グリューネワルト騎士団外伝 −−−キリコ第2章・業火−−−



女郎屋の薄暗い部屋。
細い女の姿が、ゆっくり、ゆっくり、杯を上げていく。

ふと、無限に続くたゆたいが止まった。

浴衣の前をわずかにそろえ、ゆらりと陽炎のように立ち上がる。
あやしの影のように、ゆったり、ゆったり、明るい光の中へ。


「来るなあっ、来るんじゃねえっ!」
まだ若い男が、娼婦のルミアの顎を抑え、刃物を持って大声を上げていた。

おおかた、ルミアに入れ込んで金を使い果たし、どうしようもなくなったのだろう。
可愛い顔をしていても、ルミアも立派な娼婦だ。
快楽の代償を十分に心得ている。

「あ、キリコ!」
女郎屋「J」を実質切り回しているウェイン姐御は、目ざとく気がついた。
それに目でうなずきかけ、キリコはゆらりっと前に出た。

はっと気付いた時、キリコは男の目の前にいた。
まるで、突然そこに現れたかのように。

秘伝“一足一心”
相手の心の動きを足先に乗せ、気づいた時は剣の間合いに入っている、剣術の秘技。

ぬばたまの闇のような、黒く底の無い瞳が、男の意識を吸った。

か細い、しなやかな手が、走った。
美しい胸元が、わずかに乱れ、豊満な白い果実が揺れた。
パキイイイイッ
甲高い音と共に、ルミアの顎を捕らえていた親指が、逆に曲がる。
男はそれだけで戦闘不能に陥った。

「オラオラオラアッ」
雑用で飼われている若い男たちが、泣き声をあげる男をどつきまわす。
中でも、背が低く、貧相な目つきをした男が執拗だった。
『いやな目だ・・』
キリコは、不快な表情で部屋を出た。

「ご苦労様、さすがだね。」
ウェイン姐御が、後を追ってきた。
華やかな黒地に赤いバラを大きく取ったドレスを、優美に着こなしている。
「私の仕事だ。」
キリコはぶっきらぼうに言った。
ウェインは、誉められるのが苦手なキリコの照れ隠しを、くすりと笑った。
「ほれ、酒だよ。でもあんまり飲みすぎないでね。ヨーララやミアが心配してるよ。」
大ぶりの酒瓶を渡すと、きびすを返した。
美しく細い足首が、ちらりと見えた。
夜が激しいのだろう。

ああ、そうだ・・

「ウェイン姐さん、ちょっといいですか?。」



その夜、ウェインは店のお得意様の一人を、珍しい娼婦を紹介すると連れてきた。
遊び人としても有名な貴族は、うきうきしながらついてくる。
薄暗い部屋の中に、ぼんやりとした明かりが灯り、そばに妖しい女がヒザをそろえて座っていた.。
「紅穂(べにほ)ともうしまする。」
漆黒の黒髪を、優美に結い上げ、美しいかんざしがきらりと光る。
頭を深々と下げて、優雅な礼をすると、ぞくりとするような白い首筋が見えた。
『なんと、妖しい女だ』
貴族はゴクリと息を呑んだ。
切れ長の黒い眼が、笑みを含み、星を入れたかのように、灯りで光っていた。


寝乱れた髪が、白い布団の上を流れるように広がる。
吸い付くような肌が、たまらない快感を、全身に、泡立てるように広げてくる。
「はっ、ああっ、はうっ!、あうっ!、おうっ!、せつのうっ、せつのう、ございますっ」
薄闇の中、白い肌が宙に舞うように持ち上がり、
大胆に広げられた、繊細な脚線が、わなわなと震える。

貴族は、魂を吸い取られたかのように、空虚な顔で、機械的に腰を突き上げ、
跨りし紅穂は、折れるように細い腰を、弓のようにしならせ、長い黒髪を、白い布団の上に流し落とす。
せつなげな顔、恍惚とした潤んだまなざし、
細い顎を震わせ、真っ白い喉から、陰々とたまらない声を上げる。

