ワイズナー前夜祭・伝聞

−−−『ハデス・ヴェリコの酒と夜』−−−

byMORIGUMA


 ガヤガヤガヤ

 酒臭い息
 汗と皮のにおい
 鉄の鈍い光と、耳障りな音

 日頃から、冒険者が集まる事で知られた酒場『ドワーフの酒蔵亭』は、
日頃集まる常連客たちが、眉をひそめるようなよそ者が、数多く混じっていた。

 ここは、竜神の国として知られた、クルルミク王国。

 強力な竜騎士団を持ち、
巨大な龍神(ドラゴンルーラー)によって守護されたこの国は、
普段は保守的で穏やかな国なのだが、
いざ戦いとなれば、『龍神』という絶対的な信仰を背景に、
竜騎士団を中心に全軍が宗教的な熱狂を帯びて、無敵の強さを誇っていた。

 それゆえ、温和な領内は、
冒険者などの『法や規則に縛られぬ、ゆるやかな存在』も取り締まられず、
かなりの数が自由に往来していた。

 だが現在、王国の重要な儀式の場である『龍神の迷宮』が、
ワイズマンと呼ばれる邪悪な魔道士により占拠され、
彼の領域は、女性しか生きて入れぬ結界を張られている。

 それだけならば、まだ国の全力を上げれば、
何ほども無く制圧できた事だろうが、
ワイズマンと何らかの関係があるのか無いのか、
同時に長年の和平交渉をなげうって、隣国グラッセンが侵攻してきた。

 このために、
龍神の迷宮へ国力を向けられぬクルルミク王国は、
女性の傭兵や魔法使いなどを募り、
それを迷宮へ向けるという手段をとらざるえなくなった。

 だがそれが、
王国騎士団によって取り締まられていた国中の犯罪者に、
格好の避難場所があることを伝えてしまい、
重罪の犯罪者やならず者たちが大挙して逃げ込む自体となった。

 犯罪者たちは、迷宮のワイズマン領域外で巨大なギルドを結成し、
迷宮は一大魔窟と化していた。


 今の城下は、王国騎士団、各国の冒険者や腕試し、他国のスパイや調査員、
犯罪者ギルド(ハイウェイマンギルド)の手下などが入り乱れ、
混沌とした状況になっていた。


 話を『ドワーフの酒蔵亭』にもどそう。


 今宵の客の中でも、一番眉をひそめられ、なおかつ人目を引く客が、
一つのテーブルを占拠して、だらしなげな格好で酒をあおっていた。

 恐ろしく豊かな白金の髪を、紫水晶の髪止めでくくり、背中に流している。
ごつそうな赤皮の短い上着と、その肩や袖、ボタンの代わりに、
飾りのように黒光りする、魔力を詰め込んだ黒魔石。

 だが、その下はというと、
青さすら帯びたような、ぬめるように白い肌に、
乳房と腰の極めてわずかな部分を隠すだけの、下着そのもの。
極上の濃い紫のレース地に、金や微細な宝石をちりばめてある。

 トドメに黒のガーターと、
これも濃い紫の腿半ばまでしかない極めて薄いストッキング。

 フワフワした白いルーズソックスに、
赤皮の短いブーツは、魔力発動のための魔道印と黒魔石を組み込んである。

 細く見える身体つきだが、胸は絶妙な形に張り出し、
よだれの垂れそうなふくらみを、半ばまでむき出しになっている。
蜂のように細い腰だが、豊かな白金の髪が動くと、
可愛らしい尻肉がこれもムチリとうごめくのが見える。

