THE SURPREME SORCERESS RED〜Side:S act5〜

―――AN ELIMINATION―――

―――予選が終了し、翌日からの本戦に備える為、私達参加者は会場に用意された控え室へと案内された。
控え室と言っても、決勝戦までに数日を要する大会中の部屋となるため、下手な宿の個室を上回る作りだった。
ベッドは勿論簡易寝台などではなく、しっかりとした木製のベッドで、布団も柔らかい。
入り口と別に用意された扉の向こうは、狭いながらも浴室があり、魔導師の大会の会場らしく、魔法による散水装置がついていた。
気になる所といえば、窓が一つもない事ぐらいだったけれど、極秘裏に行われている戦いである以上仕方ない…のだけれど、窓がない、という事実が一見して宿の高級寝室に見えるこの部屋に、牢獄のような雰囲気を醸し出させていた。



―――まずは浴室で軽く汗を流し、壁にかかっている魔法のトーナメント表に目を通す。
明日の、一回戦の相手はゲシュタルト―――蝙蝠のような、魔の眷属を従え、圧倒的な魔力で薙ぎ払う女性だった。
彼女の魔力を思い出して背筋に冷たい汗が流れる。
けれど、そんな恐れを振り払うように首を振ると、再びトーナメント表を睨みつける。
…視線の先にはAブロック8番に記された名―――アマール・セルティックアーツ。
私の標的の一つであり…最大の障害となるであろう少女。

「…決勝戦まで行かないと戦えない、なんて……」

トーナメントの組み合わせを見て、溜息を吐く。
けれど…と思いなおす。
そう、この大会自体を相手にする以上、どちらにせよ最後まで勝ち続けなければならないのだ。
…ならば、二つの標的が同じ高さ―――頂点にある方が、余計な事を考えずに済む。
そのように、思考を前向きに切り替えると、私はこの大会についての調査を行う為に、静まり返った廊下へと、扉を潜り抜けて行った―――



―――夜の廊下を、音もなく駆け抜ける。
ある種盗賊じみた行動に自己嫌悪しながらも、貴い使命の為に、と言い聞かせて歩みを進める。
…本来ならば魔法で音を消し、身のこなしを向上させるのだけれど、それすら行えない。

「―――つまり…この会場内では試合中のみ、一時的に魔力の行使が許されている……?」

思い浮かぶ言葉をそのまま口に出し、軽く首を振る。

「…でも、魔力の制御なんて、それ以上の魔力でなければ為し得ない筈―――」

思索に耽りながらも廊下を歩き……ドン、と何かにぶつかった。

「「きゃ…ッ…!」」

重なる悲鳴と、床に倒れる音。

「痛った〜〜〜〜〜〜…」

顔を上げると、そこには一人の少女。
一見すると狩人のような軽装の中で、左腕だけが長い袖だけに覆われている。
肩辺りまでの髪の毛を撫で付け、頭を押さえながら立ち上がるその少女は…

「…貴女は……フィーネ・フィーネさん……」

予選で、魔法を打ち出す弓の役割を果たす杖を手に、相手の隙を狙い撃っていた魔法使い。
…それにしても、何故、こんな時間に―――

「…えぇっ、と……サヤ・アーデルハイドさん?
 ……こんな時間に、どうしたんですか?」

私が思った疑問を、先にぶつけられ…その突然の攻撃に私は戸惑って。

「…ぁ、え…その……これは、えっと……調査、で……」

思わず口を滑らせてしまう。
…しまった……なんて、不甲斐ない……
そう思ったのも束の間。

「…え…サヤさんも、調査、ですか…?」

驚いたような声が返って来…その言葉に目を丸くする。
…つまり、この少女も今、ここで何かの調査をしているという事で―――

「…と、とにかく…どこか別の場所へ……」

先程の悲鳴を聞きつけられては困る、と慌ててフィーネの手を引いて、その場を立ち去った。



「―――という事で、私はこの大会の調査をしているのです…」

結局、仕方なく私の部屋へフィーネを連れて行くと、掻い摘んで事情を説明する事にした。
つまり、この大会の裏に悪の陰謀を感じ、それを調べている、という非常に噛み砕いた説明…だけれど、フィーネは何となく察してくれたようだった。
そして、こちらの事情を話した以上は相手の事情も聞いておきたいと思うのが人の常で…

