孤狼の星

by MORIGUMA

 

ゴロゴロゴロ・・
夜の闇を、雷鳴が走り、激しい雨がふりそそいでいる。
全てを覆い隠す闇、ぬばたまの闇、
ピシャアッ
稲妻が、瞬時闇を裂いた。
細い、森の脇の道。
土と石ころだらけの、泥と化した道、そして、一人の小さな影。

ふらり、ふらり、
小さな影は、まるで酔ったような、奇妙な歩き方と、
手を前に突き出し、踊るような、打ち据えるような、奇怪な動きをし続けていた。
薄い下着同然の服と、腰近くまで伸びた、明るい金色に輝く髪。
それは、5歳ほどの少女だった。

愛らしい顔立ちだが、その青い目は、焦点を結ばず、
何かを、闇の向こうに、見ているかのようだ。

ガサリ、ガサリ、ガサリ、
横の森から、3匹のやせた山犬が、のっそりと現れる。
少女は、それに目もくれず、ただ、ふらり、ふらりと歩きつづけた。


がたがた、がたがた、
立派な黒い馬車が、泥海と化した道を走っていた。
「止めろ」
「いかがなさいました、旦那様」
御者は、山犬が多いというこの道を、急いで抜けたかった。
「血の匂いがする。」
「ち?、血のにおいですか?。」

黒いフードをかぶった、老人らしい男が、ぬっと身を乗り出す。
強い光を放つランプが、あたりを照らした。
「なっ・・!?」
御者が絶句した。
黒い巨大な山犬が、3匹、ころがっていた。
音も無く飛び降りたフードの男は、その頭を持ち上げた。
「顎が、吹き飛ばされておる。」
無惨に下あごが千切れ飛び、首が折れていた。
まるで、巨大なハンマーで、打ちぬいたかのようだった。

老人の目は、らんと光り、深くうがたれた小さな足跡を見つけた。
石を踏み砕き、深く泥にめり込んだ足跡は、驚くほど小さかった。

ふらり、ふらり、
少女は、まだ闇の中をさまよっていた。
泥にまみれた、細い柔らかそうな脚が、地を踏みしめ、身体を前に進めていく。

全身に返り血を浴び、激しい雨でも落としきれぬそれが、黒く染み付いていた。

馬車が止まり、老人がその横に下りた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだね?。」
だが、少女は応える声も無く、ただ、歩きつづけた。
老人は、その目の闇を見た。
深く、濁った闇が、目を覆っていた。
老人が静かに抱き上げると、少女はくたりともたれかかり、気を失った。



拾われた少女は、テルミットという名前以外、ほとんど何も覚えていなかった。
老人は、錬金術師としてかなり高名な男で、フラビアスンといった。
拾った少女を、養女にする事に決め、テルミットは老人のもとで育てられた。

『奇妙な子だ、あの不思議な歩み方、あれは、もしかして・・』
静かに寝入っているテルミットの寝顔を見ながら、ずっと以前集めた知識を、拾い上げた。
東方で兎歩と呼ばれ、山岳民族の特殊な体技の源流となり、自然の力を利用する魔術の基本であり、いくつもの特殊な剣法を生んだ、秘儀とされる歩行法。

この小さな娘が、なぜそれを知っているのか、
そして、たぶん、山犬を殺したのも、この娘だろう。

だが、老人は失った己の宝を、この娘に重ねてしまった。
栗色の髪の娘、わずか12でこの世を去った孫娘を。


テルミットは成長し、やがて、恐るべき力が、明らかになってきた。
12歳で、殴り殺した熊を引きずって山を降り、15歳で、村を襲った盗賊団を一人で壊滅させ、『壊し屋』の異名が初めて世に現れた。
だが、あまりに異常な力は、尊敬よりも恐れを、そして嫉妬をまねく。

