レイラの一刀が右肩口を捉え

フィルの風の刃が身体を切り裂き

15の拳の衝撃が腹を貫き抜ける

「うぎゃあああ!馬鹿な、こ、こんな馬鹿な!」

"ボス・ギルドボ"は血飛沫を上げ、倒れ伏した

 

荒い息で地に膝を突き、目を血走らせた形相で一行を睨みつける

レイラ「終わりだギルドボ・・・・・・無残にも散っていった仲間の無念・・・ここで晴らさせて貰うぞ!!」

15「はぁ・・・はぁ・・・これで最期だギルドボ・・・僕達の勝ちだ!!」

「くそ、くそくそ、終わらねぇぞ、終わらねぇ!

俺様が死なない限り、幾度でも、何度でもハイウェイマンズ・ギルドは再生する!

知ってるか、この最下層への《転移》魔法は封じられてるがな、

最下層からの《転移》は自由なのよ・・・」

フィル「一体・・・何を?」

 

呪詛の様にそう呟くと、"ボス・ギルドボ"は転移魔法を唱えた

カテリーナ「あらら・・・このスペル、テレポートですねぇ」

フィル「感心してる場合じゃないですよっ!!」

レイラ「まてっ!!逃げる気か!?」

一行が阻む間もなく、"ボス・ギルドボ"の姿は掻き消えた!



*ボス・ギルドボはどこかへテレポートした*

それに合わせ、残ったならず者達もあわててわらわらと逃げ散った



15「くそ!!こっちも・・・」

レイラ「いやまて15、それより王女たちを・・・!!」

フィル「それにこの人たちもほっとけませんよ!!」

15「くっ、ここまできて・・・」


累々たるならず者達の屍の中、

嬲られていた女冒険者達は解放された

 

そして・・・

広間の中央、台座の上に、

天井から鎖で吊るされ、オブジェの様に力無くうなだれているその姿は・・・


レイラ「・・・・・・セニティ王女・・・」

フィル「ひどい・・・ここまでやるなんて・・・」

レイラ「・・・・・・早く戒めを解こう・・・」

15「おい、大丈夫かっしっかりしろ!!」

 

「私…助かった…の……?
そう…《冒険者》に…助けられたのね……
……皮肉な話…ね……」

フィル「な、何を・・・・・・」

15「そんな事はどうでもいい、はやくここから抜け出すぞ!!」

 

 

その時

 

「すみません、ほんの少しだけ、待っていただけませんか?」

 

レイラ「ハウリ・・・王子?」 


『HERO or DEVIL 〜悪魔と呼ばれた女の話〜』


1.


ワイズマン事件から半年後・・・

ハウリ王子が国を治め、治安もよくなり

廃れていた町も少しずつ繁栄を取り戻していった・・・


そして、『英雄』と呼ばれる少女はそこにいた・・・

「・・・・・・おい。

 『なんですフュンフ?』
 ・・・・・・何だこれ?
 『銅像だろ?・・・どっからどう見たって』
 いや、そうじゃなくてさ・・・何時の間に建ったんだ・・・?
 『何時の間に建てたからだろう?』
 そんなの聞いてるんじゃねぇよ」


彼女の目の前、広場の噴水のど真ん中には10m位の銅像がそびえ立っていた・・・

足元には




クルルミクを救った英雄 ガッチャマン
  国の英雄に敬意を表して

 ハウリ王子




とでかでかとネームプレートが添えつけられていた・・・


「・・・・・・壊していいか?今すぐここで・・・
 『おいおい、英雄らしくない発言だな・・・それ』
 『何を仰りますか、折角ご好意で市民の血税で建てた銅像に対して失礼ですよ?』」