そこには、剣士キリコはいなかった。

豊満な乳房をあえがせ、ときおり、自ら掴み、もみしだき、
乱れるばかりに、腰をくねらせ、絞り取る。
淫乱な女郎、紅穂がいた。

赤く筋張ったペニスが、濡れそぼる陰唇を広げ、突き上げ、突き広げ、
白い裸身を強張らせ、狂おしい絶頂と歓喜のなかに、共に落ちゆく。

「あはああああああぁぁぁぁ!!」
毛深い胸に伏せ、痙攣する男の腰をひきつけ、
熱い体液のほとばしりを、くりかえし、くりかえし、
膣の奥まであふれていく。


けだるげに、キリコは起き上がった。
一昨日、貴族は魂を抜き去られたように、よろよろと帰っていった。

もう、紅穂はいなかった。

カラリ
急に戸を開けると、びくりと、昨日の貧相な目の男がいた。
犬雄とみんなから呼ばれ、さげすまれる、雑用係の男だ。
びくびくとして、キリコの刃のような目に怯えていた。

その視線は、覚えがあった。
紅穂が乱れた声を上げると、隙間から、汗ばんだ肌を、じっと見ていた。
「のぞきか」
「い、いえ、そんな」
いやな目だ、むかむかしてくる。
弱い物いじめや、へつらい、たかり、そんなことばかり聞く、吹けば飛ぶようなチンピラ。
性根の無い臆病者、玉無しとののしる娼婦もいた。
「おまえはそんなやつだ」
キリコは、髪をかきあげながら、せせら笑い、それを言いつづけた。
貧相な顔が青ざめ、玉無しと言われて、どす黒く染まった。

かきあげるしぐさで、わきの下の白い肌が、見えた。
犬雄の目が、艶かしい肌に眩んだ。
怒りと興奮と、切れた衝撃が、犬雄を突き動かした。
「ちくしょおおおっ!」
キリコの恐るべき手並みも、肝を冷やすような剣の冴えも、掻き消え、怒りだけが飛びかかった。
突き飛ばされ、柱が後頭部に当たる。
目がクラリと眩み、犬雄が馬乗りになる。
「ちくしょうおおっ、ぢくしょおおおおっ、」
頬が叩かれた、2発、3発、
たいした事は無いが、頬が赤くなる。
はだけた胸元を引き破り、乳房に喰らいつく。
真っ白い、美しく盛り上がった乳房に、噛み付き、歯を立て、乳首を千切れんばかりに吸う。
いくつも歯型がつき、痛みがちりっ、ちりっと走った。
腰を突き当て、ヒザを暴れさせ、かぐわしい太腿に、いくつも青あざが散った。
そのうち、無理やりにねじ込まれ、痛みと共に、狂い立った陰茎が、キリコの膣にめり込んできた。
ちくしょう、ちくしょうぅ、べそをかきながら、犬雄は無理やりに、痛みも忘れ、キリコを犯す。
美しい柳眉がしかめられる。
固く、若い陰茎は、乾いた膣の中を、強引に突破し、深く、狂おしく、えぐりこんでくる。
されるままに、キリコは自分に加えられるしうちを見ていた。
『いやな目だ・・』
身体に打ち込まれる動きが、猛々しさが、次第にキリコの中の女を呼び覚ます。

熱く粘り、潤む膣を、ぶつけ合い、こすりつけ、奥へ、その奥へ、喘ぎ、立て続けに突進した
「くそおおおおおっ!!」
「うぐっ!!」
腰が深くぶつかり合い、どっと吐き出される精液が、キリコの胎に注がれる。



