ICE DOLL―――人形の館―――

by MORIGUMA

 ガラガラガラ・・・
 一台の上品な馬車が、人目を忍ぶように静かに進んでいく。
 窓がわずかに開き、そこから金色の目がチラリとのぞいた。
 鮮やかなエメラルドグリーンの髪が、ふわりと流れた。

豪奢な馬車の中で、ゆったりと座っているのは、帝国騎士団に入隊してまだ日も浅い騎士、
グリューネだった。
 「人目はできるだけ避けていただきたい・・・か。エリッツヴァルド伯爵め、何をさせ
る気だ?。」
長い道中に飽いたのか、つい独り言をつぶやいてしまう。陰謀の巣窟たる宮廷でも、かな
りの勢力を誇り、軍や騎士団とも関係が浅くない伯爵の要望だ、いかに名誉を重ねている
とはいえ、まだ一介の騎士でしかないグリューネに嫌も応も無い。

 『確かこの道は、10年ほど前に滅ぼされたグランデル一族の領地だ。たしか反乱の罪
で一族斬首にされたはずだが。』
そこまで考えたとき、ふと、森の木々の合間に、人影が見えた。
鷹にも負けぬほどの視力は、目の前のようにその光景を捉えた。
 後ろに馬が3頭、
 犬のように四つんばいになった若い女性、銀色の長いウェーブの髪が垂れ、ほっそりし
た身体は、森の中に裸で白く浮き上がっていた。
 後ろから貴族めいた服装の男が、赤黒いペニスを突き入れ、腰を振りたてていた。
 前にも似たような服装の男が立ち、己の一物を深く咥えさせていた。
好色に蕩けた顔をした男たちと、顔が見えぬ裸の女性、
女性はゆっくりとした動きで、きわめて機械的に動いていた。

 「まもなくつきます。」
 御者の声に、グリューネは何事もなかったかのように、窓を閉じた。
 
 やはりそこは、グランデル一族が所有していた城だった。
10年も主のない城は、かなり古びてツタも生い茂り、遠目にはひどい有様だ。
だが、城内はまったく違っていた。
豪奢と洗練が上品に覆い隠し、古さも艶を帯びて美しかった。
足首まで埋まる絨毯が、どこまでも伸びている。

伯爵はさらに1時間ほどして現れた。
上流階級になればなるほど、決して急がない。
ようやく慣れてはきたが、この手の貴族とは正直つき合いたくはない。

「よく来てくれたのう、騎士グリューネよ。」
伯爵は恰幅もよく、体躯も堂々としていた。
だが、口ひげの神経質そうな動きが、その下の小心で小技にばかり長けた傲慢な性格を物
語っていた。
 伯爵には15になる娘がいる、多少の護身術も仕込む必要があるが、
「そのために若い男の騎士団を娘のそばに置くのは、好ましくない。」
『要するに、ケダモノを娘に近づけたくないということか。』
幸い女性騎士のグリューネが一人だけいた、ということだ。
もちろん、グリューネの返事なぞ聞こうともしなかった。
グリューネも返事を聞かれずに良かったかもしれない。
僅かでも答えに感情が入れば、敏感な伯爵のこと、すぐに気がついたろう。
確かに騎士団は若い男の集まりとはいえるが、無軌道な行いにはむしろ極めて厳しい。
ドンチャン騒ぎをやらかすのと、騎士道を守る行為はまったく別物なのだが、それを分か
ろうとはするまい。
 「なぜ、護身術を?」
感情が入らぬよう、しかし、どういう指導をするかを注意しながら聞いた。
珍しく伯爵がつまった、何かの感情を抑えているようだった。
ふと、顔をそむけ窓を見ながら、
 「あれの母親は、暗殺者に殺された。そういうことだ。」
よこしまな理由でないことに、ホッとしたグリューネは、娘に引き合わされた。
銀色の長いウエーブのかかった髪、
伯爵に似た、深い青い目、
母親似なのか、細い顎と美しい目鼻立ちは、わずかにやせていた。
ほっそりとした、しかし若木のようなしなやかさのある女性はヒューベルと言った。
それは、あの森の中で裸になっていた女性だった。

