後の世にノード戦役と語られる侵略戦争の最中、ある日の夕刻ノード王国領イグナシオ国境砦南西の森にて…
「…っ!……ッ!!」日暮れ間近の閑静な森の中でにわかに剣戟の音が響き渡る。
帝国兵エーラは一人、ノード兵3人と戦う羽目に陥っていた。
エーラ「ぐっ……!完全に油断した…!」
自嘲気味に悪態をつきつつ相手の剣を受け流す。
しかし相手は三人、いくら攻撃を躱そうとも反撃の隙も与えられず徐々に追い詰められていく。
ノード女兵「帝国の犬め!殺してやる!」
エーラ「(違う……っ!アタシは帝国の犬なんかじゃ…っ!)」
思わずそう叫びそうになるが辛うじて飲み込む。自分が帝国兵に紛れ込んだ義勇軍のスパイであることは誰にもバレる訳にはいかなかったし、たとえ事情を説明したところで、とてもではないが聞く耳を持ってくれそうな雰囲気ではなかった。
エーラ「(どうしてこんなことに……っ!!)」
国境砦攻略の前哨戦として、エーラの所属する部隊は森林内部の敵伏兵部隊を排除する任に就いていた。
森の中程で敵部隊と遭遇し乱戦となった際、エーラは隊を抜け出し、義勇軍の連絡員に帝国軍の情報を渡すため森の奥へと向かった、その帰り道であった。
一通りの剣術は学んでいたものの、戦場に出て間もない彼女は薄暗い森の中、後ろから近付く気配に気づかず不意を打たれてしまう。
寸前で気づき相手の一撃を躱したはいいものの完全に囲まれてしまい、逃げるに逃げられなくなっていた。
エーラ「(どうしよう?どうすればいいの!?)」
剣の才自体はあったが実戦経験に乏しく、ましてや相手は同胞の兵である、焦り剣筋が鈍った隙に切り込まれ、相手の剣をまともに受けてしまう。
エーラ「うあっ……!」
一撃をもろに受けた両手剣がエーラの手から弾け飛び、そのはずみで転び、尻餅をつく。
ノード女兵「死ねっ!!侵略者!」
もはや抵抗の手段を持たないエーラをノード兵たちは虜囚にするでもなく、そのまま切り殺そうとしていた。
エーラ「(え…嘘……アタシ…こんな所で…同胞の手に掛かって死ぬの……?アハハ……間抜け…ここに極まれり…って感じ…あのバカのこと…笑えないわね…。ゴメン…姉さん…約束…守れそうに…ないや…。)」
無事に情報を伝えられて油断していた…もっと周りに気を配っておけば…と遅すぎる後悔を胸に抱きながら、エーラは一人残される姉に思いを馳せ、目を閉じた。
ノード女兵「ガッ…」
刹那、ドスッ、と肉を鈍器で殴りつけたような音が響き、次いでドサッ、と何か大きな物を転がしたような音が聞こえる。さらに同じ様な音が二回した。
エーラが怪訝に思い恐る恐る目を開けるとそこには倒れ伏したノード兵達と…
「ふ~、うまくいったぜ…」
エーラ「え……あんた…なんで…?」
「ようエーラ、元気か?」
3バカ率いるお調子者のギアがいた。

時刻は少し遡り同砦付近の森の中…
ボウ「あ"あ"~斥候任務クッソダリぃ!!いるかどうかも分からん敵とか探す必要ねぇだろうよ!」
ヨーク「まあそうぼやくな、最前線で命を危険に晒すよりはマシだろう?」
ボウ「つってもよう…男三人でのんびり森歩きとかどんな罰ゲームだよ…あーあ、せめて女の一人でもいりゃあなぁ…。」
ヨーク「あまり緊張感なくすなよ。どこに敵が潜んでてもおかしくはない。…女と言えばエーラはどうしたんだろうな?任務を拝領した時も姿が見えなかったが…。ギア、何か知らないか?」
ギア「あー?知らね。どっかでおっ死んだんじゃね?」
ヨーク「おいおい、流石にひどくないか?」
