登場人物

フリーデリケ:
ハイウェイマンズギルドは可愛いおんにゃのこを狙う。
つまり、彼女も、実は、なのか?
メラノーマ:
「ごきげんよう」

さわやかな朝の挨拶が、クルルミク城下町にこだまする。
ダカルバジン様のお庭に集う女冒険者たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、
酒場『ドワーフの酒蔵亭』をくぐり抜けていく。
汚れを知らない(?)心身を包むのは、返り血にまみれた装備。
戦闘中の呼吸は乱さないように、闘いの波は翻らせないように、ざっくり斬り捨てるのがここでのたしなみ。
もちろん、HPギリギリで迷宮に挑むなどといった、はしたない冒険者など存在していようはずもない。
フェリル:
綺麗な銀色の髪と深い青い瞳、きめこまやかでなめらかな白い肌の美少女。
ツッコミポニーテールの乳の無い方
チェリア:
クルルミク王国に代々仕える密偵の家系の人間の忍者。
綺麗な黄金色の髪と澄んだ青い瞳、きめこまやかでなめらかな白い肌の美少女。
ツッコミポニーテールの乳の有る方
ディアーナ:
クルルミクが率いる竜騎士の中でもトップクラスの力を持ち、”白竜将”の二つ名を持つ女将軍。
『様』をつけるのが基本。
行き遅れとか言うと怒る、怒る。




酒場『ドワーフの酒蔵亭』

 サルのヌイグルミがくるくる、くるくる、テーブルの上で。

フェリル:凄いね〜!? 凄いね〜!? どうやって動いてるのかな、タンちゃん?
タン:ん、魔法の力で、憑依みたいな感じ、かな?
ミューイ:ん〜、結構興味深いですよね。あのヌイグルミ自体にも興味あったりも〜

 現在酒場には多くの冒険者がいた。
 今日は冒険者同士の親睦会と称した飲み会を開いており、その前座ということでメラノーマがおサルで芸をしていた。

メラノーマ:ふふふ〜 まだステージ1ですので、もっと派手なパフォーマンスできますよ〜?
フリーデリケ:ナンドル!? ではではメラノーマたんの一番派手な技みたいカモ! 
メラノーマ:ん〜? 結構高くつきますよ〜? 今日の飲み代奢っていただけるならお見せしますけど〜?(にっこり)
フリーデリケ:あ、別にそのくらいなら全然貢ぐ君ヤリマスデスヨ? ただし、派手なアクロバット頼むゼイ!!(親指ビシッ)
メラノーマ:うふふ〜 お任せを〜☆

 メラノーマが集中のためか、椅子に深く座りゆっくりと瞳を閉じる。

フェリル:(ワクワク)
ミューイ:(ドキドキ)
フリーデリケ:(ムネムネ)
タン:(わっふ〜ん)

 くるくる回っていたサルがピタッと動きを止め、おもむろに椅子に腰掛ける。

フェリル:(ごくり)
ミューイ:(じとー)
フリーデリケ:(サルノコシカケというギャグかしら?)
タン:(わっふ〜ん)

 そのまま数秒……
 そして突然サルの目がカッと見開いたかとおもうと(ヌイグルミなのに)、酒場内は興奮と驚きと歓喜に包まれた!!!

フェリル:なっ!? 座ったままの姿勢から膝だけでジャンプした!?
ミューイ:口から鳩までまで飛び出して!?
フリーデリケ:耳からシャボン玉がランチャーのように!?
タン:(わっふ〜ん!?)

 みんなの歓声に、サルはニヤリと笑い(ヌイグルミなのに)くるくると空中三回転を決めて椅子にちゃくt――――

フリーデリケ:高位エルフ流、当身!!!

 どぐしゃぁ

 フリーデリケの腕がパイルバンカーのようにサルの腹部を殴り、そのまま椅子を破壊しさらに床に突き刺さった!

