THE SURPREME SORCERESS RED〜Side:S act4〜

―――AN ELIMINATION―――

―――いよいよ、サプリーム・ソーサレスが間近に迫った。
私は他国への挨拶回りという名目で団員と共に旅に出、一路魔導王国ユニカンを目指した。
ひとまず王城に挨拶し、いよいよサプリーム・ソーサレスへ―――

……と思った矢先に一つの報せが届いた。

「…予選、ですか……?」

一部の限られた者達しか知らない会場…団員と別れた先の受付で私はきょとんとしていた。

「はい…今年度は予想以上に参加希望者が多く、規定の16人を上回ってしまった為、先に予選を行わせていただく運びとなりました…」

受付の女性はにこりともせずにそう告げ、社交辞令的なお辞儀をしてきた。

「で、ですが…ッ…」

「ふん、一戦くらい増えた所で結果は同じ……あたしの優勝さね。
 …だから、予選ぐらいでガタガタ抜かす甘ちゃんは諦めて帰った方が身の為ってもんさ。」

運営側のいきなりの宣告に食ってかかろうとした所に、後ろから声がかかる。
振り向くと、そこには前髪で片目を隠した、随分と軽装な―――少し、私のスカートを外した格好に似ている―――女性が居た。

「あ…甘ちゃんって、一体誰の事だというのですかっ!
 それに、優勝するのは私です!」

売り言葉に買い言葉、と言うのだろうか、ムキになって言い返す私にその女性は肩を竦め、首を振って見せた。

「…そういう所がお子様…甘ちゃんだって言うのさ。
 …まあ良いさ。今の内に吠えておくが良いよ、お嬢ちゃん…」

そうして、その女性はひらひらと手を振って外へ出て行った。

「…先程の発言は、予選への異論がなく、本大会への参加の意思の最終確認とみなさせていただきます……
 …では、こちらの場所へお向かい下さい」

私と女性の口論(にすらなっていなかったが)を冷静に聞き流していたらしい受付嬢が一枚の地図を差し出した。
…なるほど、予選は別の場所で行われるらしい。
それが分かれば、私も颯爽と踵を返し、予選会場へと向かって行った。



まだ会場入り口でウロウロしていた団員と合流し、予選会場へ。
予選会場は本戦と比べれば随分と粗末な会場で、権力者などでなくても真っ当ではない手段で観戦―――平たく言えば盗み見だ―――する事が出来るほどだった。

会場へ着くと小柄な男性が他の参加者―――年端も行かない少女は勿論の事、マーメイドと思しき女性やダークエルフであろう褐色の肌のエルフ、更には如何なる種族なのか、腕が四本もある少女までいる―――の間を駆け回り、なにやら色々と質問していた。

「亡き師匠に代わり、その名誉をしらしめんがために参加させていただきました」

何処かの店で店員をやっていればきっと良い看板娘になれるであろう、おっとりとした少女が男にそう答えている所を見れば、恐らくは何か一言ずつでも聞いているのだろう。
小柄な男は次の目標を新参の私に定めたようで、軽い足取りで向かって来た。

「これはこれは愛らしい黒髪のお嬢さん。
 宜しければお名前などお聞かせ願えませんか?」

仰々しくお辞儀しながら尋ねられれば、ついつい名前を教えてしまい。
その後は、やれどのような戦法が得意だだの(バランス良くどんな戦い方でも出来ます、と答えた)、どのような理由で参加を決めたのかだの(正直に答えるわけには行かないので、力試しだと答えた)、質問の嵐。
それにしても、さっきから落ち着きなく私の周りを回っているこの男性の視線が、まるで品定めしているようで良い気がしない。

…ので、最後に何か一言、と言われた時には

「……なんで、こんなにジロジロ見られないといけないんですか…!?」

不機嫌そうにそう答えておいた。
…しかし、相手もさるもの。

「…それは当然、お嬢さんが愛らしいからに決まっております。
 ……その、可愛らしくも何やら華麗な衣装に、美しい脚を際立たせるリボンなど、素晴らしい限りで御座います!」