 はっきり言って、裸より淫らさを強調する格好だ。

 その上、
広く知性を宿す額に、眉の優美な流麗、鼻筋の美しいライン、
大きなアメジストの瞳を飾る長いまつげ、
絶妙のラインの顎と、赤い血のような色の唇。

 細く長い耳が、酒に染まり淫らに赤みを帯びている。


 相当な美貌に、その手の商売女かと思われそうな姿だが、
彼女の顔や眼光を見て、酔客すら恐れて近づかない。

 昨日も、『買ってやるぜ』と言った三人連れのバカ剣士が、
即座に黒コゲにされて、周りの人間までとばっちりで火傷を負う騒ぎになった。


 彼女はハデス・ヴェリコ。
『ハデスの姐御』と言えば、このあたりでも聞こえている悪名高い賢者である。


 ただ、身持ちが固いわけではなく、
猫のように気まぐれで、酒か男が無いと寝られない。
一杯の酒や、誘いの言葉一つで、
溺れるようにSEXにのめりこむ事も珍しくない。

 冒険者の酒場に入り浸るのも、
複数相手のSEXが好みだからである。


「ハデス・ヴェリコさん」
 彼女の名を呼ぶ声に、周りの客の方がギョッとする。

 アメジストの瞳に写ったのは、
緑の帽子に、弦楽器のリュートを背負った、
小柄で小太りの吟遊詩人の姿。

 声は耳をくすぐるような、気持ちよい声で、
ハデスの表情は柔らかくなる。

「ん、なんだい?。」

「私は、吟遊詩人ですが、記録士もしております、
ミュー・ラ・フォンと申します。」

 記録士とは聞きなれぬ言葉だが、
要するに色々な出来事を本に書いて、
好事家に売る者が、そう名乗ることがある。

「あなたのお話を、ぜひとも聞きたくて。」

「対価は、なんだい?」

 ハデスの鑑定は、まず間違うことは無い。
きちんと対価を払いさえすれば。
彼女が対価と言うときは、その気になった証拠だった。

 ミューの茶色の目と、真摯な態度、そして心地よい声が、
珍しくハデスをその気にさせていた。

「おいしい酒と、これでいかがですか?」

 大粒の緑の輝きに、ハデスはくすりと笑った。
かなり上質なエメラルドだった。

「まいったわね。」

 ぐっとグラスを空けると、

「ペペフォジチノ・ビナヴェスニチィアン・グラッチェルニズ、一番いい酒もっといで!。」

 本名をフルネームで呼ばれたドワーフハーフの店主は、
苦りきった顔ででかい酒ビンをさげてきた。

「本名はやめろって言ってるだろが、姐御。」

 店主は、ややこしくて舌を噛みそうな自分の名前が大嫌いなのだ。
それを一発で覚えてしまった姐御は、からかうのによく使う。



 強い芳香を放つ緑の酒を、
なみなみとグラスに注ぐと、ハデスはぐいとあおった。

「で、何が聞きたいんだい?」

ハデスは問われるままに、自分の半生を語り始めた。



「あたしが生まれたのは、モゴリフ公爵の実験室。
でっかいガラス瓶の中だったよ。」

 のっけから、衝撃的な告白に、さしもの吟遊詩人も顔色を失う。

「も、モゴリフ公爵ってあの・・・?」

 くすりと笑うあでやかな口元が、それを肯定している。

 グラッセンと呼ばれる王国があり、現在この国に戦争を仕掛けているが、
その南部に大きな領地を持っていて、王位継承権すら持っていた貴族である。
数十年前に滅びているが、
公爵が世に名を広めたのは、その名家ゆえではない。

