「あれ……?」 港町の外れで、一人ウロウロしてる少女。 『だからこっちじゃないって何度言ったら…』 「え、さっきの所右じゃ…」 『で何で左に曲がるんだよっ、この方向音痴がっ!!』 一人で漫才してるようにしか見えない、ちょっと危なげな彼女 こう見えても冒険者としては駆け出しながらそこそこの実力で その華奢な姿から想像つかない甲冑を右腕と左足に着け 悪魔のような羽根を背負ったその異形な姿からこう呼ばれていた。 彼女の名前は15、『鋼鉄の悪魔』と呼ばれた冒険者である。 『悪魔と呼ばれた女の話 〜邂逅の章〜』 1. 『ったく、これで何度目だ?お前が道間違えて余計な時間食ったの?』 『大小合わせて28回目、ククルミクに行くだけでこれで5回目ですね』 『数えとるんかい……』 彼女は別に一人漫才や独り言、ましてやヤバイ何かと交信してる訳ではない。 彼女にはとある理由で多数の人格が存在してる。 『ですが、こうも何度も道間違えられますと今後の活動に支障きたしますよ?』 この物腰丁寧な口調はウラッド、彼等の頭脳的役割を果たしている。 『只でさえ口喧しい奴とかいるんだからよ〜しっかりして欲しいぜ、全く…』 『ええ、どっかの愚純な単細胞な誰かさんよりは幾分かマシだと思いますよ?』 『誰が単細胞だ誰がっ!!』 そして『ソレ』と漫才してるのはモスード、猪突猛進を絵に描いたような性格…一言で言えばバ…単純な奴である 「……で、どうでもいいんだが」 『あ?』『なんですか?』 「人通りの多い所で出てくるなと何度言ったら判るんだ、貴様らのせいで変人扱いだぞ」 『『あ・・・』』 周りを見ると15を中心に円形の空白を作り、人が彼女を注目している ある人は小言で何かをいい、ある子供は指差しその親がそれを制し そして、繁華街だったこの通りに誰もいなくなった。 2.  『本当、すまねぇ!!まさかこいつのせいでこうなるとは思わなくってよ・・・』  『ほう・・・自分の事棚に上げて人のせいにするのが野蛮人のやり口ですか?』  『誰が野蛮人だ誰がっ!!』 誰もいなくなった市場を一人寂しく歩きながら喧嘩する15。 その姿は誰が見ても「アッチ系」の人間にしか見えない。 「お前ら・・・これで何回目だと思ってるんだ何回目だとっ!!  このせいで宿はもちろん、食料すら調達できなかったら餓死するんだぞっ餓・死!!」 二人に激しく注意する15、その姿はやっぱり「アッチ系」だ。 「『そこまでにしとけ・・・こいつらも反省してるんだ  それにこの件はお前のせいでもあるんだぞ?』」 責める15をなだめる人格はキヌス、存在する人格の中では精神年齢が高くまとめ役としてかって出てる 「『そうそう、物事は楽しくなきゃ駄目だよねーキャハッ★』」 こいつはガニー、全人格で唯一の女で一番年齢が低くマスコット的存在だ。 「ま、まあ確かに・・・元をただせばこっちが悪いんだが・・・  『そういうことだ、以後気をつけ・・・!?』  どうした、キヌス?」 一瞬キヌス人格の15の目が険しくなる。 その先には一人の少女に群がるチンピラが数名 『けっ、弱いくせに群がってまぁ』 『しかし、この状況見逃すわけにはいきませんねぇ・・・』 『同感だ』 『ねえ、助けないの〜?』 「・・・・」 3. 「ねぇ、ねぇ、こんなところで何やってるんだいお嬢ちゃん?」 「こんな人気のない所でそんな格好で歩いてるとあぶないんだぞぉ〜?」 柄の悪いチンピラ数名に囲まれてる少女。 深く帽子を被った少女のその首と腕にはあるモノを象徴するかのような装飾品が施されていた 「首輪」と「鎖のついた手枷」、「奴隷」である。 