ギルティゴッズジェノサイドSS―――裁き・ヒミカ―――
by MORIGUMA


「天に愛を、地に祝福を。」
荘厳な音楽と共に、ザツライ正教の教皇は高らかに声を張り上げ、そこにいる全ての信者たちに祝福を与えた。

「やれやれ、しんどかったわい。」
法衣をかなぐり捨て、ひどく下卑た声を上げて、教皇は豪奢な椅子にどっかりと座った。
秘書官がこのあとの予定を報告に来る。
だが、不機嫌にそれを追い出し、全ての予定をキャンセルさせた。

舌のとろけるような牛肉のスープに、濃厚なバターをたっぷりと使ったソテー、20年以上寝かせた最上級のワイン。
湯水のように金を使い、際限なく贅沢な食事を貪り食うと、己だけが許される快楽を、ザツライ正教教皇の正当な権利として、行使しにいく。

すえた匂いと、どこからともなく聞こえるすすり泣き、石を頑丈に組み合わせ、その壁の向こうにはいかなる声も漏れない厚い壁。
「ぐふふふ」
その唯一のあるじは、醜い太った中年男。

すけるように美しい銀髪の娘、
褐色の肌に、スラリとしたチェアラム教徒の娘、
もと聖戦士の美しい裸身、
妖しい肌をした、破壊神の使徒、
無数の若く美貌の女性たちが、狭い牢獄につながれ、あるいは今なお複数の男たちのなすがままにされている。
気力も、明日も、失った目をして。


その牢獄には、ほっそりとした美貌の女性が、巨大な鎖につながれていた。
この地獄のような部屋の中でも、気品と怜悧さにあふれ、身体中に無数の陵辱の跡を刻まれながら、今なおその一角だけが、別の場所のような静けさがある。
東洋の異教徒ヒミカ。
その漆黒のひとみは、未だに気力を宿し、媚も、怯えも見えない。

「ふっふっふっ、異教徒ヒミカよ、汝いまだ改心をせぬか。」
ここに連れてこられて、すでに3日。
どんな女も2日と持たぬ牢獄の中で、これほどしぶとい異教徒は始めてである。
それだけに、教皇の興味も尽きない。
「何をもって改心などというのです。愚かしい。」
「愚かしいのはおまえの方よ。負けて貞操を失い、神力も無く、毎夜すすり泣くだけの異教徒が。」
美しく張り出した乳房を、ぐいとひねる。
「あぐっ!」
「ふん、それでいながら、この吸い付くような肌よ。」
汚らしい陰茎を取り出し、そこになすりつける。
「貴様ら異教徒は、男を惑わせ、自分たちの勢力を伸ばそうというのだろう。」
勝手な言い草で、ヒミカの裸身の敏感なところをいじめていく。

「今日は、特に意思堅固な聖騎士を用意した。己の媚術が効かぬ相手に、せいぜい技を振るってみるがいい。」
2人、かなり大柄な男たちが現れた。
「ひっ!」
ヒミカは一目見るなり、悲鳴を上げた。
どれも恐ろしく大柄な、筋肉隆々たる男たちだが、異様なのはその目だった。
どの目もどろりと濁り、意思のかけらも感じられない。ほとんどゾンビだ。
『どうして、こう悪趣味な連中を連れてくるの!』

美しい黒髪が怯え、震えた。
青ざめた肌が、妖しくぬめるように輝く。
ヒミカの怯えは、教皇を興奮させる。
「いいぞ、怯えろ、怯えろ。」

それらは、ゾンビと違い、明らかに生きていた。
掴まれた腕は熱く、しゃぶりつく唇も温かだった。

脳みそがほとんど無いということ以外は。

ヒミカの抵抗もむなしく、肉付きの良い足が掴まれ、ぐいと広げられた。
「あれええっ!」
恥ずかしい所が、風に当たる。
嫌がり、動く腰が、かえって淫らにいやらしく見える。
黒々とした恥毛が、白い象牙色の肌にはりつき、どろりと濡れていた。
ここで、初めて犯され、何人も、何回も犯されたが、それでも恥じらいは消えない。
嫌がり頬を染めるヒミカ。

