名も無き者たちへのレクイエム    −−−マーベラス・メイガスの闇に瞬く星くず−−− byMORIGUMA  人気の無い山道、薄暗い森、 そういう場所では『静けさ』や『清らかさ』より、 心細い思いをする方が圧倒的に多い。 それは、『無法』や『暴力』が大手を振って歩ける場所、 という意味をもつからだ。 ハチミツ色の髪をした、青緑の瞳をした女性は、見かけは16〜7歳。 上品で美しい顔立ちに、不安そうな色を浮かべ、時々あたりを見回す。 皮の長いブーツに、若草色のスカートと上着をつけている。 160センチほどのスラリとした身体つきながら、胸は可憐なふくらみを見せ、 腰のしなやかさは、その下のむっちりとした盛り上りを想像してしまう。 「あんさんら、何か用でっしゃろか?」 もう一人の女性が、近くのヤブに向ってたずねた。 身長は片方より10センチほども高く、ひどく細く見える。 艶やかな黒髪を、後ろ頭で三つ編みにして長く垂らしている。 水夫がよく着るようなひどくエリを強調した青と白の服は、 セーラー服と呼ばれる上着だ。 スラッと細い身体は、現代のモデルのような妖しさがある。 折れそうに細く見える腰に、長い剣を吊るし、 短い硬そうなブーツへ、黒皮のミニスカートから、 細長い足がにゅっと突き出している感じだ。 だが、細そうに見える足は、よく見ると細かくしなやかな、鍛え上げた筋肉が包んでいる。 彼女も顔立ちはいいのだが、目つきがつり目気味で鋭い上に、 それを強調するかのような、三角のメガネをかけていて、 睨まれたらたいていの男は、腰が引けそうである。 見かけは18歳前後だろうか。 コテコテのひどくなまりのある言葉に、 ヤブをがさがさ言わせながら出てきた連中は、 子供が泣き出しそうな、獰猛、凶悪、不細工男。 「ほー、よくわかったじゃねえか、女。」 磨いたナタを舐めながら、鼻にみっともない傷跡のある男が、 血走った目を向ける。 その後ろからも、五人ほどガサガサとヤブをこいで出てくる。 どれも似たり寄ったりの、みっともない顔つきや、 獲物が若い女二人という幸運に、ニヘニヘよだれまで垂らしているのもいる。 「そら、そないに殺気を漂わせとったら、 そこらのハナタレボウズでも分かるわい。」 元々、こらえ性の無い単細胞、後ろの連中が頭に血が上りかける。 「へらず口を叩いても、誰もここにゃあ助けに来ないぜ。 その口で泣き喚くまで嬲ってやらぁぁぁ!。」 何の考えもなく、いっせいに獲物をふりかざして、飛びかかる。 ドガアアァァァァァン! 土煙と轟音が、森の静けさをぶち破る。 強力な火炎球が、連中の足元に大穴を開けていた。 後ろにいたハチミツ色の髪の女性が、 光を帯びた、曲がりくねった杖をふりかざしていた。 黒髪の女性が、話しているほんの数秒で、 強力な火炎球を作り出せるほど、強力な魔法使いなのだ。 一瞬、驚愕した男たちの足が止まる。 その後ろ頭を、長い黒い剣が容赦なくぶっ叩いた。 白く細身の脚線美が大地を深く穿つ。 黒髪の女性剣士は、瞬間移動かと思うほどのスピードで、 男たちの後ろに回り、その無防備な頭をドツキまくる。 長い脚が大胆に動き、短いスカートがひるがえる。 青い下着が、鮮やかにひらめいたが、誰も気づく暇すらない。 黒い剣は、切れ味より打撃中心、 鎧の上から相手を戦闘不能にする兵器だが、 頭がそれにもつかどうか、考えるほど優しい性格はしていない。 中身がはみ出しているのもすでにいる。 「こっ、このくそあまああっ!」 最初に出てきた、ナタをもった不細工な大男が、 意外な身のこなしで振り返るが、 沸騰した頭は、大事な事をすっぽり忘れていた。 「雷撃(モノヴォルト)」 後ろからぽそりとつぶやいた優しそうな声は、 容赦のカケラも無い凶悪な電撃を、男の背中に撃ち込んだ。 「ひっ、ひきょうものおおおぉぉぉ・・・・・・」 「リサちゃん、どお?」 ハチミツ色の髪の女性は、優しそうなおっとりした声で、 黒髪の女性の手の動きを見ていた。 「う〜ん、しけてまんなあ。 男やったら、もうちびっとしっかりかせいどかなあかん。」 