グリューネは何も言わず、ただ、黙ってうなずいた。
娘の恋愛遊戯には、関心などなかった。

グリューネはさっそく泊り込みで指導を始めた。だが困ったことに、この女性は感情の
表現が乏しく、しかも、痛みや苦痛をまったく表に現さなかった。
『まるで、氷のお人形さんね。』
覚えは恐ろしくよく、基本動作や歩法(戦闘用の歩き方)などはほとんど1回で覚えて
しまった。しかも、基礎動作を繰り返させて分かったのだが、歩み方から動き方、道具の
置き方まで、ほとんど1ミリのずれもなかった。
しかも、日常生活全てにそうだった。
動作は優美にして優雅、動き方から、裾のさばきまで、1ミリのずれもなく行う。
『いや、1ミリのずれも許されなかったのかもしれない。』
ふとグリューネは空恐ろしくなった。
昨夜のメイドの話が、ふと思い出された。

グリューネの世話をするメイドは、ポリーといい、偶然にもグリューネの家に務めるメ
イドのマリーと遠い親戚だった。怖い騎士団員と聞かされていたのに、意外にも気さくに
話しかけ、マリーの日常なども教えてくれるグリューネに、すっかりなついてしまった。
話が、ヒューベルの事になった時、ふとポリーが言いよどんだ。
「なにか、言いにくいことなのか?」
「このお屋敷は、お嬢様の牢獄なんです・・・」
ポリーはしまったという顔をして、あわてて逃げ出したが、どうにも気になる話だった。

一通り基本動作を終えたヒューベルが、くるりと振り返った。
相手との距離はどう取ればいいのか、ごく当たり前の質問だが、ヒューベルが話すのは
これが初めてだった。
呼吸の計り方、無駄のない動き方、揺るがない体重移動の方法、恐ろしく的確な質問が
かわされる。グリューネすら舌を巻かざる得なかった。みるみるうちにヒューベルは、騎
士団にほしいほどの才能を開花させていく。そしてその会話に、わずかに人の色合いが入
り始めていた。

「ヒューベル!」
甲高い男の声が、部屋に響いた。
神経質そうな、いやな目をした顔と、上等な絹の服を着た男がずかずかと入ってくる。
「もうすでに1時間近く過ぎているぞ。いつまでも遊んでいるんじゃない。」
青ざめたヒューベルを手荒に押し出し、グリューネをにらんだ。
「おい、騎士団。いつまでもお嬢さんにつまらないことさせてるんじゃない。色香で入
団したともっぱらの評判・・」
グリューネの視線が、ぐさりと音を立てて刺さる。
猛獣の視線に、人間が耐えられるわけがない。
だが、この男はとことん馬鹿だった。
「けっ、あばずれが・・・」

グリューネは、『牢獄』の意味がおぼろげながら感じ出した。

「えっ?!、ポリーが!」
部屋に戻ったグリューネは、青い顔をしたメイドがおどおどと交代を告げる理由に驚い
た。広大な城の裏庭、その馬場で、ポリーが馬に踏み殺されたというのだ。
絶句するグリューネに、メイドは袖を引いた。
グリューネは何かを言いたげなメイドに黙ってついていった。
メイドたちの詰め所では、何人ものメイドが目を真っ赤に泣き腫らしていた。


奥まった一室、重いカーテンが引かれた薄暗い室内に、ろうそくの明かりが揺れた。
真っ白い肌が、わずかな明かりに光り、揺れた。
裸に向かれたヒューベルが、後ろ手に拘束具で縛られ、口で奉仕を強いられていた。
「ええ、あの女騎士に剣を習って、何をする気だったんだ?。」
先ほどから何度も聞かれた問いに、何の返事もせず、
ただ口を、舌を、機械的な動きで動かしていく。
感情も愛情も無い動きだが、高貴の姫がする行為というだけで、快感が満たされていく。
「ちっ、もういきそうだ、飲めよ!」
ヒューベルの口に思いっきり押し込み、むせるのもかまわず、解き放った。
ビュグッ、ビュグッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、
ヒューベルは言われるままに、喉を動かしていく。
生臭い、苦い体液を、言われたとおりに飲み干していく。