などとお世辞を並べ立ててきたので、無遠慮だった視線は別として、悪い気はしなかったりした。



―――一部の、予選を免除された参加者(二連続優勝のアマール・セルティックアーツも当然その一人だ)を除いて全員が会場に揃い、予選の説明をするべく小柄な男が舞台中央に立った時だった。

「…貴族!セラフィック家の誇り、天才魔法使シナただいま登場!」

突然響く、観客席の最上段からの高らかな声。
魔法による照明を背にし、その姿は輪郭しか見えない。
……のだけれど、私はその声の主に思い当たり、額を軽く押さえ、溜息をついていた。

「…やや、その声は一体何処から!?」

声を張り上げ、うろたえる小柄な男。
声の主を直視しようとするも、照明のせいで見えないらしく、手で顔を隠している。

「…ふふふ、真の貴族とは世界の英雄!
 そして英雄は遅れてやって来るものなのだ……とうっ!!」

小柄な男とまるで芝居のような掛け合いをした後で、その声の主は客席から飛び降り…

「…翔べ、シナ!」

床に落ちる直前に極短の詠唱で魔法を発動させると、ふわりと飛び上がり、華麗に着地した。

「おぉっと!?
 …これは危ない!」

もっとも、着地地点には例の小柄な男がおり…

「きゃっ!?」

飛びのいた男はすぐ近くにいた、おとなしげな風貌の少女にぶつかってしまい、少女が倒れこみそうになる。

「危ないッ…!
 ……大丈夫ですか…?」

咄嗟に手を伸ばして支え、安否を尋ねると、少女は驚いたように瞬きした。

「ぁ…有難う御座います……」

申し訳無さそうに俯き、上目遣いでお礼を告げてくる少女に、私はゆっくりと首を振る。

「いえ、礼には及びません……当然の事をしただけですし……」

その言葉に、少女は目を丸くし、にっこり、という形容がピッタリな笑みを浮かべた。

(…へぇ、コイツってば良い子ちゃんなんだ〜……)

笑みの底でギラリと輝く瞳には、私はほんの少しも気付く事はなかった。



「―――シナさん、お久し振りです。
 ……相変わらず、ですね…」

先程の騒ぎの主である少女…シナ・セラフィックに歩み寄り、会釈する。
お互いの家柄ゆえに何度か交流があったのだけれど、昔から彼女は変わらない。
自信家で、深く物事を考えず、楽しい事を追求し―――そして優秀だ。
ひょっとしたら、私の中のお転婆な部分は彼女に触発されたせいかもしれないと思うほどに。

「―――お前…………誰だ?」

少女は振り向き…私の顔をまじまじと見詰めてから、思いっきり首を傾げた。
……そう、彼女は昔からこうだった。
自分の興味が湧かないものは、意識の内に入れないのだ。

……とは言え、忘れられたままだと悔しくもあって。

「…サヤですっ!
 サヤ・アーデルハイド!
 …昔、何度か一緒に遊んだじゃないですか…!」

…厳密に言うと、アレは『遊ばれた』の部類かもしれないけれど。

「……サヤ……ちょっと待て、今思い出す。
 …………ああ!お前、昔シナと魔ほ…」

「思い出したならそれ以上言わなくて良いですッ!」

あまり思い出したくないし思い出して欲しくもない出来事を口に出されそうになったのを感じ、慌ててその言葉を遮る。
…それに、彼女との会話で私の出自が他の皆に知られるかもしれない。
別に偽名などを用いているわけでもないのだけれど、彼女―――シナのように堂々と家名を名乗るつもりにもならなかった。