フェリル:ちょ、ちょっとお婆ちゃんまたナニやらかしてんの!?
フリーデリケ:ミューイちゃんハサミをプリィィィィズ!!!
ミューイ:はいです、フリーデリケさん♪
フェリル:!? えっ、ミューイちゃんまで何しているの!?
タン:……うん、知識の探求ってやつだね、フェリル。
フェリル:………えっ、それってどういう?
タン:……フェリルは、猿さんの中身気にならない?
フェリル:………あ、そっか〜 それなら仕方ないよね〜 えへへへ〜、、、、、、、
    んなわけないでSHOW!!!?(ノリツッコミ)

 ぺちこ〜ん!
 っと、フェリルがwktkなエルフ耳×2をツッコミチョップ。

フリーデリケ:むぅ? ………何か問題が?
ミューイ:むぅ…… 聞いて極楽見て地獄、赤子泣いても蓋とるなといいますし、
      書物だけでなくこういうのは実際見るのが。。。。。
フェリル:そういうんじゃなくて、本人の許可も取らずにこんな行動するのおかしいでしょ!?
      エルフの世界と人間の世界のルールの違いになれて!?
フリーデリケ&ミューイ:エルフ差別〜(ブーブー)
タン:………というか、その本人なんか魂抜けてる。
フェリル:へ?

 メラノーマの方を見ると、本当に魂でも抜けたかのように俯いたままピクリとも動かないでいる。

フリーデリケ:ん〜 まるで時計型麻酔銃を食らった探偵か眠り姫のようネェ。。。。。
        っということは、、、、 ぐふふふふふふ! 
     王子様のキス(ディープ&唾だって流し込むさ!)の出番カシラ!?
(じわりじわりと歩み寄り)
フェリル:むしろ魔法使いのおばあさんでしょ!?(ツッコミ)
ミューイ:あはは、最近フェリルさんツッコミ上手になってきましたよね♪(ジョキジョキ)
フェリル:ジョキジョキってナニその効果音!?
     だからヌイグルミ解体しない!? 腹綿をぶちまけない!?
タン:腹の腸とヌイグルミの綿を、上手くかけてるね(ジョキジョキ)
フェリル:タンちゃんまでナニじょきじょきしてるの!?
タン:……えーと。あ、そうだ。賢者として、知的好奇心を大切(わっふ〜ん)
フェリル:とってつけたように賢者設定生かしてこの子は!?(ツッコミ)

???:すまんがそなた、ちょっといいか? 

 そんな漫才で賑わう酒場の空気を割るもの一人。
 高貴な感じの漂う、どことなく炎のように熱いものを感じる、魔術師っぽい少女だった。

フェリル:あっ、はいなんですか?
???:この酒場に、高位エルフの神官戦士フリーデリケと半獣人の賢者タン、
     そしてミラルド・リンドという人物がいると聞いてきたのだが。
フェリル:あ、フリーデリケさんとタンちゃんは、そこでヌイグルミ解体しつくして、
     中から得体の知れないもの取り出してるのが――――
     ってナニそれ!?
フリーデリケ:うううう!? まさか予想外デスヨ……? サル人形の中からコレが出てくるなんて……!
ミューイ:魔道書の中で見たことはあったんですけど……… 実物のソレは始めて見ました……!
タン:本当に………アレが本当にあるなんて。都市伝説の類だとおもってた。………認識改めないと。
 
 皆が皆中から出てきたIt'sに驚愕の色を隠せない。

???:………あー、もう一度確認するんだが
フェリル:ひぃ!? 這いずる様に動いて―――あっ、なんですか?
???:…………………もう一度確認するが、あの無闇にデカイのと無闇に可愛いのがそうなのか?
フェリル:はい? …………あーフリーデリケさんとタンちゃんならそうですよ。
???:そう、なのか(高位エルフというのはもっと繊細で儚げなものと認識してたが……… 
     もう一人も半獣人というからもっと生肉ダイスキーな感じなのかと―――)
     ………すまないが、あの二人はなかったことにして、ミラルド・リンドという人物はどこに?
フェリル:えーと…… あっ、あそこの隅っこの方の席で
      『あっち行くと私もツッコミにまわらなきゃいけなそうで、めんどくさいから一人でちびちび飲んでよう〜』
     みたいな顔している人がそうです。
???:どんな顔だソレは。
     …………あっ、あのような顔か。

 そのような顔しているミラルドに近づく魔術師。

???:………失礼する。私は傭兵魔術師のフランムという。『カラミティ』ミラルド・リンド殿であるか?
ミラルド:……………(ピキピキと血管が浮き出る効果音)
フランム:………? 『カラミティ』のミラルド殿で――――