ギア「ひどかねぇよ!?あいつがうちの分隊に配属されたときの事覚えてるよな!?緊張してるだろうからって先輩として気さくに挨拶してやったら『同じ分隊だろうと馴れ合うつもりはないから必要ないときは話しかけないで頂戴。』だぜ?あり得ねぇだろ!?」
ヨーク「あー…それはまあ…」
ボウ「黙ってりゃいい女なんだけどなぁ…男嫌いなんか?」
ヨーク「確かに『うちの部隊』は特にそういう女が多いが…あいつはそれとも違う気がするんだよな。他の女兵士とつるんでるわけでもなし、言うなればただ孤立してるだけだ。」
ギア「ケッ!知ったことか!口の利き方知らねぇ女は全員とっととくたばるか、敵に捕まって慰み者にされちまえってんだ!」
ヨーク「おーおー、相当お冠だな…。」
本隊が敵伏兵部隊と戦闘開始した少し後、ギア達三人は周辺の敵増援の有無を探る斥候を任される。
しかし行けども行けども敵影どころか痕跡の一つもなく、次第に気が緩み、苛立ちすら覚えてきたその時だった。
「…っ!……ッ!!」
ボウ「なんだぁ?打ち合いの音かぁ?」
ヨーク「人間同士が戦ってるようだが数は多くはないな…どうするギア?」
ギア「…一応任務だしな、様子だけでも見に行ってみるか。」
三人は茂みに身を隠しながら音のする方向へと移動していく…しばらくすると森のやや開けた場所でノード兵三人と帝国兵一人が戦っているのが目に入った。
ノード兵は三人とも手練れのようで帝国兵は一人でよく耐え抜いていると言ったところだろうか?
ギア「(おほっ!ノードの痴女共が三人もいるじゃねぇか!で、相手の方は…おいおいありゃあもしかしてエーラか?)」
ヨーク「(そのようだが…何故こんな所に?)」
ギア「(なんでもいいぜ!三人相手に苦戦してざまあみさらせってんだ!)」
ヨーク「(それで…どうする?このままいけばエーラの方が負けそうだが…)」
ギア「(そうだな…痴女共はエーラにご執心で隙だらけだし、ここであのクソ生意気な女に恩を売っとくのも悪かねぇ…何より3人も連れてきゃ今日の『お楽しみ』にありつける期待も大ってもんだ。)」
ヨーク「(決まりだな…ちなみに相手が男三人だったらどうしてた?)」
ギア「(ああ?そんなもん見捨てるに決まってんだろ。負けてこの場で輪姦でもされりゃあ尚良しだ!)」
ボウ「(ギャハハハ!ギアひっでぇwww。)」
ヨーク「(ハハ…お前ならそう言うと思ったよ。それじゃあ合図と同時に敵に肉薄、刀身なり柄なりで首筋殴って気絶させるって事でいいか?)」
ボウ「(よぅし!いつも通りってこったな!)」
ギア「(よしヨークは右、ボウは左、俺は真ん中だ……じゃあ行くぞ!3!2!1!今だ!)」
合図と同時に三人は茂みから飛び出し、それぞれ担当の獲物に向かって駆け出していく。
野原を駆ける音に金属鎧がこすれる音が混じってそれなりにうるさいはずだが、今まさに死闘を繰り広げているノード兵達は全く気付く様子がない。
そのまま敵の背後まで近づき、まずギアが、倒れたエーラに今まさに切りかからんとするノード兵の首筋を狙って両手剣の腹をぶち当てる。
ノード女兵「ガッ…」
上手く入ったようでノード兵は一撃で倒れ伏し、起き上がる様子はない。そこまで来ると流石に他の兵たちも気づいたようでギアの方を振り返るが時すでに遅し、すぐ近くまで迫っていたボウとヨークにそれぞれ殴られ沈黙する。
ギア「ふ~、うまくいったぜ…」
たった今手に入ったばかりの『戦利品』を見定めながら呟くギア。
エーラ「え……あんた…なんで…?」
ギア「ようエーラ、元気か?」
皮肉を込めて呼びかける。せいぜい恩義に感じてもらわないとなァ?