「…そうか。ならば言わないでおいてやる。
 ……ああ、それとな!
 サヤ、お前はどう頑張っても二番だぞ―――一番はシナだからな!―――」

そんな私の心境を知ってか知らずか、それとも興味が無いのか…
シナは腕組みすると、満面に自身の笑みを浮かべ、そう布告した。

……こうしてシナとの会話が一段落ついた所で、私は周囲の視線に気が付き、頭を下げて回る事になるのだった……

………ついでに言うと、シナは予選免除選手だったらしく、本当にあの登場がしたかった為に来ただけらしい………呆れて物も言えない。



―――紆余曲折あったけれど、いよいよ予選の説明が始まった。
…と言っても……

「…結局、本戦と変わりないって事さね。」

説明を聞き終えた後の、受付で口論した女性の一言で全ての説明が意味を為してしまった。
小柄な男は、その通り、なんとご聡明な!などと言っているが、お世辞にすらならない。

「まぁ、それはそれと致しまして……
 早速、対戦相手を決めていただきましょう!」

たった一言で説明をまとめてしまった女性の言葉に慌てふためきながらも気を取り直した男は、胸元から細い棒を取り出した。
…かなりの数があるけれど、これはもしや……と思っていると、再び男が口を開く。

「…そう、その通り!
 懸命なお嬢さん方のお察しの通り、対戦相手はこのクジで決めて頂きます!
 ……おおっと、もっとマシな方法はなかったなどと厳しい言葉は向けないで下さいませ!
 …こちらとしても予想外の事態ゆえ、敢えて…そう、敢えて!
 簡単な方法を取らせていただいておりますゆえに!」

…どうでも良いのだけれど、この男はこんなに声を張り上げて疲れないのだろうか……



―――クジの結果、それぞれの対戦相手が決まっていく。
…どうやら、先程幾つか言葉を交わしたおっとりした少女はダークエルフとの対戦になってしまったらしい。
…心配で遠くから見守っていると、風に乗って微かに会話が耳に入った。

「…わっ…私……お師匠様がどんなに素晴らしい魔法使いだったかを証明したくて…!
 ……お師匠様の墓前で優勝報告をして、安らかに眠って欲しいんです!」

「…そうなのですか……ご立派な心がけです……
 ……それに比べて、私は何と身勝手な参加理由なのでしょう……」

どうやら少女の大会の参加理由を聞いて、ダークエルフが感銘を受けているらしい―――邪悪な種族と言われているダークエルフだけれど、そうではない者もいるのだろうか―――

…そんな事を考えていると、背後に人の気配を感じ、思わず飛び退った。

「…おやおや、隙だらけだこと……
 …お嬢ちゃんは、他の子の心配なんかより、自分の心配をしてた方が良いってものさね……」

振り向けば、不敵な笑みを浮かべた女性―――私の予選の相手がそこにいた。

「…どのような状況であっても、人を気遣うのは当然の事です!
 ……それに、その言葉はそのままお返しさせていただきます!」

…女性の言う事は尤もだったのだが、その笑みや、悪人のような雰囲気を前にしては素直に頷けず、語気を荒げてしまう。

「……まあ良いさ…どうせ、予選が終わればお嬢ちゃんは私とも、この大会ともお別れなんだ。
 …お嬢ちゃんみたいなのは、その方がラッキーってもんさね…」

私の言葉を鼻で笑い、他の試合を観戦する為に観客席へと向かっていく女性…
その最後の言葉がやけに気になったけれど、結局私は言及する事が出来なかった―――

ちらり、と会話していた二人を見ると、試合前だというのに仲良くなってしまったのか、少女が持参した飴を仲良く食べていた―――



―――予選は進んでいく。
――強力な炎の魔法で対戦相手を薙ぎ払う女性。
――堅実に防戦に徹しながら矢に魔法を乗せて撃ち出し、相手の隙を突いていく少女。
――蝙蝠のような使い魔―しかしその正体は魔の眷属に違いない―を通して絶大な魔力を放ち、ひたすらに薙ぎ払う女性。
――申し訳程度に肌を隠し、精霊の力を借りて災害のような攻撃を繰り出す少女。
…などなど。やはり『裏の世界一の女魔法使い』の称号を狙うだけあって、皆強力で、そして一癖も二癖もある魔法使いばかりだった。
…中には、魚の形の光線を放つという、一際異彩を放つ女性もいた――マーメイドならではの魔法なのだろうか――し、逆に基本に忠実に、全体のバランスを取って戦う者もいた――私もその一人だけれど――



