我が名はメイズス・スリープワーカー(Maze's SleepWalker)
 龍神の迷宮に挑みし冒険者の一人、ナガレ・エタブールの朋友にして酔狂な観光客。
 手記を開かす前に初めに断らなければならない事がある。
 これから記す出来事は妾(わらわ)という第三者からの視点としての証言であるが、
 しかしどのような公文書にも記載される事は無いだろう。

 迷宮。
 分けても魔物の巣窟として生態を担う役割、人間の探究心と好奇心を満たす未踏の地としての役割を内包する地下通路。
 ことこの閉鎖空間においては驚くべきことに、見るもの全てが現実でありながら、絶えず異質な存在との接触を宿命づけられている。
 迷宮に繁殖する、あるいは異界より来訪した魔物を初めに、ありとあらゆる手を講じ侵入者を迎かえ撃たんとする魑魅魍魎。
 落とし穴、アロースリット、落盤などのありふれた小型の装置から、テレポーターや水域活用を目的とした大型装置までの敵意を潜めた罠の数々。
 その中には当然のように精神を揺さぶるような嘘のガイドや、仲間割れを誘発しかねない魔法の仕掛けまでも含まれる。
 暗黒に包まれた閉鎖空間を心細い少人数によって苦楽を越え、互いの主義主張の摩擦から生ずる疲労を如何にして管理し得ることを否応無しに強いられていく。

 特殊な執政構造を持つククルミク王国の事情を抱える龍神の迷宮においてもそれは例外などでは無く、
 ワイズマン討伐許可がおりて半月が経過した今もなお、我が眼下において様々な冒険者達を翻弄させ続けていた。
 あらゆる冒険者、それは任を全うする事で自己の理念の実現を願い歩みを進める者達、ただ持ち前の好奇心と自己の主義に基づいて在り方を定めていく者達。
 クルルミク王国、いや、龍神の迷宮におけるワイズマンの呪縛という特殊条件より発生を必然とさせた結果である若い女性ばかり探索者達。
 今や予想だにもせぬありとあらゆる障害、そして常に与え続ける幻想とも錯覚させかねない矛盾性が発する心理的翻弄が如何に彼女らに影響させるのか。
 口外こそ決して赦され無くともこうして文章に書き起こすことで、少しでも愚直なまでに勇敢な冒険心を手にしていた彼女らに近づけると、改めて信じたい。

 既に周知の通り、世界には知覚すら禁忌とされる事柄が多数存在する。
 それは光に近ければ近いほど、闇に深ければ深いほど、輝きと暗きに染まれば染まるほど、
 神々しい天罰や邪悪なる謀略へと否応無く、知覚した者を全ての抵抗を無いもののように引きずり込んでいく。
 げに恐ろしき事といえば、どちらの入り口たる境界線も我々の予想だにもせず近しい場所に存在する事だろう。
 奈落より突き出た龍の顎が存在するこのクルルミク王国にも、ハイウェイマンズギルドという闇がある。
 これも周知の通りではあるが、存在を明確に知る人間はごく一握りの者達のみ、故に噂の真偽は定かとは公にされていない。
 王国に潜み尚その存在を迷宮の暗闇へと踊らせ、日夜女冒険者達を蜘蛛の巣の如く悪意を張り巡らせ襲い掛かる者達。
 彼等は性欲の著しく高く、女性陵辱と特攻精神に抵抗を持たぬ者ばかりで構成されており、向けられる刃に構わず我先にと組み付きにかかる傾向を持つ。
 目前に突き出された若い女体という報酬こそが彼等の最大目的であり、士気高揚に直接結びついており、
 その旺盛かつ性欲に対する異常ともいえる行動力は、方向性さえ違えばこの王国よりワイズマンなどとうに排斥されているだろう。
 女性の妾が自らの駒を投じた上で言うのも可笑しな話だが、こうした陵辱劇は非常に、非常に趣向として愛い。
 故にそれはそれで都合の悪いことである。