「おいおい、こいつもしかっすっと逃げ出した奴かもしんねぇなぁ?」 「ってことは『調教』済みってか?  へへへ・・・じゃあ、俺らが楽しんでもいいってことか?あん?」 一瞬びくって反応する少女。 それを逃がすまいと路地の角に追い込み囲むチンピラ 「よーし俺らが可愛がってあげまちゅから一緒に来まちょうねぇ〜」 そういってグイッっと少女の手を引っ張ろうとすると 「・・・ガブッ!!」 思いっきりその手を噛り付つき払いのける 「っ痛!?何しやがるんだ手前っ!!」 ガッ!! 噛まれた男の振ったコブシが少女に直撃する 「・・・あぅっ!?」 殴られた反動で飛ばされた衝撃で深く被ってた帽子が飛ばされる 「おい・・・こいつ・・・」 受身が取れずその場でうずくまってる少女 「うぅ・・・」 その帽子の中には黒く首元まで切り揃えた髪、そしてその頭の上には・・・・・・獣の耳が生えていた 「へへへ・・・どうやらこいつ獣人の奴隷みたいだぜ?」 獣人の奴隷は一般的に希少で、時によっては一小国家が購入できるくらいの取引もされており それも妙齢なら、そこにいるチンピラ全員が一生遊んで暮らしても余る位の法外な値段で買い取るであろう。 もちろんその一攫千金のチャンスを見逃すわけでもなく・・・ 「獣人の奴隷なら遊んだ後にそこら辺の変態貴族にうっ飛ばせば、俺ら億万長者だぜぇ?」 「まさに一石二鳥とはこの事だな・・・きゃははっ!!」 「っ!!」 気味悪く笑い飛ばしてる連中から強く打って動けない身体を這いつくばって逃げようとする少女 「おっと、逃げようったってそうはいかない・・・」 一人の男がその行く手を遮り少女を捕まえ------ 「ぜあぎゃああああああああっ!!」 られずに奇声に似た悲鳴を上げる、その捕まえようとした手は少女から逆方向・・・背中に引っ張られるような形になっていた 4. 「全く・・・賛成5じゃ多数決にならないじゃないか・・・」 15がプラーンとした男の腕をつかんでぶつくさと文句を言う・・・ 「いででででで!!お、俺の腕が腕がぁっ!?」 「騒ぐな、肩の関節をはずしただけ・・・だっ!!」 とつかんでた男をそのまま背負い投げで壁に叩きつける 「へぎゃっ!?」 男は潰されたカエルのような悲鳴を上げその場に倒れこみ、そしてのびた 「な、何だ手前はっ!?」 残りの男たちが得物を出し間合いを取る、その数6人。 「だから何度も言っているだろう・・・面倒ごとが一番・・・嫌いだってなっ!!」 一瞬で一人目の間合いの間に入り鳩尾に一撃 『ほほう・・・「賛成5」って事は貴女も入ってるって事ですかね?』 『全くだ、少しは素直になれ』 「うるさいっ!!」 崩れ落ちる男を踏み台にして二人目の頭部に廻し蹴り 「この状況で反対しても意味がないだけっだっ!!」 着地し、近くにいた三人目と四人目を裏拳でなぎ払う 四人目を倒すまでの間約10秒弱。 「・・・さて」 物凄い形相で五人目と六人目を睨みゆっくりと歩みだす・・・ 「ひぃっ!?」 男たちは戦意を削がれ、ガタガタと震えながらその場に佇む 「・・・さっさとそいつらを連れて去れ、さもなくば・・・」 歩みながらそういうと背中に帯刀してたダガーをゆっくりと手にかける 「お・・・お・・・・お、覚えてろよぉおおおおおおおお!!!」 男たちはのびた連中を無視して月並みな捨て台詞を吐いて脱兎の如く逃げ出した 「・・・たく、仲間を見捨てるとはなんて薄情な連中だ」 そういって情けなく逃亡する連中を一瞥すると少女に目をやる 「さて・・・だいじょう」 と、立ち上がろうとした少女に手を差し伸べた瞬間 「『・・・遺灰の砂漠で凱歌を歌え!!』」 