何も、『死』だけが人生の終わりじゃない。
 特に、女は。

 私の口を犯している男が喉の奥で果てた。
 逃げ場のなくなった大量の精液が、直接胃の中に注ぎ込まれる。強烈な異物感を感じて
嘔吐を試みても、男が私の頭を両手で強く抑えている為それすら許されない。
 過去にどれだけ同じ行為を受けていたとしても、慣れる訳がない。
 私は涙目で男を睨む。だがそれも、相手からすれば上目遣いに懇願している様にしか見
えないだろう。それでも私は、男が両手を離すまで殺意の篭った眼差しを送り続けた。
「うぇっ、が、かは……あっ」
 男の逸物が離れると、私は蒸せ返ってその場に胃液を吐いた。前の男共が注ぎ込んだ精
液の味が口内に広がり、吐き気は更に増す。周囲で私が悶え打つ様を眺めている男共の嘲
笑が聞こえてくるが、全部耳を素通りしていった。
 私の口を膣に見立てて男が頭を揺さぶったせいで、脳味噌を掻き回された気分がする。
いっその事、失神した方がどれだけ楽か。だが、気を失った所で男共の手によってすぐさ
ま現実に引き戻されてしまう。その度に、私は思う。
 現実。
 私の現実。
 昼夜関係なく見知らぬ男共の精を全身に浴びている、それが今の私。
 皇帝と部下達の厚い信頼を受け、騎士団長を受け持っていた私は過去。
 ある一点を境に、私の現実は様変わりした。いや、あの時、すでに私の人生は終わって
いたのだ。
 なら、今は何?
 死よりも苦痛でしかない現実を目の当たりにしている今の私は一体?

「あ、あ……」
 後背位で私の菊座を貫いていた別の男が腸内で熱い精を放った。注ぎ込まれる度に、私
の口から嗚咽が自然と漏れる。歯を食い縛って必死に耐えようとしても、肉棒を無数に咥
えさせられたせいでとうに顎に力が入らない。
 舌を噛み切る真似はしなかった。捕らえられた時に拘束具を嵌められたが、最初から死
ぬつもりはなかった。皇女の安否を確認するまで。
 そして、私の役目は終わった。私の生はそこで終わったのだ。
 男が入れ替わり、屈強な男が私の身体を持ち上げる。愛用の槍に縄で巻き付けられ拘束
されている私の脚は、膝下から感覚がすでに無くなっていた。
「うあっ!」
 背後から両足を持ち上げた男が、前戯もなしに力無く開いていた私の肛門に突き立てた。
重力で、熱く滾った剛直な分身が丸々と飲み込まれる。息が詰まって、悲鳴が声にならな
い。身を捩って空気を吸い込もうと必死に口を開いていると、別の男が私の前に立ちはだ
かった。後の男と二、三言葉を交わして、開いた私の脚の間に腰を入れてくる。
 男の逸物が前に入った瞬間、何故か少しだけ安堵した。咄嗟にその感覚を否定しようと
したが、凌辱が始まってから、男の肉棒が体内に挿入されている時間の方が長い。ほんの
少しずつ、男共の手によって私の身体は作り変えられていた。
「は、ふ……ぐ」
 二つの肉棒が膣の薄皮一枚で擦れ合う。得体の知れない快感に引き摺りこまれないよう
に無理矢理意識を保とうとする。厭らしい男共の視線など、最初から気にしていない。見
られている分には全く苦痛は感じなかった。
 だが、肉体の苦痛は徐々に快楽にすり返られている。
 好色な上官達の手によって後で交わる経験は幾度か経験していたが、慣れてはいない。
男を悦ばせるために無理矢理快楽を引き出し、髪を振り乱していた覚えがある。騎士団長
の地位を得る為に、私の身体は既に穢れてしまっていた。久し振りに挿入され、最初は襲
いかかる痛みに対し悲鳴を堪えていたのだが、濃慣れて来たのか今はせり上がる快楽を懸
命に否定するようになった。
「ぐ……あ、あっ」
 堪え切れなかった喘ぎ声が、稀に口から漏れる。妖艶な色気の混じったその声は、他人
の物のように聞こえた。
「ケツに突っ込まれて感じてんのか?淫乱な騎士団長様だよな」
「どれだけ我慢したって   はずぶ濡れなんだからよ、声上げたっていいんだぜえ?」
 男共の下卑な言葉に、私は何も言葉を返さない。助けを乞おうが抵抗しようが、嗜虐心
に火を付けるのは解り切っていた。腹を括っている私の面を見て男共は攻めを激しくする
が、どう足掻こうが結果は一緒だ。それ以前に、既に私には自分の結末が見えている。今
更抵抗した所で何になる?
