クルルミク領内、とある街にて。 奇抜な格好をした人影と、逆にシンプルすぎる格好をした人影がなにやら相談していた。 「――と、いう訳だ。今回は、あの屋敷にいる女たちを救出する」 路地に隠れ、広大な庭を持つ屋敷を指差して、奇抜な人影はいう。 「つまり、あそこで大暴れすればいいってことですね。簡単です」 それに対する、シンプルな方の答え。 「……お前、人の話を聞いてないだろう。ユマ」 「えーっ? そんなことないですよ。師匠こそ、もっと真面目にやらなきゃ駄目ですよ」 「だから、誰が師匠だ、誰が」 師匠と呼ばれた人物――15(フュンフツェーヌ)は、複雑そうな表情を浮かべて、溜息をついた。 (どうしてこうなったんだろうなー……) 思うが、答えは出てこない。 目を付けられたのが運の尽き、とでもいうしかないか。 その目の前で、ユマは掛け声を出しながらストレッチをしている。 まるで、そうまるで今から”運動”をしにいくような、そんな気軽さだ。 「でもよ、大暴れってのはあながち間違いでもねーだろ?」 「きゃははっ♪ 楽しくいこーよ、楽しく。それがイッチバーン♪」 不意に、15の口から声音の違う二つの言葉が漏れて出た。 「やかましい。お前たちの出番は今回もないぞ」 「んなことゆーなよ、ケチくせー」 「楽しませてくれるんじゃなかったのー?」 「某らの手助けがいらぬとならば、随分と成長したものだな」 さらにもう一つの声音が混じったそれらは、口々(?)に15を非難する。 「だから出てくんな。ややこしいから」 諦めと怒気の混ざった声で呟くと、それ以降15の口から違う声は発せられなくなった。 再び、溜息。 「またですか、師匠の一人口げんか」 ユマがその様子を見つつ、何気ない様子で呟いた。 「またとかゆーな。あと、どやかましい」 「んー。ま、いいですけど」 15のイラついた声も気にせず、ユマはストレッチを再開させた。 (どうして、周りにはこうマイペースな連中しかいないんだ?) 心の中でそう自問しながら、15も武具の具合を確認し始めた。 最初は、ほんの気まぐれといえばそうだったのかもしれない。 ワイズマンのこと件を解決したあと、英雄という立場に嫌気がさした……ような気もする。 とりあえず一時クルルミクを離れよう、そう思った時、脳裏に浮かんだのは迷宮で行方知れずになり、人知れず売り飛ばされていった冒険者たちのことだった。 15には、幼い頃売り飛ばされて酷い目にあった記憶がある。 この名前も、姿も、すべてその時の後遺症のようなものだ。 まさか自分のような運命を辿る者もそういないだろう、とは思ったが、それなりに過酷な運命を強いられるのは間違いないだろう。 噂では、国外に売り飛ばされた者もいるらしい。 ――助けよう。 それは自分の考えだったか、それとも”自分の中にいる第三者”の考えだったのか。 今となっては分からない。 唯一つ、それを元に今自分が行動しているのだけはこと実だった。 情報屋からそれらしい情報を買い、疑わしい人物の屋敷に乗り込み、女たちを救出する。 それらに、別に他意がある訳ではないし、名誉とかそういうのも気にしない。 まさに、”やりたいからやる”という原始の欲求に従っているまでだ。 もっとも、売り飛ばされた冒険者たちとはまだ一度もめぐり合えてないが。 そうこうしている内、どういう因果かユマに決闘を申し付けられ、それを下し。 いつの間にかまとわり付かれる様になっていた。 師匠と呼ばれて。 「いや、そもそも職業が違うし」 「なにいってるんですか。師匠は師匠ですよ!」 何度かそう言い含めようとしたものの、そんな感じで言い切られてしまって、説得はいまだ出来ていない。 