泡沫

byMORIGUMA


「今さら、私に何をしろと?」
ひどくけだるげな顔だった。
勇猛果敢にして、豪胆不敵、白兵戦の強さでは先代グリューネすら凌いだと噂される片目の女騎士、シルヴィア。

司教であり、マジェスティックアサルトの協力者であったオルフェナは、新皇帝の意思もあり、元の仲間たちを必死に探し回った。

しかし、今、目の前にいるのは、だらしなげな下着姿で、恥ずかしげもなくソファに体を投げ出した、一人の娼婦に過ぎなかった。

言葉の中に潜む、投げやりな、あきらめきった意思。
オルフェナは、それを敏感に察し、言葉を失った。

見れば、まだまだ、その身体には、猛獣のごとき力が眠っている。
垣間見せる知性の輝きは、難事の多い新政権を、巧みに動かせるだろう。

だが、オルフェナの驚くべき共感力、相手の心底を感じ取る力は、
その心が折れていることを悟った。


真っ暗な闇の中で、血のような雫を零しながら、折れ倒れた巨木、そのイメージが、オルフェナに流れ込んでくる。

『このまま朽ちたい』
『折れた傷を継がれる痛みは、耐えられない、ほおっておいてくれ』

墓場の風のような呪詛が、闇の中を風と化して、渦巻いていた。
冷え、凍えていく寒さだった。

かつて、自分にも吹いていた風、それがシルヴィアの中に吹き荒れ、止もうとしない。
心が凍りつき、闇に飲まれていく。
闇の中の記憶が、怒涛のようにシルヴィアに流れ込んでくる。


「すまんな」
シルヴィアは、そう声をかけて、オルフェナの意識を引き戻した。
心を読む能力はないが、シルヴィアの心の動きぐらいは、手に取るように分かる。
むぞうさに、彼女を闇から引き戻した力は、かつての女騎士の凄腕だった。

「よお、シルヴィア、空いてるか。」
「ああ、ベンか。いいよ。」
形のいい唇が、にっと笑った。
安っぽい酒のにおいをさせ、傭兵らしいのが、部屋に入ってくる。
「お、こりゃあべっぴんがいるな。今日は二人サービスかい?。」
「ふ、それも面白いな、どうだい、一緒に。」
オルフェナは顔を隠して、飛び出した。
涙があふれて止まらなかった。



『あっ!、ぐっ!、くそっ!、くそおっ!』
『けっ、しぶてえアマだな。まだ騎士のつもりでいやがる。』
『へへ、どこまで持つかな。』
異臭のする薬が、バックリと広げられた秘所に、流し込まれた。
『ま、まさか“馬殺し”かよ?!、狂っちまうぞ!』
『かまうもんかい、貴族のバカヤロウが、後生大事に持ってやがったんだ。同じ貴族の女騎士さんに、その効き目を確かめてもらおうじゃねえか。』

“馬殺し”とまで呼ばれた、凶悪な媚薬は、ほんのひとぬりで、女性を狂わせ、処女を淫婦に変えるとまでささやかれる。あまりに凶悪すぎて、発狂者や自殺者が続出し、所持も製造も禁止されていた。だが、一部の貴族が公然と所持し、平民女性の犠牲者が絶えなかった事が、前の大戦で、貴族への憎悪を掻き立てる一因になっていた。

それを容赦なく、一瓶流し込まれ、視界が赤く染まった。
『あ、あ・・、ひ、ひいっ!』
傷つき、充血した粘膜は、異様な速さで吸収し、無数の触手で嬲られるかのような激しい刺激と、麻薬による理性の麻痺、そして、生殖の渇望を発狂レベルにまで押し上げる。