 人にあらざる『実験』なる事を繰り返し、
『血まみれ公爵』『非道の貴族』『魔族の僕』
さまざまな悪名をとどろかせたゆえだ。

 その実験室の、ガラス瓶の中で生まれたのならば、
彼女は人造人間(ホルンムルクス)だという事になる。

「で、でも、でも、ホルンムルクスは寿命が・・・」

 そう、人造人間は魔道実験の一つの象徴であり、
さまざまな実験の大きな手がかりでもある。

 だが、寿命は一週間。
それは一つの定理であり、それ以上の存在はありえない。

「それは、完全体の人造人間のことだよ。
あたしは偶然と、公爵が気まぐれでいじくった『できそこない』、
人造人間じゃあないのさ。」

 通常のホルンムルクスに飽き足らなくなった公爵は、
戦場の治療場(戦えなくなった役立たずを放り込んでおく場所)
に手を回し、新鮮な陰嚢を集めさせた。

 火あぶりになるはずの罪人の娘を、
苦しまずに死なせてやることを条件に、
その子宮や卵巣を収集した。

 いかなる偶然が発生したのか、
あるいは公爵が何かをねらっていたのか、
はたまた集めた材料の中に、本物の『例外』がいたのか、
出来るはずのない存在が、一例だけ生まれた。
それが、彼女だと言う。

 本当なら、すでに50年は前の話だが、
目の前で自堕落に酒を飲んでいる女体は、
どう見ても20前後にしか見えない。

「信じる、信じないはあんたの勝手だよ。」

 真剣なまなざしで、一心不乱にペンをすすめる吟遊詩人に、
ハデスは話を続けた。


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 彼女がガラス瓶から出されたとき、
すでに10歳前後の娘に成長していた。

 公爵は彼女に興味を失っていたが、
出した娘は、驚くべき話を始めた。

「今夜のメニューはオマール海老のスープと、白鳥の蒸し焼きに香草をつめたものと・・」
「公爵様、今度の取引の場はぜひとも私めに仕切らせてくださいませ。」
「ああ、いけませんわそういうおいたをなさっては、お尻は、ああんっ、まだそんなああっ」

 公爵の周辺に勤めるメイド、商人、妾、
さまざまな会話を彼女は完璧に記憶していた。

 公爵自身の話も、完全に再現する。
分厚いガラス瓶と、実験室や建物の分厚い幾層もの壁を抜いて、
全ての話を聞くとなると、これはよほど超絶の感覚を持っていることになる。

 彼女自身はその意味までは理解していない。
オウムのように言葉をまねているだけだ。

 鳥が生まれて初めて見た相手に、安心と信頼を覚えるように、
この娘は、初めて見た公爵という存在に、
常に意識と超絶の感覚を向け続けていたという事だ。

 公爵は再び、面白い実験動物に関心を向けた。



 ハデスはガラス瓶から出た直後は、人間らしい感情を持たぬ、
単なる『生き物』に過ぎなかった。

 だが、色々と面白い特性を持っていることがわかった。
独特の教育としつけを与えて見ると、
際限なく水を吸収する海綿のように、
非常に速い速度で、言葉の意味を理解し、こなせるようになっていく。
しつけられたことも、忠実に覚えていった。

 やがて公爵は、彼女に「ハデス・ヴェリコ」という名を与え、
自分の従者としてそばに置くことにした。

 膨大な書籍の管理、実験道具の整理、そして公爵の玩具、
その3つが彼女に与えられた仕事だった。


 巨大な部屋を埋め尽くすほどの本を、恐ろしい速さで記憶し、
申し付けられた本は、即座に持ってきた。
文章のページから、公爵の書き込みにいたるまで、全て記憶していた。

 山のような実験器具も同様で、探す必要すらなくなった。

 また、公爵と生活を共にしていたために、
ありとあらゆる本物の財宝を見続けた彼女は、
本物とニセモノが簡単に見分けられるようになっていた。
後の高度な鑑定能力は、この時期にすでに養われていたものと思われる。


 だが、公爵の言いつけを守ることと、
何も無ければ犬同然に付いてまわり、
頭をなでられるとうれしげに目を細めること以外、
感情と呼べるものは、ほとんど持っていなかった。


 その夜、公爵は黒い皮ひもを引いて、一室を訪れた。

「よくおいでくださいました、公爵様。あら・・?」

 公爵の愛妾の一人、気弱げな貴婦人は、
彼の後ろで明かりを持って現れた姿に、息を呑んだ。

 犬のように首輪を巻かれ、皮ひもで引かれて
ろうそくの光がアメジストの瞳をきらめかせた。

 白金の流れる髪と、青さすら帯びた抜けるように白い肌、
けがれを知らぬ淡い胸のふくらみ、
痛々しいほどの細く長い手足、
愛らしいヘソから、つるりとした下腹部の幼いふくらみ。