 ここで視点を変えよう。
 風評通り言うまでも無く、最終的に女達は組織運営を兼ね調教をし終えた奴隷商人に身柄を売り渡すという行動に他ならないわけだが、
 ハイウェイマンズギルドは何故か、堕ちきった後まで陵辱し、篭絡した女性らの面倒を見るのを拒むような節がある。
 このクルルミクにおいて陵辱され売却される女子達は総じて上等の域に達していると言って過言では無く、
 その中には億を超える金貨すら運用されかねない逸材すら含まれ、惜しむ様などおくびも出さぬように使い捨ててしまう。
 それだけに手元に残さずあえて全て売り渡してしまう傾向には、ハイウェイマンズギルドのギルドとしての尊厳のような組織構造を持っているような気配すら取れる。
 クルルミク初来訪よりハイウェイマンズギルド後用達の奴隷商の競りに顔を出した妾にとって、調教済みの牝奴達の痴態の数々には感嘆を覚えずにいられぬほどであり、
 こうして筆をなぞる手とは別の腕も、ただただ興奮の熱を冷ますように己の股座へとまさぐるのを休めずにはいられないほどであった。

 実際の奴隷商の競りは、常に熱狂に包まれていると言っても過言ではない。
 だが実を言えば、これはあまり知られていないことだが、主として熱狂を煽るのは主催側によるものが多い。
 客層は主として反王制派の貴族から後宮人事を担う他国の官憲、さらにはいきすぎた酔狂趣味のお忍びまで来訪する事もある。
 落札価格から推察すればこのような面子ばかりなのは致し方がないことだ、しかしそれ故に、客任せに熱狂を煽るのは大変難しい。
 雇われた顔を知られても何の支障も無いサクラ達に野次を飛ばさせ、セックスアピールを強要させられる雌奴隷達に屈辱を与える。
 アピールを強要される女達は自分の尊厳を代償に酷い仕打ちをされぬよう、嬲り尽くされた股座をご開帳させていく。
 その段階へ至るまでの過程こそ目論見などとは露知らず、彼等は知らぬ間に自己の商品価値を知らしめてしまい、その結果から欲情や場の雰囲気を熱狂へと煽るのだ。

 もちろん商品価値を知らしめるのは充分に意味を持つ。
 強気の者は不屈故の虐待向けである商品誇示を、弱気な者は愛玩価値への商品誇示を、人外の者はその特殊性と希少価値という誇示を、
 それこそ全裸を晒す恥辱たっぷりのダンスタイムから、サクラによる陵辱実演まで幅広いイベントは落札する気すら無い妾のような者をも集め、
 最終的な落札では小さな国すら買い占められる金額が怒号と共に矢継ぎ早に上がっていくのである。
 売り飛ばされていく奴隷達、偽装され荷馬車に揺られ、声すら上げることを赦されぬ彼女らの行方は知らない。
 だがそれは貴族の玩具であり、農場の家畜であり、私怨を目論む者達の慰み者であり――といった、按配なのであろう。
 これらの事実を知ってなお公開せぬのであろう事情、ハイウェイマンズギルドという闇をも包むクルルミク王国の暗雲は、
 この数年間もの間、晴れすら与えたことが無いようであった。


 しかし、単にこれだけの知識ならば事情通の口を割らせることで充分に測れようというもの。
 これだけを書き残すには、些か壮大な前置きにしては不満たらたらというものである。
 ならばクルルミク王国が現在内包する闇は彼等だけには限らないと、妾は今ここに明示しよう。

