけられて、ハウリは面白いほどにうろたえた。 その様子で逆に、彼女は冷静になることができた。 「替えのシーツをお持ちしますので、しばらくお待ちくださいね」 「あ……う、うん」 チェリアはそっと部屋を出て、支度部屋から替えのシーツと濡れたタオルを拝借 して戻ってきた。 てきぱきとシーツを交換してから、それから――努めて。努めて動揺を表に出さ ないように気をつけて、濡れたタオルでハウリの手を清めた。そしてついでに以 下省略なところも清めてしまった。 気まずい沈黙があった。ハウリは沈黙に耐え切れずに言った。 「ずっと……見てたの……?」 「……それが勤めですので……お許しください」 チェリアはなんとか、冷静に答えることができた……と自己評価する。 清めが済むと、チェリアはまだ何か言いたそうなハウリを残して、一礼をしてそ の場を後にしたのだった。 あれかれもう一年以上が経っていた。 ハウリはそれからの間、会うたびに気まずそうにしていた。 だがそれも時間が解決してくれた。 ハウリはその後、できる限りの我慢はしているようだったが、性の衝動はこの年 頃の少年にとって、そうそう簡単に我慢できるものではなかった。 チェリアはあれから、およそ週に一度のペースでハウリのシーツを交換すること になった。 シーツを汚さない自慰の方法もあるはずだったが、ハウリにもチェリアにも、こ の方面の知識が決定的に不足していた。 唇を交わしながら、チェリアはふと、その時のことを思い出してしまっていた。 ――そう言えば、ハウリはもう十日あまり、自慰をしていない気がする。 そんなことに気がつく。 ありていにいえば、ハウリは今“すごく溜まっている”状態のはずだった。 彼女は明日には竜神の迷宮に潜る予定だ。冒険者たちともすでに約束を交わして いる。 ハウリの性について、後任の者にはもちろんきちんと言い含めてある。 彼女が見込んだ後任はきちんと役目を果たすはずだったが……。 彼女はその光景を想像してみた。自分以外の誰かが少年の後始末をするなんて、 絶対に嫌だった。 「はうりしゃ」 思わず呼びかけようとして、変な声になってしまったので、チェリアは改めて言 い直した。 「ハ――ハウリ様」 「うん……?」 「今日はその……。……なさいますか?」 それはとんでもなく抽象的な言葉だったが、意図は正確に伝わったようだった。 ハウリは真っ赤になってしまった。言ってしまったチェリアも赤くなった。 彼女は焦って続けた。 「一度迷宮に潜れば、長ければ十日以上も地上に出ないことがあると聞きます。 ですから――ですから、その、できれば、今日のうちに……あの、その……」 語尾がもにょもにょと消えてしまう。 「う……うん」 でも、ハウリにはチェリアの言いたいことはわかっていた。 言いたいことはわかっていたが、だからといっていきなり目の前でできるもので もない。 ハウリの戸惑いを察して、チェリアは言った。 「……わたしでよろしければ、お手伝いしていいですか……?」 青い瞳がハウリを見つめる。 ハウリはごくりと喉をならしてしまった。 寝台に腰をかけたハウリのズボンを、チェリアはそっと脚から抜いて傍らに畳ん だ。 滑らかな少年の脚の間で、ハウリのそれはすでにはち切れそうに硬くなっていた。 中指を二本重ねたぐらいの大きさのそれは、小さくぴくぴくと震えていた。 チェリアその分身にそっと手を被せていった。 やり方は、ハウリの自慰を見ていたので知っている。 しゅ……しゅ…… チェリアの繊手が優しくうごくと、ハウリはうめき声をあげた。 「あ……チェリア……」 気持ち良さそうなハウリの顔にチェリアの胸にも喜びがこみあげる。 金色の髪を上気した額に張り付かせて、ほんのりと目元を朱に染めて、チェリア は丹念に少年を愛撫し続けた。 「く……ッ!」 射精はいきなり訪れた。 嵩を増したハウルの分身が、狂ったように暴れながら白濁を放ち始めると、 「きゃ」 チェリアはまともに、その放出を受けてしまった。 経験のない彼女には前触れを知るなどできなかったのだ。 思い切り顔に浴びると、つん、と青臭い匂いが鼻についた。 「チェリア……大丈夫!? ごめん!」 思わず少女を穢してしまったハウリが慌てて詫びた。 「……平気です」 ここで年上である彼女が取り乱すわけにはいかない。チェリアはバクバクと鳴る 心臓の鼓動を懸命に宥めながら言った。 「えっと、その……まだ……ですよね?」 我慢に我慢を重ねる分、一度はじめるとハウリの行為は長い。 一度の自慰で最低三回は精を放つことをチェリアは知っていた。 「う……うん」 彼の放出を顔中にべったりと浴びても、少女に気を悪くした様子はない。 そのことに心から安堵しながらハウリは言った。同時に彼の心に、動物的な衝動 が荒れ狂っていった。 このまま少女を押し倒したい。そして――そして―― 入れたい。 『だ……だめだ! それは……それはダメだ! 落ち着け、冷静になれハウリ= クルルミク!』 彼は自分にカツを入れた。 「………?」 内心で葛藤するハウリをチェリアはきょとんと見上げていた。 