ヨーク「災難だったな…しかしなんでまたこんな所に?本隊からはだいぶ離れているはずだが…」
エーラ「………!!」
ギア「ははーん!分かったぞ!さては敵から逃げる時に部隊から逸れた挙句迷ったんだろお前!わかるぜぇ?新兵でしかも初めて来る森の中だもんなぁ~?よーちよち怖かったでちゅね~もう安心でちゅよ~?」
エーラ「ぐっ……うっさいわね!あんたと一緒にしないでよ!」
ボウ「ほらさっさと立てよエーラぁ。俺たちゃこれから捕虜共を連れ帰らなきゃいけねぇんだからよぉ。それとも道もわかんねぇ森ん中に1人置いてってやろうかぁ?」
エーラ「分かってるわよ!くっ…この!」
ギア「おいおい腰まで抜けちまってんのかよ?そんなんでよく兵士になろうと思ったなぁおい?…ほれ、手ェ貸してやるから掴まれよ。」
エーラ「いい…から!ほっといて……よ!」
ギア「うるせえなぁ…さっさとしやがれよっ……と!」
エーラ「あ………」
顔を紅潮させて必死に立ち上がろうとするエーラ、ギアは半ば強引にその手を掴み立ち上がらせる。
エーラ「べっ…別に助けてもらわなくたってアタシは!」
ギア「あーはいはい。さっさと帰ろうぜ~。日が暮れちまうよ。」
エーラ「…………」
ヨーク「一応斥候の途中だったはずだが…いいのか?」
ギア「本隊の方もそろそろ決着ついてるだろうし、もう十分見て回ったろうよ。おまけに捕虜三人と要救助者まで連れてきゃあ勲章もんだと思うぜ?」
ヨーク「それもそうか…なら捕虜は武装解除の上、縛って一人ずつ抱えるとして…」
帝国軍に潜り込んで以来、エーラは任務への重圧から無意識に周囲に対して必要以上に冷たく接していた。
素性を知られるわけにはいかないし、そうでなくとも敵同士である。そんな相手と『仲良しごっこ』ができる程エーラは器用ではなかった。
しかし自分一人で成し遂げるには難しい任務であることも何となく分かってはいた。実際今日だってこいつらが居なければ今頃自分はあの世行きだったろう。
エーラ「ギア…その…」
ギア「あ?」
エーラ「あ…ありが……あ…」
そう言いかけた刹那、エーラをひどい眩暈が襲う。先ほどの戦闘の疲労が、気が緩んだ今になって一気に来たのか、エーラはその場に崩れ落ちた。
ギア「おい、どうした?エーラ?エーラ!」
ギアの呼びかける声が聞こえた気がしたが眠気に抗えず、エーラはそのまま意識を失った。

エーラ「(…う……ん…ここは…アタシ…どうしたんだっけ…?)」
心地よいまどろみの中、少しだけ意識が戻る。誰かに背負われているようだ。自分の顔の横に相手の顔があるようで、知っている声が何か話しているような気がするがよく分からない。
鎧は布部分以外脱がされているらしく、胸部から相手に掴まる形になっている腕のあたりまでは武骨な金属の感触がするが、それ以外の相手に密着している部分からは肉の感触と生身の熱が伝わって来る。
エーラ「(…あったかい…)」
着ている鎧のせいだろうか?相手の背中が意外と広く逞しく感じる。
エーラ「(この背中…なんだか…懐かしい…昔背負ってもらった…父さんの背中…みたい…)」
心地よい熱に包まれながらエーラは再び眠りにつき、暫し幸せな夢を見る。父と母そして姉と4人仲睦まじく過ごした、とうの昔に過ぎ去りし幸福な日々の夢を…。
ギア「ったく人の背中でスヤスヤ寝息立てやがってよお!いいご身分だぜ全く!」
ヨーク「まあそうぼやくなよ。死線潜って疲れたんだろ。」
エーラが倒れた後、ギア達は協議の結果、捕虜二人をボウが、一人をヨークが、エーラをギアがそれぞれ抱えて帰路についていた。