そこへ首を突っ込み、ぞろり、ぞろり、長く熱い舌が、汚れきった秘所を、嘗めまわす。
「ひいいっ!」
目を潤ませ、身体を震わせるヒミカ。
美しい乳房がぶるぶると震え、尿道をまさぐる舌先に、足先が痙攣する。
もう一人が桃のように白い尻をまさぐり、舌を横から這わせる。
「あ、あぐ・・、ひ・・、ひいい・・!、あぐうっ!」
わななく薄茶のすぼまりも、味わうかのように嘗め尽くし、こじ開けてくる。
なんとおぞましい感触。
なんと絶えがたい感触。
次第にヒミカのこわばりも消えうせていく。

豊かな陰唇を広げられ、くねるようにはい込まれると、もういけなかった。
「あひいいいっ!、だめええっ!」
ぞろりとした舌先。
それが、もぞり、もぞり、襞をしゃぶり、陰唇をなぞる。
音を立てて、すぼまりを嘗め尽くし、襞をこじ開けていく。

妖艶なため息が、赤い唇からこぼれた。
びくびくっ
軽い絶頂が、ヒミカの理性を覆った。

もう、桃色に染まった肌は、抵抗する力も無かった。
巨大なハンマーのごときペニスが、ぐいと迫る。
ほっそりとした柳腰に、前後から、埋め込まれていく。
「はううううっ!」

ガシャッ、ガシャッ、
激しく鎖が鳴る。
のけぞるヒミカの腹に、男の物が食い込んでくる。
きつい、きついっ、
たっぷりと濡らされたとはいえ、あまりにきつい。
大きなペニスは、柔襞を裂くようにして突き進み、ヒミカを犯し抜く。

本能だけが凝り固まり、異様に熱く、大きく膨れ上がって、ヒミカの肉体を暴行する。
柔らかい肉襞をこね、締め付けるすぼまりを広げ、しなやかな裸身を逃げ場の無い絶頂へ追い詰めていく。

太腿が裂けんばかりに広がる。
アヌスがざっくりと広がる。
「あふっ!、あうっ!、あふうっ!、ひいっ!、ひうっ!、あああっ!」
快楽の律動が、肉を広げ、襞をえぐり、ほっそりした裸身を繰り返し突き上げ、突き落とす。
追い詰められ、落ちていきながら、ヒミカは気づいた。
知性の無い、不気味な異相の中に、ほんのわずかだけ快楽の喜びが宿っている。
あたたかな胎内に食いつく肉感が、安らぎとなって、男たちの無残な脳髄にわずかな人がましさを許している。
『この者たちも、こんな存在にはなりたくなかったろうに。』

ぎゅぶっ、ぎゅぶっ、ずぶぶっ、ずぶっ、
「あひっ!、ひいっ!、あうっ!、はあっ!」
激しさを増しながら、むしろ抱く手、突き上げる腰、それらは力を緩め、無理を避け、ひたすらヒミカの快感を押し上げて、のめり込んでくる男たち。
同情が、ヒミカを蕩かし、つい、情が移ってしまった。

白い裸身が浮き上り、落ち、また、突き上がる。
快楽が、果てしなく膨張し、身体の内奥をしゃぶり尽くす。

ああ・・だめ・・

恍惚とした顔がのけぞり、蕩けた。
男たちが、深くのめり込み、弾けた。
白い腹に、情念のエキスが、真っ白く噴き上がり、手を、足を、震わせ、びくびくと痙攣させた。

締めつける中に、喜びと安らぎを、無数の快楽の粒をほとばしらせ、繰り返し、射精しつづける。
蕩けあった3人は、何かを感じ取っていた。


ヒミカの蕩けきった身体に、醜い脂肪の塊が襲い、無理やりに黒い醜悪な男根を押し込んで暴れた。
うっとおしい。
ヒミカは、痴呆の男たちより、もっと醜い教皇にひどく醒めた目を向けた。


『みつけたわ・・』
激しい暴行の後、ヒミカは失神したふりをして、一人になるのを待った。
やがて、新月を見ながら、神力を練り、念を凝らし、空を渡るおびただしい意識を探りつづけた。