「え?」 15の足元から燃え盛る火柱が立ち、そして 「のわああああああああ!!」 燃えた。 5. 「ごめん、なさい。」 「ありえない・・・絶っっっ対ありえない・・・」 裏路地で疲れ切った顔でぐったりしながら段差にただずむ 幸い火の柱は咄嗟に回避し致命傷は避けたが、衣類の一部は燃え焦げていた 『ははは・・・まさか仲間だと思われたなんて、災難でしたねぇ』 「・・・うるさい、もう絶対こんな事しない・・・もう絶対に」 折角チンピラを追っ払い助けた少女に攻撃されたとあっては報われないにもほどがある。 「本当に、ごめん、なさい」 何度も何度も深々と謝罪する少女 「・・・もういいよ・・・わざとじゃないんだ」 流石にここまでペコペコと涙目で謝る少女に文句がいえるはずも無く、やり場のない怒りと脱力感で深くため息をつく 『しかし・・・この獣人の少女・・・』 「ああ、あれは魔法だ・・・それも高位の」 魔法とは例外を除いて本来は師匠から魔法を伝授し学ぶか、魔法学校で学ぶかのどちらかである それでもここまで高位の、それも高威力を秘めた魔法を短詠唱で発動させるのは相当の年月がかかるものである 『もしかすると・・・私たちと同じかもしれませんね・・・』 「・・・」 15は俯いたまま険しい顔をしていた・・・ 6. ・・・それは今思い出しても虫唾が走るものだった。 身体の隅々まで陵辱・・・いや、その表現すら生ぬるい・・・文字通り弄繰り回される毎日・・・ 自分の身体であって自分でない感覚、それが凄く不快だった 頭に色々叩き込まれ、身体に様々な物を埋め込まれ、文字通り化け物となっていく自分の身体 そして―――――――――――――――――― ドゴッ!! 壁を力いっぱい叩きつけ陥没させる 「・・・嫌な事を思い出させるな」 『申し訳ありません、ですが彼女は・・・』 ふと少女に目をやる 見た感じはあどけなさが残っている可憐な少女という形容詞が似合う その頭には獣人の証である獣耳が生えていた が、もうひとつのシンボルである尻尾は生えてない・・・半獣なのか? そんな子が何故こんな魔法を? そんな事が15にわかるはずもなく どちらにしても、どう見てもあんな高位魔法を使うとは信じられない話だった だが、それは目の前で目撃・・・というか自分に向かって放たれている これは紛れもない事実だった 「被険体・・・か、自分と同じ・・・」 『まさか同属がいるとは夢にも思いませんでしたが、実際出くわすといい感じはしませんね・・・』 自分と同じような存在をみて複雑な心境だった。 くいくいっ 15のすそを引っ張る少女 「・・・なんだ?」 不思議なものを見てるような顔で15を見る少女 「ねえ」 「?」 不思議そうにたずねる少女 「なんで、一人で、何人も、いるの?」 「なっ!?」 7. 「ねえ、何で?」 「わ、わかるのか・・・他の存在が?」 ぽっかりと大きく口を開け唖然とする15 それに構わずコクン、とうなずく少女 以外だった、というより初めてだった 今まで独り言やら危ない何かと受信してるなど・・・ろくなことしか言われたためしがない 実際そういう風にしか見えないのだから仕方がないが 『す、凄いですね・・・彼女の賢者の力は』 『お、おう・・・よ、予想以上だぜ・・・』 思わずモスードとウラッドが表に出てくる 「あなたが、中の人たち?」 それに臆する事もなく話しかける少女 『くぅ・・・苦節50年、こうもちゃんとした人間と話が出来るとはなぁ〜  あ、俺の名前はモスード。よろしくな嬢ちゃんっ』 男らしくニヤリと笑みグッと親指を立てる。 