 嬌声を上げない私に苛立ったのか、前を犯している男が私の胸を両手で乱暴に揉みしだ
き始めた。肉に指が食い込む感覚。身体を重ねた男達には全員豊満な胸だと褒められたが、
甲冑の下に隠すには常に窮屈で、好きになれなかった。
 既に固くなった乳首に親指の腹を押し当て、乳輪の上で弄ぶ。目を瞑ると余計に快楽の
波が押し寄せてくる気がして、なるべく虚空を見つめるように努めた。
 背後の男が軽々と私の身体を揺らし、肉棒を激しく挿入する。膣内を犯す緩やかな動き
と重なって、急激な快感が頭の中を白く染めていく。軽く意識が飛ぶのと同時に、後の男
が欲望を私の中で爆発させた。そして繋いだまま腰を降ろし、前の男が私の身体に覆い被
さる。軽く数回腰を揺すると、萎んだと思った下の男の肉棒が再び勢いを取り戻し始めた。
 このような様を娘が知ればどう思うだろう?脳裏に浮かんだ娘の顔も、頭上から半開き
の口に捻じ込まれた別の肉棒によってすぐに消え失せた。
 私の胸を前の男が執拗に嬲る。乳を絞り出そうとでも思っているに違いない。すでに娘
は乳離れした年齢だとは言え、私の身体は母だった。
 腰を打ちつける感覚が早くなり、膣の一番奥に精子が注ぎ込まれる感覚があった。妊娠
を懸念する必要もなくなった今、性交に関しては男が快楽を求めるためだけの物、そして
私を一番脅かしている物という認識しかない。
 上になっている男は抜かずに再び腰を振り始め、乳首の先を潰れるほど強く摘む。乳が
流れ出したのか、膨らんだ胸のラインを温い物が伝って行くのを感じる。男は感嘆の声を
上げ、赤子のように吸い付き始めた。そして私の太股に骨ばった手を滑らせていく。
 永い間手足を拘束されて日光の当たらない場所にいたせいか、私の身体はすっかり筋肉
が落ちていて、柔らかな肉へと変わっていた。そのために一層女性らしさが強調され、男
を悦ばせる要因の一つになっていた。まるで娼婦のようだと自嘲したくなる。
 私の口を塞いだ男が、鼻を摘む。途端に呼吸が苦しくなって舌を動かそうとすると、逸
物への刺激が増したのか男が快楽に顔を歪める。必死に首を振って悶えていると、やがて
満足したのか手を離した。こめかみを涙が伝っていくのが分かる。
 今まで積み重ねて来た自分の力も、『女』と言うたった一つの事実だけで、死の代わりに
男の性欲を吐き出すためだけの捌け口にされてしまい、何の意味も持たなくなる。その事
が何よりも悔しかった。
 三人同時に犯されていると、意識を保つのが困難になる。全てを投げ出して快楽に身を
委ねたくなる衝動が、胸の内でくすぶり始めているのを確かに感じていた。
 その中で私の意識を支えるのは、たった一つの想い。
 娘に関しては何の心配も必要なかった。辺境に配置されたシルヴィアに預けていたのは
正解だった。私の死に際を娘には見られたくない。彼女も、私を助けようなどと感情に走
る事もあるまい。
 思い残す事は、何一つなかった。
 では、何故?