 どぐしゃぁ

 フリーデリケのパイルバンカーに勝るとも劣らないパイルバンカーで魔術師の少女が床にめり込んだ。

フリーデリケ:………ミラミラを『カラミティ』呼ばわりなんて。。。
ミューイ:シロートさんですね。。。
フェリル:合掌。。。
タン:(わっふ〜ん。。。)

 結局何がしたいのか不明なまま再起不能となってしまった魔術師に、4人は安らかに眠るよう祈りをささげるのだった………


クルルミク王城

 壁は白亜、床は歩くものの顔を映すほどに磨かれた大理石の廊下を一人の女性とその従者が歩いていた。

ディアーナ:討伐隊、なかなか上手くはいってないみたいですね。
従者:はい、先日もアメジスタ、サフィアナ、アクアマリナ、あと一人のPTが行方不明
    ―――おそらくギルドの連中に捕まった模様です。
ディアーナ:………やはり冒険者だけには任せられないようですね。
従者:! しかし何もまたディアーナ様自らが行く事は……!
???:いえいえ、自らではないと逆に危ないですよね。

 ディアーナと従者の背後からの声。
 二人がそちらを向くと、半妖精が一人。

???:背後から不躾で申し訳ない、ディアーナ様。私はあなたの瞳の前だと、美しさのあまり声をかけられないのでね。
ディアーナ:いえ、フランツ卿。しかし『自らでないと』というのはどういうことかしら?
フランツ:んっふっふ〜 それは今晩にでも二人きりで食事しながらどうかしらね?

 フランツ=L=ウィドゥ、竜騎士ならば一度は聞いたことのあるクルルミクの名物妖怪――――もとい半妖精。
 長い寿命を生かし、クルルミク竜の研究・歴史などを統括する人物である。

ディアーナ:(ただ、ちょっと変わっていらっしゃる趣味がねぇ……)
       あいにく今晩は東の戦場の今後についての作戦会議がありますので………
フランツ:あー、そういえばそうだったね…… まったく、グラッセンの恨みがますますつのるね!
ディアーナ:………っで、先ほどのお話なんですが?
フランツ:あー、あれね。まー……なんというか中途半端な能力では突破できないということなんだよね。
ディアーナ:それはここ5年のデータを元に…… ということですか?
フランツ:うん。だから国としてはこの土壇場で、初めから迷宮を突破できるだけの力を持った者か、
     すぐに一流になれる才能をもった者を手当たり次第に集めてるさね。
ディアーナ:(確かに高名な冒険者が最近になって大勢集まりだしてると聞くな………)
フランツ:まっ、というわけでお話したのでディアーナ様―――
ディアーナ:(うっ……… まさか……アレがくる!?)




フランツ:罵倒してください(土下座)




 ………………………………………………………………………………………………。

従者:(小声:でぃ、ディアーナ様!? この人頭がおかしいですよ!?)
ディアーナ:(小声:いや、そんなこと言っちゃダメよ……… 能力的にはとても凄い人なんだし。。。。
        ほ、ほらルックスもいいから舞踏会でも話さなければモテモテなのよ?)



フランツ:豚野郎と罵って下さい(土下座)



………………………………………………………………………………………………。

従者:(小声:でぃ、ディアーナ様!? 人間やっぱり顔じゃないです!!)
ディアーナ:(小声:イヤ、ホラ、貴族ってこーいう妙な趣味の方多いから――――――))
従者:(小声:!? まさかディアーナ様もそのような趣味で行き遅れて―――


どぐしゃぁ


 意外と大人気なかった白竜将ディアーナ様のパイルバンカーで、従者が大理石をぶち割って沈む。


フランツ:!? ディアーナ様何をして――――
ディアーナ:――――はっ!? い、いやちょっとなんていうーか(しどろもどろ)


フランツ:あぁ……… そんな羨ましい事…………!?
          私も是非殴り飛ばしてください、ディアーナ様っ!!!!?



ディアーナ:ひぃっ!?!?!?!?