「…えぇっと…私達は、アマール・セルティックアーツの秘密について調査に来たんですけど…」

私の要求に応じたフィーネは口を開き始め。
その出だしの部分で早速驚かされる。

彼女もまた、アマールについての調査をしている……しかも、複数人で。
つまり、私と同じようにこの大会の、前回・前々回優勝者に妖しいものを感じた集団がいるということだ。

…調査する対象は被っているけれど、その理由は分からず、信用できるのかどうかも分からない…
…けれど、そんな私の悩みなど関係なく、フィーネは話を続けて。

「…本当は、私がアマールと戦っている間に、ディコレオさん達が調査をする事になってるんですけど……
 ……先に、少しでも私が調べてたら、ディコレオさん、喜んでくれるかな…って♪」

彼女の話の端々に現れるディコレオ、という名前。
彼女の話し振りからするに、彼女達のリーダーで…どうやら好意を抱いているようだった。
はにかみながら説明する少女は、何の変哲もない少女に見え…そして、組織に属し、大会に関わる調査をしている、という事で何か私に近しいものを感じて、彼女を信用する事にした。



「―――で、ディコレオさんっていっつもタバコ咥えてるんですけど。
 私はいっつも注意するんですよ、タバコなんて健康に悪いんだし、タバコ臭くなったら匂いで人に気付かれたりしちゃうじゃないですか、って。
 …でも、私が何回言っても聞いてくれないんですよねぇ……
 …はぁ……私嫌われてるのかなぁ……
 ……いえいえ、きっと何か私の知らない事情とかポリシーみたいなのがあって吸ってるはずです!
 …あ、私の知らない事情、なんですけど私が独自に調べたところによるとですね―――」

……信用したのは少々失敗したかもしれない。
彼女の…そう、敢えて言うならシナの詠唱のように高速の話を聞きながら、軽く頭を押さえる。
悪い人物じゃないだろうし、普通の少女らしい話題だとは思うのだけれど……
延々と彼女の想い人についての話を聞かされても…正直、困る。
年頃の少女同士、本来ならばこのような談義に華を咲かせても良いのかも知れないけれど、私は色恋事に興味が無いので気の利いた言葉など返せないし、何より今は神より賜った使命でこの場所にいる以上、そのような話にうつつを抜かしているわけにはいかなかった。

…だから、私は「へぇ」とか「うん」とか「なるほど…」とか相槌を打つ事しか出来ず、そうでない時には軽くこめかみを押さえるだけで。
…けれど、彼女は普段は同僚に囲まれて話せないような話題を思う存分話せたようで満足したらしく、深夜を指す時計の針を見て、ふわぁ…と欠伸をしていた。

…結局、こんな調子だった為に彼女から有益な情報は聞けず、再び調査に出る事も出来ず…
…でも、彼女の話を聞いていると、少し肩の力が抜けていった気がしたので、気分転換と言う意味では有意義だったのかもしれない。



それから程なくして、フィーネは自室に戻る事になり…

「…それでは…明日の試合、頑張って下さい……」

彼女が部屋から帰る際に、それだけの、激励の言葉をかける。
その言葉に彼女は、微笑を浮かべながら頷いて…

「…はい♪
 …試合の中で彼女の強さの秘密が分かるかもしれないし…
 ……何より、私が勝っちゃえば調査の必要なんてなくなっちゃいますもんね♪
 そしたら、ディコレオさんも私の事見直してくれて、褒められちゃったりして…♪」

きゃー、もしそうなったらどうしよう!なんてはしゃぐ少女。
私にはそれが心の底からはしゃいでいるのか、それとも無理しているのかは分からず…
…けれども、そう振る舞えるのは彼女の強さなのだろう…と、眩しそうに目を細める。