重い鎖が、身体中に巻きつき、締め上げる。
「跨れ、俺のものを入れて締めろ、」
不浄な赤黒いペニスに、言われるとおりに跨り、裸の身体を広げ、腰をくねらせ、入れ
ていく。
乾いた膣は、痛みと軋みを上げるが、そんなものはヒューベルは慣れていた。
こすれて、きつい膣に満足げに突き上げ、細い身体をゆする。突き上げていく。
「ちっ、いつもいつも、声ひとつ上げやがらねえ。」
「止めとけ、この前みたいに、感情のない声でやられたら、萎えちまわあ。」
小さなすぼまりを、無理やりに広げながら、後ろから貫いていく。
ほっそりした裸身は、無残に広げられ、
無理やりにねじ込まれるペニスで、激しく突きこねられる。
口に別の男のペニスが入れさせられ、言われるままに喉まで飲み込み、しゃぶりだす。
「これは、これでいいぜ、なんたって伯爵令嬢だからな。」
気持ちいい動き、それだけで満足して、ニヤニヤ笑いながら、動く頭を眺めている。
自然に濡れてくる身体は、受け入れる体制を整え、男たちの為すがままになお深く貫か
れていく。
ジュッ、ジュブッ、ズッ、ジュブッ、ズブッ、ジュッ、ズブッ、ジュズッ、ズッ、
嫌な感覚が、動くたびに沸く。
だから、何にも感じずにいる。

貴族の子弟から選ばれた『教師』たち。
ろくでもない、才能も無い、まして相手に何の情け容赦も無い、そんな連中が『貴族の
血筋』というだけでヒューベルの周りに置かれた。

「ぷはあ・・・」
飲み下した苦い体液が、わずかに唇からこぼれる。
なまめかしい色香が、そこから立ち上る。
交代する男に、後ろから押し込み、下から突き上げる男も、次々とヒューベルの胎に射
精し、なすりこんだ。
わずかに、わずかに眉が揺れる。
根元まで押し込まれ、飛び跳ねる体液の感触が、身体に幾重にも刻まれていく。

『口答えするな!、ワシの言うとおりにすればいいのだ!。』
『何があろうと、ワシや教師の言うことは絶対だ!、逆らうことは許さん!。』
激しい殴打、ムチ、地下室への押し込め、
母を失ってから、異常な行動がヒューベルを縛り、拘束していく。

ただ、生きた人形として育てられていくヒューベル、
『教師』として入り込めた貴族の屑たちは、ヒューベルをもてあそび、
何をしても抵抗しないことに、どんどんエスカレートした。
処女を失ったのは、13だった。
あとはなし崩しに、教師たち全員に犯され、嬲られている。
くわわらぬ者や、かばおうとするメイドは、伯爵にクビにされ、あるいは事故で死んだ。
こっそりと無数の覗き穴や、盗み聞きの穴を作り、
ヒューベルはますます厳しく監視されていった。

数回ずつ膣もアヌスも犯され、赤く腫れ上がっていた。
だが、交代する男のそれは、隆々として、容赦なくヒューベルを押し広げ、犯し抜いて
いく。あふれた精液が、まだ未成熟な子宮をどろどろに濡らし、汚していた。
氷の彫像のように、無表情なまま、
ヒューベルは機械的に腰を振り、膣やアヌスをうごめかし続ける。
痛みも何も感じていないように、あるいは痛みがすでに麻痺しているかのように。
だが、成長していく身体は、わずかずつ変わっていく。
女の身体に、男を受け入れる身体に、
ざわり、ざわり、
白い裸身が、かすかに震える。
子宮を突き上げられ、アヌスをこね回されて、
乳房をもみしだかれ、クリトリスをこすられて、
嫌だ、嫌だ、痛みの方がいい、苦痛の方がいい、
悪魔が導くかのように、ペニスがヒューベルの何かを捉えた。
そこがこすられ、身体がびくりと震えた。