 芸術品のような美しさと、裸で、犬のように首輪を巻かれた淫らさが、
明かりをささげ持って、かすかに微笑していた。

 何人かいる妾の所へ、奇怪な趣向で訪れると、
妾たちは変わった反応を示し、紫の瞳におびえる肌は、
また違った味わいを示してくれた。


 彼女の感情が芽生えたのは、その頃だったらしい。

 女たちの白い肌や、目の前で悶え、公爵との痴態を繰り広げる光景が、
ハデスの身体も少しずつ変えていった。

 ある日、公爵は、ハデスの身長が伸びていることに気づいた。
服は屋敷の者が用意するために、サイズが合わなくなると、
すぐに新しく作られる。
いつの間にか、10歳ほどの身体は、14〜5歳のものに変化していた。

「ハデス、服を全て脱げ」

 命ぜられるままに、何のためらいも無く脱いでいく肉体は、
彼すら気を引かれるほどに、美しく丸みを帯びていた。

 無心の紫の瞳が、じっと見る。
無垢の白い肉体が、女の色香を帯び始めていた。

 公爵の喉がごくりと動いた。

「脚を開け」

 彫像がモニュメントのように、美しい脚線美が、細い三角を描く。

 淡くしげり始めた茂みが、キラリと光った。

 女を主張し始めた乳が、大理石のような感覚を一瞬覚えさせたのは、
あまりに白い肌がまねいた錯覚だった。

 指は、吸い付くような肌に沈み込んだ。

ツ・・ツ・・ツ

 指先が、丸みを帯びた乳をなぞり、可愛らしいピンクの乳首に触れると、
不動だった身体がびくりと震えた。

 そこから、何かが始まったかのように、
指が動くと、肌が震え、息が次第に荒くなってゆく。

 ほほに赤みがさし、細くとがった耳は真っ赤だった。

「どうした?」

「わ、わかり・・・ません、はあっ!」

 茂みに達した指が、人形のようだったハデスに声を上げさせた。

「胸がドキドキして、お触りになっている所・・・はああ!」

 茂みの奥のスリットを開かれ、肉の芽が触れられて、
思わず声を上げた。

 あとはもう、言葉が出る余地すら無かった。

 いやらしい指先が動くたびに、白い肉体が色を帯び、
震え、わななき、のけぞる。
それでもハデスは必死に立っていようとする。

 ぬらり・・・

 細い腿に、一筋の雫が伝い落ちた。

「んあっ、あっふうっ、んっ、ん・・・ん、ああっ!」

必死に耐えようとするハデスに、指が突き上げた。

「ひぐうっ!」

 そこに指が突入した時、今にも腰が砕けてしまうのではないか、
と思うような衝撃が走った。

 指にキュウキュウと絡み付いてくる肉に、公爵はニタリと笑った。

「そういえば、お前はまだだったな。あまりいつも横におるので、忘れておったわ。」

 ハデスを抱えるとベッドに下ろし、
自ら明かりを二つ増やし、彼女の身体を照らし出した。

「なかなか美しいではないか。」

 ハデスは、まだ命令を守り、脚を開いたままだ。
潤んで開きかけた肉と、その奥に息づくピンクの、処女の場。

 のぞきこみ、もてあそび、舌先で味わう。

「んはっ・・はっ、う・・うっ、あああっ!」

 羞恥という感情を知らぬはずの彼女が、