『―――さて、ではお次は…ルイーナ・レノリアス嬢とベオグラ・リビィ・エリス嬢のFightです!
 ……サプリーム・ソーサレス……レディ〜〜〜〜〜…Go!』

眼帯をした司会が、棍棒型の拡声魔導具を手に持ち、小指を立てて叫ぶと、おっとりとした少女――ベオグラ――と、ダークエルフ――ルイーナ――の試合が始まった。

…まずは一本目。
ベオグラが素早く呪文の詠唱を始め―――それに数瞬遅れてルイーナが詠唱を始め……この、数瞬が仇となった。
詠唱に要した時間自体はルイーナの方が短かったはずだけれど、開始したのが遅かったせいで一瞬早くベオグラの魔法がルイーナを捉えていた。

…そして二本目。
これはもはや勝負にならなかった。
お互い防戦を考えていたようで睨み合い、持久戦になるかと思った矢先。

「…きゃ…ッ!
 ク、クラーケン…!?」

突然ルイーナの従えている精霊―――恐ろしい事に、文献でしか見た事のない、海に棲まう大精霊『クラーケン』だった―――が実体化し、暴れ始めたのだった。

「…え、えぇっと……こ、こういう時は……」

オロオロと戸惑うベオグラだったけれど、結局は制御に集中して試合どころではないルイーナをベオグラが一撃し、ルイーナは気絶。
主人であるルイーナの意識が途絶えた事でクラーケンも消えていった。

「…申し訳ありません……私の参加の理由を考えていたら、心に隙が出来てしまったようで……
 ……ですが、いきなりあんなに暴れだすなんて……
 …ベオグラさん、試合の最中だと言うのに対処していただいて、有難うございました…」

意識が戻ったルイーナは観客に、そして何よりも事態を収拾したベオグラに謝罪していた。

「…い、いえ……私こそ、こんな形で勝っちゃうなんて……
 ……あ!…も、もし、さっきの飴がお口に合わなくて、体調悪くなっちゃったんだとしたら……」

けれど、謝罪を受けたベオグラも、不本意な形での勝利に後ろめたさを感じ、更にその原因を作ったのが自分かもしれない、という疑いすら抱いてしまっていた。
…このままでは、再試合でも申し出てしまうのではないか…そう思った時だった。

「…それはありませんよ…ベオグラさんも食べてましたし。
 ……それに、私ではさっきのように暴走するかもしれませんし……何より、ベオグラさんは暴走したクラーケンを止めてみせたじゃないですか。
 …それだけで、私なんかよりお強いですよ……
 …では、本戦、頑張って下さい…」

ルイーナがゆっくりと首を振り、ベオグラを激励すると、そのまま会場の外へと歩いて行った。

「……ルイーナさん……
 …まだ、体調悪そうだったのに……また、さっきみたいに暴走したら、ルイーナさん、危ないんじゃ……」

その言葉に感動したのだろう。瞳を潤ませ、鼻から下を手で覆いながら、ベオグラはルイーナの事を案じていた―――



―――さて、いよいよ私の出番がやって来た。
相手は受付で出会って以来ウマが合わない女性――ヴァス・ルダガーと言うらしい――だった。
闘技場の両端に立ち、睨み合う私とヴァス。
開始の合図を今か今かと待ち……

『……サプリーム・ソーサレス……レディ〜〜〜〜〜…Go!』

―――戦いの火蓋は切って落とされた。



―――まずは、私が最も得意とする、速攻戦術。

「…善なる神よ、その力を此処に…
               …我が敵に光の鉄槌を―――!」

詠唱と共に掌を突き出し、対面する女性に光の鉄槌と表現される衝撃を放った。

―――筈だった。

「かふ…ッ…!?」

しかし衝撃は私を襲い…

(…身体を…いえ、精神を操られた……!?)