老人との平和な暮らし以外で、テルミットが幸せだったとは、言えなかった。

テルミットが16歳の時、老人が倒れた。
何かと不気味で、恐れられている錬金術師と、恐ろしい力を持った娘の家に、誰も近づこうとはしない。ほとんどの村人は、老人の病気を知らないままだ。
しかし、高額な薬を、惜しげも無く買うテルミットは、一部の人間に目をつけられた。



「ち・・、くしょう・・、ぐうっ!、ぐっ!、あああっ!」
鮮やかな金の髪が揺れ、深々と貫かれた膣が、悲鳴を上げた。
細い脚を割り広げた、男の腰がぐりぐりとくねり、突き上げる。
尻の肉を広げきって、アヌスを刺し貫いたペニスが、根元まで押し込め、こね回す。

「へへへ、いい具合だぜっ、テルミットよっ!、」
「ああっ、締め付けて痛いぐらいだぜっ!」
「ぐあああっ!、あっ!、あっ!、あぐうううっ!」
始めてを破瓜され、前後から強引に攻め立てられ、異様な感触と、鈍痛が交互に身体をえぐり抜く。

鍛えぬいているはずの、テルミットの身体は、とても柔らかくしなやかで、小ぶりながら尻肉など、掴むと心地よい弾力が押し返してくる。それを目いっぱい広げ、突き上げると、小柄な身体が、びくびくと震え、根元から食いちぎられそうな、締め付けが、ペニスを締め上げる。
「ひっ!、っーっ!、あああっ!、いやあっ!、あああっ!、あぐうっ!」

跳ねる身体の軽さ、しなやかさが、突き上げるたびに身体に返ってくる。
まだ犯されたばかりの、狭く、痛いほどの締め付けも、
生意気な顔が、歪み、泣き叫ぶさまも、気持ちよくてたまらない。
細い腰を捕らえ、力いっぱい叩きつける。
「痛いっ!、痛いいっ!、いやっ!、ああっ!、ひいいっ!、」

それが、男たちを煽り立てているとも知らず、身体が引き裂かれていく痛みに、テルミットは声を上げずにいられなかった。
心が萎え、しぼんでいたテルミットは、普通の哀れな娘と、何ら変わらなかった。



何度かコナをかけてきて、ぶっ飛ばした事もある男が、ニヤつきながら
「お前のじいさん、寝たきりなんだってな。年よりはちょっとしたことでも、ポックリいっちまう事あるって、知ってるか?。」
テルミットが青ざめた。
「急に火事が起こったら、大変だな、逃げられやしねえし。」
言外に言っているのだ、俺たちに従わなかったら、じじいがどうなるか。

キリキリと歯を噛み、今にもぶち殺しそうな眼で睨みつける。
「おっとっと、そんな眼で見ても、ダメだぜ。仲間が見てるんだ、分かってんだろ。こっちへきな。」

すえた匂いのする、町外れの廃屋。
誰も住まなくなったそこは、吹けば飛ぶようなチンピラたちの、溜まり場だった。
下卑た目つきの男たちが十数人、たむろしていた。

「いったい何の用だよ。」
「そうだな、まずは、俺たちの前で脱いでもらおうか。」
「なんだと。」
テルミットの拳が、ボキボキと音を立てた。
「おおっと、ここにいるのは全員じゃねえんだ。半分はお前の家の周りで見張ってらあ、油と火種をもってな。仲間が決まった時間に交代にいかねえと、火を放って逃げるぜ。」

怒りでびりびりした気配が、次第に重く、沈んでいく。

ごとん、ごとん、

スパイクのついたナックルが、床にめり込む。
固いヒザの防具が外れる。

短めに切ったシャツを、勢いよく脱ぐと、
小ぶりだが、形よく盛り上がった乳房が、プルリと震えた。

無精ひげの生えた顎が、生唾を飲み込む。

太腿の付け根で、乱暴に切られたパンツが、ごく普通の動きで下ろされる。
白く薄めの下着が、下の茂みを透けさせ、
小さめだが切れ上がった尻が、半分あらわになった。

「ぬげよ」
おずおずと、力無く下着が下ろされ、細身のしなやかな身体が、無作法な視線の前に露にされた。細身で小麦色の良く焼けた肌に、わずかに筋肉質な感じはあるが、とてもあのテルミットとは思えない、柔らかそうな身体だった。