身もだえしながら、命令と、湧き上がってくる何かとの間で、
必死に争い、抵抗していた。

 舌先のなぞり上げる感覚は、
狂いそうな乱れと、走り抜ける刺激となり、
細い裸身の中を奔馬のように駆け巡っていた。

「くくく、処女膜を舌で味わう事は、ついぞ知らなんだな。」

 身を起こし、口許をぬぐいながら、身体を押しかぶせる。

 黒光りする剛棒が、濡れて開き始めた花弁を、さらに押し広げる。

 公爵を見ていた紫の瞳が、見開かれた。

 ミチッ

「ひ・・・・・・・・・・・・・!」

 突っ張る手足、のけぞる身体、引き裂かれる痛み。

「力を抜け、痛いぞ。」

 声と、一瞬突進が止んだ。
言われた通りに、身体の力を抜いた。
そして、次に来る痛みを素直に受け入れた。

 ミチッ、ミチッ、ミチッ、

「はっ・・・あ・・はうっ、はっ、はっ、あああ・・・」

 ズズ、ズズ、ズルリッ

 激しい痛みだが、同時に何かが満たされていく。

『何だろう、何か、何か、あったかい、熱い、痛いけど・・・』

 紫の瞳に涙を浮かべながらも、
内を征服されていく感覚に、己をゆだねていく。

「痛いけど・・、痛いけど・・、何か、変ですっ、主さまっ!」

 血にまみれた蠢きが、
そこから何かが流れ込んでくるようで、
しだいに、身体が、熱く、どろどろに、熔ける。

 ドビュグッ、ドビュグッ、ドビュグッ、

「ひうううううううううぅぅぅぅっ!!」

 数千、数万の星が、まわりに弾け散った。

 

 次の日から、公爵の楽しみと、ハデスの仕事が増えた。

「そうだ、歯を立ててはならんぞ。舌先をもっとていねいに、
裏から、こすり上げろ、んっ、」

 朝の公爵のベッドで、朝立ちを静める事が日課になった。

「はい、主様。」

 赤い唇を濡らして、返事をすると、
再び、黒い幹からカリ首へ舌をはわせる。

 女になったあの日から、
ハデスは公爵を『主様(ぬしさま)』と呼ぶようになった。


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「公爵は凝り性でね、始めるとなったら、
徹底的に女の技術を仕込んでくれたのさ。」

 くすくすと笑いながら、ハデスは、芳醇な緑の酒を、
喉へごくごくと流し込んでいく。


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 教えられた通りの、
あるいは、ハデス自身が感じるままに、
ペニスを愛撫、刺激し、すすり上げる。

 にじみ出してくる体液に、膨張する亀頭。
尿道をほじり上げると、灼熱する脈動が、
口いっぱいに激しくほとばしる。

 その苦さも、生臭さも、彼女にとっては何ほどもなく、
飲み干し、しゃぶりつくす。

 主の満足した顔さえ見れれば、それで良かった。

「うむ、うまくなったな。上で、動いてみろ。」

 耳を真っ赤に染めながら、公爵の上に跨る彼女に、
そそり立つ剛棒が、胎内深くのめりこんでいく。

 まだ、身体は痛みを感じるが、
中に満たされていく感覚は、膣をいっぱいにし、
彼女の中に、甘美を刻み込んでいく。

 

