【始まりは…】



小さな宿に4人の客が泊まっていた。

全員男性で歳は様々。

武装していたので、宿屋の主人は冒険者か傭兵だろうと思った。

ただ…異様な雰囲気を感じた。

そもそも、何もないこの辺鄙な村に何を目的で来たのか?

興味はあったが、怖くて聞けなかった。

今日は朝からずっと部屋で何か話をしている。



「その情報は本当に間違いないんですか?」

1番若い青年…いや、少年だ。

15歳前後だろうか。黒い革鎧と珍しい武器【刀】を身に着けていた。

長髪の男性に疑いの目を向けている。

「おいおい。俺様の情報を疑うのかよ?」

「貴方の情報を信じて…何回死にかけたことか!」

バン!とテーブルを叩く。

「うぐ…。」

困った表情で長髪の男性は、残りの男性2人に目で助けを求めた。

しかし、助けはなかった。

「お前が悪い。」

「真面目に仕事をしろ。」

逆に非難された。

「僕はアリスを助けたい!その為に黒騎士団を除隊しました!だから!」

刀を強く握りしめて少年は叫ぶ。

少年の名前はフィル。かつて黒騎士団に所属していた。

「分かった!分かった!」

長髪の男性はベッドに腰を下ろすと、降参といった感じで両手をあげた。

「今度の情報は…多分間違いない。」

「バルニアスの街に居るのか?」

フルプレートを身に纏った男性が聞いた。

無表情で声からも感情を感じさせない。不気味な男だった。

歳は40代後半ぐらいだろうか。

「ああ。ハイウェイマンズギルドの連中と関わっている奴隷商人がな。」

懐から紙を取り出してテーブルに広げる。

そこには男性の似顔絵が描いてあった。

「こいつの名前はゲルー。この辺りで1番の奴隷商人だ。」

長髪の男性はベッドに寝転がる。さも、あとは好きにしてくれといった感じだ。

「ありがとう、ゼル。」

フィルは礼を言って部屋から出て行く。

「お、おい!もう行くのかよ!?」

「報酬だ。」

慌てる長髪の男性…ゼルを尻目にフルプレートの男性も部屋を出て行く。

銀貨の詰った袋を投げつけて。

ガスン!

重みと勢いで、ゼルはベッドから転げ落ちた。

「て、てめぇ!待ちやがれ!ガイズ!」

「フィルもガイズも、もう行ったよ。」

右目に眼帯をしている初老の男性は、椅子からゆっくりと立ち上がり、倒れているゼルを

起こした。

「たっく!せっかちな奴らだぜ!」

憤慨するゼルを余所に、眼帯の男性は荷物をまとめ始める。

「仕方あるまい。どちらも大事な人を性奴隷として売られたのだ。」

「知ってるよ!」

「ならば、あせる気持ちも分かるだろう?」

3人分の荷物を軽々と担ぎ、部屋を出ていこうとする眼帯の男性にゼルは聞いた。

1番疑問に思っていた事を。

「何故手助けする?右目を失って引退した…最強の傭兵と云われてたアンタが。」

眼帯の男性は苦笑して答える。

「友人に頼まれてな。それから俺は最強じゃない。」

「分からねぇ。下手すると奴隷商人達や、それに関係している奴等を敵にまわすぞ!」


「2人も覚悟の上だ。お前が気にすることじゃない。」

「…ちっ!勝手にしやがれ!」

背を向けてゼルは沈黙する。

そんなゼルの背中に言葉が突き刺さる。

「俺の方が分からん。情報屋として一流だったお前が引退した理由がな。」

「…!」

振り返ったが、眼帯の男性の姿はなかった。

「けっ!死んでも知らねぇぞ!…ん?」

テーブルに手紙が置いてある。

「忘れ物かよ。なっ!黒騎士団の…団長から!?し、しかも…この内容は!?」

手紙を読んで、ゼルは驚いた。

フィルの除隊が認められていないこと。

必要があれば、いつでも黒騎士団が援軍として駆けつけること。

他にも様々なことが書いてある。ありえないことばかりが。

「ま、まじかよ…。」

絶句して呆然とゼルは、長い間立ちすくんでいた。



街に向かって歩くフィルとガイズ。

眼帯の男性は余裕で追いついた。

「バーラックさん。ゼルさんは?」

「後で来るさ。」

「はい。急ぎましょう。」

フィルは再び刀を握りしめる。刀はアリスの使っていた物だった。

親切な誰かが、情報と共に刀を黒騎士団に送ってくれた。

すぐにフィルは除隊書を提出して飛び出した。

止める仲間達の制止を振り切って。

行方不明になったアリスを探して助ける為に。

何の考えもなしに飛び出して、途方にくれていたフィルに、ガイズとバーラックが

協力してくれた。2人が何故、協力してくれるかは分からない。

バーラックはガイズが協力してくれる理由を知っているようだが…そんな事はどうでも


よかった。アリスを助けられるなら。

その後、知り合ったもと情報屋のゼルから、アリスがクルルミク王国から別の国の誰か


に買われたと知った。

ハイウェイマンズギルドに関係する者を探し出しては情報を聞きだした。

大半が力ずくであったが…。

しかし、アリスについての情報は何1つ得られなかった。

だが、フィルはあきらめなかった。

いつか助けられる事を、再会出来る事を…信じて。



フィル達の長い旅は始まったばかりだ。





続く?