その唇がうっすらと開いている。 ――ごくり。 少女の唇を見据えて、ハウリは唾を飲んだ。 少女は明日には彼の元を離れてしまう。 ――もう五年以上も、ずっと一緒に過ごしてきたのに。 彼を置いて。危険な罠と凶暴な男達が潜む迷宮へといってしまうのだ。 彼女の身を穢すことはできない。まだ成人も認められていない身で、そんな無責 任なことはできない。でも―― 「チェリア……」 「はい?」 彼は真っ赤になって言った。 「く……」 「………?」 「くち……」 「………??」 チェリアが不思議そうに首を傾ける。 「口でして……くれないか?」 「……え」 ようやくのことでハウリが言うと、チェリアが絶句した 「………………く……くくくくちでっ?」 今度はチェリアが真っ赤になる番だった。 慌てふためくチェリアにハウリは言った。 「……ダメ?」 「……ダメ……! じゃ、ない……です」 断りかけて彼女は思いなおした。 彼女だってワイズナーの迷宮に潜って無事でいられるとは限らないのだ。 こうして元気にしていても、明日には迷宮の片隅で無残な屍を晒している可能性 だってあった。 今、できることをしてあげたい。――悔いのないように。 チェリアはハウリの脚の間に跪いて言った。 「い……いきます……よ?」 かぷ。 「いてッ!」 「あっ……ご、ごめんなさいっ!?」 ハウリが短く悲鳴をあげると、チェリアは慌てて謝った。 泣きそうになったチェリアを懸命になだめながら、ハウリは思った。 やはりこれを口に含んでもらおうというのは間違っているのだろうか? と。 彼の本能は間違いなくそれを求めているのだったが、フェラチオという行為の名 前も知らない彼には、次第に、その行為を要求することがとても許されないこと に思えてきた。。 ハウリが尻込みした気配を感じて、チェリアは言った。 「大丈夫です……今度は任せてください――」 言いながら、少年が気を変えないうちにと、チェリアは急いでその分身を口に含 んでいった。 今度は歯をたてなかった。もともと、何をさせても呑み込みの早い彼女だ。 二度目の失敗はなかった。 「ん……ふ……ちゅ」 小さな口を懸命に開いて、口腔に含んだハウリの分身をそっと舐める。 それだけでハウリは達しそうになった。 少女の口の中をもっと感じていたくて懸命に耐える。 股間にかかる少女の鼻息がこそばゆかった。 ちゅ……ちゅ……ちゅ…… ハウリの分身を優しく包んで、チェリアの頭が三度上下した。 そこが限界だった。 「……ッ!」 ハウリはチェリアの頭を掴んで彼女を避難させるつもりだったのだが。 体は逆の方向に動いていた。 長い金髪を花のように咲かせて彼の股間に埋まっていたチェリアの頭を、ハウリ は逆にしっかりと掴んで腰に掴んで押し付けてしまった。 「ふうっ……!?」 ドク……ッ ドク……ッ ドク……ッ! ハウリの強烈な射精が口内で弾けると、チェリアは少年の分身を口に含みながら ビクリと身体をこわばらせた。だけど、逃げようとはしなかった。 チェリアは大人しく少年の放出を口の中で受け入れていった。 長い長い射精が終わって少年の分身が抜かれると、チェリアは口の中の精 を床に吐き零した。 「けほ……っ。うええ」 いかに愛する少年のものとはいえ、この味は初心な彼女に我慢できるもの ではなかった。 『うう……ひどい……』 「ちぇ……チェリア……ごめん!」 欲望を放ち終えて、正気に戻ったハウリが慌てて謝った。 その真剣な謝罪に、萎えかけた少女の心が癒される。 彼女はハウリを安心させるようににっこりと微笑んだ。 「大丈夫です。じゃあ、コツを掴んだから、続けてやっちゃいますね」 そういうとチェリアは、白濁の残滓でドロドロになったハウリの分身に唇を被せ た。 『ハウリ様の身体に汚いものなんてないんだから……』 自らに言い聞かせるようにして、チェリアは愛撫を続ける。 チェリアは本当にもうコツを掴んでおり、ハウリは今度も、長く持たなかった。 ハウリは今度もチェリアの口のなかで果てた。 行為が済み、水差しの水で口を雪ぐと、チェリアは言った。 「じゃあ、おやすみなさい……ハウリ様」 「……おやすみ、チェリア」 チェリアは天井裏に消えると、夜が明けるまで最後の勤めを果たした。 翌朝、ふたりは無言で笑みを交わしあって別れた。 言葉なんて必要ない。 次に再会した時、ふたりは一線を越えてしまうだろう。 先の見えない、身分違いの恋。 だけどチェリアには、不安はなかった。 ハウリと別れると、彼女は昼過ぎまで軽く仮眠を取った。 ぐっすりとよく眠れた。 正午には目を覚まして、冒険者の酒場を訪れた。 そこにはすでに三人の仲間たちが顔を揃えていた。 チェリアはにっこりと微笑むと、三人の冒険者に改めて自己紹介をした。 「チェリアと申します。足手まといにならないよう頑張ります。よろしくですよ」 チェリア。姓はない、ただのチェリアだ。 クルルミクに仕える密偵。十六歳。 大好物はメープルのパンとチーズケーキ。 好きな言葉は平和と鍛錬とハウリ王子。 彼女の冒険が今、始まろうとしていた。