誇らしげに建ってるそれを見て、頭を抱える少女・・・。

彼女の名前は15(フュンフツェーヌ)。

かつて奴隷として研究所の実験材料とされ、異形の力と十五の人格を持つ兵器として作り上げられ

そして、その外見から人々から「鋼鉄の悪魔」と畏怖された・・・

彼女はその研究所の所長であったワイズマンに復讐を果たすため、クルルミクへと冒険者としてやってきた・・・


そこで彼女を待ち受けていたのは・・・憎しみ、別れ、陵辱、絶望・・・そして掛け替えのない戦友との出会い・・・。

どれも、彼女にとって忘れられないものとなり・・・そして彼女にとって掛け替えない物となったのだ

そして・・・絶望の渕から立ち直った彼女を最期に待ち受けてたのは・・・


「もっと良い税金の有効方法があるだろう・・・大体、僕こんな話聞いてないぞ?
 『フュンフ、この銅像は貴女を英雄として称えるために建てられたものですよ?
  文句ばっかり言わないで、少しはハウリ王子と造って頂いた方々に感謝いたしなさい。』
 『まったくだ・・・少しは有り難味は無いのか有り難味は?』
 誰も好きでなった訳じゃないよ・・・・・・それに」


辺りを見回すと

バイザー、バイザー、バイザー

かつて彼女がつけていた装備に似たものをつけた剣士、騎士、魔法使いetc・・・

それらが街中を歩き、武器屋にはそれが店頭に並べられていた・・・・・・


「・・・・・・何あれ?
『バイザーだろ?お前が装備してた』
 もういいよ・・・・・・その展開は。」



よく見ると、店頭に飾られた装備の近くには



「クルルミクを救った英雄ガッチャマン、その装備レプリカ一式取り扱ってます」



と、宣伝文句が書かれていた張り紙が貼り付けてあった。

「・・・・・・何であんな格好したんだろ・・・悪夢だ、これは悪夢だ・・・・・・
 『よかったねーフュンフ?キャハハハー』
 ・・・お前等、わかってて言ってるだろ?」


ワイズマン事件後、彼女の装備に興味を持った武器商人がそれを研究し

それを模したものがクルルミクはもちろん、近隣国のグラッセンやエレギンなどでも売り出され

一躍、人気商品となったのだ。


そして『英雄 ガッチャマン』は一躍有名となる・・・本人の意思は全く無視の方向で


もっとも、その奇抜な装備が目立った所為か、彼女が『英雄』だった事は

彼女と共にした一部の冒険者とハウリ王子とその側近しかしらないのは僥倖か否か・・・それは誰にもわからない。



「・・・・・・で、なんでガッチャマンなんだ・・・?
 『俺に聞くな・・・・・・そもそもこの装備考えたのウラッドだし・・・』
『何を仰りますか、英雄たるもの栄光に溺れず、 孤独を愛し生きていくのが美学であり 美徳であるわけで・・・・(ぶつぶつ)
 『お前、本当そういうの大好きだよな・・・・・・』
 はぁ、もういいよ・・・・・・そもそも、前々から聞きたかったけど、ガッチャマンとか仮面ライダーって何だ?
 『ま、まあ・・・それは、な・・・』
シャノアールも知ってたみたいだけど・・・なあ、一体なんなんだ?
 『・・・・・・貴女と同じ英雄ですよ、別世界のね』
 別の世界?なんじゃそりゃ?意味がわかんないんだけど・・・
 『貴女が知らない世界・・・知らなくてもいい世界って意味ですよ。それよりも今は買出しの途中ですよ?』
  お、そうだった。さっさと済まさないと・・・
 『早くしないと開店時間に間に合わないぞ?』」


2.


事件後、僕はハウリ王子の計らいによって町外れで定食屋を開いている。


客足は・・・まあ、それなりって感じだ、経営も黒字がギリギリ出せるくらいの繁盛ぶりだったりする。


もっとも、働かなくても一生遊んでもおつりがくるような報奨金をもらったのだが、

これはこれで中々奥が深く、面白い。

町の人ともそれなりに仲良くやっている・・・あの事件前では考えもしなかった人生だ。


だけど・・・あの事件はやりきれない気持ちでいっぱいだ・・・。


この事件で得られた物は多かったが、失ったものもまた多かった・・・。

直接的ではないとは言え、初めて出来た友人を深く傷つけ

かつて共に戦った戦友もまた、多くを失い・・・

結局目的は果たせず、一番の戦友を失い、そしてその敵討ちも出来なかった・・・

人は僕のことを英雄というが、実際は違う

僕は・・・結局、何一つ出来なかったんだ・・・そう、何一つも・・・


だから僕は・・・




3.

モグモグ・・・モグモグ・・・

「・・・腹が減っては・・・ハグハグ・・・戦は・・・ングング・・・出来ないっすから・・・」


ドゴッ!!


