狩場の町〜フィリスとミランダ2〜

帝国の元騎士フィリスと元兵士ミランダ、二人はある忌まわしい事件を元に知り合った。
そして共に国のために戦っていたが国敗れ、彼女たちは敵に捕らわれ陵辱を受ける。
だが運良く生き延び落ち延びる道行きをたどっていた。
「ここらで休もうよ」
ミランダがフィリスにそう言って腰を下ろす、フィリスも従う。
彼女達は今太陽を崇める民間信仰の行者とその連れ合いの剣士のいでたちだった。
その民間信仰は敵味方にかなりの信者がおり、敵方もおいそれとは手が出せなかった。
その上その行者の衣装はフードの深いローブであり目立ちやすいフィリスを隠すには都合がよかった、ただ暑いのが難点だったが。
フィリスはフードを下ろし汗をぬぐう、旧貴族の追求はかなり熾烈だった、フィリスも対象であるのは間違いはない。
「大丈夫かい」
「ええ、でもあなたまで来ることはないのに」
「そうはいかないよ、確かにあたしは民間人に戻れるけどあいつらへの恨みや死んだ仲間達を忘れて暮らせない」
「そう」
フィリスはそれだけでないことを知っていた、だがあえて言わなかった。
「でもあの時は助かったね、この衣装をもらわなかったら今ごろどうなっていたか」
ミランダたちはあの陵辱を受けた後の出来事を思い出す。

彼女達は疲れ、ぼろぼろの状態で山中をさまよっていた、そして少し休んでいた。
「このままじゃ」
ミランダがフィリスを気遣う、疲れが取れていない上に傷だらけだった。
(いざとなったらフィリスだけでも)
そう考えていた、その時茂みがゆれた。
「くっ」
剣を構えるミランダ、だがおぼつかない。
「ミランダ」
フィリスも膝立ちで構える、そして茂みから人が現れた。
(これまでか)
だが。
「落ち着け」
現れた人影は二人、剣士風の男とまだ子供の少女だった。
「おまえ達、帝国の敗残兵か」
ミランダは警戒しつつ、男をうかがう、この時期に子供連れで旅は怪しいし難民でもないようだ。
「そう睨むな、何もしない」
そう言うと男は水袋を差し出す、毒は入っていないことを示すため自分が飲んでから差し出す。
ミランダは受け取り、フィリスと共に飲む、やや落ち着く。
「このままどこへ行く」
「わからない、でも」
答えるミランダ、男の脇の少女はフードを深くかぶっていたが垣間見えるその目は老人のようだった。
「だがその格好では逃げられない」
もっともだった、帝国の紋章の入った装備と貴族のフィリスは目立ちすぎる。
「でも、何があっても生き延びる。それが陛下への」
フィリスがそう言って男を見つめる。
「わかった、これを使え」
男は荷物から行者の衣装と旗など一式と自分の予備の装備と服を差し出した。
「これは」
「もう必要ないものだ、予備の装備と服は痛いがな」
(こいつ、ただの男じゃない)
ミランダもフィリスもそう感じたがこの時勢そんなことがあっても不思議ではない、あえて彼女達は黙った。
「後はおまえ達次第だ、また縁があったらな」
そして二人は去っていった、男の横顔がやけに憂いを帯びていたのが気になった。
その後彼女達はそのいでたちで旅することになる、意外と行者の衣装の効果はあった、そのせいでいままでやってこれたのだ。

「そろそろ行こうか」
ミランダの言葉にフィリスはうなづきフードをかぶり、旗を持つ、太陽をかたちどった紋章の旗が鉄の竿にゆれる。
その時ミランダは声をかけられた、はっとして振り返る、フィリスは顔を隠すようにうつむく。
「ミランダ、私だハントだ」
「隊長」
ミランダは声を上げる、彼はミランダが入隊当時の隊長ハントだった、一人娘と一緒だった。
「ご無事だったんですか」
「ああ、だが共和国の元指揮官職への追求が厳しくてな、娘と逃げるようにして出てきた」
娘のクリスティスは金髪を後ろでまとめた美しい娘、まだ17だった、にこやかに笑い挨拶をする。
「そうでしたか、あたしは戦が終わる前に抜けてこの行者さまのお供をしてるんです」
フィリスは顔を見せぬように頭を下げる。
「そうか」
「父さん、いっしょに行きましょうよこの方たちと」
クリスティスがそうすする、特に問題ないので共に行く事にした。
「どちらに行くんですか、隊長」
「隊長はやめろ、この先にある陛下のお狩場の町にな」
「そうですか」
ハントは道行きの途中で語る、半ば追われる形の彼らのようなもの達をその町は受け入れ、罪などは言及しないというのだ。
「睨まれないのかな、本国から」
「そこの領主は今回の戦の功績者らしい、だから言えないらしいがね」
「君も、あ、行者さまのお供だったね」
「すみません」