 
 事の経緯は町の道具屋に隕石が落ちた日より数日、妾の愛い同胞たるナガレが去ったか帰ったあたりの日。
 流動的に記録を残せば、以下のような過程を行うことで目撃に至ったのだ、その時の心境を交えて話そう。
 まず最初に妾は、店の主人に咥えさせるよう要求したベーコントーストを下品に貪りながら、喧しいグレーターエルフの声を後にしていく、
 なかなかに図体のデカい娘ではあるが、時折拍子無しに見せる口調はまるで体感したような口ぶりだけあって、それなりに影がある分愛いと最近把握したところである。
 次に小柄のやや童顔交じりの吟遊詩人が露出度の高い魔術師に連行されていくのとすれ違う、
 焦り気味の吟遊詩人の鼻の下が伸びっぱなしな様といい、なかなか良い関係なのだろうのうと思ったが、
 以前目にした爆ぜんばかりの乳をした女が傍らに居ない事に名残惜しさを覚えれば、それはそれで愛いと口の端が緩んでしまう。
 続いて獣人と尻尾頭の少女らが交わす愛い愛いしい談話を横切っていく、
 以前のはしゃぎようは陰りを見せる二人、邪険な少女が追いすがる獣人を避けるように拒絶の言葉を繰り返す様は、意地の張りようが素敵なまでに愛いと言えよう。
 さらに美人局に興じるぬいぐるみ使いの悩ましい声が響く路地裏をさらに横断、
 また騙されるのやもしれぬ哀れな男どもを脇目に闊歩していくが、病者の如く揺れ歩く男どもの末路を妄想するだけで非常に愛いものを心に浮かべてしまう。
 不審な視線を此方に向けるがクルルミクの住民の敵意はいつものように心地が良く、こうして妾は愛い連中を心の日記帳に書きとめる日課をこなすわけだが。
 いよいよ懇意なるハイウェイマンギルドが誇る秘密の顎へと差掛かろうといったところにて、妾は目撃してしまったのだ。


「「「ぐへへへへへへ……」」」
 突如として路地裏に響く下卑た男共の声に、妾は足を留めた。
 妾ではないという事は百も承知である、平々凡々を装う妾にお世辞にも声を掛ける男は無いと一蹴出来るほどである。
 物陰へ身を隠すように路地裏を覗けば、鶏の雄鶏のような髪型の屈強な男どもがいずれも裸身を晒していた。
 意図も分からぬ肩部のみ装甲をまとい、棘々を誇示するように風を切ってぶらんと腰のものを垂らす様は異様。
 数にして2、3といったものでは済まない人数の、身の丈も大小とりどりのならずものは輪を囲うように一人の人物へと迫っていた。
 囲い迫るは一人の少女、青色の髪に、それより深く淵を見るような銀に満たされた瞳。
 引きつった唇と端正な顔立ちをきりりと引き締める表情は美しいなどという形容詞では物足りず、すらりと長く白い手足は健康的な肌を晒していた。
 気になるといえば普段その身につけた仰々しい装備は無く、身体を巻くようにして隠す布地のみである事。
 そう、今やその身体は男の目に触れぬ方が難しい格好だった。
 着痩せを誇示するように、普段の奇怪な装備からでは判別も出来ぬ大き目の形良い母性は隠された隙間よりおおきく毀れ、
 青く生い茂る肉饅頭の茂みは隙間風に揺れ、奥の桃色が覗くか覗けまいかとその存在だけで男を誘う事には不足無い様。
 見られているという興奮が、寄せて隠すマントの下より先端を浮き立たせる様子は興奮を誘発するように誘ってすらいた。
 邪教の敬虔な使徒アルム・ウト=ウィタル、その身は今、マント一つの裸身であった。

「ひ、ひひ……もう逃げられねえぜええ?」
「ふ、普段の気色悪ィ鎧も無ぇからな、恐れることも無ぇ……」
「おおおい、び、ビビってるんじゃねえぞ、もう丸腰なんだからなあ……」

 あきらかに腰が引けているならずもの達であったが、アルムを囲う輪は時間を経過するたびにだんだんと狭まっていく。
 当のアルムのマントを掴む手は凍えと弱弱しい力を込める鬱血に白く青ざめ、その表情も俯いたまま暗い。
 ガタ……と、背を冷たいレンガの壁面に当たれば慌てるように振り向く。
 怯えているのだ。
 そして残念なことに、この場の第三者は遮蔽に隠れじっと機会を伺う妾のみ、誰にも知られず傍観者の立場を決め込む積りの者。
 その事実を知ったが早いか、慌てる様から切羽詰められた状況とアルムが知覚した事を理解したのか。
 裸身を晒す鶏頭のならずものどもは、わっ!とその身を普段通りに襲い掛かった。
 初めはならずものに抵抗するアルムであったが、マントがびりりと引きちぎるように引き裂かれ、それを惜しむ様に追いすがってしまう。
 ここぞとばかりに生贄を抱えあげるかのごとく、ならずもの達は血走った目で裸身のアルムを覆い囲み、己を突き刺さんと構えた。
「隊長、しっっっかりふんじばりやしたぜ」
「俺たちの言うことを大人しく聞くんだぜ、そうしたら可愛がってやるからなァ」
 げひひ……と、涎を垂らすならずものどもの視線は当然アルムの裸身へと向けられる。
 口すら手でふさがれ、ぶるんと暴力的に揺れる白桃を玩び、股座の奥へと男の腰が今まさに推し進められようとしていた。
 まさに、絶体絶命。