「犬みてーに、四つんばいになりな、ケツを上げてな。」
リーダー格らしいのが、ニヤニヤ笑いながら、命令する。
「くっ」
怒りが頭をもたげ、筋肉が爆発しそうになる。
「いーのかい、じいさんがどうなっても。」
テルミットの弱みを、容赦なくえぐり、こねまわす。

胸に爆発しそうな怒りが萎え、身体が縮こまる。涙が、青い目を濡らし、ゆっくりと身体が折れ、まだ小ぶりな尻を、ゆっくりと上げた。
開花途中の、愛らしいスリットが、怯えて震えていた。
誰にも見せた事のない、秘所が、すぼまりが、露にされていく。
細い、綺麗な身体は、あまりに刺激的だ。

クズは、絶対的な優位に、どこまでも残酷になる。
クズばかりが集まったここで、リーダー格の男は、最低のクズだった。
己の大振りな物を、いきなり突っ込んだ。
「ひ・・!、いやあああああああ!」
ミシッ、ビチュッ、
身体が引き裂かれ、血が滴る。
苦痛と、屈辱しか与えない。
悲鳴を上げ、のたうつテルミットをみて、喜悦の表情を浮かべ、それを貫いている快感で、興奮する。

己の優位と、相手の屈服だけが、
クズそのものの、チンピラたちを喜ばせる。

乾いて、まだ何の経験もない場所を、異形の肉塊がえぐり、噛み裂いていく。
美しい金髪が、苦痛に震え、おぞましい痛みが、身体の中を彫りぬいていく。

女を喜ばせる事など、毛頭考えない、
己の大きさと、征服する支配欲、そして、自己満足だけの勢いで、
テルミットの血にまみれた膣を、突き上げ、えぐり抜く。

「げはは、たかがメスが、おら、おら、壊し屋だぁ、笑わすんじゃねえ、おら!」
「いたッ!、痛いっ!、やめ、ひっ!、ひいっ!、あああっ!」
焼けた鉄が、中に動いているようだ。
痛さと、不快と、屈辱、そして諦め、心が萎え、痛みが縛る。

「おらっ、おらっ、くれてやるぜええっ!」
ばんばんと叩きつける尻に、目いっぱい突き入れ、痙攣する膣に、溜まり切った汚濁をぶちまけた。
「いや―――――――っ!!」
どばああああっ、どびゅうっ、どびゅうっ、どびゅっ、
のけぞる身体の中に、おぞましい物が、どんどん入ってくる。
細い腹を震わせ、脚を引き裂き、身体の中に撒き散らして、こねまわす。
泣きじゃくり、髪を振り乱しながら、それに屈していく自分が情けなく、テルミットは涙が止まらない。

無理やりにこじ開けられる痛みが、アヌスからめり込んできた。
悲鳴を上げる口を、メガネをかけた冷酷そうな男が、汚らしいペニスでふさぐ。

のたうつテルミットを、もう一度リーダーが貫き、裂けた身体を、めちゃめちゃにしていく。
痛みと、苦痛と、屈辱が、身体中を貫き、かき回し、突き上げる。
激しい暴行で、身体中が汚れ、血がにじみ、痛みがどこまでも入ってくる。

「あぐっ!、ぐっ!、んーっ!、んううっ!、ううっ!、んーっ!、んうううっ!」
広げられるだけ広げられ、晒し者にされていく。
ろうそくが集められ、さらけ出されたまま、嬲られていく。
淡い茂みも、えぐられるアヌスも、濡れ汚れた顔も、
のけぞる身体に、深々と食い込む男根も、滴る血も、苦しげなうめきも、
無数の目が見、耳が聞いた。
見られる事も強姦同然だった。