ふんじばった男たちを容赦なくかっぱぎ、 財布や用心金(隠し金)を、下着まで剥いでぶっこぬく。 「て、てめえら、鬼か・・・」 全身火傷の、雷撃をくらった男が、苦しそうに恨めしく睨む。 「鬼はどっちゃやねん。 か弱い女二人を武器持って襲うようなアホに、いわれとう無いわ。」 まあ、『か弱い』かどうかは異論もあるだろうが、 確かに、山賊や追いはぎに人権は無い。 「リサちゃん、やめなよ。こんなのと話すと口が腐るよ。」 「なんだと、この、腐れアマっ・・・」 バグッ 「マリサ様に、そういう減らず口を叩く顎はいらへんな。」 顎をぶち割られ、のたうち回る男は、マリサとリサという名前から思い出した。 『こっこいつら、手配書のジャコメッティ・フレア・マリサと、ヤドウ・リサ?!』 先日、戦争で潰されたジャコメッティ家から、 長女のマリサと、海軍司令官、ヤドウ・ブレアスの一人娘リサが逃亡し、 かなり高額の賞金がかけられていた。 『見てろよ、追い詰めて、殺してやる。それもひざまづいて、泣き叫んで、絶望して、 生まれ変わっても忘れられねえぐらい、ぶちのめしてやるからなあぁぁ』 「リサちゃん、ごくろうさま。もう用済みよね、こいつら。」 リサが下がると同時に、 マリサのやわらかそうな唇が呪文をつむぎ、曲がりくねった杖が妖しく輝く。 男たちの足元が消えた。 地の精霊は、命じられるままに、5メートル四方はありそうな大穴を作った。 うぎゃあああっ、 悲鳴は、地の底に消えて、とどめと穴も瞬時に柔らかい土が覆ってしまった。 「さあ、行きましょう、お嬢様。」 リサはわずかに痛ましげな目をしたが、 その光はメガネのレンズが、うまく隠してくれた。 マリサは、今の悲鳴が聞こえなかったかのように、 楽しげにハミングしながら、リサの手を握り、 わずかに視線を漂わせながら、歩き出した。 「次は、おいしいスープのある所がいいなあ。」 心のどこかを、別の場所に落としてしまったかのような、 童女じみた言葉だった。 殺戮と戦闘、そして破滅の重圧は、マリサの心をほんの少し壊してしまっていた。 木の陰が、もぞりと動いた。 影が分かれるように、黒いフードをかぶった男が現れる。 気配や音、姿を見せぬようにする『隠密』の魔法を解いた。 「ふうむ・・・、なかなか良い素材ではありませんか。 あれなら、マーベラス・メイガスに参加させるのにもふさわしい。」 妖しく光る目が、マリサの麗しい姿を再現する。 『スカウト』と呼ばれる、 大陸全土に散って参加者を招き寄せる命を帯びた者。 美しい女性で、魔法や外法に才能のある者を、 マーベラス・メイガスと呼ばれる祭典に、 『いかなる手段を使っても引きずり込む』非道な詐欺師たち。 「ただ、あのサキという娘は、ちょっと邪魔ですねえ。」 金や名誉で招いても、彼女が反対するのは、火を見るより明らかだ。 サキには魔法や外法の能力は一片も感じなかった。 ただ、あのメガネ。 ある種の呪力を与えてあるようだ。 『隠密』の魔法は感知されなかったところを見ると、 持ち主から考えて、どういう能力か、ある程度察しがつく。 「ここはまあ、別の役者に役立っていただきましょうかね。」 クスリと笑うと、黒い燐光を放つ杖を、地に突き立てた。 おぞましい波動が、あたりを満たし始めた。 「はあ、はあ、はあ」 泥沼のような暗闇の中、マリサは必死にあがいていた。 生臭い、鉄サビのようなにおい、 それは血のにおいだが、“今の”彼女には分からない。 ひどく蒸し暑い、見えない闇。 身体が、すべり、転び、起き上がれない。 闇が無数の手になり、彼女をからめとり、 引きずり倒した。 泣いた、叫んだ、 必死に抵抗しようとした。 だが、か細い彼女の手足は、 無数の無骨な手足に押さえつけられ、 軋み、悲鳴を上げるだけ。 耳障りな布を引き裂く音、 羞恥と、それ以上の恐怖が、 彼女に悲鳴を上げさせ、そして、殴られ、殴られ、 意識が朦朧となる彼女の、真っ白な肌を晒していく。 青みすら帯びた白い肌が、剥き出しになる、 豊満な胸が震え、艶やかな尻肉がおびえてくねる。 青緑の瞳が見開かれる。 