 その時、空より雷鳴が轟いた。
 迷宮の方角である北の空より突如として、暗雲を裂くように表れた黒の塊。
 アルムの傍へと降り立つように、背後のレンガを落雷の如く破砕して降り立つ影。
 爆ぜるレンガに「うわあ!」とアルムを除いた一同が飛びあとづされば、落下の主は仰々しく唸るような声を荒げる。
 まるでそれは、魔王降臨を誇示するが如く。
『欲に染まりし伏魔殿より、只今我ら帰還せり!』
「「「な、なんだあああああああ!?」」」
 まるで亡者のようなおどろおどろしい声に、ならずもの達の声が疑問と驚愕に唱和する。
 一対の目玉をギョロリとあたりを睥睨させ、裸身の少女を庇うように降り立ったのは黒の甲冑。
 全身を闇よりなお黒く染まった甲冑は威風堂々とした態度で大地を踏みしめ、一歩の度空間が歪む様に地鳴りを立てる。
 首より、そして脚より見える部分には人間の姿形すら無く、目玉と思われた胸部のアクセサリーはなおも模様を睥睨させた。
 その姿、知る人ぞ知るアルムの鎧。 邪神の恩寵を受けし混沌の権化。
 その事実を知るが早いか、ならずもののひとりが「あ、あれは!」と一斉に指し示した。
「こ、コイツ確かこのねーちゃんが着てたヤツ!」
「で、でも確かに俺たちが壊した筈なのに・・・!」
 笑止、と。
 鎧の胸部にて存在を堂々と誇示する牛の頭蓋の如き悪魔の装飾は、まるで嗤うように顎部をカタカタと不気味に鳴らした。
 次の瞬間、堰を切ったように同口異音の響きが頭蓋へ突き落とすように、一斉に力強い声を張り上げた。
『心配無用! うぬらの欲に塗れし鎚の百や二百、我らの身体(装甲)は露程の曇りにすら値せず!』
『最早彼奴等は価値無き木偶! 強欲の限りを超えた悪鬼そのもの! 我らが神々と下僕以外に価値在る物など存在せず!』
『貴様らの行いは陵辱行為と判断す!』
「だぁからどうだってんだよ!」
 馬鹿でも理解できよう傲慢さに、憤慨からならずもの達は赤い顔を晒した。
 その内より先頭の者が無謀にも、しゃくれあげるように首をやりながらずけずけと近づいていく。
「うるせえ、何でできてるかは知らねぇが、火山にでもほうり捨てりゃあどんな魔法の品もオダブツよ!」
「やっちめええ!」
 窮地を駆けつけてきた救世主への反応は娯楽雑誌の悪役そのものである。
 震える我が手も次第に手に汗握るものへと変じてこようというもの。
 宜しい、ノってきた、執筆に執心する妾もいよいよ脱衣に至り、興奮に彩られようというものである。
 彼等の瞳はいずれも”おあずけ”を食らう欲求不満という名の虚ろな炎を焚かせ、無謀にも甲冑へ手に手に刃物を取り襲い掛かっていく。
 瞬間。
『眼部内臓高圧縮電熱波!』
 胸部装飾より放出された二条の光線が不気味な光の尾を曳いて、∞の弧を描きならずもの達の胴を貫いた。
 目視出来るほどの雷撃に包まれたならずものたちが空中で御されたように失速し、その身を路地裏の地面へとごろごろと転がった。
 ただの一撃である。
 ぶしゅう……と、灰色の排熱煙を頭蓋より噴き出せば、広がる煙は煙幕の如く漆黒の甲冑を覆い隠していく。
 その背の装甲が口を開くようにガパリと唾のような液体を撒き散らして、シュルリと数条の紐のような触手が吐き出される残像が残った。
『我ら偉大なる大神Yの名の下にて、百の教徒の亡骸より編んだ血鎖にて組まれ、百の教徒の御霊を封ぜし不屈の鎧!』
『我らいずれも百の霊魂を吸い尽くせし悪逆非道! 真なる我らの滅を欲するならば、百×百の魂魄をもって当方は応戦の用意あり!』
 漆黒の騎士より排他されし煙が路地裏の一面を多い尽くす意味をようやく悟れば、
 ならずもの達も焦りを口に一瞬で己の着衣を全て脱ぎ捨てた、ハイウェイマンズギルドご推薦肉弾甲体勢である。
「煙幕だと……馬鹿な!?」
「え、ええーい、ヤツは自律する魔道兵器だったのか!」
「応戦しろォォォーッ! 全員散開次第撃って撃って撃ち捲くれェェェッ! 女がどうなっても構わんッ!」
 あまりに奇想天外の攻撃で部下を倒された事に驚愕し、予想外の展開に声を荒げたリーダーが己の逸物をしっかりと握り締めた。
 ならず者たちが一斉に散開を始めると同時に逸物を握り締めれば、手馴れたように黒光りする己の逸物への装填律動に移る。