……………クルルミクは今日も平和じゃないけど平和だった。














再び

酒場『ドワーフの酒蔵亭』


フランム:(う…… ここは………)

 『確か……… 私はワイズマン討伐のパーティメンバーを探して酒場に来て………
 それで、なぜか殴られて……… 地下に沈んで……… それから……… えーと………
  ………なんか、暖かいな。 ………懐かしい感じの暖かさかな?………』







フリーデリケ:チクチクっ、チクチクっ〜♪
フェリル:………お婆ちゃんって、本当にお婆ちゃんみたいにお裁縫上手だね。
タン:イメージと、違うかな?
フリーデリケ:あはは〜 主婦業は50年くらいこなしてたたから一通りできるザマスヨ?
 
 フリーデリケはミラルドのパイルバンカーで床をぶち抜いて、地下1メートルくらいまで埋まったフランムを引き上げ
 タン&フリーデリケの夢の回復力20タッグで魔法をかけた。
 まぁ、そんなわけで『災害』にあったにもかかわらず、傷はすべて回復したフランムだったが、気絶しっぱなしだったために
 目が覚めるまでフリーデリケが膝枕して(「可愛いので膝枕したいデス!」とのこと)介抱していた。

 まぁ、でもただ目覚めるまで待ってるのも時間の無駄なので、解体したおサルの修復中。

ミューイ:………フリーデリケさん、上手いのは分かるんですけど―――
フリーデリケ:うん? どした? チューしたくなったデスカ?
ミューイ:なりません。そーじゃなくて………… なんでおサルなのに蝙蝠のような羽が………?
フリーデリケ:マッハ2で飛びマスヨ?

 ………………

フェリル:ってか牛のような2本の角とか…………
フリーデリケ:1万2千枚特殊装甲だって打ち破れますデスヨ?

 ………………

タン:尻尾が、蛇………
フリーデリケ:破滅の光を吐き出すデスヨ?

 ………………

フェリル&ミューイ&タン:…………………

 3人はちらりと、メラノーマを見る。
 ……………まだ、眠り姫は目覚めていない。




フェリル&ミューイ&タン:(((……………まぁ、フリーデリケさんのせいということで。。。。。。)))









『…………なんか、楽しそうな会話がするな。

 ………いいな。

 …………私も、そんな楽しい会話できる仲間をもてるかなぁ』



 炎の眠り姫もまだ目覚めていない。






その日の夜

クルルミク城下町


フリーデリケ:んふふふ〜ん♪ あはは〜ん♪ びばのんびばのんのん〜♪
        Wiiヒック!

 高位エルフの酔っ払いが、お酒で火照った体を冷ましに、ふらふらと散歩していた。
 あのドタバタ劇のあと、目が覚めたフランムにダメもとで
 『一緒にお酒でも飲んで親睦深めようゼイ!』
 みたいなこと言ったら、
 『べ、べつにそなたらのお願いだからしてあげるってわけじゃないんだからねっ!
 勘違いするでないぞ!、そなたらと仲良くなりたいとかそんなんじゃないんだから・・ッ』
 みたいな感じの、非常に燃える展開(炎の紋章だけに)になり、ついつい飲みすぎてしまった。

フリーデリケ:ふふふ〜ん♪ ………ん〜、、、お?

 ふらふらと歩いてたら、いつの間にか、城下町というにはちょい離れた川の橋のたもとまで来てしまった。

フリーデリケ:ん〜 明日も朝早いし、あんまり遅いとかあちゃんに叱られるしけえるかな〜♪ ゲハゲハ!

 完全に自分のキャラを見失い、親父と化して引き返そうかと思った時、
 橋の欄干に寄りかかるようにしているおんにゃのこを発見した。

フリーデリケ:むむむ!! 若い身空で入水自殺ですか!? 早まっちゃいかんゼ!! お嬢ちゃ〜〜〜〜〜ん(ハァハァ)!!
???:え? ――――きゃっ!?