起き上がったキリコ、玉の肌に歯形が散り、青あざがつき、寝起きの不機嫌な顔のまま、
べそべそまだ泣いている犬雄は、怯え、青ざめ、

キリコは平然と酒を飲み始める。
その表情は、犬が嘗めたほどにも感じていない。
犬雄はふと見ると消えていた。

「ふん、臆病者。」



『おれ、何でここにいるんだ・・』
犬雄は、気がつくと、あの部屋の前にいた。
いや、今だけではない、なぜか気がつくと、奥まった部屋の方へ、足がむいている。

目が、あの肌を見たがり、耳が、あの喘ぎを求め、指が、柔肌の感触に飢えていた。
だが、恐ろしかった。
なんで、あんな事に。
なんで、あの女はさせた?。
俺は何をしたのか、いや、本当にあの女としたのか?。

気が狂いそうだった。
あの女がその気なら、瞬時に首を飛ばしていたはずだ。
それほどあの女の剣は壮絶だった。
今度会って、殺されないはずが無い。

だが、身体中に刻まれた、あの女の香りは、焼け死ぬことを知りながら火に誘われる蛾のように、犬雄をひきずる。

いやだ、いやだ、でも、でも、

隙間からぼんやりと光が漏れ、その横に自堕落な姿で、キリコがゆっくり、ゆっくり、酒を含んでいた。

あでやかな浴衣がはだけ、胸元が半分近く剥き出しになり、白い喉を晒して、

まるで、時が止まったかのように、わずかずつ、わずかずつ、

その光景を見ただけで、身体が硬直する。
白い喉、まろやかな胸元、わずかに残る歯型の跡、びりっと陰茎が硬直し、燃え上がりそうだった。

こくり、

白く細い喉が動いた。犬雄の息が上がる。

わずかに、脚が動く。
すらりと長い、優美な脚が、自堕落に組まれ、合間に、ヌラリとした粘膜が垣間見る。
喉が渇く、頭が白く燃える。
激しい息づかいと、されるがままに犯されるキリコの姿、
犬雄は声を殺して、うめいた。


「はあんっ!、あふううっ!、いいっ、あはああっ!」
先日の貴族の懇願に、キリコは紅穂となり、柳枝のたおやかな娼婦となって、たくましい身体を受け入れ、貪っていく。

大胆に広がる足先が、脇下に挟まれ、深く食い込む男の腰。
膣奥へ、たくましい亀頭を食い込ませ、絶え入る声を上げる魔性。

絡みつく肌の快楽、熱い息のかぐわしさ、乱れる横顔の美しさ、気が狂いそうにいとおしい。

華奢で、華麗で、たおやかな、そして淫乱な貴婦人。
それに捕らえられ、締め上げられる快楽を、なんと言おう。
肉壁の温かさが、粘りと絡みつきが、異様にはじけるような感触が、ペニス全体を覆い、締め上げる。
細い指が、シーツを破らんばかりに掴み、淫蕩な色に頬が染まり、華麗な口元が、淫らに声を上げつづけた。
「あはぁっ、ああっ!、いきますぅ、いきますううっ!、あうっ!、あはああああっ!!」
のけぞる腰が、飲み込むように締め上げ、快楽の火花がペニスを走った。
どびゅうううううっ、どびゅううううっ、どびゅうううっ、
中に、吸い上げられるような快感。
狂おしく突き上げる度に、それが、何もかも吸い出していく。


暗い目が、わずかに開いた扉を見た。
その奥で、まるで、今までと変わらぬかのように、杯を含むキリコ。
肩に浴衣をはおっただけの、ほぼ全裸で、ゆっくり、ゆっくり、杯を開けていく。
『いやな目だ・・』
キリコは、その目に気づいて、まるで気にもとめない。
まるで、犬が前を通ったぐらいにしか、反応すらしない。

あれだけ乱れた女が、
貴族には平気で服従する女が、

ぎりっと、歯が鳴り、目が血走る。

俺には、俺には、まるで犬か何かのような・・

目の前が怒りで赤く染まる。

気がつくと、キリコを、両手を後ろ手に縛り上げていた。
キリコはまるで無抵抗だった。
されるままに手を縛られ、まるで無感動な目で、全てを見ていた。
荒縄の残りを、狂ったように叩きつける。
「ちくしょおおっ!、ちくしょおおおっ!」
大して痛くは無いが、白い肌に、いく筋も赤い痕がつく。
腿にぬらぬらと男の名残があとを引き、そこをけり、踏みにじる。