「…それじゃあ、サヤさんも頑張って下さい!
 ……でも、決勝で当たっても手加減はしませんからね!?」

はしゃぐのをやめると、私に向き直り右手を差し出すフィーネ。
苦笑しながらその手を握り、今度こそお別れの挨拶をし、自室へと戻る彼女の後姿を見守る。

―――彼女の明日の相手はアマール・セルティックアーツ…言わずと知れたサプリーム・ソーサレスだった―――



―――1ST STAGE―――

―――夜が明け、遂にサプリーム・ソーサレスが幕を開ける。
開会式に居並ぶのは16人の女魔導師…その中には、前日の予選には姿を現さなかった人物も数名いた。
その中の一人…アマール・セルティックアーツに視線をやると、同様に彼女を見据える視線の何と多い事か。
しかし、それだけの視線を受けても尚、彼女は人形のような表情を微塵も変える事無く、開会式の終わりまでそこに佇んでいた。

開会式が終わり、賭けの倍率が発表され、賭け札の販売が始まる。
無論私はそのような乱痴気騒ぎには目もくれず、参加者用の区画にある渡り廊下に立つ。

眼下の闘技場には、今正に二人の女性が入場してきていた。
物静かな風貌に影を背負った若い女性。
豪奢なドレスにいかにも魔法使いといった風情の帽子という、アンバランスだが特徴的な衣装の女性。
…二人の内、物静かな女性の方には多少の知識があった。

―――ボル・ガノ・ボル…若年でありながら優秀な炎術師で、その実力と名声は未だ留まる事を知らず上昇している―――

そのような、前途有望な魔導師までこのような大会に参加している…その事事態が、この大会に何か裏がある事を無言の内に語っていた。



―――試合の開始が告げられ、二人の女魔導師が詠唱を始める。
ボルは炎の属性特有の強力な魔力を練り上げ。
対する女性―――サティス・スコルピオも同様に魔力を練り上げる。

「…巧い……けど…!」

サティスの魔法の組み立ては端から見ていても感心するほどに洗練されていて、彼女が才能と教育の二つに恵まれていた事は一目瞭然だった。
…けれど、今は相手が悪い。
いかに美麗に纏め上げられた魔法であっても、正面からのぶつかり合いで物を言うのはその威力。
そして、威力という点では炎の属性に勝る属性はなく…

サティスが吹き飛ばされ、帽子が宙を舞う。
魔力を放っていた右手を覆う手袋が焼け焦げ、波打っている彼女の髪の先端が微かに焦げ付いていた。

起き上がり、帽子を拾い上げるサティス…その表情はここからでは陰になって見えないけれど…容易に想像する事が出来た。
真っ向から自尊心を傷付けられた恨みを視線に乗せ、睨みつける…もしも相手が魔力などない一般人であれば、それだけで傷付ける事が出来るかも知れない視線。
けれど、その視線は同時に眼前の相手を値踏みするようにも見えて…

二戦目…その想像は、正しかったのかもしれない。
先程の激突で消費した魔力を少しでも取り戻そうと防戦を選択したボルに対し、サティスはそれを見越したかのように長大な詠唱からなる大魔法をぶつけ、防壁ごと粉砕していた。

そして三戦目…
…防壁を破られ、倒れはしたものの魔力を溜め終えていたボルは再び炎の魔力を練り上げ…る事はなかった。
微動する事も許さぬ、とばかりに開始と同時に襲い掛かったサティスの魔法は、ボルの胸を正確に捉え、勝敗は一瞬の内に決していた。