もう、身体は鈍い痛みしか無い。
何かに勝手に、動き回る感触しかない。

ただ、目が見え、耳が聞かれ、何もかも晒されていく。

何かが、折れていく。

広げられたまま、繰り返し輪姦され、次々と男がめり込む。
糸の切れた人形のように、あふれた膣もアヌスも、ただ、貫かれ、突き上げられる。

胎の中を動き、突き上げる。
腸をえぐり、肛門をこじ開ける。
口を広げ、喉を犯す。

どろどろの金髪が揺れる。
細い脚が、壊れたように広がる。
力を失った目が、宙をさまよい、
ただ、飢えきったオスが、赤く腫れ上がったペニスを、空いている穴に押し込み、突き上げる。

汚らしい体液が、顔に、のどに、身体に、胎内に、繰り返しかけられ、浴びせられ、注ぎ込まれていった。


いつ、廃屋を出たのか、ぼろぼろになった身体を引きずり、ほとんど裸同然の姿で、夜明け前の森の奥へ歩いていた。
澄んだ水をたたえた、小さな池に、倒れ込むように、テルミットは入っていった。

身体中が痛み、そして、おぞましい汚れが、中に染み込んでいた。
泣きながら、喘ぎながら、中を洗い落とす。
いつまでも汚らしい濁った液が、止まらなかった。




「ただいま」
テルミットは、フラビアスン老人の部屋をのぞいた。

「おかえり、テルミット。」
だが、フラビアスンは老いても、ボケてはいなかった。
その声が、普通と違う事を、瞬時に聞き取った。

無理に元気を作った声。
鼻が、入ってくるテルミットから、いくつものおびただしい匂いを嗅ぎ分ける。
健康な若い女性のにおいしか、しなかった身体から、血のにおい、無数の男の精のにおい、苦痛や屈辱に身を焦がす時の、灰汁のようなにおい。
フラビアスンは、何が起こったのか、ほぼ完璧に推測していた。

「すぐ、スープを作るから。」
「待ちなさい、テルミット。」
テルミットはびくりと身をすくませた。
何一つ悪い事はしていない、でも、身体に刻まれたものは、全身が腐ってしまいそうな何かを残している。
フラビアスンは慈愛の笑みを浮かべ、ベッドのそばに座らせた。
「これまで、話したことは無かったが、お前の母親の事を、教えてやろう。」
「えっ?!」

「おまえと出会った、黒い森の道、あれはロビナスの街に通じている。」
フラビアスンはそう切り出した。

その街には、老人の兄弟子の錬金術師がいた。
名をテルマイトといった。

「お前の名を聞いたとき、兄弟子を思い出さなかったといえば、嘘になる。」

やがて、フラビアスンは、兄弟子を尋ねてみた。
だが、テルマイトは既に死んでいた。

フラビアスン以上の天才的な錬金術師で、既に生命の奥義を掴みかけ、百歳を超えてなお30代の体力精力、そして頭脳を持っていた。
錬金術士は、鉛から金を変性する事で、錬金術師を名乗る事ができ、
さらに生命の奥義を追求し、魂の永遠を得る事が最終目的となる。

生命の奥義を掴み、老化を止めることが出来た者は、数えるほどしかいない。
テルマイトは、その数えるほどの天才だった。

テルマイトはある研究のために、一人の幼児と、女を買った。

「幼児は、すばらしい金の髪をしていた、つまりお前だ。」
女は泥色の汚い髪で、みずぼらしい格好をしていた。だが、テルマイトは一目で見抜き、洗わせると、同じ色の髪が表れた。
名前をタミアと言い、以後、だれも彼女が、口をきくのを聞いた者がいない。