ギア「恩売るためとは言え、犯れねぇ女背負うの超ダリィ。」
ヨーク「お前の中で女は犯れるか犯れないかの違いでしかないのか…まあ、俺も似たようなものだが…」
ギア「あーあ…、こんだけいいことしてんだから、女運と出世の神様がなぁんか加護の一つでも授けてくんねぇかなあ…」
ヨーク「受けるとすれば天罰の方だろうな。」
ギア「ああ?天罰ぅ?食らうべき奴なんて俺のほかに腐るほど居んだろが?」
ヨーク「例えば?」
ギア「肥え太った貴族に騎士共、後はその小間使いの商人連中、俺を差し置いていい目見てる奴は例え皇帝だろうと雷に打たれるべきだと思うぜ?」
ヨーク「おいおい…誰かに聞かれたら一族連座で死罪ものだぞ…」
ギア「お前が聞いたんだろうが…」
ヨーク「それはそうと…良かったのか?エーラの装備を全部置いてきて?」
ギア「構やしねぇよ。フル装備の帝国兵なんざ重すぎてとても背負えたもんじゃなし、装備なくした角で咎められるとすりゃ、どうせこいつだけだしな。」
ボウ「ギャハハハ!ギアひっでぇwww。」
捕虜を両肩に担ぎながらボウが笑う。
ヨーク「すまないなボウ。仕方ないとはいえ二人も担いでもらって…」
ボウ「構わねぇよ!いっぺんこれやってみたかったんだあ!」
そう言うとボウは捕虜二人を担いだまま器用に腕を曲げ、両手でそれぞれの捕虜の乳房を揉みしだく。
「う…」
「あ……っ」
意識は戻らないまでも敏感な部位を乱暴に弄られ、捕虜達からうめき声が上がる。
ヨーク「おいやめとけよ。ここで気付いて騒がれでもしたら面倒だぞ?」
ボウ「固いこと言うなよぉ。二人も担いでんだからよぉ。…へへっ、こっちのはちいせぇが張りがあって、こっちは大きいがちっと垂れてんな…」
ヨーク「仕方のない奴だな…。」
ボウ「乳といやぁ、エーラの乳はどんな具合だぁ、ギア?背中に当たってるだろ?」
ギア「鎧着てっから分かんねぇよ!…ったくお前は呑気でいいよなぁ…。」
そんな取り留めのない会話をしながら三人は歩き続け、本隊と合流する頃には陽はもうほとんど落ちていた…。

日も暮れて薄暗くなってきた頃、エーラは天幕内の寝床で目を覚ます。
エーラ「う……ここは…?」
どうやらそこは傷病兵を収容するエリアらしく寝床のほかに薬品や治療関係の道具も置かれていた。世話人は出払っているらしく、今この天幕には自分一人だけしか居ないようだ。
エーラ「あれ…?アタシ……なんでこんなところに……?…………!!」
そこまで呟いたところで先程までの事を思い出す。自分は致命的なヘマをし、よりにもよってあのバカに救われたのだと。
しかもまどろんでいたとは言え、向けてはいけない感情をソイツに向けてしまった気すらする。
エーラ「………~~///っ!……最悪っ…!」
紅潮して頭を抱え、しばし悶絶した後自己嫌悪に苛まれる。
エーラ「はぁ…………ま、助けられたのは事実なわけだし、礼の一つぐらい言っておくのが筋よね…結局言えずじまいだし……別にアイツに気を許したわけじゃないけど!」
と、誰にするでもない言い訳をしながら寝床から立ち上がり天幕の外へ出る。
エーラ「(さて、アイツはどこにいるのかしら?サボリ魔だから早々に帰って来てそうなものだけど…)」
ギアを探して自陣をうろついていると、丁度良く自分たちの部隊長であるガウスが通りがかった。
エーラ「あ、隊長!」
ガウス「おっ!エーラか!今日は災難だったそうだな!まだ新兵なのだからあまり無茶はするなよ!兵士とは言え無意味に命を捨てる必要はないのだからな!」
そう言って通り過ぎようとするのを引き留める。
エーラ「あっ、あの!」
ガウス「ん?」