この場合、ちゃんとした人間という表現はおかしいだろう。 そもそも先ほどもちゃんと理解してるのかすら怪しい 『50年も生きてないでしょうが全く・・・私の名前はウラッド。よろしく、獣人のお嬢さん』 モスードとは対照的に上品な笑みで挨拶するウラッド。 「お、おい・・・勝手に出てくるな・・・」 『まあいいじゃないか、こうやってちゃんと会話するのも久しぶりだしいい機会ではないか』 『そうだよーそうだよー  あ、私はガニー、んでもってさっきのはキヌス、で、君の名前は?』 「・・・・・・タン、お姉さん、は?」 『ああ、こいつは・・・』 「キヌス」 自分の自己紹介を止めるように割り込む15 「我に名前などない・・・昔も、今も・・・な」 そう、名前なんてない・・・覚えてないのだから・・・ 『・・・』 「それより、獣人の・・・それもそんな格好してるお前が何故こんな所にいるんだ?」 「道に迷っちゃって・・・それで、ここに」 おつかいか? 『で、どこにいくつもりだったんだ?』 モスードが尋ねる 「ククルミク」 『!?』 意外だった、こんなあどけない獣人の少女がククルミク・・・龍神の・・・ 「いや・・・流石にそれはないか」 「?」 『まあいいんじゃねーか?ちょうど俺らもそこに行くつもりだったんだし』 「モ、モスード!?」 『それは貴方にしては妙案ですねぇ、この際ですし一緒にご同行してはいかがでしょうか?』 『うむ、それならこの子がまた襲われる心配も少なくなるしな』 「ウラッド、キヌスまで・・・」 『旅は大勢の方が楽しいからねぇ〜キャハ♪』 「・・・お前らなぁ・・・」 本当にうんざりした様な顔で深くため息をつく 8. 「ねえ、これは、何?」 「これは岩魚の燻製だ」 「ねぇ、これは?」 「砂漠大蜥蜴の串焼き」 「ねえねえ、これは?」 「・・・・・・なあ」 「?」 「物珍しいのは判るが・・・もう少し黙って歩けないか?」 港前の繁華街で二人歩くタンと15 気を使ってるせいか、他の人格が出てこないためいつものように変な目で見られることはないが 元々静かに歩くのが好きな彼女にとって タンの引っ切り無しの質問攻めに精神的苦痛はあんま変わらなかった 「タンの事、迷惑・・・?」 タンが上目使いで目をうるうるとさせながら見つめる 「う・・・い、いや・・・別にめ、迷惑ではないぞ?うん」 15は小動物が発するようなその目に物凄く弱かった。 そんな彼女がそれに逆らう事ができるはずもなかった訳で。 『(・・・・・・ぷっ!!)』 『(・・・は、はらが・・・いてぇ・・・っ!!)』 『(お、おい・・・わ、笑うな・・・これでも本人は必死・・・ククッ!!)』 『(も、もう・・・・だめっ!!)』 声を殺して笑いをこらえる人格たち (こ、こいつら・・・) 可能だったら殺してやりたい、心から殺してやりたい・・・そんな心境だった。 「ねえ、どうしたの?」 はっと我に返る15。 「・・・なんでもない。」 頭をぼりぼりとかきながら早足で歩く15 「?」 その姿を見てタンが首をかしげる とりあえず二人分の旅するだけの食料と物資は調達できた もちろんタンにそんな知識があるわけでもなく、15が品定めをして買わせたのだが 「さて、これだけあれば大丈夫か」 ふうっ、と一息ついて空を仰ぐ 「そういえばタン・・・だったか、小腹がすいてないか?」 「・・・?」 「ちょっと待ってろ」 そういうと15はとある屋台に向かって歩き出した 「?」 そしてしばらくして 「ほら、熱いから気をつけて食べるんだぞ」 と、紙に包んだそれをタンに渡す 「何だ、ドナーケバブも知らないのか?」 