THE SURPREME SORCERESS RED〜Side:S act2〜
―――PROLOGUE―――

―――あの神託から数ヶ月が経った。

アリクス以下、若い騎士達はゆっくりとだが、確実に、そして内密に調査をしてくれているようだった。

そもそも、何故内密に、だったかと言うと―――

「…やっぱり、神託っていう曖昧なものだけを判断基準にして、『ユニカンで禍いが産まれそうだ』とか言うのは言わない方が良いんじゃないです?
 下手すりゃ言いがかりだー、って言われて国際問題だし……あぁ、俺達は姫様の神託を信じてますよ?
 …ただ、他所の国じゃあそうじゃないでしょうしね…」

という、アリクスの尤もな意見だった。
ちなみに、この敬っているのだかいないのだか良く分からない口調は「同僚として親しみを持ちつつも、やはり神託による行動だから姫様として扱わないと」という配慮だかそうでないのか良く分からない理由によるものらしかった。



そして今…昼の訓練が終わった後で、騎士団の休憩所の一つに私達は集まっていた。
狭い室内に若い騎士が集まり、只でさえ暑苦しいというのに、話が外に漏れないように、と扉も窓も締め切って、部屋の中は鬱陶しいくらいの熱気と、吐き気を催すほどの汗の匂いが充満していた。

…正直、こんな状況で不平も言わずに集まってくれる皆には頭が下がる思いだった。
……私なら、自分に関係が無ければこんな状況はお断り。

「……えー、まずは姫様…ユニカンで一年に一度、世界最高の魔法使いを決める団体戦があるのはご存知でしょうか?」

訓練で乱れた息を整えながら、騎士の一人が尋ねて来た。
じっとりと汗ばむ喉元を布で拭きながら、私も負けじと息を整える為に深呼吸し、頷いた。

「ええ、それは知っています。
 ……でも、それが禍いの元だとは考えられないのだけれど……」

これでも、その大会に参加してみようか…と思った事もあるぐらいだ――尤も、私は団体戦というのが苦手なので結局断念したのだけれど――その大会がどういうものかは知っている。
国の内外を問わず集まった権力者や、魔法に興味のある一般人の見守る中での、魔法使い達の団体競技。
幾ら世界最高の称号を得られるとは言え、そのような舞台で――多少の不正はあるにせよ――禍いと言えるほどのものが産み落とされるとは考えにくい。
そう判断した私はすぐに首を横に振り…鼻腔をつく汗の匂いに顔を顰めた。
……王女とて汗は当然かくけれど、この密閉された部屋の中に自分の汗の匂いも漂っているかと思うと、やはり恥ずかしい。
………早く水浴びをしたいなぁ…などと思っていると、別の騎士が私の言葉に対して首を振っていた。

「姫様は、結論を早々に下そうとしすぎですね……まあ、最後まで話を聞いて下さい」

苦笑混じりの言葉に、小さく唇を尖らせる。
私が早々と結論を下そうとしてるんじゃなくて、周りが回りくどい言い方をしているだけなのに……

「……ご忠告有難う。それで…?」

…ただし、私はあくまで平静を装いながら腕組みし、頬を膨らませながら続きを促した。

「……はい、それでは……」

こほん、と咳払いをし、制服の襟を緩めながら最初の騎士が説明を再開した。

…なるほど、そうすれば熱気も抜けていくかも……と、同じように指で襟元を緩める。
……でも、やはりあまり行儀が良いとは言えない行動だったらしく、その瞬間騎士達の視線を浴びてしまった。



説明は、大雑把に言うとこうだった。

私が知っていたのは表向きの大会であって、一部の有権者の間で『裏の世界一の女魔法使い』を決める大会が極秘裏に行われている―――その名はサプリーム・ソーサレス―――
その大会の優勝者はあらゆる富と名声と栄光を手に入れる事が出来る。

……なるほど、確かにそのような極秘の大会ならば不正も行いやすいだろうし、優勝者への報酬も、人の目を眩ますには充分だと言える。

…ただ、やはり禍いが何か、までは分からなかった……神託を受けるほどの事なのだから、当然といえば当然だけど。



…と思っていたら。

「ちなみにもう今年の大会は終了してまして…優勝者はアマール・セルティックアーツ……何でも二連続優勝且つ史上最年少サプリーム・ソーサレス――あぁ、優勝者の称号です――らしく、次回にも参戦予定らしいです。
 ただ、数百年続いてる大会の中でも連続優勝者なんて殆どいないらしいんですよね…」