エーラ「その…同じ分隊のギアが今どこにいるかご存知ないでしょうか?」
ガウス「ギアか、あいつならまだ捕虜を集めている場所にいるんじゃないか?何せあいつときたら人一倍…」
エーラ「?」
ガウス「ああいやいやなんでもない!とにかく奴なら捕虜の所にいると思うぞ!」
と言うが早いか隊長は足早にその場を去ってしまう。
エーラ「なんなのかしら…?」
少し不審に思ったが、特に気にすることなくエーラは捕虜の一時収容所(と言っても野外に集めているだけらしいのだが…)に向かうことにする。
聞く所によれば、ノード攻略軍を統括するボルデ将軍は趣味と実益を兼ねて自ら虜囚を尋問するために、自軍全体に捕虜の確保を奨励しているらしかった。
集められた捕虜は順次、将軍のいる帝国城塞に送られるらしい。
エーラ「(尋問が趣味の将軍なんてきっと碌なもんじゃないわね…)」
そんな事を考えながら歩いていると向こうから帝国兵が二人、何か話しながら歩いて来る。すれ違いざまに話の内容が聞こえてきた。
「ふぅ~、ヤリ過ぎて腰がガックガクだぜぇ!」
「ヒャハハハ!明日の戦に障らないといいなぁ?まっ、俺も赤玉出そうになったけどよう!」
「ギャハハ!人の事言えねぇじゃねぇか!」
ゲラゲラと笑いながら通り過ぎていく。
エーラ「(何…?)」
何を言っているか分からず、そのまま歩いていくと、捕虜の集団らしきものが見えてきたのだが…
エーラ「え……………?」
「やめて!やめてよ!嫌ぁ!」
「な~にが嫌だぁ?こんなビショビショにしやがってよう!」
「ひぐっ…うぅ…も…ゆるしてぇ…」
「うるせぇ!しゃぶれオラァ!」
「むぐぅ……っ!」
一瞬何が起こっているのか理解できなかった。日が暮れて暗くなりつつある森の広場で篝火の明かりを背に大勢の男と女が絡み合っている。
と言っても男の方が圧倒的に数が多く、複数の男に群がられる女達はさながら捕食されているかのようだ。
辺りに響き渡る悲鳴、嬌声、それに淫靡な水音。それはここがまともな正規軍なら決して起こり得ない光景であった。
本来なら帝国軍規において捕虜の虐待(勿論婦女暴行も是に含まれる)は禁じられているが、今現在のボルデ軍においてはそれが事実上黙認されていることを、エーラはまだ知らなかった。
エーラ「なに……これ…?え…?なんで…?」
あまりの光景に呆然としていると、後ろから肩をたたかれる。
ギア「ようエーラ、元気か?」
いつの間にかギアが嫌らしい笑みを浮かべながらそこに立っていた。
ギア「感謝しろよな~?今お前がこうしてられんのも俺のおかげなんだからよぉ?気絶したお前背負ってくんの滅茶苦茶しんどかったぜぇ~?」
エーラ「ギア…なに…これ…」
何かの間違いであって欲しいと思う儚い期待はあっさり裏切られる。
ギア「ああん?そういやお前見るの初めてだっけか?我らが総大将ボルデ閣下が捕虜を集めてんのは知ってるよな?有体に言えばこれがその褒賞ってわけだ!口が利ける状態でさえあれば何したって許されるんだよ!」
眩暈がする。目の前の事実から推測された、悪趣味極まりない利害の構図を言葉で裏付けられ愕然とする。悪辣な侵略者共だとは思っていたが、ここまで腐っていたとは。
ギア「いや~全く閣下さまさまだよなぁ!戦の度にこんないい目見れるなんてよぉ!ま、女のお前にゃ全く関係ない話だけどな!ギャハハハ!」
エーラの中で確かに形成されつつあったギアへの仄かな思いが、無残に砕かれ踏みにじられていく…
この男は何を言っているのだろう?自分はたった今までこんな奴に感謝の念を抱いていたのだろうか?任務のためとは言え、自分はこんな奴らに加担しているのか?