 公爵は、非公式なパーティに、ハデスを連れて行くようになる。
公爵の同類か、それ以上に下劣な連中の群れる場所へ。

 裸の上にマントだけをはおり、黒い蝶の仮面だけをつけさせた姿で。

 あるいは、
黒い皮の首輪と、長い手袋、そして腿までのブーツだけをつけさせ、
アナルにしっぽをつけた姿で。

「ほほう、新しい奴隷ですかな、公爵」
「いやいや、奴隷以下ですよ。」
「なかなかに美しいが、味の方はいかがですかな?」

 期待半分の声に、公爵はにんまりと笑う。

「では、味見をしてごらんになれば?」

 『よろしいので?』と口では言いながら、
遠慮のかけらすら感じぬ様子で、
ハデスの美麗な尻を抱え、己の太った腹と、醜い一物を突き出す。

「うあ・・あ、はあっ!」

 主とは違う物が、胎内に侵入する。
その感覚にしびれ、声を上げる彼女に、
気をそそられ、寄ってきた客たちが、『私も』『私も』と言い出す。

「どうぞご遠慮なく、お待ちする必要はありませんよ。」

 群がり寄る男たちは、ためらいも無く、
彼女のアナルを、口を、手を、乳を、容赦なく犯し、貪り出す。

「んんっ、んっ、んくううっ!、んっ、んはっ!、あっ、いくううううっ!!」

 痙攣する美しい裸身に、興奮しきった脈動が、次々と撃ち込まれ、
口を、顔を、胸を、アナルを、子宮の奥を、
おびただしい精液がたっぷりと仕込まれていく。

 野獣のような男たちに、ボロボロになるまで犯されたハデスを、
公爵はいとおしげな目で組み敷き、白い腿を広げきって、
ドロドロの膣が締め付ける感覚に目を細める。

「ああんっ、主様っ、やっぱり主様のが、いちばんっ、いいっ!」

 その声を聞くことが、公爵の楽しみの一つになった。

 

 だが、ある日、館に無数の暴徒がなだれ込んだ。

 それは唐突であり、そしてあっけなかった。

 アメジストの瞳に、槍先にかけられた公爵の首が写っていた。

「はっ、はっ、んうっ、んんっ、んふっ、ふっ、んんっ!」

 三人の暴徒がハデスを取り巻き、
ひん剥いた彼女を、前も後ろも口も、飢えた欲望が狂ったように貫いている。

 館のあちこちから煙が上がり、そして悲鳴と絶叫が途切れることなく続く。

 犬のように這わされ、白い腿をかつがれ、股を裂けんばかりに広げられ、
ハデスは喘ぎ、悶え、のたうちながら、欲望の塊が、次々と吐き出されるのを感じていた。

 ジュブッ、ジュブッ、ズクッ、ズクッ、ズクッ、
「はっ、はっ、はっ、ああっ、あひっ、ひっ、はひっ、はひっ!」

 立ったまま前後から犯されながら、
彼女は、肉欲に応えて悶える肉体と、
胸に起こる冷え冷えとした感覚との違いを、不思議そうに味わっていた。

 公爵の首を見た時のそれが何であるのか、理解するのは数年の歳月が必要だった。

 戦利品として奪われたハデスは、男たちの性処理の道具となった。
 何の感情も無く、身体のおもむくままに男たちを受け入れる。

 膣にも、アナルにも、口にも、
あえぎながら、悶えながら、白金の髪を振り乱し、
美しい肢体を乱れさせる。

 毎日何人もの男を受け入れ、あるいは輪姦され、快楽に悶え狂うだけのこと。

 薄汚い馬小屋で、次々と精液にまみれながら、
公爵の道具だった自分が、別人の道具となっただけのこと。
ただ、おびただしい男たちの欲望に、クタクタになって眠るだけだ。

 だが、ある日、酒に酔った男が、
「こいつを手足のねえ人形にしてみてえな。」

 子供が人形をばらばらにしてみたくなるような感情が、
剣とともに振り上げられた。
アメジストの瞳は、その意味が分からずじっと見ていた。

 ザクッ

「ギャアアアアアアアッ!」

 狙いが大きく外れ、肩から肩甲骨に食い込んだ刃は、
皮を裂き、肉を切り、骨を割った。
目が、赤く光った。

「なにをしやがるうううっ!」

 腹の底から、沸騰するようなものが湧き上がった。
『怒り』という感情。

 それが、彼女の秘められた力と結び合った。
本来、魔法生物として作られたハデスは、人間の何倍もの魔力のキャパシティがある。
そして、知識は腐るほどあった。

「エゴ、エゴザメノン、ズザルウルブス」
(紅蓮よ、我が怒りとなりて、撃て!)