二日ほどの旅行きでその町に着く、にぎやかかと思いきや意外と静かだ、移民を受け入れている割には普通の田舎町だ。
「何かおかしいね」
「うむ」
すると役人らしい二人がやってきた。
「この町の領主配下の行政官である、そなた達は」
「あたしはミランダ、この行者さまのお供をしてます」
「私はハント、娘と共にこの町のうわさを聞き参りました」
行政官は、フィリスの方を見た。
「失礼だが、お顔を」
「この方は病で顔が崩れてまして、うつるかも」
ミランダがうまく言いくるめる、彼らはその言葉に少したじろぎやめた。
「よし、ハントと娘は共に来い、行者様達は町で騒ぎなど起こされませぬよう」
「ではな、ミランダ」
「はい」
ハントたちは行った、二人は宿に入り、しばらく逗留することにした。
その時二人を一人の女性が見ていたのを二人は気づいていなかった。

「何か妙ですね」
フィリスは、町の様子を見て言う、なにか活気がない。
二人で町に出て家々を回り施しを受けていた、意外と広い信仰は教会のやっかみだったが今の二人には貴重だった。
施しは普通にもらえるが人々の態度がなにかすがるような感じだった。
「そうだね、領主はいい人のうわさもあるのに」
「移民を受け入れてるのになぜか人も見かけないし、あの方達も訪ねてきませんしね」
「そうだね」
なにか嫌な予感をミランダは感じていた。
「おまえ達」
不意に女の声に呼ばれる、振り向く二人。
そこには共和国の衣装を着た女性がいた、片目に眼帯をしている。
「あんたは、ヴァニラ」
そう、あの時の被害者の一人ヴァニラだった、ただ一人の敵方の被害者、捕虜だった負傷兵。
「久しぶりだね、そっちは行者じゃなくフィリスだね」
「なっ」
ミランダはぞっとする、そして剣に手をかけようとする。
「待て、捕らえたりする気はない、あの時のこともあるしあのあとグリューネに開放してもらった貸しもある」
「信じていいのか」
「ああ、ただしこの町にいる間だけだ、他の町で会ったら残党追跡官として捕らえる」
去っていくヴァニラ、彼女はあのときのショックで負傷した片目を失っていた。
彼女は事件のときに帝国の人物と関わりを持った経験を買われ今は逃亡中の者を捕縛する役目を持っていた。
「なるほど、いろんな奴の顔を知ってるものね」
「フードのなかの私までわかるなんて」
「あたしを見つけて宿でものぞいたんでしょ」
意外な人物に出会うものだ、だが彼女もこの後は敵同士だ。

そのころ領主の屋敷では。
「つぎの狩りはいかがしましょうか」
「ふむ、獲物もたまったことだし明日にでもするかのう」
領主は太った体を振るわせる、おおよそ噂とはかけ離れた風体だ、戦の混乱に乗じた成り上がりものだ。
「では」
行政官は嫌らしい笑いを浮かべる。
「ところで追跡官のヴァニラだが嗅ぎまわっておるようだのう」
「確かに。なに、いざとなれば」
「せっかくの楽しみをなくされてはの」
その一部始終を全て聞いているものがあった。
それはヴァニラだった。

朝、領主ら一行が町を出て狩場へ向かう、その行列を見つめる町の人々の表情は暗い、それだけでなくこの町はどことなく暗かった。
「あれが領主か、噂とぜんぜん違う風体ね」
「でも町の人はなぜあんなに」
二人は宿の窓からそれを見ていた、気になっていた町の雰囲気とあいまって少し気になる。
「また狩の日だ、あんたら出ないほうがいい」
宿の主人がそう言う。
「なぜなの」
「狩の日に出たものは必ず捕まるんです、そしてひどい責めを受けて帰ってくるか、それとも」
びくついている、なにかその狩りには何かあるようだ。
「そうだ、この町に来た移民はどこにいるの」
ミランダの言葉に主人はさらに固くなる。
「来たのは知ってます、毎月かなりの人を見ますから、でもそれも」
「何があるの、この町に」
主人はなにも答えず逃げるように出ていった、二人は顔を見合わせる。
「どうしたのでしょうか」
「わからない、でも」