彼女の信奉する多神教は、処女性に固執しない。
時に、神が肉体を持って降り、巫女に限らず、娘や人妻と性欲を満たす事すらあるという。
ヒミカは処女だったが、それを失ったからといって、神力が無くなったと思い込んだザツライ側の思い込みにつけこむことにしたのだ。

許せなかった、これほどの大罪を犯し、なお罪を重ねる罪人たち。
彼女には、この牢に積み重なったおびただしい怨念が見えた。

長い、気の遠くなるような技を、ヒミカはやり通し、ようやく一人の意識を見つけた。
ヒミカは、その思念をたどっていった。

『貴方は、何も分かっていない・・』


最強牧師フォウ・ディスアピーアは、ようやく粗末な寝床で、唯一許される至福、眠りにつこうとしていた。最近、何かの気配を感じて、よく眠れなかった。
だが、極限まで鍛え上げられた身体は、急に加わった、強い視線を感じた。
「ナンだ?」

起き上がると、そこに桜の花と麗しい花びらが散った。
桜の香りの中、一人の女性が立っていた。
白と赤の清冽で緩やかな服。
ぬばたまの闇を固めたような、艶やかな髪と、深い澄んだ目。
「ヒミカ・・サン?」

あれほどの激闘をし、闘った相手を忘れるはずがない。
だが、彼女がなぜここに?。
いや、なにかが違う。

混乱した牧師を尻目に、ヒミカがふわりと下がる。
桜の花も、落ちた花びらも消える。
香りも遠のく。
なにより、ヒミカの姿が薄らぐ。

驚いて飛び起きた牧師は、大小の十字架だけを手に、走った。
ドアの外で、また彼女が立っていた。
淡い花びらが、それをまとう彼女が、きりきりと心をかきむしる。

そこには、もう一人、やつれた顔をしたレギン・レイヴがいた。
最近、ずっと感じていた気配、それに似ていた。
だが、その姿は淡く、今にも消えそうだった。
『ナンだ?、何ヲ言いタイ?!』

牧師の中で、何かが声を上げていた。
頑丈なカギに閉じられ、出る事のない何かが、カリカリと胸を掻いた。

深夜の大聖堂を、フワリ、フワリ、ヒミカの姿が下がっていく。
その横で、やつれきって、今にも息絶えそうなレギンが、泣きながら牧師を見ている。
己のためではなく、牧師に必死に訴えかける目で。

かりかり、かりかり、
胸の奥を掻く爪音、それが大きく響いた。



その牢獄には、異様な光景があった。
この世の地獄そのもののような牢獄、
明らかに自分が連れてきた罪人、
その奥で、不思議な光景があった。

淡い月光が、狭い鉄格子のはまった窓から落ちていた。
二人の大男が、ほっそりとした裸の女性の膝に、頭をうずめて泣いていた。
女性は、慈悲と、愛情と、言い知れぬ深い何かを秘めた顔で、そっと、繰り返しその頭を撫でていた。

「ヒミカ・・サン」
牧師は震える声で、そっと、その名を呼んだ。
その声は、石をこすり合わせるように、枯れ果てていた。

「この二人は、聖戦士だそうです。何も考えず、何も逆らわず、ただ、命ぜられたことをする。」

なでている頭には、残酷な傷跡が大きくついていた。
現代で、ロボトミーと呼ばれる、理性を失わせる手術の痕だ。
だが、この二人の成功の影に、おびただしい犠牲が山をなしている。

「何も考えず、何も逆らわず、ただ、命ぜられたことをする。」

ヒミカは無情に繰り返した。

流星が、身体を直撃したようだった。
寒さが、異様な寒さが、がたがたと身体を震わす。

地獄の底のような光景、
今、目の当たりにしてきた、死んだ目の女性、女性、女性、
やせ細り、骨となった赤子を抱いた娘は、自分が連れてきた女性。
大聖堂の、聖なる場の真ん中にある、腐臭と悪の溜まりきった光景。


「さあ、いこう、そなたらの女とも、母ともなってあげよう。」
ヒミカは、2匹のフランケンシュタインに、優しく呼びかけてやった。
二人は、涙を流しながら、ヒミカを抱き上げ、己の服をかけ、赤子のような安らかな顔で、走り出した。

ただ一人、死人のように、青く血の気のない顔をした男を残して。


FIN