 私はどうして、自分が自分である事を最期まで望むのか。
 騎士の誇り?違う。そんな脆く崩れ易いもので快楽は抑え切れない。
 罪――
 帝国全ての人間の期待を裏切った、その罪が私を繋ぎ止めていた。
 間も無く押し寄せる快楽に負けて、私は絶頂を迎える。それを待ち望んでいたかのよう
に、次々に男共は結合部を白濁液で満たしていった。
 これが、私の罪。部下達を救えなかった、皇帝を守れなかった、そして最愛の娘の元に
戻れなかった、私の罪だ。
 横で傍観していた男達がうつ伏せのまま動けない私の身体に好き勝手に射精する。子種
が纏わりつく不快だったはずの感覚も、既に慣れて何も感じない。
 レティシア達はどうしているだろうか?以前は同じ部屋で輪姦されていた事もあったが、
この薄暗い石造りの牢に連れて来られてからは兵士達の会話から推測するのが精一杯で、
生死さえ解らない。
 目の前で犯されながらも送ってきた彼女達の視線を思い出して、不意に胸が締め付けら
れた。今ではもう、何もかも放棄して男に奉仕する性奴隷に成り下がっている者もいるだ
ろう。私の知らない下級兵士の中にも、革命共和軍に捕らえられ同じ運命を辿った者も少
なからず存在するに違いない。
 だが、私にそれを咎める資格はない。何よりも、彼女達をそのような目に遭わせてしま
った責任は自分にあるのだから。
 どうして私の槍はあの傭兵より先に出なかった?
 同じ疑問を、何度胸の内で繰り返しただろう。そしてその度に、同じ答えを突き付けら
れる。
「何だかんだ言って、所詮は『女』だな」
 先ほどまで私の背後を貫いていた男が、石畳に横たわる私の身体を一瞥しながら吐き捨
てた。人生の中で何万回も繰り返し他人に投げ付けられた言葉。それを否定するために、
それに捻じ伏せられないように生きて来た、それが私の道だった。
 なのに結末はこれだ。今までのツケが全てこの時に集束された様に、完膚無きまでに自
分が『女』である事を思い知らされる。自分の全てを否定するかのように。
「違う……」
 私の口から、力無い言葉が精液と共に零れた。今の私にできる精一杯の抵抗だった。
「何が違うってんだ?」
 男は私の頭を踏み躙る。割れた痛みが脳髄を駆け巡り、苦悶の声しか上げられない。他
の男が止めに入って、ようやく足が頭から離れた。
 目を開ける事さえままならない私を見下ろし、男は言った。
「お前の率いていた7部隊の女リーダー達、処刑する事に決定したのは知ってるか?」
 例え虚言だとしても、その言葉は私の心を動揺させるには十分だった。黙っている私に
向かい、男は続ける。
「たかが女リーダーだとしても、処刑で民衆の心に革命共和の存在を植えつけるのには十
分貢献できる。とは言え、公開処刑ばかりじゃ恐怖を植えつける結果にもなりかねない。
ならせめて、騎士団長の目の前で行なってはどうかと言う意見が出ている」
 私の反応を楽しんでいるのか、男は一度も視線を反らさぬまま私を見下ろしている。
「今のまま男達に凌辱されてたんじゃ、一月もしない内に全員確実に壊れる。何しろ戦争
のおかげで鬱憤が溜まってる兵士だらけだからな、まだ死人が出てないのが不思議な位だ。
とはいえこのまま生かした所で、締まりの悪くなった奴等は使い物にならなくなるしな」
 怒りを誘うように男は話す。女を物としか見ていない屑共。
「早ければ、明日にもユナから順に行われる予定だ。反応の悪い牝を犯しても何の面白味
もないからな」
「……下郎……」
 口に出さずにはいられなかった。自分が侮辱される分には我慢できるが、最愛の者達を
貶されると腸が煮え繰り返るのを抑えられない。
「不服そうな面してんなあ。手前だけ最後まで犯されるのがそんなに気に食わないかい?」
 別の好色そうな男が私の背後に回り、熱を帯びた肉棒を性器の上に擦り付ける。肉襞の
上を何度も動かし、胎内から零れる白液で十分に濡らす。声を上げぬように歯を食い縛っ
て耐えていると、直腸に指を挿し込まれた。そして無数の子種がこびり付いた指を私の顔
に近づける。