 ドタドタと突進してくるでかくて耳の長い生き物。怖い。超怖い。
 なのでお嬢さんはサッと避けて、でかい化け物はそれに対応できず、その勢いのまま欄干乗り越えて、

 どぼんっ。


フリーデリケ:うううう…… 寒いよ、、、、寒いよ、、、、パトラッシュ、あれがルーなんとかの絵だよ……

 川にダイブしたものの自力で橋の足の部分をよじ登り戻ってきたフリーデリケ。
 だが流石に濡れネズミみたくなってしまい、夜には寒すぎる。

???:大丈夫ですか? ……『炎』よ。

 お嬢さんがスペルを唱えると手の中に小さな火が生まれる。

フリーデリケ:お? ありがとー お嬢さんまじゅちゅち―――いや賢者さんデスカ?
???:一応冒険者的な区分ではそうなってるけど、本当は巫女なの。
フリーデリケ:………ふむ。
        あっ、もしかしてウィルカさん?
ウィルカ:えっ、何で…… 知ってるんですか?
フリーデリケ:ん、冒険者表に書いてあったし〜 あとご同胞ということでちょ〜ち興味あったのでので。
ウィルカ:同胞・・・? あっ、もしかしてあなたはフリーデリケさんですか? 高位トロールの。
フリーデリケ:だれがカバ妖精やねん。まぁ、フリーデリケお婆ちゃんデスヨ〜
        まぁジャンル不老不死仲間としてヨロで!(親指ビシッ!)
ウィルカ:…………はぁ

 フリーデリケのハイテンションぶりに比べ、ウィルカは不老不死という単語が出たとたん表情が曇る。
 その様子を見て、フリーデリケも少し俯き―――そして顔を上げ表情を変えた

フリーデリケ:―――ふむ、あまり不老不死ということが好きでないのか。
ウィルカ:………怖がられるから、あんまりね。
フリーデリケ:怖い、か。じゃあさ、私も不老不死だけどウィルカちゃんは怖いと思う?
ウィルカ:えっ……? いえ。
フリーデリケ:うん、私もウィルカちゃん見ても怖くないさ。

 ニッコリと笑う。

フリーデリケ:やったね!(親指ビシッ!)
ウィルカ:………っぷ

 何がやったのかサッパリだが、思わずウィルカは吹き出してしまう。

ウィルカ:でも、不老不死以外にも私は神の力を内包していて―――
フリーデリケ:神の力でなくても、あなたと同じくらい強くて
        オマケにトラブル磁石の『災害存在』だって私は―――あと酒場の連中は怖いとなんて思ってないさ。
ウィルカ:………。
フリーデリケ:怖がりのチキン野郎なんかは無視しなさいな、
        不老不死だの神様だのなんて些細な問題さ。
        それこそウィルカちゃんみたいに可愛ければ、そんな障害乗り越えてみんな愛してくれるよ。

 くしゃくしゃっとウィルカの頭をなでる。

ウィルカ:え? あ、ありがとう………。
フリーデリケ:どういたしまして素敵なお嬢さん。

 深々と大袈裟なお辞儀をする。

フリーデリケ:そういえばウィルカちゃんはここで何を?
ウィルカ:あ、月を見てたんです。今日は満月で川にうつる月もとっても綺麗だから。
フリーデリケ:ほう、それは気づかなかったなぁ。

 夜空を見上げるフリーデリケ。確かに綺麗な満月だった。

ウィルカ:クルルミクは山が多くて空気が澄んでいたり標高が高かったりでか月がとても綺麗です。
      ………そーいえばフリーデリケさんは何をしていたんですか?
フリーデリケ:ん? あーちょっと酔っ払っちゃって涼みに―――うっ

 言葉の途中で止まるフリーデリケ、そしておもむろに顔を川の方に向け―――


 げろげろげろげろげろげろ………………………(蛙の鳴き声でない)


フリーデリケ――――――ふぅ! イヤ〜 ホント今日は綺麗な月夜デスネ〜!!
ウィルカ:………………さっきまで本当に綺麗でした。
フリーデリケ:え? 今も綺麗デスy――――――っう。。。。
ウィルカ:ちょ!? 顔こっちに向けたままは止め―――きゃぁぁぁ!?!?