いやな目、あの目、敗北の全てを、身体中に刻まれた日。
あの目をした男たちが、あらゆる暴行を身体中に刻み、植付け、注ぎ込んでいった。
「あぐうっ!、あううっ!、あひっ!、ひいっ!」
股を引き裂くばかりに、荒縄が食い込み、無残に広げられて、暴行につぐ暴行が、キリコの襞を広げ尽くす。

ぶるりっと震え、膣底へ、大量の精液を注ぎ込まれ、何度もこねられる。
口に押し込まれ、きれいにさせる。
入れ替わる男が容赦なく突き刺し、アヌスを人差し指でこじり、突き入れる動きでえぐっていく。さかさまに縛られ、両脚を一文字に広げられた身体を、容赦なく嬲り尽くす。

意地も、誇りも、何もかもがずたずたに引き裂かれ、踏みにじられた。


くいと、鎌首を持ち上げるように、キリコの首が上がった。
目がぎらつき、血走り、縛られたまま、飛び上がった。

かぶりつくように、犬雄の陰茎をくわえ、根元まで飲み込んだ。
引き倒され、絡み合う二人。
足を絡め、あそこを咥え、すすり上げた。

ちくしょおおっ!、ちくしょおおおっ!、
そう叫びたかったのは、キリコ自身かもしれない。

何もかも引き裂かれ、最後に女に目覚めてしまい、男無しではいられなくなった身体を、
暴行に感じて、蕩けて、狂ってしまう自分を、
こんな最低の男に暴行される事が、たまらなく感じてしまう自分を、
どうしたらいいのか。

あの全てを肯定するのか。

何もかも、厭わしく、狂おしかった。
青臭い陰茎を陰嚢まで咥え、しゃぶり尽くす。

ぬらぬらと、唾液で濡れ光り、淫靡な唇に吸い付かれ、飲み込まれる。

驚愕でなすすべもなく、亀頭を飲み込まれ、喉笛でこすり上げ、舌先で裏筋から、ぞくぞくと嘗め上げられ、足先から、脳天まで、白くはじける。

「ぐっ!!」
激しく痙攣する陰茎が、喉の奥ではじけた。
溜まりきった精液を、キリコの喉にぶちまける。
キリコは、恍惚とした笑みを浮かべ、それを飲み、吸い、しゃぶり尽くした。

若い陰茎はまだ萎えず、さらにしゃぶられて勢いを増して、後ろからキリコを貫いた。
「あうううっ!」
膨張し固くしこったそれは、膣壁をゴリゴリとこすり、濡れそぼった粘膜を、こさぎ落とさんばかりにえぐっていく。
後ろ手に縛られ、犬のように屈するキリコに、犬雄は猛り狂い、ぶつけ合う。
甲高い音が響く。

肉厚の亀頭が、深く食い入り、密着する肌の熱さが、ドロドロに下半身を溶け合わせる。
相手のことも、自分の事も、忘れあい、狂いあう。
ふっくらした恥丘が広がる。
豊かな乳房が押しつぶされる。
快楽が、深く、深く、中に食い込み、突き抜ける。

白いなめらかな背筋が震える。
若い腰が深く食い入る。

のけぞる身体に、咆哮がほとばしった。
「あうううううっ!!」
 どびゅうううううっ、どびゅうううううっ、どびゅううううっ、
陰嚢が激しく収縮する。
キリコの子宮に、大量の精液が繰り返し注がれ、あふれ、逆流する。
快楽に屈し、欲望に服従し、キリコは蕩ける声を何度も上げて、犬雄の精を受け入れた。



薄暗い部屋の奥で、キリコは今も、座っていた。
赤い血のような酒を、杯にわずかに満たし、
ゆっくり、ゆっくり、
その唇に、ふくめていく。

己の業火を、味わうように。

FIN