『だ、だめっ、やめてえっ!』 身体にまといつく無数の手、 だが、彼女の悲鳴は、押さえつけられ、くぐもり、 闇に吸われた。 「んうっ!、んんんっ!、んふうーーっ!!」 無数の黒い影が、細い裸身を囲み、嬲っていた。 肌が痙攣する、 嫌悪と、恐怖が、必死に痛みに抵抗する。 そうすればするほど、 おぞましい動きが激しくなる。 乱れたハチミツ色の髪が、白い肌に散り、 泣き叫ぶ悲鳴に、動きが激しさを増す。 破瓜の血が滴り、肌が赤みを帯びて痙攣する。 うめきと痙攣が、細い胴に突き刺さり、 のけぞる顎が、うめきを押し込まれるペニスにふさがれる。 ドクンッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、 気持ちの悪い感覚が、体の芯を焼き焦がし、 おぞましい味と感触が、口と喉を強姦する。 口いっぱいに広がり、無理やりにねじ込まれ、 息がつまり、喉に押し込まれていく。 下腹の引き裂かれるような痛みが、 さらに深く、膨張し、そして、奥底にねじ込まれて吼えたける。 「んっううう〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 かすかに、しかし必死に身じろぎする、 ドビュグッドビュグッドビュグッ マリサの胎めがけて、オスのザーメンが立て続けに注がれ、 うめく脚をさらに広げ、中に突き刺し、また射精する。 小ぶりな尻を、グイと広げ、アナルのすぼまりがミシミシと犯される。 「やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめてぇぇぇぇ!!」 白目を剥いて痙攣する裸身を、歯が噛み、指がえぐり、ペニスが貫く。 未体験の衝撃に、もう何もかもが分からなくなる。 痛みなのか、悪寒なのか、 吐き気が何度も喉を突き上げ、 豊かな胸が滅茶苦茶につかまれ、握られ、搾り出され、 何度も、泣いた、何度も。 「き、きっさまらあああああああっ!」 誰かの咆哮が、彼女の悪夢の終わりを告げた。 「ひ・・・っ、やっ・・・、り、リサちゃんっ!、たす、たすけ・・・」 「しっかり、しっかりしい、あたしはここや、ここにおる!」 闇、だけれどそれは、暖かい闇。 人の肌の暖かさと、甘い匂い。 柔らかいベッドの中で、 悪夢が、溶けるように消えていく。 ちょっと筋肉質だが、豊満な胸に、 マリサの小ぶりな頭は、しっかりと抱きしめられていた。 「あ・・・」 青緑の瞳が、闇の中に濡れて輝いた。 「リサちゃん・・・リサちゃん・・・」 柔らかな頬が、柔らかな膨らみにこすりつけられ、 繊細で小ぶりな乳首が、幾度も刺激を繰り返す。 「怖かった、怖かったの・・・」 闇に感謝しながら、リサはいとおしげに抱きしめる。 頬が熱い、赤く染まっていることだろう。 マリサは子供に返ったように、リサの乳首を吸い、 それでいながら、深く絡み合わせた太腿を、 細かに、飢えたように、こすり付けてくる。 リサの細い耳に、熱い吐息がかかり、 薄い唇と、細い蛇のような舌が、いやらしげに這い回る。 ベッドが軋み、熱い喘ぎが、二人の唇を濡らす。 それが絡み合い、すすりあい、銀の糸を引き、再び絡み合う。 もう幾晩、こうして肌を重ね合わせただろう。 細い指先が、体の隅々までまさぐり、 蛇のような舌が、肌のあらゆる快感を探り出し、 細く淫らな絶叫を、何度も、何度も、交し合う。 ハチミツ色の髪が、白い肌に張り付き、 黒い乱れ髪が、引き締まった腰をつたい、 お互いの秘所に顔をうずめ、激しくもつれ合い、求め合った。 何もかも忘れ、今だけは幸せに浸れるように。 ガタッ、ガタガタガタッ、メキッ! ドアが凄まじい音を立て、太いかんぬきが悲鳴を上げた。 バギッ、メキッ、バリバリッ かんぬきごと、へし折られ、ドアが破られる。 ヌッと黒い影が、ドアの残骸をくぐった。  ズドッ その眉間の辺りに、細いナイフが深々と刺さった。 「女の部屋に、なんちゅう入り方すんねん・・・」 柳眉を逆立てたリサが、 押し殺したような声でつぶやく。 