いかにも怪しい話が続けられた。

……そもそも、そんな大会が数百年も続いているという事自体頭が痛いのだけれど、それは置いておくとしても、その優勝者には違和感を感じた。

「……なるほど…大会も充分に怪しいですが、その優勝者も怪しいですね……
 …ひょっとしたら、その双方が禍いの源かもしれませんし…一番確実なのはその大会に出て、調査と同時に解決する事、でしょうか……」

口元に手を当て、考え込む。
すると、騎士達から「さすが姫様だ!」などとどよめきが起こった。
同時に期待に満ちた眼差しを送られ……これだけの期待を抱かれていたのだ、と思うととても誇らしく思えた。

…ただ、その前に一つ気になる事が。

「あ…その、大会、って言う以上はルールとかがあると思うのだけど……そこは、分かってますか…?」

裏の大会である以上、血で血を洗う凄惨な戦いかもしれない。
だからと言って漸減を撤回するつもりは無いけれど、そのような事は早めに知っておいた方が心構えをしやすい。
また、例えそうでなくてもルールが分かれば、そのルール内での勝利を目指す為の訓練も出来るし……

「あー…細かいルールは毎年変わるらしいけど、年に一回、ユニカンで行われて、女性のみに参加資格があるらしい。
 予選があって、本戦には16名だけ出場可能、本戦はトーナメント形式。
  んで、各試合最大で三回戦。各回戦に一回のみ魔法を使えて、先に二試合勝った方が次に進める…と。
 ちなみに特殊な防護結界によってさっき言ったような魔法の回数制限が設けられている上に、死者が出ない程度に威力も抑えられるんだと。
 ……まぁ、あとは試合は公然と賭けの対象になってるらしいな。
 ―――はい、ルール説明は以上。」

口を開いたのは、今まで押し黙っていたアリクス。
…まったく、調査に一番貢献したらしいんだから、説明もちゃんと自分でやれば良いのに……と思っていたのだけど、どうやらちゃんとその辺はわきまえていたらしい。

「なるほど……って、賭けですって!?」

ふむふむ、思ったよりも健全なルールかも…と頷いていたものの、最後に告げられた言葉に驚き、顔を上げる。
他の騎士も同じようにざわつき、アリクスに何か言おうとしていたが、彼はそれを手で制して口を開いた。

「……まあまあ、一応極秘裏にやってる大会なんだし、賭けぐらい仕方ないだろ?
 …それとも、姫様は賭けの対象にされるのはお嫌かな?
 ……俺達がこんなにも姫様の勇姿を期待しているって言うのに……」

にやり、と不敵に笑う。
随分と不敬な物言いのような気がするのだけど、いい加減、この暑さと匂いへの我慢も限界だったので、敢えて聞き流し、皆を見回してみる。

先程のアリクスの言葉で静まり返った皆は、やっぱり私と同じように暑さと汗の匂いに耐えているのだろう…少し疲れたような、焦点がぼやけているような目で、それでも私に期待の眼差しを送っていた。

……さっきも思ったけれど、これだけの期待を寄せられれば誇らしさは増していって……

「……べ、別に賭けの対象になるのは結構です……正直、嫌な気分ですが……
 でも、大義の為ならそこにも目を瞑りますし……
 …それに、皆の期待にだって応えたいですしね…」

肺に溜まった熱気を溜息にして出しつつ、皆に微笑を向ける。

再び湧き上がるどよめき。

…なるほど、象徴ってこういう事なのかな……となんとなく納得しながら、熱気に包まれた休憩室を後にしようとし…

「…そう言えば、何で女性だけの大会なの…?」

ふと、そんな疑問を口にした。

「やっぱ、男の魔法使いよりも魔女の方が神秘的だ、とか畏怖すべき存在だ、とか言うイメージがあるからじゃないかな?
 ……それに、男が出たらサプリーム・『ソーサレス』じゃないだろ?」

……なるほど、よく分かったような、分からないような……

―――そんな私の思考を読んだのか、返答したアリクスはにやにやと、やっぱり不敵で不敬な笑みを浮かべていた―――



―――ATOGAKI―――
どうも、Χ(と書いてカイと読む)です|*゚Д゚|┛

一向に本戦に入らない&エロも無いわけですが【ごめんなさい。】【許して下さい。】(´・ω・`)
一応色々とシチュは考え付くのですが…こう、そのシーンだけ書けないのがストーリー物の辛い所ですね(´Д`)

次回辺りで本戦に入れれば良いなぁ……でも、予選も書いた方が良いのかなぁ……