なんだか、認めたくないがこのままズルズルといってしまいそうな気がする。 最近、諦めとともにそう感じるようになってきた、15であった。 「ナニモンだてめ――ぐぁっ」 誰何をしている間に、吹き飛ばされる男。 「ナニモン? ……通りすがりの、忍者だっ」 「「通りすがるかっ!?」」 姿勢を低く、吹き飛ばした格好のままそう告げる15に、周囲から同時にツッコんだ。 だが、その瞬間ですら命取りとなる。 「しゅ――っ」 すばやい踏み込みで、控えていたユマが一人の男の懐に入ると。 ずどん なにかを打ち出すかの様な音を響かせ、男が吹っ飛ぶ。 一直線に、者とか物を巻き込みながら。 「ついでにその弟子、参上っ」 「……あー、いいから。ユマはあっちな。僕はこっちに行く」 声を掛けながら、2、3人昏倒させつつ15が指示する。 「了解です。ではっ」 目に入る男たち全てを殴り倒しながら、ユマが通路の向こう側へと消えていく。 それを視界の隅に捕らえつつ、15も一人、また一人と的確に倒しながら先へと進む。 15の戦い方は非常に”わかりにくい”。 手に獲物は持っているが、いくらなんでもそれをただ振っただけでは大の大人を吹き飛ばせるほどの威力は出せない。 ではどうするか。 答えは”回転”である。 しかもただ回るだけではなく、上下に。 例えば、殴りかかってきた手をかいくぐり、半転しつつしゃがみこみ……腰に溜めを作ってから伸び上がりつつ身体を捻り、体重の乗った攻撃を鳩尾に叩き込む。 吹き飛んだ男のさらに上を飛び越えながら、空中で前転を2度3度行い、遠心力の掛かった踵を次の男の頭に叩き込み、昏倒させて。 着地はジャンプの勢いを殺さずにそのまま前転、ジャックナイフで伸び上がりながら、横に身体をねじりつつ両足で別の男の胴を蹴り飛ばす。 一度勢いをつけたらそれを殺さず、むしろ増加させて次から次へと襲い掛かる。 これが、体格的に不利になることが多い15の生み出した戦闘スタイル。 真似をしろといわれ、出来る人間はそうはいないだろう。 そして見たことがない攻撃に、初見で対処出来る人間はそういるはずもなく。 「ぎゃっ」 「ぐえっ」 「へぶしっ」 男たちはなす術もなく、一撃で倒されていく。 ちなみに。 「おらおらおらーっ!」 ユマは、単純に力で吹き飛ばすスタイルだった。 細い身体のどこにこんな力が。 そう思わずにはいられない、重い一撃。 素早く、格好と同じ奇妙な戦いをする15と。 見かけ以上の腕力で叩きのめすユマと。 それらに蹂躙されていく男たちは、大抵「馬鹿な」と思いながら、意識を失っていった。 「……あらかた、カタがついたかな」 汗をほとんどかいていないが、なんとなしに顎を手の甲で拭いつつ15が呟いた。 少なくとも、視界に動く男の姿はない。 「で。ここが……」 15の前には、重厚な作りの扉があった。 情報では、この奥に女たちが閉じ込められている、らしい。 不確定な話だが、別にそれは今日に始まった訳ではない。 ハイウェイマンズギルドは、それほどまでに完璧な販売網を持っていたということだ。 そんなハイウェイマンズギルドを壊滅させたのが、ここにいる15だったりするのだが。 ギィィィ…… 重々しい音を響かせ、扉が開く。 すぐに咽るような、独特の臭いが流れ出してくる。 どうやら”当たり”のようだ。 「……誰か、いないか?」 慎重に歩を進めながら、部屋の中を見渡す。 臭いからして、ここで女たちが辱められていたのはこと実だろう。 しかし、誰もいない。 遅かったか、そう15が諦めかけた時。 「……誰?」 部屋の片隅から、弱弱しい女の声がした。 「助けに来た。ここには、あんただけか?」 名を告げずに目的だけ告げる。 