「ネグギャッ!?」

「まーた人の店で、何つまみ食いしてやがるんだ貴様はっ!?」


店の中で物音がするからまさかとは思ったが・・・

またこいつか・・・人の厨房で食い漁ってたのは


「いやぁ〜お金が無くて路頭に迷ってたんッスよぉ〜エヘヘ・・・」

「・・・だからって、つまみ食いしていい理由にはならないと思うぞ・・・キャティ?」


魔道師キャティ・・・かつて僕と同じ、ワイズマン事件の冒険者で

仲間に見捨てられ、一人で探索し玄室に突っ込んだ挙句、奴隷として売り飛ばされ

色々あってその後、冒険者として色々な場所を転々と渡り歩いている・・・よく言えば豪胆、悪く言えばバカな奴だ。


で、今では何故かここに入っては、しょっちゅうつまみ食いをしている・・・


「つーかお前、魔道学校に帰ったんじゃないのか?」

「いやぁ〜あまりに学校がつまらなくって、今から東方にある、前人未到のミノタンロースの洞窟に挑戦する為に、ちょっと今腹ごしらえを・・・」

「ええ加減帰れ・・・大体、それとつまみ食いとどう関係があるんだよ・・・」

「いやー食料調達するにもお金が無くて・・・つい・・・エヘ☆」

「・・・・・・憲兵に突き出してやる」

「ちょっ、・・・英雄がか弱い乙女を苛めて何が楽しいッスかぁ〜!!」

「・・・犯罪者を突き出すのも英雄の義務だ」

「え、ちょっ、首根っこ捕まえないで・・・オニー!!悪魔ー!!」

「『鍛えてますからっ。』」

「人格でごまかすなぁー!!」


ガランッ


「・・・・・・何してるんだ、お前等?」


4.


店に入ってきたその女は、黒髪で膝まで伸びた長い髪を束ね、真っ白な騎士の鎧を身にまとい

脇には礼式用の騎士の剣、そして二本の東洋剣、そして彼女のトレードマークである眼帯を身に付けていた・・・


「ほえ?」

「レイラか・・・久しぶりだな。」

「そうだな・・・・・・2ヶ月ぶり、か?」

「だな。」


レイラ・シュヴァイツァー・・・


僕と同じワイズマン事件に参加した冒険者であり

僕と一緒に戦った仲間でもあり、掛け替えのない恩人・・・


そして、僕と同じく歴史の真実を知る者・・・


「ちょうどいい、こいつつまみ食いで捕まえたんだ・・・さっさと処刑してくれ、バッサリと。
 『そんな事したら店が汚れるぞ?』
 そっか、じゃあ外でよろしく頼む。」

「ギャー人殺しー!!鬼畜ー!!」

「・・・ふっ、相変わらずだな・・・・・・お前と居るといつも賑やかだ」

「僕は好き好んでやってるわけじゃないんだけどね・・・
 『全くです・・・特にどこぞの単細胞が・・・』
 『誰が単細胞だ!!誰が!!』
 だからお前等なぁ・・・もういい、突っこむ気にもなれん・・・」


5.

事件後、彼女はハウリ王子の側近となった・・・

周りは彼女を英雄と褒め称えるが、彼女がどういった心境だったのか僕にはわからない・・・


「まさか、アンタが騎士・・・それもあのハウリ王子の側近になるとはねぇ・・・僕はてっきり・・・
 『フュンフ・・・仮にも王国の騎士の前で、それ以上の発言は感心しませんねぇ・・・』
 おっと、流石にこの発言はまずいか。」

「・・・ふっ、私のほうこそ意外だったぞ?
 お前ほどの実力者が、よもやこんな場所で隠居生活とはな。」

「いや、別に隠居って訳じゃないんだけどな・・・」


レイラとは時折行き会っている・・・かつての戦友としての再会ももちろんそうだが

彼女との用事はもう一つある・・・


「そうだ、お前に頼まれた物を今日は持ってきた。」

そういうと書類を僕に手渡す

「すまないな・・・側近という立場を利用させてしまって。」

「気にするな、好きでやっていることだ。」


レイラから貰った資料を軽く目を通す・・・今回もあいつの名前は見つからなか・・・ん?