「買われて、何があったのか、誰も知るものはいない。ただ、兄弟子は決して人を容認する性格ではなかった。だのに、タミアは3年の間、そして、死ぬ時まで、兄弟子のそばにいた。」

テルミットが、わずかな疑問で眉を動かす。
奴隷に買われた母が、そばにいたと言う言い方が、気になったのだ。

「違うぞ、テルミット。奴隷とは、誰かがさせるのではない。奴隷とは、自らつながれる者なのだ。」
老人の目が力を帯びた。

「どうしてよいか分からない時、気力を失った時、悩みに怯え恐怖にすくむ時、人は盲目となり、奴隷に落ちる。死ぬ事も出来ず、生きる道も分からず、落ちるのだ。自ら死ぬ事を選べる者は、もはや奴隷ではない。」
テルミットは、激しいショックの中、必死に気力を呼び起こした。
そう、自分もまた、奴隷に落ちた。

ふと、何かが、頭の中をチリチリとはねた。
何かをかぶされ、何かを飲まされた、そして、頭に何かがぞろぞろと入ってきた。
横たわる、まだ幼い5歳のテルミットの頭に。

「3年後、何匹もの猛獣と檻、それらは地下に運ばれ、何かがあった。調べた役人は、殴り殺され、あるいは、はらわたをぶちまけた猛獣が、ごろごろしていたと言った。中でも巨大なヒグマが、腰骨をへし折られ、二つ折りになっていたのに仰天したそうだ。」

テルミットの脳裏に、映像が浮かんだ。
おびただしい白い目、ギラギラした、血に飢えた眼、そして、何の恐怖も、感情も無く、それが小さな掌に、拳に、蹴りに、まるで泥人形のように壊れていく絵。

「兄弟子は、ヒグマの爪あとから、それに襲われたらしい。」

ちがう、
ヒグマはテルマイトの眼を恐れ、顔をそむけ、そしてタミアに飛びつこうとした。
テルマイトは、我を忘れ、タミアを突き飛ばし、そして自分が殴られた。

その熊を、後ろから、肉を裂き、骨を砕き、まるで壊れたぬいぐるみのように、殺した。

「タミアだけが、身体に外傷は無く、焼け死んだらしかった。」

『テルマイト―――ッ!』
初めて聞いた、母の悲鳴。
動かないテルマイトに泣きすがり、ただ悲しむ女性。
やがて、その女性は、微笑みながらテルミットを外へやった。
涙に濡れた顔が、とても美しかった。
『さ、テルミット、まっすぐ行きなさい、振り返ってはだめよ。』
後ろで、扉が閉まった。
テルミットは、暗い道を歩き出した。

「どうやら、思い出したようだな。」

テルミットは、わずかに頭を振った。

「喉が渇いたな、水を持ってきてくれぬか?」
テルミットは、コクリとうなずき、台所へ立った。

奇妙な事に気づいた。
水差しは、あの部屋にあったはずなのだ。コップも老人用のが無い。いつも、半分以上水を残すはずなのに。
いやな予感がした。

部屋に飛び込んだ時、フラビアスン老人は、濃い死相を顔に浮かべていた。
枕もとの、1日1粒しか飲めない、心臓の薬を入れたビンが、空になっていた。

「じっ、じいさんっ!」
ゆっくりと目が開いた。
「いいのだ、もう、わしに気を使う事は無い。わしのために、つらい思いをさせたな、すまなかった。」
「そんな、そんな、いやだよおおおおっ!」
テルミットは、子供のように泣きじゃくった。