ドナーケバブとは、串にさしてグリルした肉を削り半分に切った焼き立てのピタパンに野菜と一緒にはさむ この港町の名物で、ここに来る冒険者は必ずこれを食べると言われるほどの人気商品である 「こうやって頭のところから・・・」 そういうと思いっきりかぶりつく 「こうやって食べる・・・ほら、やってみろ」 タンも15の真似をして頭から小さな口でカブッ、とかぶりつく 「・・・うまいか?」 そういうとモグモグしながらこくんっ、と頷く 「そうか・・・ほら、口にケチャップがついてるぞ」 タンの口元についたソースを指で掬いそれを舐める。 「ん、ありがとう・・・」 「落ち着いて食べろ・・・それは逃げやしないさ」 それを見る15の顔からは普段の険しい顔ではなく、優しい顔になっていた 思えば元々奴隷として育った少女は世界をしらない たとえ高等な魔法が使えても、だ 今まで一人で生きていた15にとってそういう感覚はなく もし、タンにとって自分みたいな存在がいたなら・・・こういう感情があったのだろうか? そう考えると、二人で旅するのも悪くないかな・・・そう思い始めた タンにとって自分が欲しくても居なかった存在に・・・ 「(妹がいたらこういう心境なのかもしれないな・・・)」 必死にケバブをかぶりつくタンを見てそう考え始めた 9. 「ごちそう、さま」 全てを平らげ満足そうになるタン 「それはよかったな」 市場のはずれの階段に腰を下ろし休憩するタンと15 『しかし、貴女がドナーケバブなんてものをご存知とは』 『全くだ・・・流行とかそういうものは嫌いと言ってた気がするが?』 「う、うるさいっ!!たまたま見かけたから買っただけだっ!!」 『ホントかぁ〜?その割には前々からあそこをチェックしてた気がするんだけどなぁ?』 『そうそう、ここの旅行雑誌とか見てたしねぇ〜』 「・・・黙れ貴様ら。」 「・・・くすっ」 15の一人漫才を見てタンが笑う 「何がおかしい・・・?」 「・・・あ、ごめん、なさい・・・だって、あまりに、仲いいから」 「仲がいいって・・・あのなぁ・・・こっちは・・・」 「あ、ちょっと、待ってて」 「っておいっ!?」 そういうとタンは再び市場の中に駆け出した、それを追いかける15 人ごみを分けながら走り出すタンとそれを追いかける15 そしてとある屋台にタンが足を止めると何か物色し始めた 「何やってるんだタン・・・また迷子になるだろう」 「あ、あった、これ・・・」 タンが立ち止まった所、それはペンダントなどを取り扱った装飾品屋だった タンはお目当ての代物があったらしく、それを手に取る それは赤い宝石で繕った安物のピアスだった 「なんだ、欲しかった物ってピアスか?」 こくんと頷きそれを購入する 「はい、まいどあり」 「珍しいなぁ・・・タンがそういうのを好むなんて」 ゆっくりと元に居た所に歩き出す二人 「うん、どうしても、ほしかった、から・・・」 そういうとピアスの入った袋を15に渡す 「これ、お礼・・・今までの」 「え?」 「タンを、助けて、くれた、そして、おいしいもの、ごちそうして、くれた」 「タン・・・」 今までこういうことがなかった15にとってそれは新鮮な出来事だった 初めて人からもらったもの・・・値段はどうでもいい、それ自体がうれしかった 「ありがとう、タン。」 だからだろう・・・生まれて初めて素直にお礼が言えたのは 「に、似合うか?」 