見ると、襤褸切れのような衣服を身にまとった娘が、身を抱きしめるようにして隅で縮こまっていた。 「助かる……の?」 呆然とした顔で呟いた娘は、だが立ち上がる気力もないようだった。 格好からして、かなり手酷く辱められたのだろう。 「ああ、助かる。で、ほかに娘たちはいないのか?」 話しかけながら15が近づく。 他に罠がないか、目を光らせながら。 「他の娘たち……は、少し前に連れて行かれた……どこにいるかは、分からない」 「……ちょっと遅かった、か。まあ、いい。あんただけでも助けられるなら」 少し残念そうに、だがちょっとは安心したように。 呟きながら、15が娘を立ち上がらせようと手を伸ばす。 その手を、娘が掴み――。 「いいや、助からないね」 「!?」 しまった、と思った時には遅かった。 15の全身を、雷のような衝撃が走り抜ける。 「う、あ、あ……っ!!」 衝撃が収まると、15はその場に倒れ伏した。 指先すら、動かすことが出来ない。 「噂で聞いてたけど、案外あっけないもんだなぁ」 娘が立ち上がり、男の声で吐き捨てた。 その姿が歪み……すぐに、別の姿へと変わる。 掴んでいた15の手を離し、隠し持っていた道具を見せびらかす。 「護身用のアイテムだ。知ってるだろ? 触れた相手を痺れさせる、いたって簡単な代物だ」 憎々しげに15の目が男を睨むが、それだけだ。 まだ、身体の自由は戻らない。 「最近、俺たちのような連中を荒らしてるヤツらがいるってね。念の為に女たちを移して、ここで罠を張っていた訳さ。もっとも、掛かるとは思わなかったが……ね!」 「っ!!」 物を蹴り飛ばすように、男が15の腹を蹴り上げる。 軽い15の身体は吹き飛び、転がっていった。 「まったく、はた迷惑な話だ、よっ!」 のたうつことすら出来ない15の腹を何度も踏みつけ、叫ぶ。 踏まれるたびに、口からくぐもった悲鳴を漏らすが、足を止めることも逃げることも不可能。 「ふ……ぐ、ぅ……っ」 弛緩した身体が、蹴りつけられる衝撃で失禁するのを感じたが、それを止めることすら出来なかった。 「はっ。こんなにされて感じたのか? お漏らしたぁ……変態だな」 床が15のモノで濡れたのを見て、男が呟く。 「ま……売れりゃ問題ないから、どうでもいいがな」 ズボンを下ろし、肉棒を取り出す。 15を嬲っているうちに興奮してきたのか、既に硬く反り返っていた。 「やめ……ろ……」 弱弱しい抗議は聞き入れられず、男は15の服を破くと上から圧し掛かる。 「準備なんて、いらねーよな? もっとも、んなことしてやる気なんてさらさらないけどよ……っ」 「……っ! う、あ……あぁ……っ」 受け入れる準備の出来ていない身体が痛みを訴える。 何度経験しても、この瞬間だけは慣れない。 「初めてじゃなさそうだな、ええ? あれか、同情で女たちを救いたいとか、そんなクチか」 腰を振りながら男が問う。 弛緩したままの15の身体は、男が突くたび、糸の切れた人形のように暴れる。 (……う、あ、やだ、やだ、やだ……! こんなの、もう、やだ……!!) 記憶が蘇る。 まだ10にもなってない時の、暗く、苦しい思い出。 何人もの男に犯され、最後は切り刻まれ……。 (助けてよ、助けて……誰か、誰か……!) あの時もそう思った。 だが、助けはなかった。 だから己は一度死に……そして、いくつもの命を与えられて蘇った。 「ん、あ……はぁ……ん♪ もっとぉ……」 甘ったるい声が、15の口から漏れる。 (って、なにしてる!?) あわてて15本体の意識がそう叫ぶが、声にならない。 (へっ。俺たちの力がいらないとかいうから黙ってたら、こんなことになりやがって) う、と言葉に詰まる15。 