すでにセーラー服とスカートにブーツは、身に着けている。 その後ろで、マリサがあたふたと服を着込んでいる。 だが、男は倒れもせず、手を頭に上げた。 ぎょっとしたリサが、メガネにこめられた魔法『暗視』を開放する。 この魔法は、暗闇を見やすくするだけでなく、 霧や雨も、かなり視界を広く出来る。 そいつは、額に刺さったナイフを、 少しも痛そうでなく、無造作に引き抜いた。 鼻に、みっともないキズあとがある。 「あっ、あんた、昨日の?!」 男は、ギラギラしたナタを、ベロリと舐めた。 『まずいっ!』 ブン・・・ッ 凄まじい音をたてて、ベッドやテーブルがぶった切られる。 ぎりぎりで、かわしたが、髪の毛が何本か舞った。 狭い室内では、リサの長刀は役に立たない、 逆に、短いが肉厚で切断力のあるナタは、 接近戦では恐ろしい武器となる。 ギャリィン 2撃目はかわせず、カトラスで何とかしのいだが、 まともに当たれば、絶対にもたない。 しかも、こいつは生者じゃない。 致命的な一撃を見舞おうと、男が前に出た瞬間、 リサは足元の小さなイスを、滑らせるように蹴飛ばした。 イスの脚が、男の足に絡み、不恰好に倒れる!。 カトラスで、床に男の腕ごと指し通した。 もちろん、ナタを持つ手だ。 もう一本の腕も突き刺す。 死人は痛覚の無いのが、長所でもあり欠点でもある。 何をされたのか分からず、じたばたあがき、 自分で自分の腕を引き裂いていく。 「雷光破!」 ようやく事態を理解したマリサが、 浄化作用のある雷撃系の魔法を放った。 本当なら、火炎系の呪文で灰にしたいところだが、 宿の中では、そうはいかない。 しぶとい死人は、3発目でようやく動かなくなった。 「お役人様、こちらです。」 宿の主らしい声が、今頃になって、 どやどやと役人や衛兵を引き連れてきた。 他の部屋の者は、騒ぎを恐れてか、顔も出さない。 「お前たちか、騒ぎを起こしたのは。」 役人のキンキン声に、頭が痛くなる。 「はうう・・・まったくもお、勘弁してほしいでぇ」 主に、文句の一つもぶちまけてやろうと思ったが、 次の瞬間、耳を疑った。 「この部屋は、大柄な男の旅人が一人でお泊りでした、  ウザラ・ディ氏と宿帳にお名前が。」 後ろからいくつもの灯りが、部屋の中の惨状を照らし出し、 煙った部屋と、床に黒こげでずたずたの男の死体。 役人や衛兵は肝を潰し、騒然となった。 「なんと、この女たちは賊か!」 「な、なんでやねんっ!」 だが、あまりの惨状に逆上した役人たちには、 彼女たちの声など聞こえない。 「取り押さえろ、殺してもかまわん!」 雄叫びと、金属音、そして、 ドカアアアアンッ 爆発音とともに、宿が炎上した。 窓をぶちやぶって、二人は必死に逃げた。 「追えええっ!、逃がすなああっ!!」 「ふむ、いい具合ですね。」 黒いフードの『スカウト』が、逃げていく二人を見ながら、 ニヤニヤとわらっていた。 この男、同じ宿の別の部屋に泊まっていたのだ。 リサたちに殺された男の妄執を利用し、 『生きている死人』の術で襲わせたのも、 この騒動を組み上げたのも、もちろんこいつだ。 これで二人は、戦争の手配書だけでなく、 重罪人としても、追われることになる。 もはやだれも助けてはくれまい。 人間、追い詰められればワラにもすがる。 マーベラスメイガス優勝者には、様々な恩典が与えられ、 どんな罪の帳消しも可能だ。 “いちかばちかで、マーベラスメイガスに”と誘導するのは、 『スカウト』にとって、赤子の手をひねるよりたやすいことだ。 「おいっ、あんたっ。これじゃ俺が大損じゃないかっ!」 宿の主が、顔を真っ赤にして走り寄って来た。 金に目がくらんで、宿帳を書き換えたのはもちろん主だ。 「すぐ終わるとか言いやがって、どうしてくれるんだっ!」 「やれやれ、わかりましたよ。追加料金ですね。」 強欲な主は、追加料金と聞いて、ちょっと口を止めた。 フードの袖が、キラリと光り、主の喉に深々と突き刺さる。 「死人に口なし、いい言葉ですね。  ついでに、あの二人の罪に、宿の主も追加と。」 火事の騒動で、だれもその声は聞こえなかった。 FIN