左耳にピアスをつけた15、もう一個はつけるとき落として馬車に引かれて破損したのはあれだが 「うん、とっても、似合う」 そういうとタンはにっこり微笑む それからしばらく話をした お互いの出生の事、15はある目的のためにククルミクに向かっているという事 タンはとある冒険者と合流するためククルミクに向かっているという事 15にとって他人とこう何気ない会話をする事その全てが新鮮だった・・・ そして日は落ち夕刻に――――――― 『おい、そろそろ船が出港する時間だぞ?』 「ああ、もうそんな時間か・・・いくぞ、タン」 そういうとゆっくりと立ち上がる15 「うん、えっと・・・」 「フュンフだ」 「え?」 「僕の名前はフュンフツェーヌ、名前はないけどそうこいつらにつけられた・・・」 そういうとタンの頭をくしゃっと撫でる 「フュンフ・・・15?」 「変わった名前だろ?でも僕はこの名前が気に入ってる。」 『フュンフ・・・』 頭を撫でながらにやりと笑う15、それは今までにない自然な笑顔だった。 「ううん・・・フュンフ、いい名前」 にっこりと微笑み返すタン 「さて、あんまのんびりしてると船に乗り遅る・・・いくぞタン」 「うん、フュンフ、行こう」 「おっと、こっから先は進ませはいねぇぜ」 「!?」 その後ろには先ほどのしたチンピラ含めて数十名の武器持った男が立ちふさがっていた 10. 「貴様ら・・・さっきの」 前方にも数十名道を塞ぐかのように立ちふさがっている 全部あわせると百人近くはいるようだ 「さっきは俺の可愛い子分が世話になったって言うじゃねぇか?」 顔に大きな傷を作った男がゆっくりと出てくる、どうやらこいつが親玉のようだ 「・・・全く、弱いからってここまで人数を集めるとは・・・余程我が恐ろしいようだな?」 それを見て臆する事もなく威圧をかける15 「へっ、貴様がそこそこ出来る奴だって事は判ってる・・・だがこの人数じゃあ流石に手に余るだろう?」 「・・・・・・」 それに無言のまま親玉を睨みつける 「だんまりかよっ!?まあいい・・・  そっちの獣人はともかく、そっちも身なりは変わってるがなかなかの上玉じゃねぇか」 「捕まえて楽しんだ後、一緒に売っちまえば俺たちまさに一石二鳥だなっ!!」 ゲハハと下品な笑いを飛ばす連中 「・・・タン」 連中に聞こえない程度の小声で話しかける 「?」 「魔法であいつらを吹き飛ばす事は出来るか?」 「うん、できるって、タンの中の賢者が言ってる」 「そうか・・・なら前の道を空けてそのまま突破する・・・周りを気にせず一目散に走り出すんだ そうしたら突き当たりを右に走ればククルミク行きの船だ、いけるな?」 こくん、と頷くタン 「フュンフは?」 「大丈夫、足止めをしながらそっちに向かう」 「うん、わかった・・・呪文再生」 そういうと構えを取るタン 「今だっ撃て!!」 「『唸れ 唸れ 風精の輪舞 巻き上げ 貫き 叩きつけよ!』」 前方に物凄い突風が巻き起こる!! 男たちは吹き飛ばされ、壁に、地面に叩きつけられる 「なっ!?魔法・・・こいつ魔術師だったかっ!?」 突然の出来事に唖然とする一味 「いけぇタンっ!!」 15がそう叱咤するとタンは15の言うとおり、まっすぐ走り出す そして15は後を追って走り−−−−−−−−− 「なっ・・・てめぇ・・・!?」 ださずに目の前の男と対峙したままだった 「・・・・さて、ここで多数決だ」 ふぅ、と深くため息を吐く15 「もうそろそろ出航時間だが、その前に目の前の連中を全員地獄に落とす・・・賛成は?」 自分でも意外な行動だった。 