「もっと、もっとぉ……♪」 男の動きに、腰を合わせようとする。 「なんだぁ、こいつ。やっぱ変態だったのか」 豹変した15の態度に驚きつつも、すぐに気を取り直して腰を動かす男。 腟内は愛液で濡れ、格段に動きやすくなっている。 (って、お前らっ。こんなことしてる場合じゃ……) まだ15の意識は表に出てこない。 否、出てこれない。 (知るかよ、んなこと。これはてめーが招いた結果だろ? だったら、受け入れろよ。嫌がってるから、俺たちが出てきたんだろうがよぉ) (そうだけど……でも、この状況はやばいって!) 15の必死の説得に、他の意識は賛同しない。 「あ、あ、あっ♪ そこ、いひ……っ♪ 感じちゃうぅぅ……っ」 舌を垂らしてよがる15の姿に、いつしか男も一心不乱に腰を振っていた。 その声に、意識を取り戻したほかの男たちがやってくる。 「あはぁ……♪ みんなで、楽しもうよぉ……気持ちいーこと、しよ……♪」 ようやく自由を取り戻し始めた15の身体は、本人の意思とはまったく関係なく、男たちへと手を伸ばしていった。 「あんっ、そ、そこ……深く、て……んっ、ぷ、あふぅ……っ♪ んぶ、ん……ちゅぷ……っ」 男の上で腰を振りながら、別の男のモノを咥える。 脇に立つ男のモノを手で扱きながら、また別の男のにも手を伸ばす。 15は既に全裸になり、その身体に精を浴びていた。 空いていた尻穴にも別の男が挿入し、犯し始める。 「んぅー……っ♪ んはぁ……っ、お尻、もぉ……感じるのぉぉ……♪」 嬌声を上げ、悶える。 (……だ、か、ら! こんなことしてる場合じゃ……って、聞けぇぇぇっ!!) 本人の意思は、どうしても身体の主導権を取ることが出来なかった。 こんなことは初めてであり、どうすればよいのか分からない。 今までは、他の意識が手加減していたということなのか。 また一人、男が果てて15の髪に精液を撒き散らす。 全身どこでも、といった様子で、15は感極まった表情を浮かべてさらに快感を貪ろうと身体を動かしていった。 この状況はやばい。 ミイラ取りがミイラに、といった諺もあるが、まさにそうなりかねない。 だが、15の危機感はそこだけではなかった。 自分だけならいい。 でも今ここには、もう一人……。 「師匠! お前ら、師匠になにしてやがるーっ!!」 (最悪だ……っ) もし身体が自由に動けば、15は頭を抱えたに違いない。 いつまでも合流しない15を心配したユマがやってきてしまったのだ。 男たちは一瞬怯んだものの、すぐに持っていたナイフを15の喉に突きつける。 「な……卑怯なヤツらめ!」 「卑怯で結構。どうする、こいつの命が惜しくないのか?」 陳腐なやり取りが広げられるが、15の身体はそんな合間にも腰を振っていた。 「……ぉ」 15の下にいた男が果てる。 中に吐き出される精液に、15の身体が悦びに震えた。 「殺されたくなかったら、分かってるよな?」 男のこの一言に、ユマは無抵抗で捕らわれることになった。 「い、ぎ、あ、が……ぁぁああああああっ!!」 ユマの断末魔に近い悲鳴が部屋に木霊する。 細いユマの身体を男が押し倒し、股間についた太いモノがユマの身体を貫いていた。 破瓜の血をまとわりつかせたそれは、容赦なく挿入を繰り返す。 「いぎっ、ぐっ、あぐぅぅ……、ぬ、抜け……あ、んぅあぁぁぁ……っ!?」 後ろ手に縛られた手は解くことも出来ず、ただ蹂躙される。 男女の経験が皆無のユマにとって、殺されるよりもつらい行為だろう。 「あんまり、可愛げのない声だすなよなぁ」 男の一人が、髪の毛を強く引っ張り自分の方を向かせた。 「あ、んが……は、はふ…………っ」 そうしてユマの顎の骨を強く掴んで固定させ……開いたままの口にモノを捻じ込み、喉まで届かせた。 