「ぐわっ」
男が弓を背中に受けて倒れる、周りには逃げ惑う数人の男女、それを追っているのは領主の一行。
「わはは、逃げろ、逃げろ、戦ってもよいぞ」
逃げ惑うものたちは武器を持っているが訓練用の刃引きの剣や槍だ、対して領主たちは普通の武器。
そう、これは狩りだった、歪んだ欲望の生んだ狩り。
領主たちは戦での殺しとそれに付随する陵辱など全てが平和になっても忘れられなかった、それは耐えがたいものだった。
それを満たすため彼らは旧帝国の追われるものを受け入れるふりをして集めこのような戦の名目の狩りをしていたのだ。
領主と行政官が中心になり戦争時の部下が参加していた、男は殺し、女は犯す、あの戦役を擬似的に楽しんでいたのだ。
「おのれっ」
ハントが剣を振りかざして娘のクリスティスを逃がそうとする、だが刃抜きの剣では倒せない。
「父さん」
「逃げろ、ぐっ」
弓を受け、片膝をつく、止めをさそうとする剣をかろうじて払いのける。
クリスティスが剣を取って父の前に出る、彼女も父から多少の指南は受けていた。
「ほほう、今回はこんなのもいたか」
領主が出てきた、手には血まみれの剣と裸の女が髪を捕まれている。
「貴様ら」
ハントが斬りかかる、だか剣はたたき折られ、返り討ちに。
「父さん」
「ははは、それっ」
クリスティスに斬りつける領主、かろうじて払う、じりじりと追い詰められる。
「ふふふ、戦場を思い出すぞ、倒し、犯した」
きつい一撃を与え、クリスティスの剣を払う、そして襲い掛かる。
「いやーっ」
「ふふふ、これだ、これだぁ」
乱暴に衣服を破り、丸裸にする。
「ふふふ、まずは」
領主はズボンを脱ぐと一物を取り出す、すでに怒張していた。
「咥えろ」
剣を突き付け、凄む、抵抗するが張り手を入れられぐったりしたところを咥えさせられる。
「うぐっ、むうっ」
「ふふっ、いいのう」
腰を振り楽しむ、そして口内で出す。
「むううううっ」
「飲むんだ、飲め」
顔をつかみ、強引に飲ませる、息も絶え絶えのクリスティスを引きずり起こし四つん這いにして後ろから入れる。
「あああっ、いやああ」
「ふふふっ、興奮するぞ、ははは」
腰を狂ったように振る、気がつくと周りには同じように女達が犯されていた。
「領主、私めも」
行政官が来て口を犯す、前後から責められるクリスティス、金髪を捕まれ、振りまわされる。
「うおおおっ」
領主が中で果てる、精液の感覚を感じて絶望する。
「いやああっ」
「ふふっよかったぞ、おい、後は好きにしろ」
ぼろきれのように捨てられたクリスティスに他の男達が群がる、ハイエナのように。
そして陵辱の末最後に彼女が見たのは剣の切っ先だった。

宿であれこれ考えて夜になる、二人は外を眺めていた、そこに何か影が見えた。
「うん、あれは」
外に出ると人が倒れていた、近づいて抱き起こすとハントだった、血まみれで虫の息だ。
「隊長」
「ミランダか、やられたよ、ここの領主は人間狩りを」
「ひどい」
フィリスは絶句する、ミランダの目からは涙が。
「狩場でみな殺された、娘は犯されて」
「もう何も話さないで」
彼はそのまま息絶えた、ミランダは泣き崩れる。
「その男の言った通りだ、ここの領主は狂っている、行政官と二人ではじめたのが今では」
ヴァニラが現れ、告げる。
彼女は追跡官でもあり各地のこう言った事件を探る密偵でもあった。
「これを報告して処分する、おまえ達は何もするな」
「黙ってろって言うの、自分の国の人間が動物扱いされてるのよ」
「警告だ、やめておけ」
ヴァニラは去った、二人は顔を見合わせ、うなづいた。

ハントの墓の前、二人はいた、旅のいでたちだが顔は険しかった、そして二人は走り出した。
行政官が町を巡回していた、そこにミランダが近づく。
「二人だけでお話したいことが」
行政官は側近を行かせ、ミランダと路地に入る。
「何の用だ」
「あのときの人達はどこにいるんですか」
「他の町に行った、後は知らん」
背を向ける行政官、そこでミランダは言う。
「狩りはたのしかったかい、ふふっ」
「なに」
振り向こうとするところを短剣で一刺し、えぐりこむ。
「ぐあっ」
そして剣を抜いて首をはねる。
「あんたのほうが獲物にお似合いだよ」
剣を収め、去っていった。
領主は屋敷の庭で剣の稽古をしていた、太った体で振りまわしている。
「つぎの狩りが楽しみだのう」
そこに舞い降りる影、旗を持った行者だった。
「な、なんだおまえは」
フードを外す、フィリスの顔が現れる。
「ほほう、美しいのう」
近づこうとするが旗をみてギョッとする。
「そ、その旗は」
それはグリューネワルト騎士団の旗だった、フィリスが事件の後グリューネから授かった物だった、いずれ共に戦おうと励ましの意味の。
「貴様、帝国の」
「あなたは私の国の人を狩りの獲物にして蹂躙した、許せません」
「ほざけ、負け犬が」
領主は襲い掛かるがフィリスはなんなくかわす、そして高く飛び上がる。
「はあっ」
投槍のように旗を投げる、真っ直ぐに飛びそれは領主の体を刺し貫く。
「ぎゃあああっ」
旗が晴れた空に静かにたなびいた。

町の出口、二人とヴァニラがいる。
「やはりやったか」
無言の二人、ヴァニラは微笑んで。
「まぁ、あの領主だしね、こうなっても不思議じゃない」
「すまないね」
「だがわかってほしい、共和国すべてがああではないことを」
静かにうなづくフィリス、二人は旅立った、ヴァニラは見送りながら無事を祈っていた。
その後ハントの墓の横に娘の墓がヴァニラの手によって立ったという。