今まで自分のためにしか行動しなかった15にとって 誰かのために・・・それも自分を犠牲して行動するのはもちろん生まれて初めてだった 『賛成、どうもこういう連中はいけすかなくてしかたねぇ・・・』 『同じく、それに放っておくと彼女が危険ですからねぇ』 『全くだ・・・それに俺達全員虫の居所が悪いらしい』 『そうだね・・・残り60人弱、一人12〜3人交代って事で』 それに同意する四人 「・・・多数決は全員一致で賛成って事でいいな?」 そう言いながらゆっくりと前絵歩き出す15、それに連中がびくっと反応する 「な、何ごちゃごちゃ抜かしてやがるっ!?」 予想外の行動にあたふたとしだす親玉とその子分たち 構わずゆっくりと前進する 「相談さ・・・貴様を本当の地獄に送る為のな」 11. そしてそこで足を止めると、ゆっくりと右手を前に構える 「千枚刃羽・起動(タウゼンメッサー・リピード)!!」 そういうと背中の羽根が広がり黒く光を放つ!! 「な・・・こいつも魔術師!?」 「『千枚刃羽・形態魔法剣(タウゼンメッサー・モードエンハンス)!!』」 そういうと背中の羽が一振りの剣に変形した 「『魔術師ぃ〜?』」 15が剣を手に取り横一閃に振ると、炎の龍が男たちをなぎ払う!! 「ぎゃあああああああ!!!」 モスードの作り出した炎竜に巻き込まれた男たちは灰と化す 「『俺は魔法剣士、そんなひ弱な連中と一緒にするんじゃねぇよ!!』」 「ひ、ひるむなっ!!敵は魔術師なら詠唱中を狙うんだ!!それで押さえ込めるっ!!」 そして再び詠唱し始めた15に数名の男たちが襲い掛かる!! 「『だから「魔術師」じゃないといっているでしょうに・・・』」 そういうとゆっくり手を前にかざす15 一定の間合いに入り込んだ瞬間男たちの身体がコマギレに切り裂かれる!! 「『残念ですねぇ・・・発想は間違えてませんが世界には無詠唱魔法ってのがあるんですよ・・・   今の詠唱はいわば、フェイク・・・つまり罠って事です』」 にやりと笑うウラッド、その周りには切り刻まれた連中が徐々に増えていった 「くっ・・・それなら力押しで行けっ!!魔術師はそれで畳み込めぇええ!!」 さっきとなんら変わらない指示をだす親玉と懲りずに突っ込むチンピラ 「『先ほどで力押しが無駄だと判らんのか・・・』」 ため息をつきながら、今度は巨大な斧で襲い掛かった連中を真っ二つに切り裂き吹き飛ばす 「『行動が単調すぎる、指揮官がこれではたかが知れてるな・・・』」 キヌスの大斧が鼓舞し敵をなぎ倒す 「ええい!!火矢だ!!火矢を使うんだ!!この際殺したってかまわねぇっ!!」 親玉の号令の下、矢に火をつけ撃ち放つ!! 「『本当、学習能力ってないのかしら・・・?』」 が、その寸前男たちの首元から血を滝のように噴出させ崩れ落ちる 「『私、頭悪い奴って嫌い・・・さっさと死んじゃってくんない?うざいから・・・』」 両手のダガーを振り血糊を振り払うガニー その周りには百は居たであろう男どもは親玉一人除いてみんな亡骸と化した 「ひ・・・た、たったひとりなのに・・・こっちは百人は居たはずだぞ・・・なのに・・・」 「さて・・・後は貴様だけか・・・」 ゆっくりと親玉に歩み寄る15、その姿は異形のそれ――――――― 「禍々しい右腕・・・悪魔の羽根・・・ま、まさかっ・・・『鋼鉄の悪魔』!?」 「本当の地獄は見れたか・・・ならば心置きなく堕ちて逝け。」 ――――――――――――まさに悪魔だった。 12. こういう噂がある、全身に異形の鋼鉄を身にまとい悪魔のような羽根をかざし まさに多数の人間が居るよう悪鬼の如く戦いぶり、それを見たものは何かに取り憑かれたのように必ず死ぬという 「鋼鉄の悪魔」には絶対やりあうな、その姿を見たものは生きて帰れない、と 「散々な一日だったな・・・」 夜道を一人ゆっくりと歩く15、だがその顔には後悔という文字は微塵も出てなかった 『全く、結局船間に合わなかったしな・・・しかも折角貯めた「太陽光」使い切るし』 『まあ、いいじゃないですか、フュンフに素敵な友達が出来て』 『タンだっけ?