「んん???これって・・・奴隷商人の・・・ふぎゃっ」

覗き見をしようとするキャティに裏拳をかます、全く油断ならない奴だ。

「勝手に覗くな。レイラ、これは・・・?」

「ああ・・・どうやら今回は『当たり』だったみたいだ・・・かなり厄介だがな」

「・・・・・・。」

書類に書かれている詳細に目を通す・・・まさか、こんな所でこの名前を拝見できるとはな・・・

「そういえば・・・お前の『相棒』はどうした?さっきから姿が見えないようだが」

「ああ、あいつならそろそろ・・・」


ガダンッ!!

でかい物音を立てながら入り口の扉が開く


6.


「いやぁー今回のは流石にやばかったぜぇ」


ドスンッ!!ドスンッ!!


入り口から巨大な物体が投げ込まれる・・・体長は3mを越す熊が二頭。

それらは両方とも首の骨がへし折られ、頭があらぬ方向に曲がって事切れていた・・・恐らくそれが死因だろう。


そして、その後から傷だらけになったそいつはエヘヘと笑いながら入ってきた。


「うへぇ、あんなデカイ熊を・・・しかも二頭も」

それを見て驚愕するキャティ。

「ほう・・・腕を上げたな。」

素直に関心をするレイラ

「だから客間から持ってくるなって、何度も言ってるだろうが・・・」

そして僕はその行為に注意をした・・・全くここに持ってきたら汚れるって何度言ったら

「いやぁ〜裏口から入るとまた壊しそうで」

それを聞いてるか否か、あっけらかんな表情でへへへと男らしく笑う

「それに、こんなにどうする気だ?少しは加減しろユマ」

また、店内のメニュー熊尽くしになるぞ?

「それはもちろん、師匠に俺の強さ認めてもらいたくって!!」

駄目だ・・・全然反省してない・・・

「はぁ・・・」

僕は何度目かわからない深いため息をついた

7.


格闘家ユマ・ファルナ・・・


僕と同じワイズマン事件の冒険者のひとりで、その時は面識すらなかったのだが

色々あって付きまとわれ、戦いを挑まれ、そして今じゃ師匠と慕われている。


そして今ではうちに住み込んでは修行に出ては、熊やら龍やらぶっ倒しては持ってくる・・・


「だから師匠じゃないって何度いったら・・・」

実際、僕はユマが思ってるほど強い人間ではない・・・実際僕は・・・

「いいやっ!!俺にとってはアンタは真の師匠!!
 つまりアンタに認められることこそが俺にとっての生きがいっ!!」

やっぱり人の話を聞いてない・・・自分の世界に入り込んでる

元々こいつは素質があり、その気になれば僕なんかよりずっと強くなる・・・はずなんだが

どうも実直すぎる性格がネックらしい・・・

「・・・はぁ、で、忍者の体術はどうだ?習得できたか?」

「いやっまだまだ!!あれ位で手こずるってのはまだまだ俺の修行不足!!

 師匠みたいに華麗にできなければっ!!」

「15の忍者の体術ってあれっすか?科学忍p・・・ぐぎゃぎゃ・・・!!」

「五月蝿い、とりあえずだまっとけ。」

「おー、見事なリバースDDT、参考になるなー流石、師匠!!」

「か・・・・関心・・・しないで・・・た、助けて欲しい・・・ッス・・・・」


ユマは熱血漢で多少行過ぎる所があるが、生真面目でいい奴だ

正直、師匠とよばれるのには抵抗はあるが、この関係は悪くない・・・

そして、僕にとっても彼女は掛け替えのないパートナーだ


8.


「・・・そうだ、さっきレイラから・・・」

深夜、閉店となった店内、カウンターに座るユマにレイラから貰った書類を渡す・・・

「ん?・・・・・・師匠、もしかして・・・これ」

ユマが資料に目を通して仰天する

「僕が捜し求めていたものの一つだ・・・・・・ただ、少し厄介な事になってるみたいだ」

「んじゃ、今夜・・・」

「そうだな、なるべく早い方がいい・・・手遅れにならないうちに」

そう、手遅れにならないうちに・・・・・・

そして、僕たちは向かった・・・絶望を止めるために・・・