 自家発電に唸りを上げる先走りを確認するが早いか、左右に散開されたならずものの握った裸のマグナムを煙幕の中心へと発砲する。
 だがレンガを砕く破砕音を耳にするより早く、ならずものの隣より噴煙を掻き分けた黒き影が、ギラリと光る金の顎を光らせた!
『胸部駆動式殺人毒牙!』
「ぎゃあああああああああ!」
 断末魔と共に銃身を食いちぎった金の牙が血の軌跡を流してその身を翻した。
 驚きから発された応戦の銃弾の嵐を業風を伴うように食いちぎったばかりのならずものを盾に射線へと放り投げれば
 威風堂々と煙幕を掻き分け、後ろへ凪いだ触手のマントは路地裏の闇で出来た漆黒の騎士の如く、
 膝部にいつの間にか備わった赤い十字架を両手に掲げ、次なるならずものへと牙を剥く、
 幾条もの銃弾を突風の如く掻い潜り、野獣の如き咆哮を唸らす様は血の軌跡が相成ることで狼のような凶暴を思わせる。
「う、うわああ……で、でない、でないっ、たまがでないっ!?」
「く、くるなっ、くるなくるなくるなああああああ!」
『即時反撃用十方手裏剣!』
 焦りに焦るあまり狙いを逸らし、だだ漏れにロングレンジライフルを手にしたヤンキー風の男の銃身をすぐさま無力化、
 黒光りした裸のリボルバーカノンを手に発射不能に焦るひげ面の男へと、吸い込まれるように投擲することでこれもまた無力化させていく、
 黒ずんだ鮮血を愛しい姫に一滴たりとも迸らせぬ様、いよいよ背面より収納しきったアルムを鎧の中へと繭のように閉じ込めながら。
 だが一時の安らぎすら与える間も無く、ならずもののリーダーのダミ声が響き渡たる。
「総員主砲はっしゃよーうい!」
『警告! 敵勢力が超装甲威力の砲台を設置、その数参門!』
「往生せいやああああああああ!」
『耐陵辱白弾防御!』
 左手を顎部へ、そして右手を胸部へと掲げることで指先から発する透明の障壁が一瞬にして形成される。
 三条のマズルフラッシュと共に打ち出される白濁を両手で交差し、魔力障壁を築くことで仮初めの装甲を得る漆黒の甲冑。
 だがそれも長く持ち堪えられようものではない。
 見る見る内に艶帯びた魔力膜を白濁に染め上げんとする三問の迫撃砲にも比類するロングカノンは弾切れ知らずの如く、次々と射撃装填を続けていくのだ。
「あの鎧を熟れた雌女と見立てろ! 黒光りして艶々した熟れた雌の身体を俺達の白弾で染め上げてやれーッ!」
「フゥハハー! どうしたどうしたァ!」
「見ろよ、あんなにセクシーに染まってるぜェ、もっともっと俺達の色に染めてやれぇぇ!」
 ガラスの割れる破砕音と共に、魔力障壁が音を立てて爆ぜた。
 粘着質のプールへ染め上げられた白いぬかるみより脚も抜けず、掲げた両手装甲部もジュウジュウと溶解に煙を立てる。
 何と姑息なことにこの男達、自らの精臓器すらも卑劣な改造を施していたのだ!
『クッ、このままでは……姫に畜生にすら劣る劣等種の子種を与えてしまう!』
『万一姫に被害が及ぼうものならば、我ら神々に顔向け出来る線香も無し!』
 嗚呼、だがしかし彼等に後退など赦されるものではないのだ。
 世界の女を無残に陵辱せんとするならずものに背を向けるなど、彼等邪神装甲の主命尊守の不退転に反するに等しい。
 例え彼等の心は邪悪なれど、その不浄の魂は英霊にすら至らんとする、いずれも誇り高き邪教徒達なのだ!
『ならば我らに残された手はただ一つ、限界突破にて返礼せしめんとす!』
『顎部拘束制限解除!』
「な、なんだ……あれは何だあああ!?」
 ガキンッ! と、胸部の頭蓋骨状装飾より音が立てて開放され、白い蒸気は吐息のように頭蓋より黒い噴煙が吐き出されていく。
 最奥より開放されし門は青く暗い業火に包まれし心臓、まるで炉のようにごうごうと吹き付ける炎は、
 世界すら燃やしつくさんとする不沈の獄炎となって今!
 白熱の光へと昇華を始めるのだ!
「燃えている……真っ赤に燃えているぞッ!」
「に、逃げろ、あんなの食らったらギャグでも死んでしまうッ!」
「や、やめろ、やめてくれッ……ひ、ひいいいいいいいい!」
 ならずものが見入った光景より離れ、逃げ腰を取る頃には最早遅い。
 一目散に駆け出す彼等を悠然と見据えてなお、邪神の報復と太陽の灼熱が如き炉が、噴出す――!