「ふっ、ふぐ、んぷ……」
 力の入らない唇はいとも容易く割られ、指が侵入してきた。懸命に押し出そうとする舌
に苦味が走り、私は顔を顰める。責められ身悶える私の姿を見て、目の前の男は零れそう
になる涎を卑しい音と共に吸い立てた。
「それならいい方法があるぜ。一番最初にくたばる方法がよ」
 男共は互いに意味深な笑みを浮かべ合っている。薄々、想像はついた。革命共和の連中
は、どこまで腐り切れば気が済むのか。私の投げかける憎悪の視線を、彼等は嬉々として
味わっていた。
「『革命共和軍全軍の兵士全員に輪姦された後に斬首』って判決が出てるが、既にお前を犯
した他の奴等から不満が出てるんだ。そりゃあ、何をやっても一言も喋らないで睨み返し
ているだけだもんな。なあ、俺達の言いたい事が判るか?」
 私の髪を乱暴に掴んで、男は顔を近づけて来た。精液混じりの唾でも吐きかけたかった
が、交渉中に相手を怒らせた所で何の得策もない。
「お前が断れば、目の前で一人ずつ斬首して行く。受け入れれば、奴等はこのまま牝奴隷
を続けられるってわけだ。どっちがいいかなんて俺には解らねえけどな。さっさと殺して
くれって奴もいれば、死ぬのは嫌だって奴もいるだろ」
 良い条件とは言えなかった。私の言葉一つで、彼女達の運命が決まる。
 例え提案を受け入れた所で、彼女達が助かる保証はない。軍法会議を通せば問題はない
だろうが、革命共和に抵抗できる存在が現時点で何一つ見当たらない。行方不明になった
皇女が成長して叛旗を翻す時が来たとしても、おそらく十年は見積もらねばならない。慰
安婦として扱われたとしても、それまで彼女達が耐えられるとは到底思えなかった。
「あうっ!」
 考えを巡らせていると、突然男が私の片胸を鷲掴みにした。千切れそうな痛みが走り、
口を貪っていた指が外れる。膣口をなぞっていた男根が動きを止め、肉襞を割って中に挿
し込む。想いとは裏腹に、私の身体は男を厭らしく包み込んでいた。
 臀部を掴み、男はリズム良く腰を突き上げる。その度に淫猥な音が結合部から上がり、
中に溜まった蜜が隙間から零れ出る。精液と愛液、汗と汗、涎と乳が混ざり合い、私の身
体は男を寄せ付ける淫靡な匂いを醸し出していた。かつて騎士団長の地位に昇りつめるた
めに好きでもない男に身体を許す事も少なからずあったが、その時も身体に男の匂いが染
み込んで行く様で嫌だった。
 私は『女』である前に、一人の人間としていたいだけ。だが、それすらも神は許さない
と言うのか。
「何、簡単な事さ。要はお前が誇りを捨てて『女』になれば部下達は助かるってわけだ。
逆に『騎士』に拘るなら、お前一人の独断で全員の命が奪われる事になる」
 眼前の男は胸から手を離して、精液のこびり付いた手を拭き取った。
 騎士の誇りなど、人生を終えた私にとって意味はない。だが、『女』に墜ちて男共の性的
玩具と化す事は私の人生そのものを否定してしまう事になる。
 どれだけ汚れようとも、自分自身の誇りだけは捨てたくはない。
「戯言だと思うなら思えばいいさ。結論が遅れれば、全員殺すけどな」
 他の男達の態度も見て、既に法案は軍法に可決されたと見て構わないだろう。兵士達は
一番、私がよがり狂う姿を欲している。
「ほら、出すぜっ!」
 私を絶頂へ持って行く事もせず、膣を犯していた男が一人勝手に精を放出した。ただ自
分が良ければそれで良い、性を満たす為の道具としてしか女を見ていないのだろう。同じ
性行為とは言え、愛が存在する物と快楽を求めるだけの物とは意義が全く異なる。彼等が
求めているのは無論後者だった。 
「……一刻、考えさせて欲しい。それと、その時に軍の司法官を……」
 乱れた息を整えてから、私はそう告げた。
 答えなど出るはずもなかった。男は隣の人間と相談していたが、話がまとまったのかす
ぐに私へと向き直る。
「解った、話はつけておく。それまで、腰でも振ってるんだな」
 リーダー格らしき男は私に一瞥をくれて、牢を退出した。それほど広い牢でもないのに、