倒れ伏し、状況を理解した私の目前にヴァスが歩み寄っていた。

「…おやおや、遅いったらありゃしない……今時、亀でももうちょっと早いモンだけどねぇ…
 …そうそう、一つ言っておいてあげるけど…私のこの服装はね…お嬢ちゃんみたいに男の気を引く為じゃなくて、少しでも詠唱と動作を素早くする為なのさ……」

完全に見下した言葉と態度。
私だって、素早い動きの為にこのような服装をしているわけで……彼女の言うような理由はこれっぽっちもない。
…なのに、今その服装を…私の誇りである制服を卑下されて…

「…おや?まだやるのかい?
 ……結果の見えた勝負なんざ、やっても意味は無いと思うんだけどねぇ……」

ゆっくりと立ち上がり、睨みつける私を見て、ヴァスは不機嫌そうに眉を顰めていた。



―――速度では、完全に劣っていた。
ならば、その速度を捨て、相手の速攻を防ぎ切ってしまえば良い。
そう決めた私は、相手の精神攻撃に抵抗する為に心を閉じた。


……
………

一向に来ない攻撃。
意識を外に向けると、相手も同じように魔力を防御に回していた。

「…ッッ…いきなり防御に徹して……貴女こそ、亀じゃあないですか…ッ!」

「…フン、用心深いと言って欲しいねぇ…!」

予想外の展開にそんな言葉を漏らした私に、鼻で笑うヴァス。

お互い、残った魔力を放ち……

「ちぃ…ッ……小癪な…」

魔法同士の火花が散った後で、ヴァスは片膝をついていた。
その瞳に燃えるのは、屈辱を払拭しようとする闘志。
…その瞳に密かに背筋を震わせながら、私はゆっくりと告げた。