 数百倍の密度の超圧縮呪文が、右手の指先を閃光に包んだ。
5本の爪から、白熱する炎の矢が現れる。
『マジックミサイル』と呼ばれる凶悪な攻撃呪文だった。

 5本の炎の矢は、空中を荒れ狂った。
彼女を切った男も、周りで見ていた男たちも、
半径100メートル以内にいた30名あまりの全員の頭を、ぶち抜くまで止まらなかった。、

「痛いよう、痛いよう」

 泣きながら、治癒の呪文を思い出し、
白い光が傷を縫い合わせ、骨をつなぎ、肉を盛り上げた。

 痛みは消えた、でも、記憶は消えない。
恐怖という初めての感情が、彼女を突き動かす。

 泣きながら、重い剣を拾い、
男の死骸がぐしゃぐしゃになるまで、たたき続けた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ま、あとは、どこぞの金持ちの妾に入り込めば、
4〜5年はあっという間でね。」

 最後に入ったのが、大きな商会の主の妾だったが、
その息子がなかなか可愛らしく、童貞を奪ってやったら、
オヤジが死んだ後、彼女真っ先に受け継いだ。

 帳簿から鑑定、商品の保存管理から取引先などの整理まで、
彼女が公爵のところでつちかった能力で、ちょっと手伝ってやったら、
商会は大きく発展したのだが、今度は使用人が悪心を起こして、
息子を殺して店をのっとった。

 呆れて彼女が出たのが3年前だという。

「ら、ラウザール商会の崩壊ですか・・・」

吟遊詩人ミューの背中に、冷たい汗が流れた。

 急激に大きくなった交易商だったが、
使用人がのっとりを起こした直後から収拾がつかない混乱になり、
無数の破産者を引き起こし、
いがみ合った貴族同士が戦争まで始めるという大騒動になったのは有名な話だ。


「いい加減、妾も飽きたんで、適当に生きてきたところさね。」

 ハデスは世間話のように気軽にまとめ、
ミューは必死に書き取り続け、ようやくペンを置いた。

「ありがとうございます。」

 吟遊詩人の真摯な態度と、心からのお礼の言葉が、
ぞくっとハデスの心の琴線を弾いた。

 元々悪評高い彼女は、こういう言葉をかけられる事はめったに無い。

 チビで小太り、ブ男だが、ひょうきんで憎めない顔をしたミューに、
アメジストの瞳が、いたずらっぽい光を一杯に宿して、じろじろ見つめた。
普通の情景なら、こんな目で美人に見つめられるとドキドキしてしまうだろう。
だが、ハデス相手では、蛇ににらまれたカエルのそれに近かった。

「うん、決めた。今夜はアタシと寝るのよ。」

「は・・・?!、あ、あの、私ですか???」

 どう見ても、女性にモテるようには見えないミューは、
意味が理解しきれず、目を白黒させた。

 ムッとハデスが、剣呑な顔をすると、

「何よ、アタシと寝るのが不満だっての?、それともこの場で黒コゲがいい?」

 パチンと細くしなやかな指が鳴ると、
白熱する小さな火の玉が、酒場の暖炉めがけて飛んだ。

 ゴウウウウウウウンッ!

 レンガの煙突が、吹っ飛びかねないほどの火柱が上がる。
酒場の客と、店周辺の全ての人間が飛び上がった。

「い、いえええっ!、ご、ご、ご一緒させていただきますっ!」

ニマッと、凶悪だが実に魅力的な笑顔がうなづいた。

「ようっし、じゃあいこいこ〜〜っ、朝までいっぱいするわよおおっ!」

 それこそ豊満で瑞々しい長身の肉体を、
小柄で小太りのミューに、べたべたまといつかせ、
腕を抱きしめながら、甘えきったように歩き出す。

 

・・・・・

 カウンターから、ようやく首を上げた店の主が、

「ありゃあ、運が良いのか悪いのか、どっちだと思う?」

 『吟遊詩人に同情する』
 『ヘビに飲み込まれたカエル』
 『声をかけたが運のつき』
 そういう意見が、酒場の大半を占めたのはいうまでも無い。

 

FIN