「……ーっ!? んぐ、んっ、んんんっ! んーっ!!?」 息が詰まり、目を白黒させる。 空気を吸おうと喉が収縮を繰り返すが、完全に塞がれていては呼吸は出来ない。 「これがいいんだよなぁ。下手に突っ込むより、こっちのがいいくらいだぜ」 ユマの喉を犯しながら、男が言う。 「んーっ!! ん……ひゅはっ!? は、はーっ、は……っぐ!? んぐっ、んぅぅぅ……!」 時折隙間を空け、息を吸わせながら、喉の動きを楽しむ。 「おお……息が詰まると、こっちも……締まるな」 ユマを犯している男が呟き、さらに激しく動いていく。 「俺もそろそろ……」 喉を塞ぐだけでは飽きてきたのか、顎を固定したまま男が腰を振り始めた。 口から喉まで、深く貫いていく。 抱えあげられたユマの足が、その度に跳ね上がるが男は気にしない。 「それじゃ……中に出してやるぜぇ……っ」 「こっちも、たっぷり飲ませてやるからなぁ……」 「んぐーっ!! ん、んぐ、んー……っ」 くぐもったユマの悲鳴……抗議も虚しく、男たちはそれぞれユマの中へと精液を吐き出した。 むせ返りながら、無理矢理に精液を飲まされ、中へと注がれていく。 たった一回でユマの意識は吹き飛びそうになったが、これはまだ始まりでしかなかった。 (くぅ……ユマァ……ッ!) 意識の中で、15が吼える。 視界の片隅では、男の上で強引に腰を振らされ、口でモノを扱くよう強制されているユマの姿が映っていた。 助けたい。 そう思うが、己の身体は快楽を追い求めているだけで、動かすことも出来ない。 それは自分の意識ではないが、それだからこそ歯痒かった。 別の男が、ユマの長い髪を巻きつけて扱くのが見える。 嫌がるユマの顔に、精液を浴びせる男がいる。 ほんの僅かな間に、ユマも全身が精液にまみれ、汚れていた。 (あーあ。ちょっとあれは計算外だったなぁ) 悪びれる様子もなく、別の意識が呟いた。 (最初から、分かっていただろ! 畜生……っ) 叫ぶが、なにも出来ない。 動けたからといってなにが出来る訳ではないが、少なくともこの状況は回避出来たに違いない。 ユマを巻き込ませるようなことにはならなかったはずだ。 (でもよー。お前あいつのことウザがってたじゃん。いいんじゃね?) (よく……あるかよっ! 僕の知らないところで誰がどうなっても関係ないけど、目の前でさせるなんて……!) 己の身体が恨めしいと、この時ほど思ったことはない。 いや、そもそも”今ここで生きているということ”自体がおこがましいのだ。 だからこそ、この状況は許せるはずもない。 (ま……しょうがねーじゃん? 時には割り切りも必要だしなー。でないと、死ぬぜ?) 気軽に放たれたその言葉に、15は頭の中がすぅっと冷えていくのを感じた。 (僕が死んでユマが助かるなら、こんな命安いモノさ) 冷め切った声。 (……おいおい、本気じゃねーだろうな? お前が死ぬってことは、俺たちも……) 15の気迫に、別の意識がたじろぐ。 (本気に決まっているだろ。”僕たち”はあの日、あそこで、死んでいたんだ。今ここにいるのは……残りかすの集合体でしかない) (……せめて、運よく生き延びたっていわねーか? お前も無駄に死ななくて良かったんだしさ) びくりと15の身体が一瞬止まる。 それはほんの僅かな時間で、男たちは誰も気に止めなかったが。 (運よく? 本当に、運がよかったのか? ”僕たち”は、こんな寄せ集めの身体で……魂で。これからも、この先も…………!) (生きてるってことを謳歌しようぜ? あの時、他の連中はどうなったよ。思い出せ、××××) 別の意識が名前を呼ぶ。 15ではなく、かつて、自身に付けられ、そう呼ばれていた……懐かしい名を。 (……忘れるものかよ。あの子たちの犠牲の上に、今、”僕たち”は――) 「……ここに、いるんだぁぁっ!!」 叫ぶと同時、身体の自由が戻っていることに気づく。 犯され、何度も果てた身体は疲れきっていたが……動けないほどではない。 「なんだぁ……へぶっ!?」 15の手に握らせていた男が間の抜けた声を上げ、直後、断末魔の悲鳴を上げてのたうちまわる。 怯む男たち。 「これ以上、好きに……させるか…………っ」 息の上がった身体に鞭を打ち、男たちの囲いの中真上に飛び上がる。 それを呆然と見送った直後、素早く身体を翻した15の踵が男たちの顎を打ち抜き、全員がくず折れた。 下から突き上げていた男は、体重を乗せた15の踏みつけを鳩尾に食らい、悶絶する。 「て……てめえ……っ」 「し……しょ…………」 いきり立つ男たちと、ぼろぼろになったユマが15を見て声を上げる。 「ごめんな、ユマ。……出来る限り、僕が責任を取るっ」 素早く駆け寄り、殴りかかる……と見せかけ地面を一回転。 15を見失いうろたえる男の足を払って転倒させると、金的を踏みつけて次の獲物へ。 別の男がすくい上げるように蹴ろうとした足を避けると、その足に絡みつくようにして抱きつき……。 「ぎ、あああああっ!?」 思いっきり全身で回転する。 鈍い音が響き、絶叫とともに足の持ち主は床へと倒れる。 その足は太ももの付け根から捻れ、ありえない方向に曲がっていた。 (次……!) いつの間に用意したのか、剣で斬り付けてくる男を避けてその脇にいた方へ向かい、殴りかかってくる手を掻い潜り「階段を上るかのように」全身を蹴りつけ、最後に頭を蹴ってバク宙。 寸前まで15がいた空間を剣が通り過ぎ、攻撃が外れてよろめいた男の首の裏を全力で蹴る。 「あが……っ」 白目を剥き、全身蹴られた男とだんごになって吹き飛ぶ。 「そこまでだ」 着地した瞬間、そんな声が投げかけられる。 振り向くと、逃げる気力すらなかったのか、ユマが首筋にナイフを押し当てられ拘束されていた。 ナイフを突きつけているのは、15を捕らえた首領格の男。 (……また同じ手、か) 頭のどこか、冷静な部分がそう考える。 「まったく……手間を掛けさせやがって。これ以上暴れるっつーなら、この女……勿体ないが、命はないとお」 そこまでいったところで、不自然に男の言葉が止まる。 「な……に?」 15が目を見開く。 気がつけば、眉間に投げナイフが突き刺さっていたのだ。 (いったい誰が) そう思う間も惜しみ、素早く駆け寄ると倒れ掛かるユマの身体を抱きしめて全力で後退。 入れ違うかのように、いくつもの銀閃が空間を切り裂き、男たちを次々と無力化していく。 「まったく……なにをしているんだ、貴様は」 扉の方から、呆れた声がする。 その声はよく知っていた。 「まさか……レイラ?」 「ほかに誰がいる」 わざと15の頭を掠るかのようにナイフを投げると、後ろから襲い掛かろうとしていた男が喉を貫かれて倒れた。 「助けに……きて……」 「勘違いするなよ?」 15の問いを否定すると、レイラは指を鳴らす。 「がうっ」 その音に、どこに控えていたのか体躯のいい狼が飛び出して、男たちを襲っていく。 「わ、や、やめ……っ」 「ひ、ひぃぃ……っ」 逃げ惑う男たち。 しかし狼は容赦なく足を噛み背を引っかき、無力化していく。 「あれは?」 狼の活躍をみながら、15が問う。 「縁があってな、預かることになった。……どこかの誰かとは違い、忠実に動いてくれる」 面と向かって皮肉られ、なにも言い返せない。 「と、とにかく助かった。ありが」 ばき 感謝の言葉を言い終える前に、15はレイラに殴り飛ばされていた。 