「……次で、決着です。
 ……貴女には、まだ結果は見えていますか…?」



―――そして雌雄を決する最後の一戦。
開始の合図と同時に、強力な念がヴァスに集まっていくのが肌で感じ取れた。
同様に、私も魔力を集中させ、高めていく。

「―偉大なる方、我らが神よ
 ――汝が僕、神聖なる巫女に力をお貸し下さい
 
 ―偉大なる方、我らが神よ
 ――汝が僕、神聖なる騎士に力をお貸し下さい

 ――その善なる光を我が矢とし
 
 ――その善なる光を我が槍とし

 ―――我が敵を射たせ、滅ぼし給え―――
 
 ―――我が敵を貫かせ、滅ぼし給え―――」

巫女としての祈祷と神聖騎士としての祈願。
同じ対象に対する二種の祈りを同時に紡ぎ、二つの祈りを一つに結びつける。

―――即ち、矢を槍とし、槍を矢とする。

光の矢にして光の槍が対戦相手へと放たれると同時に、私の心を飲み込まんとする、蛇の形をした念が喰らいついてきた―――



『―――勝者!
       サヤ・アーデルハイド!』

響き渡る声に、私はほっと胸を撫で下ろした。
倒れ伏したヴァスに私は歩み寄り…

「…先程とは、立場が逆になってしまいましたね……」

相手を見下したりはしない。
その場に膝をつき、そっと手を伸ばす――助け起こすように、健闘を称えるように。

「そ…んなバカな…こんな…こんなところで……!」

しかし彼女は手を取らず、握った拳で床を何度も殴りつけていた。
その様子があまりにも辛そうで―――私は、最初に抱いていた、彼女への敵愾心をすっかり忘れていた。

「……貴女にも事情があったみたいですけど……残念ながら、勝ったのは私です。
 ……貴女の目標を遮ってしまって、ごめんなさい……」

私にはそれだけしか言えず…出来る事も、頭を下げる事しかなかった。

―――永遠とも思えるほんの僅かな時間が経つと、私とヴァスは舞台を降りて行った―――



「―――お嬢ちゃん―――いや、サヤ。
 …あたしの目標は、アンタに譲ってあげるよ……どうやら、目的は同じらしいしね…」

会場を後にするヴァスを見送ろうとした所で、唐突にそう告げられた。

「……え……?」

突然の言葉に、心臓が止まりそうになる。
勿論、私の目的は此処に来てから誰にも話していない。それなのに……

「…どうして分かるの?って顔をしてるねぇ……良い顔だよ。
 ……なぁに、最初と最後にチョイと、ね……」

にやり、と笑うヴァス。
彼女の魔法は対象の意識に干渉するもので……

「……ま、まさか…『読んだ』のですか…ッ!?」

頬が紅潮する。
無論、気恥ずかしさではなく怒りで。
…でも、それも当然……ひた隠しにしなければならない理由をあっさりと知られてしまったのだから。

「…ふふ。怒らせたようだねぇ。
 ……でも、あたしとしてはその方が良いね……自分を蹴落とした相手と仲良くなるなんて気持ち悪いったらありゃしない…」

再び、にやりと笑われて。
しかしそれもすぐに真剣な表情に変わる。

「…アンタみたいな甘ちゃんは大嫌いだから、忠告は一つだけ。
 ……もう、アンタは逃げられない。勝つしかない。
 ………それだけが、この呪われた大会で助かる、一つの方法さね…
 …せいぜい、頑張りな―――」

一方的に忠告をすると、後は何の質問も許さず…
ヴァス・ルダカーは会場を後にした―――



「―――さて、予選を勝ち抜かれた皆様、まずは本戦への出場おめでとうございます…」

ローブに身を包んだ、運営委員会の役員と名乗る人物が重々しく口を開く。
…瞬間、背筋が震えた―――気がした。

「…それでは、改めて本戦会場へとご案内させていただきます……」

足音もなく先導する役員。
その後をついて行くと、不意に、前も後ろも暗闇に包まれ、帰り道が消え去っていく感覚に襲われた。

―――前方は魔窟。
―――後方には既に何も無い。
―――頭上には星も無く、足元には奈落が口を開けている。

―――これが、呪われた大会の、真の始まりだった―――



―――ATOGAKI―――
どうもこんばんは、Χ(と書いてカイと読む)です|*゚Д゚|┛

SSで人様のキャラを動かすのは滅茶苦茶難しいと思い知った所ですが、それについて個人的な言い訳(?)を。

ヴァス・ルダカー嬢:予選に於けるライバルキャラと想定。理由はサヤが『プレロールド代理キャラ』であり、本来はきっとサヤの位置に彼女がいただろうから。
          NPCというかDPCさんのキャラなので本当はあまり気兼ねなく動かして良かったのだろうけど、口調とかに気をつけ…結果、なんか姑みたいに(´Д`)

ベオグラ・リビィ・エリス嬢:赤本でもちょっかいをかけて来るので(笑)、その元凶となったイベントを用意してみました。
              動かしやすくて楽しいけれど、逆にやりすぎるのが怖くて自重自重。
              予選での戦いも腹黒さ全開に違いない、ということで一つ(爆)

シナ・セラフィック嬢:赤本では全く絡みが無かったけれど、同じ高貴な血筋、という事で絡めてみました……あと、決勝戦後のサヤ陵辱の伏線の為、というのもあったり(笑)
           なんだか頭悪い子みたいになっちゃって親御さんには申し訳ない(´・ω・`)

ルイーナ・レノリアス嬢:PLがリアル知人なので全く気兼ねなく動かしました(爆)
            会場出た後でクラーケンにたっぷり可愛がってもらって下さい(☆Д☆)

では、次回よりいよいよ本戦です…生暖かい目で見守って下さい(´・ω・`)ノシ