真っ黒な闇のようなものが、己の中に膨らみ、あふれていく。
シルヴィアの意識は、その中に飲み込まれた。

『い・・、ぐ・・、あひっ!、ひいいっ!』
声が変わり、肌が赤く染まり、全身が快感の火花で覆われた。

『ひいいい、ひいいっ!、あぐぁあああっ!』
長い脚が突っ張り、広げ、淫らな姿でがくがくと震えた。
わずかな動きが、陰核に砲撃のような刺激を打ち込む。
小水が漏れ、快楽に転げまわる。
美しく張り出した乳房が、見る見る勃起し、血がにじまんばかりに赤くなる。
後ろ手に縛られた手が、爪が割れるのも構わず、石を、土を、かきむしる。

『いれてええっ!、いれてえ・・え・・っ!』
無数の男を咥えさせられ、わずかに腫れた唇は、むしろ扇情的な色気を帯びていた。
それが広がり、よだれを垂らし、叫んだ。
衝動だけが、全てを支配し、色欲の炎が、膣を、アヌスを、乳房を、身体中を燃え上がらせていた。

『おう、何をだ、ええ、言ってみな。』
男の声が、欲望をさからせる。
欲求への衝動だけが、口からこぼれ出る。
『オ○ンチンを、オ○ンチンを入れてええっ!、おねがいいっ!』
誇り高い女騎士は、長い黒髪を振り乱し、目を空ろにして哀願した。
しなやかで、美しい裸身が、火で炙られるような渇望に焦がされ、身をよじる。

ある言葉が、シルヴィアの耳を嬲り、
嬲られた欲望は、狂ったようにそれに服従した。

『あふうっ!、あああっ!、ありがとうございますぅっ!、』
増幅された快感が、身体が裂けんばかりに膨らみ、膣を、しごくように貫く。

『あぐっ!、あぐっ!、くううっ!、すばらしいですぅっ!』
アヌスがきしみ、腸がえぐられる感触が、全身をわななかせる。
後ろから叩きつける衝撃に、シルヴィアは声を上げて“感謝”する。

『私は、奴隷っ!、ぐうっ、あああっ!、あぐっ!、』
挟み込まれた身体が、激しく揺れ、跳ねた。
狂おしい律動が、薄い肉壁を挟み、縦横無尽に暴れまくる。

あそこが広がり、裂け、千切れていきそうだった。
このまま、引き裂かれ、狂い死にすれば、どれほどの快感か、
おぞましい欲求に、嬉々として支配され、悶えるシルヴィアがいた。

全てが、シルヴィアに快楽と化し、身体をくねらせ、腰を振っていく。

『貴方様の、ひっ!、あひっ!、ひいっ!、肉欲を、奥に、奥にいいっ!、あひいいいっ!!』
のけぞった身体が、ひくひくと震え、わななく。
無数の、見知らぬ男の精子が、粘膜いっぱいに撒き散らされる。
恐るべき生殖への渇望と、動物的な喜悦が、最後までシルヴィアを支配する。
『ありがとう・・ございます・・う・・うっ』

もう、何も考える事ができない。
シルヴィアは、屈し、服従した。

無数の男たちの辱めを、“感謝し”受け入れつづけた、悪夢のごとき記憶。
薬は、理性は麻痺させても、記憶は麻痺させてくれなかった。

いっそ狂えれば、どれほど救われたろう。
だが、鍛えに鍛えた身体は、狂う事すらできなかった。

そして、行方不明の小グリューネ。

死ぬ事すら、もはや救いにならない。
死んで、どのツラ下げてグリューネに会えるというのか。



死ぬ事すら許されぬ苦痛など、なぜ、この誇り高い騎士に与えられたのか。
生まれて初めて、オルフェナは己の使える存在に、声を上げた。
僧侶として許されぬ思いが、胸を張り裂かんばかりに荒れ狂った。



「よかったのか?。」
ベンは人の良さそうな顔に、微かな悲しみをたたえ、シルヴィアを見た。
その口調は、娼婦に投げる言葉ではなく、同じ戦場で戦った者へのいたわりがあった。
「ああ、いいさ・・」
ベンのズボンを下ろし、ひざまづいて、たくましい物を慣れた手つきで取り出し、ゆっくりとしゃぶりだした。


END