「勘違いするな、といったはずだ。それとも、貴様の脳はそれすらも理解出来ないほど劣化しているのか。ん?」 倒れる15の頭を踏みつけ、上から言い放つ。 「ちょ、レ……レイラさん? あの……」 「口ごたえをするな。それと、ついでに教えておいてやろう。私は今とても機嫌が悪い」 それを察しているのか、男たちを鎮圧した狼は壁際で耳の裏を引っかき、あくびをして寝そべってしまった。 さわらぬ神に……というヤツか。 ぐり 「ひぐ」 「大体だ。貴様ここでなにをしている。ああ、答えなくてもいいぞ。大まかには把握しているからな」 ぐ、ぐぐぐ 「か、顔……つぶ……れ……っ」 「挙句、人様の手を煩わせるようなことをしでかして……貴様には、少しくらい遠慮する気持ちとかはないのか」 ぐり、ぐり……っ 「が……あ、あが……っ」 「あるハズがないよなぁ。こんな馬鹿げたことをするくらいだ、さも己の行動に酔っていたに違いない。うむ、まさにその通りだな」 「え、あ、や、待って、ちょ、それ、ひ、ん、くあ……っ」 自己完結をすると、レイラは暫く足元の15をいたぶり続けた。 開放されたとき、15の顔がどうなっていたのか……あえて伝える必要はないだろう。 「とりあえず、私はこいつらを連れて王城へと戻る。別件でも問いただしたいことがあるからな」 「う、うん。分かった、後は任せる」 びくびくと、まるでしかりつけられた子犬のような仕草で15は頷いた。 その後ろでは、毛布に包まったユマがすやすやと寝息を立てている。 (気休めかも知れないが、こいつを飲ませて休ませるといい。完全にとは言わないが、体調はそれなりに回復するだろう) そういって、疲弊しきっているユマにレイラは薬を飲ませていた。 どこぞの賢者が試験的に作成した霊薬らしい。 効果を聞いて安心した様子の15を見、レイラは嘆息まじりに言い放つ。 「貴様が聞くかどうかはしらんが、敢えていおう。下らないことはやめろ」 下らないこと。 今までの自分の行為を否定され、一瞬頭に血が上るが……しかし15はそれを抑えた。 「……ほう、よく自制したな。少しは成長しているのか」 「茶化すな。なんでそんなことをいう」 珍しく褒めたレイラに、15は食ってかかる。 掴みかかりかねない勢いだ。 「下らないことは下らないことだ。大体、お前のその行為でどれほどの者が助かる? 次もお前たちが無事でいられる保証はあるのか?」 「それは……」 確かに、今までいくつか同じようなことをしてきたが、助けられたのは10人にも満たない。 また、次にも同じような目にあわないとも限らない。 その時に、都合よく助けが来るということは、恐らく皆無だろう。 「貴様がやっているのはな、15。自己満足というヤツだ。確かに助かってるのもいるだろう。だが、貴様がそうやって暴れることで、より救われにくくなっているのもいる。違うか?」 「…………」 否定出来ない。 今回助け損ねた女たちは、どこに行ったか結局は不明のままだった。 これに関してはレイラにも落ち度がないとは言い切れないが、主だった原因は15にあるといっても過言ではない。 そしてそういうことは、今までに何度もあった。 中には……最悪の結果だが、殺された女たちもいる。 「確かにな、お前のように行動しなければ誰も救えないだろう。だが……それが決して最良の選択枝ではない。いくらお前でも、そのことには気づいているだろう?」 「分かってる。いや……分かっていたよ。でも、知りながら放置することは、僕には……!」 冷たく突き放すかのように言葉を紡ぐレイラに、15は反論しようとする。 しかし、それを見返すのは冷ややかな瞳。 「それこそが、自惚れた。確かに貴様は、この国の英雄と呼ばれる存在だ。