えぐり出された快感が、ヒューベルを惑わせ、何かが破れた。
「くっ!」
「へへへ、ついにお嬢様は、女に目覚めたようだぜえっ!」
それまでわざと動かなかった男が、強引にヒューベルを突き上げだす。
解ける、氷が、解ける、
アヌスがえぐられ、責められてわなないた。
ヴァギナが別の生き物のように動き、こすれ、快感を湧き出す。
快感が、強烈な惑乱を引き出し、ヒューベルを犯した。
「ひあっ!、あっ!、ああぅ!、あぐっ!、」
『堕ちるの?、まだ堕ちるの?、いや、だめ、いや!』
堕ちる様を見たい、堕とし切ってやりたい、残酷な欲望がペニスを膨張させ、
避けようのない混乱の中、黒い衝撃が走った。
「いや――――――っ!!」
ドビュウウウウウウウッ、ドビュウウウウウウッ、ドビュッ、ドビュッ、ドビュッ、
ビュグウウウッ、ビュグウウウッ、ビュグッ、ビュグッ、ビュッ、ビュッ、
快感に染まった裸身が、桃色に色づく。
氷は解け、快感に堕ちたヒューベルは、染まりぬいていく感覚に屈服していた。

「くひひひ、やっと女に目覚めたかい。」
「これからが楽しみだな、ようやく本当に嬲れる。」

「何が楽しみなんだ?」
男たちは全員がぎくりとした。
憤怒の表情で金色の目を光らせ、グリューネが走った。
体液にまみれた醜い塊が、ボトボトと落ち、うめき声が満ちた。


「いいのか?」
ヒューベルはこくりとうなずいた。
ほとんど同時に、どすどすと伯爵の足音がする。
「グリューネ、グリューネ、いったい何事をやらかした?!。各教師の方たちが、いっ
せいにお辞めになると言ってきたぞ。」

ドアを開けた伯爵は、ぎくりと足を止めた。
裸のヒューベルが、手足を鎖でつなぎ、楚々として立っていた。
「お帰りなさいませ、お父様。」
豪華な衣装をまとった当たり前の情景のように、裾をつまむ挨拶をする。
淡い恥毛が揺れた。
伯爵は真っ赤になり、青くなり、黒く替わった。
「どうされましたの、お父様。」
これは夢だ、悪い夢だ、わしは疲れておるんだ、だから娘が裸になぞ見えるのだ。

「お父様のお言いつけの通り、良い子にしておりましたのに。先生方の言われるとおり
に、このような格好でお待ちしておりましたのに。」
伯爵の首がぎりぎりと音を立てて横を向く。目は血走ったまま、首だけが別のもののよ
うに動いていく。

「先生方はいろいろな事をお教えくださいました。私は裸になり、殿方を受け入れ、精
液を飲み干し、全員の男根で貫かれました。お父様はいつもお喜びでした。『先生方の言う
ことをよく聞いている様だな』」
聞きたくないかのように、両手が伯爵の耳をふさいだ。

「先生方はさらに教えてくださいました。」
『お前の母親は下賎の出だから殺されたのだ、お前の父親はそれを黙ってみていた。』
『お前はいずれ父親の嬲り者になるのさ。お前の母親は人形のような女だったそうだ、
お前の父親が買取り、犯して、それ以来何も話さず、何も感じない女になった、それに伯
爵はとても感じてなお気に入って愛したそうだ。生きた人形がほしかったんだよ。だから
お前もそうなるのさ。』
「そうなのですか?、私もそうやって愛したいのですか、お父様。」
伯爵の全身は、マラリア患者のように震えていた。
チャラ・・、チャラ・・、
銀色の鎖を引きずりながら、ヒューベルは優雅な足取りで、伯爵に近づいた。
優雅に後ろを向くと、身体を折り曲げた。
わずかに赤く腫れ、かすり傷のあるアヌスとヴァギナがむき出しになる。
「ほら、お父様、私はもう女になりました。どこもここも女にされました。
お父様の望むとおり、何でも従います、何でも受け入れます、だから、どうぞ愛してく
ださい。」
それは、一片の感情も無い、クリスタルが音を立てているような、そんな声だった。

伯爵は絶叫を上げ、屋敷から逃げ出した。
二度と再び、そこに寄ろうとはしなかった。


鎖をはずし、練習用のナイフを手にとって、その刃を見つめていたヒューベルは、
長い髪を掴むと、一気に断ち切った。
「来るか?」
「はい!」
ヒューベルははっきりと意思を込めて、グリューネに答えた。

人形の館   fin