倒れ伏すボルと、もはや興味を無くしたかのように髪をかき上げ、背を向けるサティス……

『勝者! サティス・スコルピオ!
 単戦配当は二・六倍となります
 重戦・総戦の札をお持ちの方は最後まで紛失しないようご注意ください』

響き渡る審判の声。


―――もしもこの大会が少しでも真っ当であったならば
これがこの試合最後の場面となるはずだった―――

―――けれど―――

―――この大会…サプリーム・ソーサレスは呪われた大会で
  私はこの時初めて、その言葉の意味を知った―――


『それでは、敗北したボル・ガノ・ボル選手に対するペナルティが開始されます
 札をお持ちの方は係員の指示に従って闘技場までお越し下さい』

賭けの配当を告げる声に顔を顰めていた私の耳に、更なる言葉が響く。

「ペナル…ティ……?」

全く予期していなかった言葉に、思わずその言葉を繰り返す。
顔を上げた私の視界に飛び込んで来たのは、闘技場へと入って来る群集―――観客達。

闘技場に残された女性の口が開き、女性らしい叫び声が闘技場に響く。
けれどそれはすぐに群集の雄叫びに掻き消され、女性の姿も半裸の男達の中に隠されていく。
時折男達の間から見える彼女の姿は、元々肌を申し訳程度にしか隠していなかった服を捲り上げられ、半裸にされていた。

「…こ、こんな、事……」

思わず口元を押さえ、震える脚で後ずさり。
それでも、その光景から目を話す事が出来ず、『ペナルティ』を受けるボルの姿が網膜に、意識に焼き付いていく。

姿が見える度に肌を白く染め上げられ、瞳から、試合前に感じられた強い意志が翳っていく。
闘技場に沸き起こる雄叫びが徐々に静かになっていき、彼女の甲高い悲鳴が、くぐもった呻き声が微かに耳に届く。
彼女を取り巻く男の数も徐々に減っていくが、それでもペナルティは終わらず、むしろ人が少なくなった事により、私の視界に惨状がはっきりと見え始める。

押さえつけられ、男の上に跨らされ、醜いモノを咥え込まされ、貫かれる。
貫くだけでは飽き足らず、握らせ、或いは自分で握り、汚液を身体に撒き散らす。

「…ど、どうして、こんな……」

頭の中が真っ白になりながら、その言葉だけを口にする。
けれど、その言葉の答えは既に分かりきっていた。

―――敗北した選手へのペナルティ―――
それは、賭けに敗北したものが、試合に敗北したものに行使する、この大会では公然と許された権利……
……つまり、私も、敗北したら―――

思考がそこに辿り着くと同時に私は限界を迎え―――
―――意識を真っ白に焼き尽くしながら、その場に崩れ落ち…

―――闘技場の中心で男達に暴虐の限りを尽くされていた女性…ボル・ガノ・ボルが衝撃のあまり命を落としたと知ったのは、その日の夜だった―――



―――ATOGAKI―――
いよいよ本戦開始まで持ってこれましたε=(~Д~;)
…とはいえ、まだまだ暫くはダラダラと試合とかが続いて、エロい展開になるのは当分先なのですが(´・ω・`)
…それまで見続けてくれる人がいるのか心配です(つд・)

使わせていただいている娘さん達の親御さんに多大な感謝と勝手に使っているお詫びを申し上げます(o*。_。)o

フィーネ・フィーネ嬢:赤本では全く絡む事もなかったのですが、終盤でディコレオさんと遭遇、何やら情報を聞いたみたいなので、その布石として絡ませて頂きました。
           恋する乙女、って感じが出せたかなぁ(・・;)
           リーダーの趣味で本当は無意味なのに試合に参加させられ、嬲られ、しかもその記録を売り捌かれるという可哀想な女の子…ですがそういう状況はツボだったり(笑)
           ディコレオさんも良いキャラです(´∇`)

ボル・ガノ・ボル嬢:サプリム2にも出場している大先輩。
          今大会最初の敗北者、という事でお借りしました…が、殆ど動かせませんでした(´・ω・`)
          サプリム2にも参加されているので、まだの人は是非(`・ω・´)

サティス・スコルピオ嬢:サプ赤とその後のサプリムを繋ぐ人物の一人。
            今後もちょくちょくお借りします(o*。_。)o
            イメージは『怒っても怒らなくても怖いお姉さん』(`・ω・´)