扉までの距離がとても長く感じる。壁際のランプの炎は私の裸身を妖しく照らし、男の欲
望を掻き立てる。そして私は中に残された飢えた男共の餌になる。 
 身体を貪られながら、私は頭の片隅でいつまでも結論を考えていた。

 いつの間にか気を失っていたのか、石畳を鳴らすブーツの音で目を覚ました。
 扉が開き、衛兵と軍の司法官が入ってくる。私が男の胸に板挟みにされ、膣と肛門を抉
られている様を見て、扉の前で一旦足を止めた。部屋の悪臭に司法官は鼻を摘んで難しい
顔をしていたが、私には精液の匂いなど気になる物でもなかった。
 横の衛兵達が男達に呼び掛け、凌辱が中断する。皆不服そうな顔を浮かべていたが、渋々
納得して部屋を後にした。火照った肌を周囲の空気が冷ましてくれる。上気した顔を上げ、
私は司法官の顔を見つめた。
「グリューネ殿、そなたの答えを聞きに来た。こちらの要求を却下すれば、7兵士全員の
処刑が決定する。賛同した場合は、現在待機中の兵士による輪姦が終了した後、再度革命
共和軍兵士全員に対し奉仕する必要がある。その場合、処刑はその後に執り行われる予定
だ。何か質問は?」
 私の凄惨な姿を見て後ずさった司法官が、平静を装って法案を述べる。その姿が妙に可
笑しくて、口元が微かに緩んだ。
「……一つ、提案したい」
「何かね」
 小さな明かりに照らされる私の姿が不気味に思えるのか、尻込みしたまま訊き返してく
る。この様な目に遭わせたのは自分達だと言うのに。
「彼女達――7兵士全員にそれぞれ、生と死を本人達に選ばせてやって欲しい。私が彼女
達の命を握っているのは可笑しい。彼女達一人一人が、自分の命を選ぶべきだ」
 私の提案に、司法官は目を丸くした。
「例え生き延びた所で、今のような性奴隷として扱われるなら彼女達も永くは持たないだ
ろう。ならせめて、慰安婦として丁重に扱って欲しい」
 受け入れられた所で守られるかどうかは疑わしいが、今この場で口約束だけでも交わし
てくれた方が、自分の気は休まる。
「それは、賛同と受け取って構わないかね?」
「提案を受託しない場合は、拒否する。彼女達も私に賛同してくれるだろう」
 何とも身勝手な言い草だと、自分で笑いたくなった。彼女達が目の前で処刑されるとし
ても、一瞬たりとも目を反らさずに最期まで見守ってやろうと思う。
 司法官はしばし悩んでいたが、懐から法案の書かれた羊筆紙を取り出して、言った。
「よかろう。こちらとしても、全員に死なれると兵士の士気に若干影響を及ぼす。それで
はこの場にいる衛兵達を証人とし、賛同を受け入れよう。感謝する」
 深深と頭を下げる司法官の姿が、酷く滑稽に思えた。今になって、罪の意識が芽生えて
来たのだろうか。そんな物、軍を動かす人間が感じる資格など有りはしないと言うのに。
 彼等は部屋から立ち去り、周囲は静寂に包まれる。今まで積み重なっていた肩の荷が降
り、ようやく心の鎖が外されて自由になれた気がする。
 後悔はしていなかった。それよりも、あれほど否定していた『女』を受け入れる事で、
これほどまでに楽になれるとは思いも寄らなかった。
 だが、私は快楽に負けた訳でも、『女』の自分を認めた訳ではない。
 一縷の望みを託して彼女達に選ばせる権利を与えてやる事で、私の罪もほんの少しは償
われる。そう思っただけだ。
 ふと、過去に連続強姦事件を起こした帝国軍の下級兵士の言葉を思い出した。
「アンタにもいずれ、『女の限界』を味わされる時が来るよ。絶対だ。」
 奴の言っていた限界が、あの傭兵に手も出せずに倒された時だった訳だ。
 しばらくすると、男達が戻って来て凌辱が再開される。おそらくこれから私は処刑され
るまで、悦んで男共を受け入れる事になるだろう。罪の意識など、快楽の彼方に消えてし
まうに違いない。今までの凌辱の中で、数刻先の自分の姿は容易に想像がついた。願望が
あるとは言わないが、身体に染み付いた私の『女』は否定できない。
「……結局は、私も『女』だったと言う事か」
 揺らめくランプの小さな炎は、静かに私を照らし続けていた。