 …………そんな感じで、二人の不老不死は蛙でないBGMと共に最初の出会いを果たした。










同じ頃

クルルミク王国・ウィドウ侯爵のお屋敷

  

フランツ私室

フランツ:そろそろ時間かね。

 ちらりと壁時計を見て時間を確認し、2回軽く拍手する。

フランツ:そこにいるんだろう? 入りたまえ。

 がちゃりとドアが開き、一人の顔馴染みの密偵の少女が少し照れながら姿を現した。

密偵:いや〜、またバレちゃいましたですね。フランツ様って昔忍びの経験でもあるんですか?
フランツ:んっふっふ〜 昔は竜に乗ってバリバリ四露死苦やってたからね、レベルは高いんだよチェリア。
チェリア:へー 竜の研究をしてるからもしやとは思ってましたが……… なんで竜騎士辞めちゃったんですか?
フランツ:……………でね。

 ……………………。

チェリア:………ですか………?
フランツ:しばらくはドーナツ座布団で竜に乗って誤魔化してたんだが、竜って意外と乗り心地悪いもんでね………
     泣く泣く引退だよね〜
チェリア:泣くに泣けない気もしますね………… あっ、これ密偵が調べた冒険者のデータの訂正版です。

 チェリアが今日の目的である紙の束をフランツに渡す。

フランツ:うん、ご苦労様。そーいえばチェリアも討伐隊に参加するんだっけかね?
チェリア:はい! クルルミクの密偵として全力で頑張ってきます!

 極めて軽く、明るく言うチェリア。
 しかしフランツは彼女が、亡くなった兄の遺志を継ぐという固い意志を持っている知っている。

フランツ:うむうむ、チェリアは良い子だね。  
     ―――だけど、無理はしないでくれよ、チェリアがいなくなったら私は………
チェリア:! え!?
 急にシリアスな顔でチェリアを見つめるフランツ。
 チェリアも心に決めた相手(ハウル王子)がいるとはいえ、顔だけは良いフランツに少しドキッとする。
フランツ:私は………
チェリア:あ、あのフランツ様!?
フランツ:―――私は、同じハウル王子スキー仲間として悲しいよね!

 ………………………。

チェリア:…………………フランツ様の王子に対する気持ちと私の気持ち一緒にしないでください。
フランツ:えっ、ナゼ?
チェリア:フランツ様、
     『王子が私のこと足でぐりぐりと踏みつけて顔に唾はいてくださらないかしらねー
     とか言ってるじゃないですか。
フランツ:純粋な愛だよね。
チェリア:そんな泥水みたいな純粋はないし!?
フランツ:んっふっふ〜? 純粋と純水をかけるとはツッコミの腕を上げたね〜
     しかし、なんだ……… 表立ってはあれだが、私はチェリアの恋を応援してるよ?
チェリア:えっ? …………いや、でも。身分違いも甚だしいですし…………
フランツ:ん〜 うちも代々続く由緒ある家だがね、私の親はどこの馬の骨ともしれない野良エルフだし―――
     まー 討伐隊で活躍してお城に御呼ばれしたら告白してみれば、ダメもとでもね?
チェリア:…………ダメだったら仕事失っちゃいますよぉ。
フランツ:あー………… そうねぇ〜 その時は私が裏で手を回して『無かった事』にするさね。
チェリア:ん〜〜〜……… まっ、とりあえず討伐隊で活躍するのが先ですよね!
フランツ:んっふっふ〜! そりゃそうだわね、頑張れチェリア!
チェリア:はい! 頑張ってきます。

 ビシッとクルルミク式敬礼を決めて、チェリアは部屋をあとにした。

フランツ:…………頑張れ、か。そういえばジゼンにも、私そういったわね。

 セニティ王女率いる討伐隊のメンバーに、チェリアの兄を推薦したのはフランツだった。
 だので、迷宮に挑む冒険者なんかに何するつもりのないフランツも―――
 応援くらいしよっかな、って気分になる。

フランツ:願わくば、ギルドの連中に捕まりませんよーに……







 …………願いは届くかどうかは、まだ誰にも分からない。




 同じ頃

酒場『ドワーフの酒蔵亭』



 もう一人の眠り姫が目を覚ました。
















 寝てる間に大変なことになっていた。









 何百年前
 どこか

 少女が一人悲しくて泣いていた。
 騙されたことが悲しくて。
 みんな死んでしまったことが悲しくて。

 だから家に帰ろうと思った。
 黙って出て行った家だけど、『ごめんなさい』と謝れば許してくれると思った。
 本当に心の底から『ごめんなさい』と言おうと思った。



 だけど森はどこにも無くて………






続かない。