『煉獄業火!』

 百の怨霊が唱和した。
 不気味に揺らめく頭蓋の口より開け放たれた地獄の炎が、路地裏を獄炎地獄へ化さんと爆発するように広がる。
 まるで竜頭の如く路地裏を縦横無尽に駆け巡る炎の本流は、容赦無くならずもの達へと業火の牙へと飲み込む!
 瞬時に骸骨へと変ずるならず者達、ごうごうと燃える炎はそれに留まらず容赦無くクルルミクの街へと燃え盛っていく!
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」」」



 ほうほうのていで逃げ出した妾が今こそ、朱に染まるクルルミクを見下ろす丘より警鐘を鳴らそう、
 現在のクルルミクこそ奈落の如き混沌の温床であることを、そしてこれが未来のクルルミクの姿であると、
 分けても、この温床の一翼を担う人物こそが邪教の敬虔な使徒たる鎧、その名も――   


//*//


 ぐりぐりぐりぐりッ!

「さあ、そのあたりで嘘はやめようか。 流布される真似はボクが窮地に陥りかねないね、メイズス?」
「あ、あだだだだだ、やめ、やめぇ、わ、妾が悪かったァッ!」
 つむじをグリグリッ! と強く押さえつけられるのは黒髪の少女。
 あうあうあ〜、などと脱力を誘う声を上げた十人前ほどの特徴の薄い魔女は、羊皮紙を前に途方も無い嘘を並べ立てていた。
 羊皮紙を手にする半人魚の少女は一通り一読すると、ビリビリとその紙を引き裂いてしまう。
「途中まで真面目に書いているのに、どうして君はそう堪え性が無いのかね」
 叱られてなお爽快な表情を浮かべ、発汗量がタイニーな体躯を滑り落ちる様を見せ付けながらなおも無い胸を張る少女。
「ふっふっふ、残念ながら今まで正常に書き終えた文章なぞ無いな!」
「うん、どうやら誇れる話ではないようだね? ではボクもお仕置きせしめんとしよう」
「や、やめれぇぇ、つむじはやめれぇ〜!」

 こうして騒がしくも妄想癖の酷い法螺吹きの暴走は、
 根も葉もない噂を流す手前で半人魚に押しとどめられたとさ。