エーラ「うぷっ…うぇえええええっ!」
そこまで考えたところでとても気分が悪くなり、堪えることもできずにエーラはその場で膝をつき吐いてしまう。
ギア「うおおぉっ!?汚ねぇっ!なんだぁ?つわりか?」
視界が歪む。音が遠くなる。足元が不確かになる。目の前の事実を現実として受け入れられない。自身の感覚と世界の祖語が無限にエーラを苛んでいく。
ギア「…ま、正直お前にもちったあ感謝してるんだぜ?なんせお前がドジ踏んでくれたおかげで今回の捕虜を三人増やせたんだからよ!」
エーラ「………!!」
よく見てみれば凌辱されている虜囚の中に見覚えのある顔が混じっている。もっとも数刻前には悲壮な殺意に満ちていたはずのその顔は、今や屈辱と哀願、そして絶望に染まっていたのだが…。
「うっ…ぐぅっ…!?うあぁ…っ!?いやだ…いやだぁっ…!」
「へへっ!敵との淫行でこんなに感じやがって!見た目通りの淫乱女だなぁ!」
「いぎぃっ…!?ちがう…ちがうぅ…」
「違わねぇよ!こんなに乳首とがらせやがってよぉ!感じまくってる証拠じゃねぇか!」
「いやぁ…もうゆるしてぇ…ゆるしてくださいぃ…」
「許せだぁ?こんだけ楽しませてやってんのに何抜かしてやがる!ほら、まだまだ後がつかえてんだからよ!へばってないで気合い入れて腰振れや!」
「うぅ…もういやぁ…」
「オラッ!中に出すぞっ!孕みやがれぇ!」
「やめてぇぇぇぇ……っ!?」
「うっ…………!ふぅ~、なかなか良かったぜぇ~?」
「うぅ…いやぁ…」
「へへっ…これだけ出されたらホントに孕んじまうかもなぁ~?…おい、敵のガキを孕んだらどうすんだ?産むのか?殺すのか?そっちの軍規ではどうなってんだよオイ!」
「いや…いやぁぁ…」
エーラ「(アタシのせいで…?アタシが彼女たちをこんな目に…?)」
自身のしくじりの結果として同胞たちを惨たらしい結末に追いやってしまった。その重すぎる事実を受け止めきれないでいると…
ギア「つーわけで俺はもう少し命の洗濯して来るからよ。そんじゃあまたなエーラ!」
そう言ってギアは、今しばらく終わりそうもない饗宴に交じっていく。
後悔、憎悪、怒り、無力感、悲しみ、失望、あらゆる負の感情が湧きあがり入り交じり今まさに噴出せんとした刹那、エーラはふと冷静になり、去って行ったギアの方を向いて心底軽蔑したような表情をしながら一言。
エーラ「死ね…ケダモノ…。」
それだけ言うと立ち上がって踵を返し、自陣の方へと引き返していった………

その後エーラは帝国の侵略者と戦う決意を新たにするのだが、この出来事が『帝国兵エーラ』としての受難の、ほんの始まりに過ぎないことを未だ彼女は知る由もないのであった…

To be continued to "The War Disorder Hexa"...