だがそれでも出来ることには限りがある。分を弁えろ……と私が言える立場ではないのかもしれないが、貴様よりは物の見方を知ったつもりではいる。その気持ちも分からんでもないが、とにかく今貴様がやるべきことではない。……以上だ」 最後にそう締めくくり、レイラは立ち去る。 15は呼び止めようとするが、その後姿はまるで全てを断絶しているかのように見えて……結局、なにも声をかけることは出来なかった。 レイラの姿が見えなくなった頃。 「……で、やるだけやらせて言うだけ言わせて。それでお前はいいのか?」 呆然と立ち尽くしていた15の口から。そんな言葉が聞こえてきた。 誰かに、というよりは自分自身に問うような口調で。 「別に。レイラのいう事はもっともだし、反論の仕様がない。実際、調子に乗っていたしね」 溜息をつきつつ、自身にそう返す。 「ったく。なに腑抜けてんだぁ、コラ」 「腑抜けてなんかいない。ただ、流される前にもう少し考えるべきだなって、そう思っただけさ」 どこか清々しい表情で、そうはっきりと告げる。 それはなにか、今までの己と決別するような、そんな表情。 「……はいはい。んじゃま、好きなようにやってくれ。あとな、必要になったら俺たち呼べよ?」 「わかってる」 「っけ。どうだか……」 その呟きを最後に、15はまた沈黙する。 レイラの向かった先、そちらをじっと見つめたまま。 「……ん、う? うぁー…………」 暫くしてユマが目を醒ました。 毛布の中でもそもそと身体を動かし、のそりと身体を起こす。 「……おはよーございまふ、ししょー……」 寝ぼけ眼でそう呟くと、こくり、こくりと船を漕ぎ始めた。 「……寝るか起きるかはっきりしろ」 「おきて……まふよ? ……ぐぅ」 寝てるじゃねーか。 とは言わず、苦笑を浮かべてそのユマの様子を見る。 一応全身綺麗にしてやったが、そう簡単に陵辱の痕が消える訳もない。 まだ髪には精液がこびりついているし、顎を掴まれていた痕もうっすらと残っている。 毛布の中、服の下にはさらに明らかな証拠が残っているだろう。 「ユマ、とりあえず一度クルルミクに帰るぞ。少し休憩が必要みたいだしな」 「うぇ? きゅーけーはぁ……んん、沢山とったら、沢山動かないと駄目なのれふ……」 半分寝ている頭を起こそうと首を振るが、まだ睡魔は振り払えないらしい。 ユマらしいといえばらしいが、どこかズレたことを呟きながら、毛布に包まったまま立ち上がる。 「……で、ししょー。つかぬ事をお聞きしますがー」 「なんだ? 僕に分かる範囲でなら答えるぞ」 「……クルルミクって、どこでしたっけ…………」 「……やっぱ僕だけで帰る」 (なんだよ、帰んのかぁ? てっきり、もっと暴れんのかと思ったぜ) 頭の中、もう一人……いや、沢山の自分の中の一人がぼやく。 (あたしはー、楽しければいいかな〜? きゃははっ♪) (某……今回出番がなかったのだが…………) 次々と好き勝手なことを頭の中で言い出す”15たち”。 それは今までは煩わしいだけだったが、今だけはなぜだか少し心地よく思えた。 「ま、いいじゃんか。こういうのが、まさに”僕たち”らしい、だろ?」 (……っへ、そういうことにしておいてやらーな) そうして沈黙する声。 とりあえずの反論は、誰もないらしい。 次に自分が何をするのか、まだ決めていないし予測もつかない。 ただ、出来れば……人の手を煩わせず、人の為になる事がしたいな。 そんなことを思いつつ、15は足を進める。 ――そして一ヶ月後。 なぜかクルルミクの片隅で食堂を切り盛りしている15の姿があったが……それが己の求める姿だったのかどうか。 恐らく、15にも分からない。 Fin