あの子とまた合いたいよねーきゃはっ★』 夜道を歩く彼女の左耳はもらったイヤリングがきらりと光っている 「まあ、こういう日もあっていいさ・・・」 もう二度と会うことはないだろう、だが初めて出来た友達・・・それは心地いいものだった 出来る事ならまた逢いたい・・・出来る事ならまた一緒に・・・それを願いながら しかし、彼女はまだ知らない・・・ 後に彼女も龍神の洞窟へ挑戦する冒険者の一人であり 彼女達を待ち構える壮絶な運命を・・・まだ知らない ただ、今はこの温もりを大事にしよう・・・それだけを考えていた。 『で、どうでもいいんだが・・・』 モスードが改めて言う 『だから何で何度も何度も!!どこをどう間違えたらこんなところに行くんだよっ!!』 彼女は何もない夜の砂漠のど真ん中で叫んでいた・・・ ククルミクに到着するのはしばらく先になりそうだ EP. 時は流れ、ここは龍神の洞窟5F 15は『背徳の賢者』と呼ばれているシャノアールとPTを組んでいた 「・・・どうした、仲間のことが気がかりか?」 15に語りかけるシャノ 先ほどPTメンバーであるグレイスがならず者に拉致され残されたメンバーも満身創痍の状態だった。 「別に・・・」 それに感心せず深く負った傷を軽く応急手当をする15 構わず語りかけるシャノアール 「それとも・・・昨日逢った獣人の少女に何か思い入れがあるのかな?」 一瞬手が止まる15。 昨日、同じ洞窟を探索するPTの中に獣人の少女・・・タンはそこに居た 彼女は何かを思いつめたように俯いていた 恐らく、先日ギルドに売り飛ばされた一人の冒険者のことだろうか 彼女はそれで頭がいっぱいだった だが、シャノはそれに追い討ちをかける一言 「お友達は今頃、名も知らぬ男の上で腰を振っているだろうな」 その一言を言われたタンの表情・・・それは今でも鮮明に焼きついてる 「ああなるほど・・・先ほどから私に冷たい態度をとるのはその為かな?」 全てを見透かしたように語り掛けるシャノアール それは同じPTというより敵対してる・・・そんな空気だった 「・・・何が言いたい?」 鋭い眼光でシャノを睨みつける15 「さぁな」 それに臆すことなく邪悪な笑みを返し背を向けるシャノ。 「ちょ、ちょっとこんな状況でけんかしてる場合じゃないでしょうっ!!」 この険悪な空気に耐えられずメンバーの一人、ティーチがそれを制し、なだめる。 「・・・そうだな用が済んだらさっさと発つぞ」 そういうとそれを構わず歩き出すシャノ 「・・・立てる、15?」 麻痺で身体がおもうように動かないティーチが15に手を差し伸べる 「大丈夫だ、応急処置は済んだ・・・それより自分の身体を気にするんだな」 ティーチの差し出した手を振り払い、何事もなかったかのように立ち上がりゆっくりと歩き出す15、それを追いかけるティーチ そして先に発ったシャノの隣に追いつくと 「おい、背徳の賢者」 「?何だ・・・」 「さっきの件だがな・・・」 「?」 「貴様のような奴は一番嫌いでね・・・その顔を見てると虫唾が走る」 ニヤリと笑う15 「奇遇だな・・・私もだ」 シャノもニヤリと笑い返す 「あちゃぁ・・・まったくそういう状況じゃないって言うのに」 それを見てあきれるティーチ そしてPTは洞窟の奥へ消えていった・・・ 深い深い闇の中へ・・・