「おまえには感謝している。孫と娘を亡くし、何もかも無くしたはずの、おまえが、光だった・・。」

老人は閉じかけた目を、カッと開いた。
「おまえは、おまえの道を行け。決して、奴隷にはなるな、分かるな。」

老人はそう言い残し、静かに目を閉じた。

満天の星空を、一筋の光が流れた。
静かな夜に、虫の声だけが、鎮魂歌のように、響いていく。

テルミットが身を起こした。
「じいさん、ありがとう。オレ、オレの道を行くよ。」

その頬に優しくキスをし、立ち上がると、両手をポケットに入れた。
凶悪な爪をつけたナックルが、鈍い光を放ち、空中で拳にぴたりとはまる。
片足が優雅に上がり、全く無駄の無い1動作で、ヒザにプロテクターがはまる。
まるで娼婦がストッキングを履くような、優雅さだ。

獣の目が、闇を見通し、ごろごろ自堕落に見張っている、クズどもを見つけた。
血の匂いが、館の回りで沸き起こった。


廃屋は、かなりの人数が集まっていた。

「あんまり集めすぎじゃねえか?。」
「いーや、あの雌虎を腰抜けにするんだ、兄貴たちも入れて、徹底的に姦っちまわねえと、あのじじいもいつ本当にポックリいくか、わかんねえからな。」

武器や、薬も集め、仲間まで呼んで、テルミットを腑抜けにするまで嬲るつもりなのだ。

ごとり

酒やわい談にはしゃいでいた連中が、急に肝が冷えた。
わざと音を立てて入り、無音で、優雅な兎歩が、しなやかな身体を進めた。

「な、なんでえ、もう来たのか。俺たちのが欲しくて、たまらなくなったのかよ。」

たわごとをぬかした男の頭に、右の裏拳が鮮やかに閃いた。
鈍く腹に堪える音がし、吹き飛んだ男の眼や歯が、飛び散り、ひしゃげた。

「きさま、立場わかってんのかぁ!」
その大口に、わずかに曲げられた左の手が吸い込まれ、後ろに指先が突き出す。

「ばっ、ばけものがっ!」
どんっ、
中指が、耳を貫き、脳髄を刺した。曲げた指が引き抜かれ、豚のような悲鳴が上がる。

生温かい血の匂いが、部屋中に広がった。
テルミットの舌が、指先をぺろりと嘗めた。
声をあげたやつから殺される、3人目で、みんな黙りこくった。

「どうしたの?、何か言いなよ、ええ、オレを腰抜けにするんだろ、小さな、みずぼらしいチンチンで、腑抜けにするんだって、ええ?。」

じろりと見た、全員ががたがた震えだした。まさに、そいつらのチンチンは、みずぼらしく小さく縮こまっている事だろう。

「死にたい?」
死の視線の先にいる男は、がくがくと震え、首を必死に振った。

「そいつ、」
この連中を煽った、リーダーに近い男が、びくっと震えた。
「オレを最初に犯したよな。」

「そいつ、」
左奥の、隠れたそうにしていた男が、腰を抜かした。
「オレの尻に、ひどい事を最初にしたよな。」

「そいつ、」
その隣の、メガネをかけた陰険そうな男が、がくがくとひざを鳴らす。
「口に、最初に入れやがったよな。」

「そいつらのチンチンを引き抜いて、タマを踏み潰したら、オレを輪姦した事は許してやるぜ。」

「お、おい、何こっちを見てんだ、あの雌豚の言う事をまじにとんのか?!」
「やめろ、おい、よせっ、」
「お、おれは知らねえぞ、おまえだって、お前だってやったじゃねえか、おいっ、」

歯が飛び、爪が破れ、目玉がえぐられる。
血みどろで、豚が絞め殺されるような声が、何度も続いた。

「いーだろ、オレを輪姦した事はゆるしてやらあ、だがな、じいさんが死んだ、お前らのせいだ。てめーら、一人のこらずたたっ殺す!。」

血煙と絶叫が、絶え間なく続き、やがて消えた。


テルミットは、ゆっくりと一人で歩き出した。
明るく、青く輝く星が、その上に光っていた。

あの時、暗い闇を、ただ歩いた。
だが、今は、

狼の星と呼ばれるそれを、テルミットは静かに見据えていた。

END